義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子

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「あー楽しかった!」
 ライサンダーは伸びをしながら言う。そんな彼を見て、ヴィルヘルムは呆れたようにため息をついた。
「全く……レイが可愛いからってちょっかいかけすぎだよ」
「だってー!あんな素直で良い子が弟なんて羨ましいじゃん?」
(良い人なんだけどな)
 レイナードは苦笑しながら思った。彼の言葉には嫌味のようなものは一切感じられず、純粋にそう言っているように思えたからだ。
「えっと、ありがとうございました……」
 ぺこりと頭を下げるとライサンダーは朗らかに笑った。
「いいって!また遊ぼうな!」
「……あまりレイを困らせるようなら許さないからね」
 ヴィルヘルムはにっこりと微笑みながら釘を刺した。だがその笑顔に薄ら寒いものを感じて思わず身震いしてしまう。ライサンダーは笑いながら言った。
「おお怖っ!……なあ、ヴィル?」
「何?くだらないことだったら怒るよ」
「いやさ、お前本当に変わったんだなって思って」
「………」
 ライサンダーの言葉にヴィルヘルムは黙り込んだ。その表情には複雑な感情が浮かんでいるように見える。
「その…おばさん亡くなられてからさ、お前ずっと張り詰めてて近寄りづらかったけど……今のお前は良い意味で肩の力が抜けたように見えるよ。レイちゃんのおかげか?」
「さあね」
 素っ気なく返すヴィルヘルムにライサンダーは苦笑する。
「はー…やれやれ。ま、こう言うところがお前らしいよな。さ、寝よ寝よ。レイちゃんのベッドは…」
「僕と一緒に決まっているだろう。ほら、さっさと自分のところに戻って」
「へいへーい」
「に、兄さん!ここで…一緒に寝るのは……」
 レイナードは慌てて止めようとするが、ヴィルヘルムは聞く耳を持たない。それどころかますます強く抱きしめてくる。
「ヴィル兄さん……あの」
「……ダメかい?」
 捨てられた子犬のような目で見上げられて思わず言葉に詰まる。だがここで折れるわけにはいかないと心を鬼にした。
「…ダメです!」
「どうしても?」
「どうしてもです!」
「じゃあレイはどこで寝るの?まさか床じゃないよね?」
「うっ」
 正論を突きつけられてしまい、何も言えなくなってしまった。するとライサンダーが助け舟を出すように口を挟んでくる。
「あ!じゃあさ!俺のベッドで寝ればいいじゃん!」
「え!?」
 予想外の提案に驚いていると、ヴィルヘルムは不機嫌そうに眉を顰めた。
「……却下だ」
「えー?なんでだよ」
 不満そうな声を上げるライサンダーだったがヴィルヘルムが本気で怒っているのを感じ取ったのか、それ以上何も言うことはなかった。
「レイナード」
「……は、はい!」
(な、なんだろう……)
 嫌な予感がする。恐る恐るヴィルヘルムの方を見ると彼はにっこりと微笑んで言った。
「今日は僕と一緒に寝ようね?」
「え!?いや、あの……!」
「ほらおいで?」
 有無を言わせぬ口調で言われてしまい、結局そのまま引きずられるようにして連れて行かれてしまったのだった。そしてベッドに入るなり抱き寄せられてしまう。
(うぅ……恥ずかしいよぉ……)
 何もこんな家でもないのにと、レイナードは羞恥心に苛まれながらも、目を閉じる。
「レイ、来てくれて本当に嬉しかった」
「ヴィル兄さん……」
 暗闇の中で優しく囁かれる言葉に、胸の奥がじんわりと暖かくなっていくのを感じた。
「この学校、面白いものがたくさんあるんだ。図書館も広いし、屋敷の父上の書斎とも違う。実験室も、倉庫の掃除も、大変だけど面白くて、その度に寂しかった。レイもここにいたらどんなに良かっだろうって何度も思ったよ」
「っ……」
「明日帰るなんて言わないで?あんな雪の中、お前を見送るなんて心配でならない。そうだ!このままホリデーになるまでここにいて、一緒に帰ろう?」
 ヴィルヘルムの口調は優しいものだったが、どこか切実さを感じさせるものがあった。きっと本気で言っているのだろうと思う。だがそれでも、レイナードは頷くことはできなかった。
「プロムもあるんだよ。ダンスパーティー。ライのやつ、教皇の孫が僕に申し込みしたと聞いてから、やたらと絡んで来てさ。本当に迷惑。女の子ってめんどくさい。ねえ、レイ。僕と一緒にダンスを踊ろう?それまで、一緒にいよう?」
 ヴィルヘルムは懇願するように語りかけてくるが、それでも首を縦にふることはできなかった。
「兄さん、僕、ここの生徒さんじゃないです。だから、ずっとはここにいられないです……」
「じゃあ、レイもここの生徒になればいい」
「え!?」
 突拍子もない提案に思わず大きな声が出てしまった。だがヴィルヘルムは気にした様子もなく話を続ける。
「大丈夫、父上には僕からお願いするし、父上にだって口添えするよ。それに…ほら!この学校って飛び級制度もあるんだ!」
(そ、それは知ってるけど……!)
 確かにこの学校の教育システムは独特で、年齢や身分を問わずに実力のある者を評価する制度がある。だがそれはあくまでも天才と言われるようなとても能力のある人間に限った話だ。ものすごく狭い門に滑り込むことが出来るほど、レイナードは自分が賢いとは思わなかった。
 そもそも、今は養子とは言え、異国の、しかも敗戦国の人間が入学できるとは到底思えない。自分はこの学校に入る資格すらないのだ。
(でも、兄さんには分からないかもしれないよね…)
「持っている人」にとっての当たり前のことは「持っていない人」にとってはそうじゃない。だけど気づかないし、それはこの人のせいじゃない。
「来年から一人砂漠の国から編入するヤツも、年下らしいけど飛び級で入学するらしいし」
「へー…へっ!?」
 レイナードは突然故郷の名前が出て驚いた。
(ももも、もしかして…それって…!)
「名前は知らないけど。レイと同い年らしくって、チェスがすごく強いんだって」
「!?!?」
(まさか、エリオス…かも…?)
 幼馴染の親友の仏頂面を思い浮かべて、レイナードは苦笑いを浮かべた。
「その子、飛び級で入学したって父上から聞いたよ」
「それは……すごいですね……」
 確かに彼ならやりかねないだろうと思いながら相槌を打つ。
(うーん…さすがエリオス…でもなんで?宮殿の図書館、あんなに好きだったのに…)
 レイナードは首を傾げた。
「だからほら、レイも春から通おう?ね?」
「…ヴィル兄さん」
 スリスリゴロゴロするヴィルヘルムにされるがままだったレイナードは真面目なトーンになる。
「僕、お勉強そんなに出来ません」
「あ、そうだった」
「~~~!!」
「冗談だよ、レイは可愛いから勉強なんて出来なくていい。僕がその分頑張るよ」
 そう言って優しく抱きしめられると、レイナードはそれ以上何も言えなくなってしまった。
「だからどこにも行っちゃダメだよ?母上みたいに、居なくなったりしちゃダメだからね?」
 再び、一緒に寝れるのが嬉しくて仕方ないといった様子で、ヴィルヘルムはレイナードを抱き寄せる。だが、レイナードの心は不安になった。もしかしたらいつか、アドラーの家を出て、祖国に帰るかもしれない。もし、そうなったら。
「兄さん…」
 でも、どう伝えたらいいか、分からない。そんなレイナードを優しく見つめながらヴィルヘルムは言った。
「もし居なくなったら、僕は何をしでかすか、僕も分からない。分かってるよね?」
「……っ」
 冗談とも本気ともつかない言葉に背筋が凍る。
「おやすみ、レイ」
「おやすみなさい、ヴィル兄さん……」
 レイナードは目を閉じたが、なかなか寝付けなかった。
 だが翌日、早速義兄のこの発言を思い知る羽目になるとは、レイナードは想像すら出来なかったのだった。
***
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