12 / 16
再起!
しおりを挟むクロの声で奴が目を覚ましたのを察し、ネロは前だけを見て全力で走り出す。
「ギャァァァァァァァァァァァァァァァァアア!!!」
奇声にも似たキーンと耳に響く鳴き声が森中に轟く。クロ即座に逃げる為、強化魔法で身体を強化する。だが、さっきまで居たはずのミラが居ない。
「アイツ、どこ行った!」
ミラはクロから十数メートルほど離れた場所でシャーマンキングコブラの注意を引いていた。
「あのバカ!!」
クロはアリスを抱き抱え、ミラを迎えに行く。
「キャーーー!!」
ミラを拾った直後、ネロの悲鳴が聞こえる。振り向くと、ネロは倒れ、気を失っている。シャーマンキングコブラはさらに追撃しネロに向かう。アリスが魔法で攻撃をするがビクともしないし、見向きもしない。
「このままじゃ……」
俺の使える魔法じゃアイツにダメージを与えられ無い。振り向かせることすら出来ない。
クロ頭には能力が浮かんでいた。それと同時にニーナの言葉もチラつく。
「出し惜しみしてる場合じゃ無いんだよ!」
クロはチラつくニーナの言葉を振り払い電撃を放った。
バリバリ!ドーーーーン!!!
シャーマンキングコブラを青い光が覆う。
「ギャァァァァァァァァァァァン!!!!」
大蛇の身体から煙が立ち上がり、大蛇を隠す。動きを止める大蛇。クロは気を失ったネロも拾い逃げる。流石に三人は強化していても重い。
「やったのか………」
気を抜いた瞬間、煙を吹き飛ばし大蛇が追撃を加えんと五十メートルはあろう巨大をうねらせ猛追して来る。
「きた!」
クロは来た道をジグザグに動き全力で走る。今、クロは能力を使う事が出来ない。三人を抱えた状態で能力を使うと三人はを感電させてしまうのだ。
現在の状態のクロは逃げるという選択肢しかなかった。
凄い形相、明らかに怒っている。身体を引きずり凄い音を立てながら追いかけてくる。まるで、土砂崩れの土砂、海からの津波、クロの目には恐怖で涙が溢れていた。
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ……
もう無我夢中。頭の中は真っ白になる。追いつかれれば死ぬ。クロは死に追いかけられていると感じていた。
「お兄ちゃん!お兄ちゃん!……」
アリスが声をかけるか反応がない。クロはもう前しか見えていない。
そして、力尽きるまで走り膝から崩れ落ちた。
アリスとネロ、ミラは勢いでバラバラに飛んでいく。クロの足は痙攣し、息は異常なくらい上がっている。それでもまだ踠き、地面を這って逃げようとする。
「お兄ちゃん!お兄ちゃん!お兄ちゃん!!もう大丈夫だよ」
アリスが何度も呼びかけ、ようやく我にかえる。周りを見渡すとシャーマンキングコブラはいなかった。巻いたのかそれとも奴のテリトリーを出たから追うのをやてたのかはわからない。だが、そこにはクロ達しかいなかった。
クロは一気に脱力した。無言で痙攣するクロの足を治癒するミラ。だがクロは何も反応しない黙り込んだままだ。
「もう嫌だ、何だよこれ…」
小さな声で呟く。
冒険者への憧れなんてものはもう無い。理想と現実のギャップ、クロの中には不満だけが残る。そして、その不満が今限界に達した。
「やってらんねぇよ」
クロは立ち上がり舌打ちをしながら一人歩き出す。
「どこ行くの?」
心配そうにアリスがきく。
「どこでもいいだろ」
いつもと違うクロの雰囲気に次の言葉が出てこない。クロは近くの木陰に座り込む。
それから少しして、目を覚ましたネロが本当に申し訳なさそうに謝りに来た。
「すいませんでした」
今にも泣き出しそうな震えた声で謝罪する。それをクロは横目でチラッと確認すると一回舌打ちをする。
「ホント、お前のせいだよ。」
ネロの身体がビクっとなる。
「マジでありえねぇ。お前言ったよな、大丈夫って。全然大丈夫じゃねぇよ。何だよあれ、危うするテメーのせいで死にかけたぞ。しかもあんな所でコケやがって。お前、俺達殺す気か?」
険悪な態度にぼろぼろ涙をこぼし黙り込むネロ。それを見る事もなく、クロは暴言を吐き散らした。
「なぁ、何とか言えよ!何でこんなとこまで来てこんな目に合わなけいけねぇんだよ。なぁ、なぁ!なぁ!!」
「………すいませんでした」
ネロは肩を落とし、クロから離れる。
クロ大きな溜息を吐きもう一度舌打ちする。そして目を閉じた。
………帰りたい。
クロの頭に今までの日常、元の世界での日常が蘇っていた。美少女ポスターだらけの部屋。アニメを見まくり、漫画やラノベを読み漁る。スナック菓子を食べまくり、ジュースをガブガブ飲む。
現在の状況と比較して、更に感情が膨れ上がる。
帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい…………………。
「……もう嫌」
荒む心、「これは悪夢だ」と現実逃避したくなる。だが、そんな事をしても何も変わらない。そしてすぐに落胆する。
そんなクロの横にアリスは無言でちょこんと座る。クロは俯いていたが横に座った事が分かった。だが、クロはそっちを向かない。
「…何?」
「怖かったね」
少し間を置き、言う。クロもそれに「ああ」に一言、もうカッコいいアニメの主人公を演じてはいない。感情をさらけ出し、無愛想な返事をする。
「ありがとう。お兄ちゃん。」
「何が?」
アリスのお礼に疑問を感じる。
「僕たちお兄ちゃんのおかげで助かったんだよ」
俺のおかげで助かった。……だから何だよ。俺はもう嫌なんだよ!怖いんだよ!
そう心で思った瞬間…
「みんな同じだよ」
クロは心で思った事に対する返事が来たとハッとする。実際はそれをクロが態度に出していた、それを察したアリスの返答だ。
「みんなも怖いんだよ。お兄ちゃん。でも、仕方ないんだよ」
「……仕方ない」
そんな事は分かっている。
ネロのドジが不可抗力なのも分かっている。能力を使ってはいけないのも、その訳も分かっている。冒険者になった理由は初めは憧れだったが、結局はこれしかお金を稼ぐ方法がなかったからだ。分かっている。この世界に来てしまったのも事故だ。仕方ない。帰る方法がない事も分かっている。
仕方ない。
だが、俺はアリスより年上ってだけで子供なんだ。仕方ないと理解していても割り切れないんだ。
納得できないんだ。
「ごめんなさい。僕がもっと強かったらお兄ちゃんを守れるのに」
「……は?」
アリスの言葉が理解出来なかった。クロはアリスの顔を驚いた様子で見る。
「守れる」何を言っている。俺を、守れる?
「だから僕、もっと強くなる。お兄ちゃんをどんな敵からも守れるように強くなる」
「何言ってるんだ?」
アリスの言葉が心底信じられない。だがアリスの表情は真剣そのもの、冷やかしや冗談なんかではない。そんな事を言う子でもない。
「僕はね。お兄ちゃんが大好きなんだよ。お兄ちゃんが僕を助けてくれた日から、お兄ちゃんは僕の光なんだ。あの日お兄ちゃんは僕を山の主から助けてくれて、頼る人もいない、先の見えない暗闇の中から引っ張り出してくれた。僕にとってお兄ちゃん全てなんだ。だから、失わないよう僕が守るんだ」
華奢な少女の思い、何時もの精神状態なら特に何も思わなかっただろう。だが今、これほど心強い、安心することばはなかった。自分より小さい女の子がとても大きく頼もしく見えた。
暗く淀んでいた視界が一気に晴れる感覚、クロは込み上げる思いと涙をグッと堪える。
「カッコいいな。ありがとう」
決して、帰りたいという気持ちが無くなったわけではないが、アリスの言葉に勇気をもらった。
クロはフーッと息を吐く。
……もう少し、頑張ろ
自分なりに、精一杯。
何も変わったわけじゃないし
俺はアニメの主人公でも何でもないが、
もう一度、演じてみよう。
この世界で、田中悟じゃなく、クロとして
究極の偽善者を
異世界へきてしまった
クロという男を主人公とした物語を
クロは覚悟を決める。折れた心を立て直し、再起する。
手始めにやらなければいけない事、
クロは立ち上がり、ネロのところへ向かう。端っこの方で膝を抱えて座るネロに声をかける。
「ネロ」
俯き膝を抱えるネロの身体がビクっとなる。
「さっきはごめん」
頭を深く下げ謝るクロ。ネロは驚いた様子で「えっ?」と声を漏らし顔を上げる
「言いすぎたよ」
「そんな!私が悪いんです。クロさんの言った事は全然間違ってませんし、怒るのも当たり前です。だから、気にしないでください」
慌てた様子で言う。
「そう言ってくれるとありがたいが。さっき俺が言った事ははっきり言うけど本心だ。ドジっ子半獣人美少女だのいいキャラしてるだの言っといて、なんだって感じだけど、これが俺なんだ。みんなの前でいい顔しておいて、いざとなったら癇癪起こしてブチ切れて、どうしようもなく情けない奴なんだ。そんな俺だけどさ、これから変わっていくから、いい顔し続けられるようにさ。だから、これからも一緒のパーティーで戦ってくれないか?」
「私、まだこのパーティーにいていいんですか?」
クロの言葉に聞き入ったネロ、てっきりパーティーをクビになると思っていた。
「ああ、ていうか頼んでるんだけどない」
優しい声で言うクロ。ネロの瞳から涙が溢れる。その表情が返事と言っていいほど嬉しいな顔をする。
「ありがとうございます。これからまた、よろしくお願いします」
涙を零しながらの満面の笑み。ネロもこれから変わっていくと決意する。
深まった絆。変わる事を決意した者達ははじめの一歩を踏み出す。
0
あなたにおすすめの小説
犬の散歩中に異世界召喚されました
おばあ
ファンタジー
そろそろ定年後とか終活とか考えなきゃいけないというくらいの歳になって飼い犬と一緒に異世界とやらへ飛ばされました。
何勝手なことをしてくれてんだいと腹が立ちましたので好き勝手やらせてもらいます。
カミサマの許可はもらいました。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
転生したら幽閉王子でした~これどうすんの?
サクラ近衛将監
ファンタジー
神様の眷属の過失が原因の事故に遭って死んだ桜庭雄一が異世界に転生したら、とある国の忌避すべき王子として幽閉されていた。
転生にはチートがつきもののはずだが、事故で死んだ者が300名を超えるために、個別にチートは与えられず、転生先の者の能力を生かせと神に告げられている。
「神の加護」ではないけれど、「恩寵」が与えられているので、当該異世界では努力を為した分、通常に比べると成果があるらしい。
これはとある国の幽閉王子に転生した男の冒険譚である。
原則として、毎週月曜日20時に投稿予定です。
異世界と地球がダンジョンで繋がった ー異世界転移者の私ー
白木夏
ファンタジー
2040年の初春、突如として地球上の主要都市に謎のダンジョンが出現した。
その特異性は明らかで、人口密集地を中心に出現し、未開の地には一切現れないという法則性を帯びていた。
人々は恐怖に震えつつも、未知なる存在に対する好奇心を抑えきれなかった。
異世界転移した最強の主人公のほのぼのライフ
主人公はあまり戦ったりはしません。
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ
翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL
十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。
高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。
そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。
要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。
曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。
その額なんと、50億円。
あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。
だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。
だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる