義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子

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「あっはっはっ!!仲良いなぁお前ら!でもさ、ヴィルの奴、本当にお前の事可愛がってたんだぜ?いつも自慢げに話してた」
「え?」
「おい、余計なことを言うなよ」
 ヴィルヘルムは慌てた様子で口を挟んだ。だがライサンダーは止まらない。
「だって事実だろ?学年で一番モテるのにどの子を見ても弟が一番可愛いって言い張ってさ」
「……ヴィル兄さん……」
 レイナードはじとっとした目で義兄を見つめる。すると彼は気まずそうに視線を逸らすのだった。そんな様子を見ていたライサンダーは更に続ける。
「それに、お前がいない間は毎日寂しそうにしてたしなぁ……だから今日は会えて良かったぜ!」
「あ、ありがとうございます……?」
「ああ!でも、あんまり長居はしない方がいいかもな。ほら!飯できたんだろ?」
 そう言ってライサンダーが促すとヴィルヘルムも立ち上がった。
「……ライ」
「ん?なんだぁ?」
 ぐっとライサンダーの肩を組んで近づくと、耳元に口を寄せ、そっと囁いた。
「これ以上、レイに変なこと言ったら許さないから」
「……っ!」
 その声音にぞくりと背筋が震える。ライサンダーは思わず息を呑んだ。そして恐る恐るヴィルヘルムの顔を見ると、彼はにっこりと微笑んでいた。だがその瞳は全く笑っていないことに気がつく。
(怖え……)
 冷や汗を流しながらこくこくと頷くと、ようやく肩の拘束が解かれた。ほっと胸を撫で下ろす。
「さ、レイも一緒に食堂に行こう」
「は、はい!」
 レイナードは慌てて立ち上がるとヴィルヘルムの後についていった。そしてそのまま三人で食堂へと向かう。
***
(わあ……すごい)
 目の前に広がる光景を見て思わず感嘆の声を漏らした。テーブルの上には豪華な料理が並んでいる。どれもこれも美味しそうだ。
「遠慮せずに食べてくれ」
「ありがとうございます」
 席に着くとライサンダーがそう言ってくれたので素直に礼を言うと、彼は嬉しそうに笑った。そして自分の隣に座る人物に声をかける。
「ほら!ヴィルも食えよ!」
「ああ」
 ヴィルヘルムは素っ気なく返事をすると、黙々と食事を始めた。レイナードもそれに倣って食べ始めるが。
「……」
「どうした?」
「あ、いえ!なんでもないです!」
 思わず見惚れてしまった。学校での教育のおかげか、義兄の所作はとても美しく洗練されていて、まるで芸術品のようだと思ったからだ。
(ヴィル兄さんって本当に綺麗だな)
 そんなことを考えながら見つめていると、不意に視線が合ったので慌てて逸らす。すると隣から笑い声が聞こえた気がした。「ふふ」
「……なんですか?」
「いや、別に。ほら、レイも食べなよ?長旅で疲れちゃっただろ?」
「はい!」
 レイナードは元気よく返事をして食事を続けた。温かいスープが冷えた身体に染みる。お腹がすいていたからか、あっという間に完食する。
「ごちそうさまでした。美味しかったです」
「レイちゃんいい食べっぷり!俺片付けてくるな!」
 ライサンダーが食器を片付けてくれると言うのでお言葉に甘えさせてもらうことにした。その間にヴィルヘルムと少し話をする。
「ヴィル兄さんのお友達って良い人ですね」
「え?そう?」
(無自覚なんだ……)
 レイナードは苦笑した。気づけば周りが何でもしてくれる。だが、そんな義兄だからこそ、周りも進んで色々なことをするのだろうと思う。
(モテるんだなあ…)
 一緒に暮らしていた時も思ったが、こうして他の人達に囲まれていると益々そう思う。天性の人たらしなのかもしれない。チラチラと向けられる視線に気づかないまま、レイナードは会話を続けた。
「だってこんなに親切にしてくれますし……」
「…あまり褒めると調子に乗るから本人には言わないで」
「えぇ…」
「いやあ聞こえちゃったぜ?ありがとうなレイくん!可愛くていい子じゃん」
「ライ!レイに馴れ馴れしくしないでって言ってるだろ!」
「えぇ……」
 戻ってくるなりニカッと笑うライサンダーに対し、ヴィルヘルムは釘を刺す。そんな二人のやり取りを見て、レイナードは思わず笑ってしまった。
「ふふ」
「あ!笑った!」
「だって……面白いんだもん…あはは…」
「笑うともっと可愛いなあ」
「ライ!いい加減にしろよ」
 レイナードが笑っていると、ヴィルヘルムはライサンダーを睨みつけた。だが全く気にしていない様子で彼は続ける。
「なあ!今度俺と遊ぼうぜ!」
「え?あ、はい……」
「やった!約束な?」
「ちょっとライ!いい加減に…!」
(ヴィル兄さんってこんな顔もするんだ……)
 いつも落ち着いていて優しい義兄の意外な一面に驚きつつ、同時に嬉しくもあった。そんなことを考えていると、不意に手を握られる。顔はライサンダーに向いていたが、ヴィルヘルムがぎゅっとレイナードの手を握っていたのだ。
「ヴィル兄さん……?」
 戸惑うレイナードに、彼は言う。
「レイは僕のものだから」
「……へ?」
(あ……)
 次の瞬間、顔に熱が集中するのを感じた。握られた手が熱い。心臓の音がやけに大きく聞こえてくる気がした。
そんな様子を見てライサンダーは笑う。
「ははっ!お前そんな独占欲強い奴だったんだな!」
「うるさい。お前がレイに馴れ馴れしくするからだ」
 ヴィルヘルムは不機嫌そうに呟くと、レイナードの手を引いて食堂を後にした。
「あ、あの……」
「……ごめんね、レイ」
 ヴィルヘルムは申し訳なさそうな表情で謝罪の言葉を口にすると、そのまま自室へと入っていった。そしてベッドに腰掛けると、隣をぽんぽんと叩く。座れと言うことだろうか?おずおずと隣に座ると、ぎゅっと抱きしめられた。
「わっ!」
「ごめん……でもレイが他の奴に取られちゃうんじゃないかって思ったらつい……」
 ヴィルヘルムはそう言うと再び強く抱きしめた。その力強さに少し苦しさを感じる。
「ふふ…ヴィル兄さんは心配性ですね」
「だって…心配なんだ」
 ヴィルヘルムは拗ねたように頬を膨らませる。そんな仕草が可愛くて思わず笑ってしまった。すると彼は少しムッとした表情になる。
「安心してください。今の僕には、ヴィル兄さんとクリス父様だけです」
「レイ…」
 うるうるしながらヴィルヘルムはレイナードの肩を掴む。そしてゆっくり顔を近づけようとする。
ぺち
だがそれは、レイナードの掌に遮られた。
「でも、ちゅーはダメです」
「何でだよ!今の流れならキスしていい雰囲気だったろ!」
「ダメです!だって僕まだ子供だし……」
 レイナードは頬を赤らめて顔を逸らす。すると、ヴィルヘルムは何かを思いついたようにニヤリと笑った。
「……そっか」
 そして再びレイナードを抱きしめる。今度は優しく包み込むような抱擁だった。だがどこか不穏な空気を感じ取ってしまうのは気のせいだろうか?不安になって顔を上げると、そこには満面の笑みをたたえた義兄の姿があった。
「じゃあ……大人になったらたくさんしようね?」
 耳元で囁かれる言葉にぞくりと背筋が震える。身体中を甘い痺れが走った気がした。
「えっと、その…」
 言い淀むレイナードが目線を泳がせていると遠くから明るい声が聞こえてきた。
「おーいヴィルー!談話室空いたからボードゲームしようぜー!!」
「お前はもう少し空気を読め!ライサンダー!」
「え、なにこの空気。レイちゃんヴィルになんかされた?」
「馴れ馴れしく呼ぶな!レイに触るな!」
「えぇ~」
 ライサンダーが困っている声が聞こえる。このままではいけないと思い、レイナードは慌てて口を開いた。
「だ、大丈夫です!なんでもないですから!」
「あ、そ?じゃ、レイちゃんも一緒に遊ぼ!我が学年の王子・ヴィルヘルムの弟となればみんな喜んで歓迎するって!」
「…お、王子?」
「…あだ名だよ」
 頭が痛そうにヴィルヘルムが呟く。
「なーに言ってんだが。皇帝の次女にもこないだ誘われてただろ?」
「うるさい。僕はレイ以外興味無いんだ」
「はいはい、お熱いことで……じゃ、行こうぜ」
「は、はい!」
 ライサンダーに肩を抱かれながら、レイナードは談話室へと連れていかれるのだった。
***
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