彼は世界最強の側近です。

ヒデト

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王国崩落編

12話

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「はぁ、戦争中になにやってんだか」


ここはフォルニア国の領土の端、影丸達はとある花畑に来ていた。
影丸は一面花畑のど真ん中、楽しそうに戯れるシャルロット、ロニエ、サーシャを見ながら言う。
影丸の隣には腕を組み、不機嫌そうな顔をしたロニエとサーシャの護衛役のフレアがいた。


……なんか、空気が重い


フレアが放つ雰囲気が、明らかに場の空気を悪くしていた。


「フレア殿はこんな呑気にして何も思いませんか?」

「何も思いません」

「……そうですか」


空気を変えようと話しかけるが、変えれる気がしない。


「あの……俺の事、嫌いですか?」


影丸は思い切った質問をする。


「はい。嫌いです」

「そっ即答」


予想はしていたが、誤魔化す事なく即答されると少し傷つく。


「ちなみに理由とか聞いてもいいですか?俺はあなたに何かした覚えはないのですが」

「理由などありません。単純にあなたが気に入らないだけです」

「……そうですか」


理不尽!
俺はただ気に入らないと言うだけでこんな素っ気ない態度をとられているのか!


「はぁ。なんか、敬語使うのも馬鹿らしくなってきた。おい、本当にこの状況何も思わんのか?」


フレアは横目で影丸をチラッと睨んで舌打ちをする。


「舌打ちしてんじゃねぇよ」

「……まぁ、いい状況とは思いません」

「だよな、いくら勝ってるからって不用意に国を出て敵兵に襲われたらどうするんだろうな」

「そんなのは決まってます。我々が守るんですよ」

「簡単に言うんじゃねぇよ。何十人ならともかく、何百、何千と来たらどうにもならんだろうが」

「それでも、守り抜くのが我々の役目だ」

「わかってんだよそんな事は。だが、現実的に厳しいと言う話だろ」


二人が話している姿をシャルロットはバレないように横目で見ていた。


な、なんの話してるんだろう?
なんだか、楽しそう。


シャルロットには会話の内容は聞こえていなかった。二人は決して楽しい話などしてはいないが、少し離れた位置から横目で見ているシャルロットには二人が楽しく話しているように見えていた。

シャルロットの胸がチクリと痛む。フレアと話す影丸の姿を見ると嫌な気持ちになる。


「おねぇ様、どうかなさいましたか?」

「いえ、なんでもないわよ」


そんな時だ。
影丸が不穏な気配を察知する。


「どうかしましたか?」


様子の変わった影丸にフレアが尋ねる。


「あんたは姫様達を連れて城に戻れ」

「どう言う事ですか?」


影丸は森の方をジッと見つめる。」


「…十、百………六百か。敵がそこまで来てやがる」

「本当ですか?」

「ああ。忍の奴らは何をしてやがる」


忍とは大和の隠密部隊で国周辺を監視しているもの達だ。今回、こんな場所に来ているのも、その忍から敵影なしと言う報告を受けたからこそ許可が降り、来ている。
つまり、忍達は敵影を見つけることができなかったのだ。

そして、今頃になって大和に敵影があったと言う情報が届いていた。


「なんだと!」

「敵は約六百。フォルニア王国の森を進軍中」

「そこには今、シャルロット王女達がいるんだぞ!すぐに部隊を編成し、向かわせるんだ!急げ!!」

「はい!」

「私はフォルニアへ向かう」


大急ぎで百人ほど武人を掻き集め、フォルニアの森へと向かわせた。
恐らく、間に合わないだろう。現場に影丸がいるのはわかっている。間に合うとすれば、敵影を素早く察知し、先に動き出す事が出来れば、部隊が間に合う可能性も出て来る。


「フレア。騒がれない様にそれとなくシャルロットに伝えろ。ロニエ様やサーシャ様に言えば絶対に騒ぎ出す」

「分かってます」


フレアはシャルロットに耳打ちして現状を伝えると、少し驚きはしたが、すぐに建前を立て、ロニエとサーシャに城に戻る様に伝えると


「えぇぇぇ、もう少しだけ遊びましょうよおねぇ様!」

「そうです!まだ早いです」


焦れる王子達。そうこうしている間に敵はもう目の前まで来ていた。


「時間切れだ」


敵がぞろぞろと森から顔を出す。距離は五十メートル、完全に弓の射程距離に入っている。


「お前ら先に帰れ。俺がここで足止めするから」

「影!何言ってるの!」

「アイツらから逃げ切るのはきつい。馬をやられれば終わりだ」

「そうかもしれないけど、影一人で何とか出来る人数なの?敵は何人?」

「大体六百だ」

「そ、そんな人数止めれるわけないでしょ!」


一人で六百人を足止めなどいくら強くても出来るわけがない。それなりの武人でも精々五十が限界とされている。


「お前は俺を誰だと思ってんだ?」


シャルロットを抱き抱え、強引に馬に乗せ、走らせた。


「フレア、アイツを頼むぞ」

「分かっています。それより、本当に大丈夫なのですか?」

「そう思うなら、早く応援を呼んできてくれ」

「……わかりました」


そう言いロニエとサーシャを乗せたフレアの馬はシャルロットを追い、走り出した。


「さて、やりますか」


影丸と六百の敵との戦いが始まった。




前を走るシャルロットに追いついたフレアはシャルロットに声をかける。


「大丈夫ですか」

「ええ、大丈夫です。それより急ぎましょう」


大丈夫とは言っているが、顔からは不安というのがあからさまに滲み出ていた。
そして、その顔からは不安の内容すら読み取れる。影丸がもし死んだらという不安。
フレアはシャルロットが本当に影丸が好きなのだと、信頼しているのだと心底思った。

数十分ほど走ったころ、シャルロット達の耳に地鳴りの様な音が聞こえてくる。
そして、その正体はすぐに分かった。


「シャルロット王女!無事できたか。良かった!」


それは、応援に向かった大和の部隊だった。


「今、影が時間を稼いでくれてる。急いで助けに行かないと!」


シャルロットの表情が一変いた。部隊長の服を掴み縋る様に頼む。


「わ、わかりました。急ぐぞ!」

「私も行きます!」


シャルロットは部隊長に自分も連れていく様に言い出した。


「それはいけません!危険です」

「そんな事は分かっています!それを承知で頼んでいるんです!」

「で、ですが…」


シャルロットのその鬼気迫る表情に部隊長はそれ以上何もいえなかった。
フレア達は先に城に城へ戻し、シャルロットは応援部隊と一緒に付いて行った。

もうすでに、一時間以上は経過していた。
聞こえて来るのは馬の蹄の音のみ、静まり返る森、シャルロットの中に不安が募る。


やられたのではないか?


死んでないだろうか?


そんな事ばかりが頭に浮かぶ。
部隊からも諦めの雰囲気が漂い始めていた。


間に合わなかったのではないか?


そう思うと、胸がはち切れそうになる。込み上げるものを必死に堪え、馬を走らせた。


だが、現場へ着いたシャルロット達が観たのは想像もしていなかった光景だった。


「……影」


そこには悲惨過ぎる光景が広がっていた。
一面真っ白な花畑は赤色に染まり、そこに散らばる沢山の死体。死体は原型を留めておらず、足だけ腕だけ、頭だけがたくさん地面から生えるように落ちている。そして、その中央に立ち尽くす鮮血に染まる影丸の姿。太陽の日差しが悲惨な光景をより一層引き立てていた。

誰もがその光景に息を飲んだ。


この人数を一人で倒したというのか?


「鬼神だ…」


その現場にいた者全てが影丸の姿に鬼を見た。




この話はすぐに大和、フォルニアの国中に広まった。


その事を聞いた大和国王が影丸を大和へ呼び戻した。
呼び出した王は唐突にとんでもない事を口にする。


「よくぞ。シャルロット王女を守った。大義である」

「ありがたきお言葉」


初めは、お褒めの言葉をもらって終わり、そう思っていた。

「いきなりだが、真田影丸。お前にはシャルロット王女の側近を辞めてもらう」


影丸が聞いた王から内容は耳を疑うものだった。


「あの、どういう事ですか?」

「そのままの意味だ。シャルロット王女の側近を辞めろと言っている」


影丸は驚きを隠しきれず唖然とする。


「カーナ王は何と仰っているのですか?」

「カーナ王にはまた告げていない」

「なら、その命令を聞く事は出来ません。カーナ王の許可なく独断で側近を解任するなど、いくら大和の王といえど通らぬ事です」

「その様な事、解任した後に如何とでもなる事だ」

「そんな!」

「貴様に問おう。貴様はどこの国の誰だ!」

「…大和国、将軍家長男、真田影丸です」

「私は誰だ!」

「大和国、国王、大公 常光陛下です」

「そうだ。大和国王、大公常光だ。お前の所属する国の国王である。お前は私の命令にだけ従っていればいいんだ」

「……はい。わかりました」


影丸は大和国王により、強引にシャルロットの側近を解任させられた。


その数日後、カーナ王の口からシャルロットにその連絡が聞かされた。


「……えっ?…どういう事…ですか?」

「真田影丸君はシャルロットの側近ではなくなったという事だよ」


その言葉を聞いたシャルロットは気持ちが、思考が、付いてこなかった。

父上はないを言っておられるの?

夢でも観ているのか?

それとも

幻聴を聞いているのか?

そう思うほど、その言葉は衝撃的だった。


「えっ……あっ………で、でも…納得出来ません。何故急にそんな話に?」

「わからない。ただ大公王は真田影丸をシャルロット王女の側近を解任させてもらいたい。と、突然言われた。理由は大和の内部事情としか仰られなかった」


動揺を隠せず、表情が強張り、目を泳がせるその姿はカーナ王が見るには…いや、誰が見ても辛いものたった。


「でも、側近が途中で変わるなんて、そんな前例は無いはずです!」

「私もそう言ったが、物事全て、初めは前例か無いものです。といわれてな。何もいえなかった。すまない」

「で、でもそんなことって…」

「シャルロット。聞き分けてくれ」


俯き、唇に力が入る。今にも泣き出しそうなシャルロットはそれ以上何もいう事はなかった。


「代わりの側近はすぐに決めるとの事だ」

「……」


カーナ王はシャルロットの部屋を申し訳無さそうに出て行く。


「…要らないわよ」


出て行き様、一滴の涙を流し、ボソリと呟いた。


この時、既に大和、フォルニアの歯車は狂い始めていた。
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