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王国崩落編
13話
しおりを挟むシャルロットの側近を解任された影丸は戦場の最前線へと飛ばされた。
大和側の強い意向で『ドゥウトリュウ王国を滅ぼす』という事になった。この状況で相手側に白旗を上げる意思が無い以上、それしか無いと、大和側が押し切ったのだ。
その為、戦力の増員。国の護衛に回っていた真田家の武人達も戦場に送られた。
「久しぶりだな、真田影丸」
不敵な笑みを浮かべる二人武人が影丸に声をかける。
「お前らか。何の用だ」
毛利源氏、浅井乱人。二人もと、毛利家、浅井家の次男だ。
「用は等に無い」
「そうか。ならとっとと失せろ」
「釣れねえこと言うなよ。久々に会ったんだからよぅ」
毛利源氏は馴れ馴れしく影丸の肩に腕を回す。
真田家は毛利家、浅井家とは仲があまり良く無い。理由は考え方の違いだ。歴代の当主達も事あるごとに対立して来た。真田と上杉、毛利と浅井、という感じで対立している。そしていつもそれを中立の立場で武甕雷家が見ている。
だが、対立してはいるが、お互い認めてもいる。考え方の違う者がいるからこそ、多くの選択肢を導けると。
かと言って仲良くはなれないが
「そういや聞いたぜ。六百人を一人で殺したんだってな。シャルロット姫のお守りばっかで闘えねぇと思ってたがやるじゃねぇか」
「上から物言ってんじゃねぇ。ぶっ殺すぞ」
「物騒だねぇ。なぁ、勝負しねぇか?」
「勝負?」
「どっちか多く殺せるか」
「一人でやってろ。俺は人殺しで競う気はねぇ」
「相変わらずつまんねぇ男だな。やっぱお前とはあわねぇな。足だけは引っ張んじゃねぇぞ」
そう言い、二人は立ち去った。
影丸が戦場に来て、数日とたたず戦は始まった。
影丸の初陣。思うところもあり、少し胸がざわついていた。戦争と言う言葉の重み。
いや、違う。これは戦争に対する好奇心だ。戦争を肯定はしない。だが、皆の恐る戦争に対する興味が湧く。
見てみたい。
感じてみたい。
戦いを好む武人の血が身体を震わせる。
だが、その期待はすぐに崩れた。
目の前で行われているのは、戦争でもなんでもない無い。ただの虐殺だった。
一方的に敵を殺す。戦争と言う名の虐殺を目に、影丸の戦意はすぐに失せた。
その現場で影丸が驚いたのは、敵兵が戦意を失わず、雄叫びを上げ、剣を振り翳し突っ込んでくると言う事だ。
戦果など何も挙げられていないだろう。何千と言う兵を失いながらも戦果なし、その状況に戦意を失わず、まだ敵へ立ち向かう異常さ。
影丸は突っ込んでくる敵兵のみ槍で突き上げた。
影丸は戦場に来て早々に戦う意味を見失った。そして影丸が戦場に来て一月もしないうちにドゥウトリュウ王国は全兵を失い、国は滅んだ。
この戦争に不審な点が多すぎる。
誰もがそう思った。
敵兵の異常さ、戦に勝利した後、ドゥウトリュウ王国へ行くと、街には人っ子一人居なかった。街は寂れ、戦争前から滅んでいたのでは無いかと思うほどだ。
それ以外にも多々不審な点がある。
影丸は嫌な違和感を残し、帰国した。
戦争の最中、シャルロットの新しい側近になったのは、影丸のよく知っている男だった。
「シャルロット王女の側近に命じられました。上杉家次男、上杉冬瓜です」
「あなたの事は知っています。大槍武祭の決勝戦で影と戦った方ですね。よろしく頼みますよ」
シャルロットは穏やかに笑いかけた。
「はい。命に代えてもお守りします」
そして側近が変わってから数日。
戦争を終え。シャルロットは影丸から貰ったペンダントを握りしめ、帰国する兵達を自室から遠くを見るような寂しげな目で見つめる。
今のシャルロットは影丸が側近だった頃から目に見えて元気がなかった。
「申し訳ありません」
突然、冬瓜がシャルロットへ誤った。
「どうして貴方が謝るのですか?」
「いや……影丸がいいんですよね」
『影丸』と言うワードに反応し、少し動揺を見せる。
「べ、別にそんな事ないですけど」
「隠さなくても構いません。ていうか、見てたら嫌でもわかります」
「わ、わかりますか?」
「…はい」
シャルロットは笑みをこぼしながらため息をつく。
「そうですか。わかりますか。申し訳ありません。気分悪いですよね」
「いえ、私は構いません」
「これでも、必死に隠してるんですけどね。私が何を言っても、何をしても、側近が影丸に戻る事はない。わかってるんですよ。でも、貴方の顔を見るたび思い出すんです。そこに居たはずの影の姿。ノックの音が聞こえるたびに期待するんですよ。影じゃないかって。絶対にないのに。影はもう側近じゃないって言い聞かせるんですけど、ふとした時に思い出すんですよ。影と過ごした何気ない日々を。冬瓜様。私、どうすればいいですか?」
その質問に冬瓜は答えることができなかった。シャルロットの遠くを見るような目、その目に映るのは影丸の姿。
少しの間だが、シャルロット王女と影丸の絆の深さを感じる。
「もうすぐ、戦争の祝勝パーティーが開かれます。そのパーティーには真田家長男の影丸も参加するはずです」
「ほ、本当ですか?」
シャルロットの表情が一変。目を輝かせて冬瓜に迫る。その嬉しそうな表情に初めての感情が芽生えた。
「ち、近いです」
「あ!ごめんなさい」
本当に嬉しそうな表情。冬瓜も自然と笑みがこぼれる。
パーティーの日、影に会える!
話したいことがたくさんある!
早く会いたい!
彼に触れたい!
彼の声を聞きたい!
膨らむ期待の感情。楽しみで待ちどうしいいそのパーティーは、想いの寄らないものとなった。
数日後、パーティー当日。
参加者は大和、フォルニアの王族に大和からは将軍家のものに大和の名家の武人数名。
フォルニアからは重臣に名家の貴族達。
会場は豪華な料理が並び、心地いい音楽が流れ、皆が楽しげに会話をする。
シャルロットは会場を見回し、影丸を探す。
「影…影…」
見回し末、人混みの先によく知った姿を見つける。
「影!……あっ…」
影丸に駆け寄ろうとするか、シャルロットの動きが止まる。
「どうしたのですか?」
冬瓜がシャルロットに聞く。
「なんて話し掛けたらいいんだろう」
久しぶりでかける言葉が見つからない。側近を解任されてから会うのは初めて、少し緊張しているようだった。
「それは久しぶりとかで良いのではないですか?影丸もそう言う事を気にするタイプではないでしょう」
「そ、そうですね」
貴賓ある佇まい。畏まった歩き方でゆっくり近づいた。
「ひ、久しぶりね」
後ろからのその声に反応し、振り向く。軽く俯き嬉しそうに話し掛けてくるよく知った姿がそこにはあった。
「お久しぶりですシャルロット王女。何かご用ですか?」
「……え?」
影丸の思いの寄らない言葉に思わず声を漏らす。ゆっくりと影丸の顔を見上げると、冷たい瞳に冗談では無いと言うその表情に言葉を失う。
「用が無いのであれば私はこれで」
影丸はこの場を離れ、シャルロットはその場に立ち尽くす。
影丸の後を冬瓜が追い問いただす。
「待て影丸!今のはなんだ!王女はお前に会うのをとても楽しみにしていたんだぞ!」
「分かってるよ」
「じゃあ、あの態度はなんだ!貴様、王女に敬語使ったら怒られるとか言っておきながら、当て付けのように敬語を使って」
「敬語を使って何が悪い?」
「何?」
「俺が、王女に敬語を使う事の何が悪いと言っている」
影丸は自分の言っている意味を分かっていて、言っている。それを分かった瞬間、問いただすのをやめた。
「もういい」
冬瓜はシャルロットの所へ戻る。
「分かってんだよそんな事!」
離れ側、影丸はボソッと呟いたが、それは誰にも聞こえない。
「大丈夫ですか?」
立ち尽くすシャルロットに優しく声をかける。
「…はい…大丈夫です」
あからさまに肩を落とすシャルロット。
「気になさらない方がいいですよ。もしかしたら、機嫌が悪かったのかも」
「気にするなって、そんなの無理に決まってるでしょ。影丸は機嫌が悪いからってあんな態度をとったことはないの」
目に涙を溜める姿にこれ以上言葉をかけることができなかった。
そんな時だ
「キャーーーーー!!!!」
女性の大きな悲鳴が聞こえ、その悲鳴に振り向くとそれは目を疑うものだった。
「カーナ王ッ!!!」
悲鳴の先でカーナ王が倒れていた。
「お父様?」
気を失い動かない父にシャルロットは駆け寄る。
「お父様!しっかりしてください!!お父様!!!」
乱れるパーティー会場。カーナ王はすぐに医務室へ連れていかれ、パーティーはその場で終了となった。
翌日、カーナ王の診断結果が出た。
カーナ王は毒性の呪いに掛かっていると言う事らしい。物理的の毒ではなく、魔法による毒だとか。
それ以上は分からないと言う。
魔法による毒とは言ったが、それすらもあやふやなのだ。魔法的な力である事は分かったが魔法であると断言出来ないとか。
いや、これは魔法では無いのだろう。
何故なら、フォルニアの魔法医師が直せないのだから
「どうして直せないのよ!」
王妃が怒鳴り声をあげ、医師を問いただす。
「フォルニアの、癒しの国と呼ばれるこの国の医師が何故直せないのよ!」
「申し訳ございません!」
医師は頭を地面に擦り付け謝罪した。
別室ではカーナ王が何故こうなってしまったのかを大和の将軍とフォルニアの重臣が話していた。
「カーナ王は魔法的な力による呪いのに侵されていると言う事が分かっています」
「魔法的ってなんだよ?はっきりしねぇな」
「フォルニアの医師が容体を見ましたが、彼では治すことが出来ないとの事です。癒しの国の医師が治せない。そんな魔法は絶対では無いがそうそうあるものでは無い」
「だから、魔法的な何かか?要するにわからねぇって事だろ」
「…そうです。だから、ここで何故呪いに掛かったのかと言う事を話し合いたいと思う。昨夜のパーティーの最中に倒れられた事はご存知かと思う。可能性としてはパーティーの最中に何者かにかけられた。もしくはそれ以前にかけられるパーティー時に発現する様に仕掛けられた。この二つだろう」
「食べ物や飲み物に何かが入っていた線は可能性は無いでは無いが、我々は魔法の呪いをかける飲食物は聞いたことがない」
話は結局前には進まなかった。
フォルニアの重臣は大和側に疑いの目を向けているものもいた。だが、それを口にしてしまうと二つの国の関係が揺るぎかねない。重臣達はぐっと堪え、その言葉を飲み込んだ。
最後は他国の刺客と言う可能性が高いという事から自国でスパイ捜索をする事になり、話し合いは終わった。
事件から数日、魔法で呪いの進行を遅らせてはいたが、直す術は見つからずカーナ王は帰らぬ人となった。
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