超能力者の異世界生活!

ヒデト

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再起!

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クロの声で奴が目を覚ましたのを察し、ネロは前だけを見て全力で走り出す。

「ギャァァァァァァァァァァァァァァァァアア!!!」

奇声にも似たキーンと耳に響く鳴き声が森中に轟く。クロ即座に逃げる為、強化魔法で身体を強化する。だが、さっきまで居たはずのミラが居ない。

「アイツ、どこ行った!」

ミラはクロから十数メートルほど離れた場所でシャーマンキングコブラの注意を引いていた。

「あのバカ!!」

クロはアリスを抱き抱え、ミラを迎えに行く。

「キャーーー!!」

ミラを拾った直後、ネロの悲鳴が聞こえる。振り向くと、ネロは倒れ、気を失っている。シャーマンキングコブラはさらに追撃しネロに向かう。アリスが魔法で攻撃をするがビクともしないし、見向きもしない。

「このままじゃ……」

俺の使える魔法じゃアイツにダメージを与えられ無い。振り向かせることすら出来ない。

クロ頭には能力が浮かんでいた。それと同時にニーナの言葉もチラつく。

「出し惜しみしてる場合じゃ無いんだよ!」

クロはチラつくニーナの言葉を振り払い電撃を放った。

バリバリ!ドーーーーン!!!

シャーマンキングコブラを青い光が覆う。

「ギャァァァァァァァァァァァン!!!!」

大蛇の身体から煙が立ち上がり、大蛇を隠す。動きを止める大蛇。クロは気を失ったネロも拾い逃げる。流石に三人は強化していても重い。

「やったのか………」

気を抜いた瞬間、煙を吹き飛ばし大蛇が追撃を加えんと五十メートルはあろう巨大をうねらせ猛追して来る。

「きた!」

クロは来た道をジグザグに動き全力で走る。今、クロは能力を使う事が出来ない。三人を抱えた状態で能力を使うと三人はを感電させてしまうのだ。
現在の状態のクロは逃げるという選択肢しかなかった。
凄い形相、明らかに怒っている。身体を引きずり凄い音を立てながら追いかけてくる。まるで、土砂崩れの土砂、海からの津波、クロの目には恐怖で涙が溢れていた。


死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ……


もう無我夢中。頭の中は真っ白になる。追いつかれれば死ぬ。クロは死に追いかけられていると感じていた。

「お兄ちゃん!お兄ちゃん!……」

アリスが声をかけるか反応がない。クロはもう前しか見えていない。
そして、力尽きるまで走り膝から崩れ落ちた。
アリスとネロ、ミラは勢いでバラバラに飛んでいく。クロの足は痙攣し、息は異常なくらい上がっている。それでもまだ踠き、地面を這って逃げようとする。

「お兄ちゃん!お兄ちゃん!お兄ちゃん!!もう大丈夫だよ」

アリスが何度も呼びかけ、ようやく我にかえる。周りを見渡すとシャーマンキングコブラはいなかった。巻いたのかそれとも奴のテリトリーを出たから追うのをやてたのかはわからない。だが、そこにはクロ達しかいなかった。
クロは一気に脱力した。無言で痙攣するクロの足を治癒するミラ。だがクロは何も反応しない黙り込んだままだ。

「もう嫌だ、何だよこれ…」

小さな声で呟く。
冒険者への憧れなんてものはもう無い。理想と現実のギャップ、クロの中には不満だけが残る。そして、その不満が今限界に達した。

「やってらんねぇよ」

クロは立ち上がり舌打ちをしながら一人歩き出す。

「どこ行くの?」

心配そうにアリスがきく。

「どこでもいいだろ」

いつもと違うクロの雰囲気に次の言葉が出てこない。クロは近くの木陰に座り込む。
それから少しして、目を覚ましたネロが本当に申し訳なさそうに謝りに来た。

「すいませんでした」

今にも泣き出しそうな震えた声で謝罪する。それをクロは横目でチラッと確認すると一回舌打ちをする。

「ホント、お前のせいだよ。」

ネロの身体がビクっとなる。

「マジでありえねぇ。お前言ったよな、大丈夫って。全然大丈夫じゃねぇよ。何だよあれ、危うするテメーのせいで死にかけたぞ。しかもあんな所でコケやがって。お前、俺達殺す気か?」

険悪な態度にぼろぼろ涙をこぼし黙り込むネロ。それを見る事もなく、クロは暴言を吐き散らした。

「なぁ、何とか言えよ!何でこんなとこまで来てこんな目に合わなけいけねぇんだよ。なぁ、なぁ!なぁ!!」

「………すいませんでした」

ネロは肩を落とし、クロから離れる。
クロ大きな溜息を吐きもう一度舌打ちする。そして目を閉じた。

………帰りたい。

クロの頭に今までの日常、元の世界での日常が蘇っていた。美少女ポスターだらけの部屋。アニメを見まくり、漫画やラノベを読み漁る。スナック菓子を食べまくり、ジュースをガブガブ飲む。
現在の状況と比較して、更に感情が膨れ上がる。


帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい…………………。


「……もう嫌」


荒む心、「これは悪夢だ」と現実逃避したくなる。だが、そんな事をしても何も変わらない。そしてすぐに落胆する。
そんなクロの横にアリスは無言でちょこんと座る。クロは俯いていたが横に座った事が分かった。だが、クロはそっちを向かない。

「…何?」

「怖かったね」

少し間を置き、言う。クロもそれに「ああ」に一言、もうカッコいいアニメの主人公を演じてはいない。感情をさらけ出し、無愛想な返事をする。

「ありがとう。お兄ちゃん。」

「何が?」

アリスのお礼に疑問を感じる。

「僕たちお兄ちゃんのおかげで助かったんだよ」

俺のおかげで助かった。……だから何だよ。俺はもう嫌なんだよ!怖いんだよ!
そう心で思った瞬間…

「みんな同じだよ」

クロは心で思った事に対する返事が来たとハッとする。実際はそれをクロが態度に出していた、それを察したアリスの返答だ。

「みんなも怖いんだよ。お兄ちゃん。でも、仕方ないんだよ」

「……仕方ない」

そんな事は分かっている。

ネロのドジが不可抗力なのも分かっている。能力を使ってはいけないのも、その訳も分かっている。冒険者になった理由は初めは憧れだったが、結局はこれしかお金を稼ぐ方法がなかったからだ。分かっている。この世界に来てしまったのも事故だ。仕方ない。帰る方法がない事も分かっている。

仕方ない。

だが、俺はアリスより年上ってだけで子供なんだ。仕方ないと理解していても割り切れないんだ。
納得できないんだ。

「ごめんなさい。僕がもっと強かったらお兄ちゃんを守れるのに」

「……は?」

アリスの言葉が理解出来なかった。クロはアリスの顔を驚いた様子で見る。
「守れる」何を言っている。俺を、守れる?

「だから僕、もっと強くなる。お兄ちゃんをどんな敵からも守れるように強くなる」

「何言ってるんだ?」

アリスの言葉が心底信じられない。だがアリスの表情は真剣そのもの、冷やかしや冗談なんかではない。そんな事を言う子でもない。

「僕はね。お兄ちゃんが大好きなんだよ。お兄ちゃんが僕を助けてくれた日から、お兄ちゃんは僕の光なんだ。あの日お兄ちゃんは僕を山の主から助けてくれて、頼る人もいない、先の見えない暗闇の中から引っ張り出してくれた。僕にとってお兄ちゃん全てなんだ。だから、失わないよう僕が守るんだ」

華奢な少女の思い、何時もの精神状態なら特に何も思わなかっただろう。だが今、これほど心強い、安心することばはなかった。自分より小さい女の子がとても大きく頼もしく見えた。
暗く淀んでいた視界が一気に晴れる感覚、クロは込み上げる思いと涙をグッと堪える。

「カッコいいな。ありがとう」

決して、帰りたいという気持ちが無くなったわけではないが、アリスの言葉に勇気をもらった。
クロはフーッと息を吐く。

……もう少し、頑張ろ


自分なりに、精一杯。

何も変わったわけじゃないし

俺はアニメの主人公でも何でもないが、


もう一度、演じてみよう。


この世界で、田中悟じゃなく、クロとして

究極の偽善者を

異世界へきてしまった

クロという男を主人公とした物語を


クロは覚悟を決める。折れた心を立て直し、再起する。

手始めにやらなければいけない事、

クロは立ち上がり、ネロのところへ向かう。端っこの方で膝を抱えて座るネロに声をかける。

「ネロ」

俯き膝を抱えるネロの身体がビクっとなる。

「さっきはごめん」

頭を深く下げ謝るクロ。ネロは驚いた様子で「えっ?」と声を漏らし顔を上げる


「言いすぎたよ」

「そんな!私が悪いんです。クロさんの言った事は全然間違ってませんし、怒るのも当たり前です。だから、気にしないでください」

慌てた様子で言う。

「そう言ってくれるとありがたいが。さっき俺が言った事ははっきり言うけど本心だ。ドジっ子半獣人美少女だのいいキャラしてるだの言っといて、なんだって感じだけど、これが俺なんだ。みんなの前でいい顔しておいて、いざとなったら癇癪起こしてブチ切れて、どうしようもなく情けない奴なんだ。そんな俺だけどさ、これから変わっていくから、いい顔し続けられるようにさ。だから、これからも一緒のパーティーで戦ってくれないか?」

「私、まだこのパーティーにいていいんですか?」

クロの言葉に聞き入ったネロ、てっきりパーティーをクビになると思っていた。

「ああ、ていうか頼んでるんだけどない」

優しい声で言うクロ。ネロの瞳から涙が溢れる。その表情が返事と言っていいほど嬉しいな顔をする。

「ありがとうございます。これからまた、よろしくお願いします」

涙を零しながらの満面の笑み。ネロもこれから変わっていくと決意する。

深まった絆。変わる事を決意した者達ははじめの一歩を踏み出す。
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