義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子

文字の大きさ
21 / 45

20

しおりを挟む
「ごめんね、レイ。授業はやっぱりダメだって、先生が…」
翌朝。朝食を食べて部屋に戻るなりヴィルヘルムはしょんぼりとした様子で謝ってきた。レイナードは少し気の毒になりつつ笑顔で答える。
授業に弟を同席させたいと言う貴族の子息にあるまじき発言に教師たちは少し驚いたようだったが、結論にヴィルヘルムは素直に従った。さすがは優等生と皆が胸をなで下ろしていたが、レイナードを前にした途端ヴィルヘルムは優等生の仮面が崩れ、ただの弟が大好きないつもの姿に戻ってしまっていた。
「僕は大丈夫なので気にしないでください!」
外はまだ雪がしんしんと降り積もっていた。街に帰る列車は今朝もまだ動いていないらしい。足止めをされもう少しここで待つことになったレイナードは、心底申し訳なさそうなヴィルヘルムに向かって微笑む。
「ヴィル兄さんは、お勉強頑張ってくださいね」
「うん…あ!でも、レイが退屈なら、僕がとってきた本とかあるよ?ほら、これなんか……」
そう言ってヴィルヘルムはどこからともなく絵の多い本を数冊取り出す。
「あ!それ、僕でも読めますか?」
「うん!」
レイナードはまだこの国の文字を全て分かるわけでない。だが、義兄の選んでくれた本はそんなレイナードのことを思ってのものだ。自分も、知らない本を読めるようになれるかもと思うと、とても魅力的だった。
「じゃあ、お借りしてもいいですか?」
「もちろん!あ、でも、僕の渡した本以外は読んじゃダメだよ?」
「え?なんでですか?」
不思議に思って首を傾げると、ヴィルヘルムは少し困ったように笑った。
「だって……レイが僕以外に興味を持ったら嫌だし……」
「……っ」
(か、可愛い……!!)
頬を赤らめて俯く義兄の姿に、思わず胸がきゅんとしてしまう。
「だから、この部屋からあまり出歩かないこと。寮長にも先生にも、レイが帰れなくてここにいることはちゃんと話してあるから、危ないことや変なことはしちゃダメだよ?約束できる?」
「はい!」
レイナードが元気よく返事をすると、ヴィルヘルムは少し安心したようだった。そしてそのまま優しく抱きしめられる。
「いい子だね、レイ」
(ヴィル兄さん……)
義兄の体温を感じながら、レイナードは目を閉じた。すると、不意に耳元で囁かれる。
「ねえ、キスしてもいい?」
「……っ!?」
驚いて思わず飛び退くように離れると、ヴィルヘルムは悲しげに眉を寄せた。
「ダメ?」
上目遣いでお願いされ、レイナードはぐっと言葉を詰まらせる。
「だ、ダメじゃないけど……その……」
「じゃあ、するね」
「あ…」
「…お取り込み中のところ悪いんだけど、ヴィル、マジでこのままだと遅刻するぜ?」
「!?」
突然声が聞こえてきて、二人は慌てて声のした方を見た。
「はわ…はわわ…」
「ライ!勝手に入ってくるな!」
「いや、だって……俺、一応お前のルームメイトだし」
ライサンダーは呆れたように言うと、レイナードに向かって言った。
「レイちゃん、寂しいだろうけどお留守番頼むわ。ほら、ヴィル行くぞ!」
「ちょ、引っ張るな!レイ、すぐ帰ってくるからね?いい子にしているんだよ?」
「あ……はい……」
慌ただしく出ていく二人を見送って、レイナードは一人部屋に取り残されてしまった。
(なんか、嵐みたい……)
思わずぽかんとしてしまう。だが、すぐにハッと我に返ったように首を横に振ると、レイナードはいそいそと支度を始める。
(ごめんなさい、ヴィル兄さん。でも……)
 レイナードは、ヴィルヘルムが出て行った扉をじっと見つめた。
 この学園は、未来の将軍や大臣を育成するための場所だ。そこに入り込むチャンスなんて、二度とないかもしれない。
(少しでも情報を集めて、エリオスに報告しなきゃ……! 僕だって、役に立てるところを見せないと)
 養子として幸せに暮らしている自分への罪悪感を振り払うように、レイナードは拳を握りしめた。
 たとえそれが、大好きな兄との約束を破ることだとしても。
 レイナードは足音を忍ばせ、そっと部屋を出た。
だが、レイナードは忘れていた。ヴィルヘルムがどれだけこの学園で目を引く存在なのか。そして、それはレイナード自身にも当てはまる。ヴィルにお近づきになりたいものからすれば、レイナードの存在は憧れと嫉妬の対象にしかならないということを。
***
「…イザベラさま、本当にやるの?」
授業の無い子ども達が、部屋から出てきたレイナードを物陰からじっと見つめている。レイナードはその視線に気づいていなかった。
「当たり前よ。あんな子…よその国の子なのに…負けた国の子なのに…ヴィルヘルムさまから、あんなに愛されて…」
美しいブロンドの少女は、きゅっと唇を噛み締める。その瞳には嫉妬の炎が宿っていた。
いつもどんなときもあらゆる女の子たちのアプローチをやんわり断り続けるヴィルヘルム。その公平さは、逆に女子たちの気持ちに火をつけていた。いつかあの人と結ばれたい。そう思っていたのに。
『はい、レイ。あーんして』
『に、兄さん、僕一人で食べれますよ…』
あの夕食での姿を思い出すだけで、イザベラは胸が締め付けられる気持ちになった。
(あのヴィルさまが…!あんなデレデレして…その辺の男子たちみたいなお顔をされて…!)
「許せない……。神聖なアドラー家の家名が、あんな敗戦国のネズミに汚されるなんて」
 イザベラは扇子を握りしめた。
「ヴィルヘルム様はお優しいから、可哀想な孤児に同情なさっているだけよ。でも、私たちは違うわ」
 彼女の瞳には、冷酷な光が宿っていた。
「誇り高き帝国の学園に、敗北者の居場所なんてないのよ。それを、あの身の程知らずに教えてあげなくちゃ」
「でも、ヴィル様に見つかったら……」
「見つからなければいいのよ。教育的指導ですもの」
 歪んだ正義感を振りかざし、少女は獲物を追い詰めるように笑う。
「薄汚い敵国の子どもなんか、ヴィルさまの弟にふさわしくないわ。ヴィルさまのためにも、あの子は排除するべきなのよ」
「でも…」
「本当にいいのかな…」
取り巻きたちは不安そう顔を見合わせる。しかし少女は聞く耳を持たなかった。
「ねえ、あなたたちもそう思うでしょ?」
「え?あ……」
「そ、それは」
(どうしよう……でもイザベラさまがそういうなら……)
彼女達は黙り込むしかなかった。その様子を見た少女は満足気に笑う。
「そうと決まれば作戦決行よ…?あの呑気なおチビちゃんに、この学園はふさわしくないんだって思い知らせてあげましょう?」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

BLゲームの悪役に転生したら攻略対象者が全員ヒロインに洗脳されてた

BL
主人公のレオンは、幼少期に前世の記憶を思い出し、この世界がBLゲームで、自身は断罪される悪役だと気づく。 断罪を回避するため、極力攻略対象者たちと関わらないように生きてきた。 ーーそれなのに。 婚約者に婚約は破棄され、 気づけば断罪寸前の立場に。 しかも理由もわからないまま、 何もしていないはずの攻略対象者達に嫌悪を向けられてーー。 ※最終的にハッピーエンド ※愛され悪役令息

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

悪役令息に転生したのに、ヒーローもヒロインも不在で、拾って育てた執事が最強なんだが……なんで?!

はぴねこ
BL
前世の弟が好きだったゲームの世界に、悪役令息として転生してしまった俺。 本来なら、ヒロインをいじめ、ヒーローが活躍するための踏み台になる…… そんな役割のはずなのに、ヒーローともヒロインとも出会えない。 いじめる対象すら見つけられない新米悪役令息とか、ポンコツすぎないだろうか? そんな俺に反して、子供の頃に拾って育てた執事は超優秀で、なぜか「悪役執事スキル」を着実に磨いている。 ……いや、違う! そうじゃない!! 悪役にならなきゃいけないのは俺なんだってば!!! 

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

弟を溺愛していたら、破滅ルートを引き連れてくる攻めに溺愛されちゃった話

天宮叶
BL
腹違いの弟のフィーロが伯爵家へと引き取られた日、伯爵家長男であるゼンはフィーロを一目見て自身の転生した世界が前世でドハマりしていた小説の世界だと気がついた。 しかもフィーロは悪役令息として主人公たちに立ちはだかる悪役キャラ。 ゼンは可愛くて不憫な弟を悪役ルートから回避させて溺愛すると誓い、まずはじめに主人公──シャノンの恋のお相手であるルーカスと関わらせないようにしようと奮闘する。 しかし両親がルーカスとフィーロの婚約話を勝手に決めてきた。しかもフィーロはベータだというのにオメガだと偽って婚約させられそうになる。 ゼンはその婚約を阻止するべく、伯爵家の使用人として働いているシャノンを物語よりも早くルーカスと会わせようと試みる。 しかしなぜか、ルーカスがゼンを婚約の相手に指名してきて!? 弟loveな表向きはクール受けが、王子系攻めになぜか溺愛されちゃう、ドタバタほのぼのオメガバースBLです

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

処理中です...