20 / 58
4章 挙り芽吹く
4-4
しおりを挟む
多々羅山の深部へ向かう。山道は隧道の着工前にある程度整備されてたようで、歩くのに苦労はない。
六之介は木々の様相を観察していた。西山は林冠部の高い木々が多かったが、多々羅山は亜高木、低木が多いようだ。日当たりが悪いわけでもないのに、偏りの大きい奇妙な植生をしている。だが、それ以上に気になることがあった。
ここは、多々羅山は静かなのだ。静かすぎると言ってもいい。鳥たちがさえずることもなければ、野犬や狸、鹿の痕跡があるわけでもない。いくら隧道工事が始まっていたとはいえ、ここまで静まり返っているのは奇妙を通り越し、無気味でもあった。
「このあたりが、隧道の果てですわね」
土砂崩れを大きく迂回し、たどり着く。この辺はほぼ手つかずに近い様だ。
「地盤が不安定でしょうから、お気をつけてくださいね」
地面には無数の亀裂が走っている。確かにかなり不安定であるようだ。
二手に分かれて調査することになったのだが、六之介にとっては初の任務であるということで、華也か綴歌が付きそうこととなった。
六之介としては、気心の知れた華也とが望ましかったのだが、当人は綴歌と六之介が組むことを勧めた。断るべきかとも考えたが、華也の強い意志を曲げることが出来るとは思えず、頷くことしかできなかった。
「……」
「……」
綴歌が先導し、そのあとを六之介が追う。二人の間に会話はない。ここで喧騒を立てて、言い争いでも起こればまだ救いはあるのだが、それすらない。
内心では、二人とも話すきっかけを探っているのだが、お互いにそれを知る由はなく、重い沈黙が続く。
それを破ったのは、六之介であった。
「こういう調査って、何を目途にするっていうか、何を探しているんだ?」
六之介にはただ当てもなく、ふらふらと山中を歩いているようにしか見えなかった。
「え、ええ、基本的には魔力ですわよ。魔力というのは、痕跡として長く残りますの」
「痕跡?」
「ええ、例えば今我々が歩いた場所にもはっきりと残っておりますわ。そうですね、色で例えると分かりやすいでしょうか……我々の魔力を赤、地面の魔力を青、その2つが混じると紫になるでしょう? その色は他と混ざらぬ限り、そこにあり続けるのです。もっとも、多少はにじむことはありますけれど」
六之介には見えない、彼女らには見える痕跡。六之介が異質な存在であるという証拠。
「ですが……これはいったいどういうことなんでしょう」
綴歌が首をかしげる。
「どうしたの?」
「魔力は万物が有するもので、それぞれ持つ量と質が異なります。指紋のようなもので、個々の魔力波長があるのです。なのですが、ここにはそれがないのですわ」
「は? どれも同じってこと?」
「ええ、量も質も全く同じ。まるで全てが同じ生物であるようで不気味ですわ」
指紋や声質はおろか、容姿までも同じ人間が並んでいる様子を想像すればいいだろう。整然と並ぶ人工物や自然の造形ではないのだ。生の存在が、本来は異なるべきものが、全て等しくある。それは、ひどく不気味な光景であろう。
「原因は?」
「分かりませんわ」
記帳する。事細かく、図も描き、まとめている。
「それは?」
「報告書を作らねばなりませんから、情報をまとめることが必要なのですわ」
「へえ」
「ああ、そういえば、報告書で華也さんや貴方のことを書かなければならないのですけれど……」
六之介を見る。
「貴方は、何者なんですの?」
「何者って?」
「貴方の出自に関しては、魔導官としての登録名簿を見れば分かりますわ。ですが、それだけではないのでしょう?」
確信を得ているような物言いであった。
「いくら『継人』であろうと、あれほど……」
「『つぎと』?」
「魔導官でもないのに異能を持っている人物のことですわ。極僅かですが、貴方のようにいるのですよ」
魔導官としての登録する際、自分が異世界から来た超能力者であるということは秘匿にされたようだ。その代り、『継人』であるとされたわけだ。
「へえ、知らなかった」
「それですわ」
「は?」
「『継人』は魔導官学校で習うこと。貴方はそれを知らないことからも魔導官学校に通っていないと分かりますわ。だというのに」
ずいと顔を近づける。額同士がくっついてしまいそうな距離である。
「貴方は、戦い慣れている。それも、異能を有する人たちと。それは何故ですの?」
藍色の瞳が真っ直ぐに向けられる。曇り一つない、夜明け前の空のような濃い青色。
どんな嘘でも見抜いてしまいそうな眼力だった。
「それは……」
口を開いた、その時であった。
ぐらりと足元が揺れ、視界が反転する。一瞬の浮遊感に、全身が強張る。行動を判断がするよりも早く、視界が狭まり、闇にのまれていく。
落下している、そう感じると同時に、世界は反転していた。
六之介は木々の様相を観察していた。西山は林冠部の高い木々が多かったが、多々羅山は亜高木、低木が多いようだ。日当たりが悪いわけでもないのに、偏りの大きい奇妙な植生をしている。だが、それ以上に気になることがあった。
ここは、多々羅山は静かなのだ。静かすぎると言ってもいい。鳥たちがさえずることもなければ、野犬や狸、鹿の痕跡があるわけでもない。いくら隧道工事が始まっていたとはいえ、ここまで静まり返っているのは奇妙を通り越し、無気味でもあった。
「このあたりが、隧道の果てですわね」
土砂崩れを大きく迂回し、たどり着く。この辺はほぼ手つかずに近い様だ。
「地盤が不安定でしょうから、お気をつけてくださいね」
地面には無数の亀裂が走っている。確かにかなり不安定であるようだ。
二手に分かれて調査することになったのだが、六之介にとっては初の任務であるということで、華也か綴歌が付きそうこととなった。
六之介としては、気心の知れた華也とが望ましかったのだが、当人は綴歌と六之介が組むことを勧めた。断るべきかとも考えたが、華也の強い意志を曲げることが出来るとは思えず、頷くことしかできなかった。
「……」
「……」
綴歌が先導し、そのあとを六之介が追う。二人の間に会話はない。ここで喧騒を立てて、言い争いでも起こればまだ救いはあるのだが、それすらない。
内心では、二人とも話すきっかけを探っているのだが、お互いにそれを知る由はなく、重い沈黙が続く。
それを破ったのは、六之介であった。
「こういう調査って、何を目途にするっていうか、何を探しているんだ?」
六之介にはただ当てもなく、ふらふらと山中を歩いているようにしか見えなかった。
「え、ええ、基本的には魔力ですわよ。魔力というのは、痕跡として長く残りますの」
「痕跡?」
「ええ、例えば今我々が歩いた場所にもはっきりと残っておりますわ。そうですね、色で例えると分かりやすいでしょうか……我々の魔力を赤、地面の魔力を青、その2つが混じると紫になるでしょう? その色は他と混ざらぬ限り、そこにあり続けるのです。もっとも、多少はにじむことはありますけれど」
六之介には見えない、彼女らには見える痕跡。六之介が異質な存在であるという証拠。
「ですが……これはいったいどういうことなんでしょう」
綴歌が首をかしげる。
「どうしたの?」
「魔力は万物が有するもので、それぞれ持つ量と質が異なります。指紋のようなもので、個々の魔力波長があるのです。なのですが、ここにはそれがないのですわ」
「は? どれも同じってこと?」
「ええ、量も質も全く同じ。まるで全てが同じ生物であるようで不気味ですわ」
指紋や声質はおろか、容姿までも同じ人間が並んでいる様子を想像すればいいだろう。整然と並ぶ人工物や自然の造形ではないのだ。生の存在が、本来は異なるべきものが、全て等しくある。それは、ひどく不気味な光景であろう。
「原因は?」
「分かりませんわ」
記帳する。事細かく、図も描き、まとめている。
「それは?」
「報告書を作らねばなりませんから、情報をまとめることが必要なのですわ」
「へえ」
「ああ、そういえば、報告書で華也さんや貴方のことを書かなければならないのですけれど……」
六之介を見る。
「貴方は、何者なんですの?」
「何者って?」
「貴方の出自に関しては、魔導官としての登録名簿を見れば分かりますわ。ですが、それだけではないのでしょう?」
確信を得ているような物言いであった。
「いくら『継人』であろうと、あれほど……」
「『つぎと』?」
「魔導官でもないのに異能を持っている人物のことですわ。極僅かですが、貴方のようにいるのですよ」
魔導官としての登録する際、自分が異世界から来た超能力者であるということは秘匿にされたようだ。その代り、『継人』であるとされたわけだ。
「へえ、知らなかった」
「それですわ」
「は?」
「『継人』は魔導官学校で習うこと。貴方はそれを知らないことからも魔導官学校に通っていないと分かりますわ。だというのに」
ずいと顔を近づける。額同士がくっついてしまいそうな距離である。
「貴方は、戦い慣れている。それも、異能を有する人たちと。それは何故ですの?」
藍色の瞳が真っ直ぐに向けられる。曇り一つない、夜明け前の空のような濃い青色。
どんな嘘でも見抜いてしまいそうな眼力だった。
「それは……」
口を開いた、その時であった。
ぐらりと足元が揺れ、視界が反転する。一瞬の浮遊感に、全身が強張る。行動を判断がするよりも早く、視界が狭まり、闇にのまれていく。
落下している、そう感じると同時に、世界は反転していた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜
まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、
専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活
現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。
しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。
彼は大陸一の富を誇る名門貴族――
ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。
カイルに与えられたのは
・世界一とも言える圧倒的な財力
・財力に比例して増大する規格外の魔力
そして何より彼を驚かせたのは――
彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。
献身的なエルフのメイド長リリア。
護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。
さらに個性豊かな巨乳メイドたち。
カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。
すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――
「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」
領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、
時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、
最強の御曹司カイルは
世界一幸せなハーレムを築いていく。
最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。
傷物転生令嬢マグダリーナと原初の魔法使いエステラの幻想譚-女神とスライムの光とともに- (旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
※他サイトでも掲載しています
※ちょいちょい手直ししていってます
2026.12.14 タイトル変更 旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生
西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。
彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。
精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。
晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。
死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。
「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」
晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
転生後はゆっくりと
衣更月
ファンタジー
貧しい集落で生まれたリリは、生まれた瞬間から前世の記憶があった。
日本人特有の”配慮”に徹した赤ん坊を演じていたことで、両親から距離を置かれた挙句、村人からも「不気味な子」として敬遠されることに…。
そして、5才の誕生日に遠くの町に捨てられた。
でも、リリは悲観しない。
前世の知識チートは出来ないけど、大人メンタルで堅実に。
目指すは憧れのスローライフが出来るほど、ほどほどの守銭奴としてリリは異世界人として順応していく。
全25話(予定)
ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります
はぶさん
ファンタジー
ブラック企業で心をすり減らし過労死した俺が、異世界で手にしたのは『ポイント』を貯めてあらゆるものと交換できるスキルだった。
「今度こそ、誰にも搾取されないスローライフを送る!」
そう誓い、辺境の村で農業を始めたはずが、飢饉に苦しむ人々を見過ごせない。前世の知識とポイントで交換した現代の調味料で「奇跡のプリン」を生み出し、村を救った功績は、やがて王都の知るところとなる。
これは、ポイント稼ぎに執着する元社畜が、温かい食卓を夢見るうちに、うっかり世界の謎と巨大な悪意に立ち向かってしまう物語。最強農民の異世界改革、ここに開幕!
毎日二話更新できるよう頑張ります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる