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「なあ、どうだった?本物の神楽蒼!」
「…え?」
12歳まで戻ってしまった樹は学校に行かなくてはいけなくて、どうにか席に座ったた途端これだった。一番の仲良しだった親友が隣の席に滑り込み、身を乗り出してくる。
「昨日神楽蒼に会ったんだろ?どんなだった!?」
「そ……そんなの、言えないよ!」
「え~、でも番になるんだろう?」
「いやいや、ならないから!そもそもいきなりそんなことになんてなんないよ」
樹はやんわりとそう言った。実際婚約者になれば話は違うが、今回は断った。断ってしまったのだ。
(う…でも、それでも蒼は『友達』からって言ってくれたから…今はそれで…)
恋心を殺す覚悟でいたのに、蒼の一挙一動
に一喜一憂してしまう。
(…って、関わらないつもりだったのに俺って本当心が弱い…)
一人百面相をしていると目の前のクラスメイトは首を傾げる。
「そうか?でも、神楽蒼は、桜庭樹が番になるってもう決めてるみたいだったぞ」
「へ……?」
親友の言葉に、樹は目を瞬いた。
「え……な、なんで……」
ずいっとスマホを見せられる。そこには蒼の投稿に樹と弟の燈が映っていた。
「神楽蒼が『お見合い』後に人載せるの初めてだって。すげぇな樹!」
(は…え…えぇえええ???)
樹は内心悲鳴を上げた。
「え!桜庭くん、神楽蒼と付き合うの?」
「いいなーずるい!男の子なのに!」
「え、いや、違うって…!」
「え?違うの?」
クラスメイトたちはがっかりしたようだった。樹は慌てて言葉を重ねる。
「そういうんじゃなくて、お見合い受けられなくて……蒼くんは俺の意思を尊重してくれただけ!断ったんだから、もう関係ありません!」
「でも桜庭くん事前データすごく相性良かったじゃん」
「それは、あくまでデータのはなし!」
「えーでもさ、神楽蒼って最高のアルファなんでしょ?番になんてなったら絶対幸せじゃん!」
「だから違うんだって!」
樹は必死に否定する。しかし、火のついた子どもの好奇心に中身は男子高校生の樹は勝てない。
「じゃあ、神楽蒼じゃないなら、誰と番になりたいの?」
「え……」
(誰って……そんなの……)
樹は俯く。そんなの蒼に決まってる。でも、蒼は『運命の番』と出会ってしまう。自分ではない、誰かと。
「…そ、そもそも本当に俺がオメガかどうかもわかんねーし!」
(む、無理すぎるかも~~でも稀に、そういうケースもないわけじゃない、って聞いたことあるから…)
今は超少子化のせいで国が主導でアルファとオメガを遺伝子レベルでいい相性同士をマッチングさせているが、勿論100%完璧ではない。稀にベータなのに誤判定されてアルファやオメガに分類されることもある。なので、正式なヒートがこなければ、その可能性だって……
「えーそうなの?そんなことってあるの?」
「あ、あるっ!だからもう、この話はおしまい!」
ほらみんな戻って戻って!と席に追い返されているクラスメイトを眺め、樹は深く息を吐き出した。
(俺、本当に今過去に遡ってるんだなぁ……)
妙に感慨深い気持ちになる。過去に遡ったなんてきっと、誰に言っても信じないだろう。
「でも、本当に蒼くんってかっこいいよね」
「ねー。何でもできるんでしょ?むかし海外に住んでたとか」
「3カ国語話せるんだろ?」
「中学1年で国体優勝とかすごくない?」
「もったいねーよな、桜庭のやつ」
クラスメイトのそんな会話がたまたま耳に入ってきて、樹はぱっと顔を上げた。
(そう言えば、前世の時は…)
『すごいじゃん!あの神楽蒼と婚約だなんて!』
仲良しだった友達から無邪気に言われた言葉にひどく心に突き刺さったのを思い出した。
『オメガっていいよな?それだけで人生決まったようなもんじゃん』
『あーあ、俺もオメガに生まれてればよかったなー』
『あ、あはは…』
まだ子供だったのに、樹は曖昧に笑うことしかできなかった。羨ましい、妬ましい、それと少し見下されたような感情。
オメガとして生まれて初めて人から言われた悪意のある言葉は、何度も樹の心に重くのしかかった。
(でも、今は違う…)
きゅっと膝の上で拳を握る。その分、蒼との繋がりは絶ってしまったけれど。
(これで…いいんだ…)
出会った頃の蒼にまた出会えただけでも充分幸せだ。もう二度と会えなくても。そう自分に言い聞かせ、樹はそっと目を閉じた。
***
…のはずだったが。
「いっちゃん、神楽さんの家に行くわよ」
「…え?」
放課後、家に帰るなりそう言われ、肩からランドセルの紐がずり落ちる。
「な、なんで?」
「なんでって、折角お見合いの時間とってくれたのに、いっちゃんが蒼君の目の前で『ならない!』だなんて失礼なこと言うからでしょう?」
「う……」
「お母さん、本当、生きた心地しなかったわよ?蒼君とってもいい子だから良かったけど。なので、お菓子持って謝りにいかないと。勿論、いっちゃんも行こうね?」
「……は、はい……」
(う、うわ…行きたくない…会いたくないよぉ……)
折角決意したばかりなのに、と樹は内心で泣きたい気持ちだった。
「いっちゃん、何やってるの?早くいらっしゃい」
「……はい……」
(会いませんように…会いませんように…会いませんように…!)
そんな思いが通じたのか分からないが、樹は蒼と対面することはなかった。
「お、お邪魔します…」
チャイムを鳴らし立ちすくむ樹は、ほとんど祈るような気持ちで、重厚な玄関のドアが開かれるのを待った。
そこに立っていたのは、自分が会うことをあれほど恐れていた、神楽蒼ではなかった。代わりに。
「…何のようだよ、てめぇ」
聞こえてきたのは、兄とは全く違う、不機嫌さを隠そうともしない、生意気な声。
視線を上げると、そこにいたのは、腕を組み、心底面倒くさそうにこちらを睨みつけている、弟の燈の姿だった。
「…え?」
12歳まで戻ってしまった樹は学校に行かなくてはいけなくて、どうにか席に座ったた途端これだった。一番の仲良しだった親友が隣の席に滑り込み、身を乗り出してくる。
「昨日神楽蒼に会ったんだろ?どんなだった!?」
「そ……そんなの、言えないよ!」
「え~、でも番になるんだろう?」
「いやいや、ならないから!そもそもいきなりそんなことになんてなんないよ」
樹はやんわりとそう言った。実際婚約者になれば話は違うが、今回は断った。断ってしまったのだ。
(う…でも、それでも蒼は『友達』からって言ってくれたから…今はそれで…)
恋心を殺す覚悟でいたのに、蒼の一挙一動
に一喜一憂してしまう。
(…って、関わらないつもりだったのに俺って本当心が弱い…)
一人百面相をしていると目の前のクラスメイトは首を傾げる。
「そうか?でも、神楽蒼は、桜庭樹が番になるってもう決めてるみたいだったぞ」
「へ……?」
親友の言葉に、樹は目を瞬いた。
「え……な、なんで……」
ずいっとスマホを見せられる。そこには蒼の投稿に樹と弟の燈が映っていた。
「神楽蒼が『お見合い』後に人載せるの初めてだって。すげぇな樹!」
(は…え…えぇえええ???)
樹は内心悲鳴を上げた。
「え!桜庭くん、神楽蒼と付き合うの?」
「いいなーずるい!男の子なのに!」
「え、いや、違うって…!」
「え?違うの?」
クラスメイトたちはがっかりしたようだった。樹は慌てて言葉を重ねる。
「そういうんじゃなくて、お見合い受けられなくて……蒼くんは俺の意思を尊重してくれただけ!断ったんだから、もう関係ありません!」
「でも桜庭くん事前データすごく相性良かったじゃん」
「それは、あくまでデータのはなし!」
「えーでもさ、神楽蒼って最高のアルファなんでしょ?番になんてなったら絶対幸せじゃん!」
「だから違うんだって!」
樹は必死に否定する。しかし、火のついた子どもの好奇心に中身は男子高校生の樹は勝てない。
「じゃあ、神楽蒼じゃないなら、誰と番になりたいの?」
「え……」
(誰って……そんなの……)
樹は俯く。そんなの蒼に決まってる。でも、蒼は『運命の番』と出会ってしまう。自分ではない、誰かと。
「…そ、そもそも本当に俺がオメガかどうかもわかんねーし!」
(む、無理すぎるかも~~でも稀に、そういうケースもないわけじゃない、って聞いたことあるから…)
今は超少子化のせいで国が主導でアルファとオメガを遺伝子レベルでいい相性同士をマッチングさせているが、勿論100%完璧ではない。稀にベータなのに誤判定されてアルファやオメガに分類されることもある。なので、正式なヒートがこなければ、その可能性だって……
「えーそうなの?そんなことってあるの?」
「あ、あるっ!だからもう、この話はおしまい!」
ほらみんな戻って戻って!と席に追い返されているクラスメイトを眺め、樹は深く息を吐き出した。
(俺、本当に今過去に遡ってるんだなぁ……)
妙に感慨深い気持ちになる。過去に遡ったなんてきっと、誰に言っても信じないだろう。
「でも、本当に蒼くんってかっこいいよね」
「ねー。何でもできるんでしょ?むかし海外に住んでたとか」
「3カ国語話せるんだろ?」
「中学1年で国体優勝とかすごくない?」
「もったいねーよな、桜庭のやつ」
クラスメイトのそんな会話がたまたま耳に入ってきて、樹はぱっと顔を上げた。
(そう言えば、前世の時は…)
『すごいじゃん!あの神楽蒼と婚約だなんて!』
仲良しだった友達から無邪気に言われた言葉にひどく心に突き刺さったのを思い出した。
『オメガっていいよな?それだけで人生決まったようなもんじゃん』
『あーあ、俺もオメガに生まれてればよかったなー』
『あ、あはは…』
まだ子供だったのに、樹は曖昧に笑うことしかできなかった。羨ましい、妬ましい、それと少し見下されたような感情。
オメガとして生まれて初めて人から言われた悪意のある言葉は、何度も樹の心に重くのしかかった。
(でも、今は違う…)
きゅっと膝の上で拳を握る。その分、蒼との繋がりは絶ってしまったけれど。
(これで…いいんだ…)
出会った頃の蒼にまた出会えただけでも充分幸せだ。もう二度と会えなくても。そう自分に言い聞かせ、樹はそっと目を閉じた。
***
…のはずだったが。
「いっちゃん、神楽さんの家に行くわよ」
「…え?」
放課後、家に帰るなりそう言われ、肩からランドセルの紐がずり落ちる。
「な、なんで?」
「なんでって、折角お見合いの時間とってくれたのに、いっちゃんが蒼君の目の前で『ならない!』だなんて失礼なこと言うからでしょう?」
「う……」
「お母さん、本当、生きた心地しなかったわよ?蒼君とってもいい子だから良かったけど。なので、お菓子持って謝りにいかないと。勿論、いっちゃんも行こうね?」
「……は、はい……」
(う、うわ…行きたくない…会いたくないよぉ……)
折角決意したばかりなのに、と樹は内心で泣きたい気持ちだった。
「いっちゃん、何やってるの?早くいらっしゃい」
「……はい……」
(会いませんように…会いませんように…会いませんように…!)
そんな思いが通じたのか分からないが、樹は蒼と対面することはなかった。
「お、お邪魔します…」
チャイムを鳴らし立ちすくむ樹は、ほとんど祈るような気持ちで、重厚な玄関のドアが開かれるのを待った。
そこに立っていたのは、自分が会うことをあれほど恐れていた、神楽蒼ではなかった。代わりに。
「…何のようだよ、てめぇ」
聞こえてきたのは、兄とは全く違う、不機嫌さを隠そうともしない、生意気な声。
視線を上げると、そこにいたのは、腕を組み、心底面倒くさそうにこちらを睨みつけている、弟の燈の姿だった。
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