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第一章 最強の娘? いえいえ、娘が最強です
我が娘、アリステリアは最強可愛い
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「パパ、大好きです」
俺の太ももに抱きついて離れようとしない幼い我が子アリステリアを親バカ全開の笑みで抱き締めてやると、キャーとはしゃぐ声を上げ、まるで、この時期に咲く桜草のようなあどけない笑顔を振り撒いて此方を見上げてくる。
彼女の母親と同じ橙色の肩まで伸ばした髪が木漏れ日に反射してキラキラと輝き、それと同じくらいに俺と同じ黒真珠のような瞳を輝かせていた。
無垢で純粋な瞳に応えるべく、俺は彼女の頭に載っていた麦わら帽子を取り、手の平で撫でてやる。
「パパもアリスのこと大好きだよ」
俺に向けられた笑顔は一瞬パーっと輝きを増すと、次第に桃色の唇をもぞもぞと動かし始めて笑みを曇らせる。
この仕草を見せる時は、嬉しいけど我慢している──そんな感じだ。
照れ臭くなり頬を赤く染めて俺の体に顔を埋めて隠すと、彼女の抱き締める腕の力が増していく。
俺の額からは、じんわりとねっとりした汗が滲む。
既に厚手の服の背中は冷や汗でびっしょりと濡れていた。
「そ、そろそろ離してくれるかな、アリス」
彼女の腕が絡む俺の太ももは、鬱血するかと思うくらいに締め付けられ、既に痺れなど通りすぎて、感覚を失いつつあった。
耐えるのも親の役目と言っても限界はある。
アリステリアは、俺から離れると薄手のピンクの花柄のワンピースをヒラヒラとさせて気まずいのか、ハニカミながら笑顔を返した。
「お手伝いは、もういいから遊んで来なさい」
俺がそう言うとアリステリアは両手を挙げて元気よく「はい、です!」と飛び跳ねる。
「熊五郎の所に行って来るです」
彼女はくるりと回り、ワンピースのスカートがふわりと舞うと、そのままの勢いで森の奥へと消えていった。
幼い娘を一人で森に行かせるのは危険なように思えるだろうが、俺は特に心配していない。
ここの動物は全てアリステリアの友達だ。
生まれた時から人とあまり関わりを持つことのなかったアリステリアは、不思議と動物と意思の疎通が出来るようになっていた。
森には異形の動物、魔物と呼ばれるものもいる。しかし、現在はその数を減らしている。
アリステリアを見送った森から空高く舞い上がる一つの物体が見えた。アリステリアの仕業であろうことは、俺にはすぐにわかった。
「まだアリスに襲う魔物が残っていたのか」
この世界の幼女は無敵だ。
アリステリアの祖父、つまりアリステリアの母親の父である親父さんから、彼女の母親が幼かった時には同様に何が相手でも無双するほど強かったと散々聞かされてきた。
そう。俺、タツロウは、元々この世界とは違う世界からやって来た……らしい。
らしいというのは、森の中で倒れていた時に、親父さんに助けられたから。
親父さんからは『転生者』とも『迷い子』とも呼ぶと教えてくれた。
俺が親父さんに拾われた時、タツロウという自分の名前といくつかの単語程度しか記憶に残っていなかった。
だからか、その単語の背景など意味もわからないものが多い。
例えば『転生』と聞いて関連付いて思い出したのが『ラノベ』という単語。
全く意味が分からない。
その後、木こりをしていた親父さんの手伝いをしながら、アリステリアの母親と一緒になる。その後生まれたのがアリステリアだった。
アリステリアは無敵だった。
彼女の母親は彼女が生まれてすぐに行方が分からなくなる。その直後、親父さんが亡くなり、俺とアリステリアはたった二人で親父さんの残してくれた丸太の家に住まい、跡を継いで木こりとなった。
それでもアリステリアは腐ることなく、すくすくと成長し、今年七歳となる。
母親のことは彼女には死んだ事にしている。しかし、本当は荷物をまとめて居なくなったので、ここでの生活が嫌になったのであろう。死んだ事にしたのは、万一アリステリアが再会してもショックを受けない為だ。
母親は街で暮らしたがっていたから、恐らく新しい男でも出来たのだろうと俺は捜索することもなく、諦めた。
当然ショックだったがアリステリアを連れていかれずにすんだのは幸いとも言えた。
可愛い娘アリステリアと二人で貧しくも楽しい日々を過ごす。
親として、彼女をいつまでも山奥に閉じ込めておく訳にもいかず、学校のことも考え始めた平穏な日々に、突如終わりを告げる日が来るとは、この時俺は考えもしなかった。
そんなある日、いつものように娘アリステリアが親友を連れてきた。
名前は熊五郎。
友達の羆の名前である。羆なのかは正確には分からないのだが。
命名は、俺。
名付けた時、アリステリアは喜んでいたが熊五郎は不満そうであった。
突然「お友達ですー」と熊五郎に跨がり姿を現したアリステリアを見て、俺は何故か『金太郎』と言う言葉を思い出してしまった。
無性に赤い菱形の前掛けを作りたくなる。
木こりなので鉞はあるしな。
灰色の毛並みに立てば俺よりも高い背丈を持つ熊五郎に、初めは「娘に危険が!」等と思いもしたが、意外と大人しく従順で、よくアリステリアとぶつかり稽古をしては、空高く吹き飛ばされている。
俺の言葉は通じないが意思の疎通は出来ているのか、たまに娘の目が離れた時に俺の頭をガシガシと噛ったりするくらいには慣れていた。
「あー、またパパの頭食べてるですー」
時折力加減を間違えたのか俺は頭から血を流すことはあったが娘の魔法で治してもらう。
この世界にはアーツと呼ばれる魔法があった。魔法には二種類あり、誰でも扱える基礎魔法と上級魔法。
俺も親父さんに基礎魔法を教わり、そして娘には俺が教えた。
「バルスです」
アリステリアが熊五郎を片手で持ち上げ、俺から引き離すと、傷口に手をかざし白い光のオーラが傷を包む。何かを滅ぼしそうな魔法だが、大概の打撲や裂傷程度ならすぐに治る。
だが、娘は魔法も規格外であった。俺の扱うものと違い、その威力は傷口を塞ぐだけに留まらず、俺の黒髪の成長まで促す。
「デヘヘヘヘ、またやっちゃったです」
申し訳なさそうに下を向き、ポリポリと頭を掻きながら、伸びた黒髪で俺の目の前に髪の毛のカーテンが出来たのを見て、アリステリアは照れていた。
「ありがとう、アリス」
俺は手元にあった薪割り用の鉈で前髪を斬りながら礼を言う。
「デヘヘ……」
照れ臭く笑みを浮かべたアリステリアの頭に手を乗せて力一杯なでてやった。
「飯にするか!」
ふと、空を見ると日は暮れ始め、アリステリアの髪と同じ橙色へと変わり始めていた。
丸太の家の中に入ると台所では茶色の液体が入った寸胴がグツグツと煮えていた。
茶色の液体の中ではじゃがいもや人参がコトコトと音をたてながら踊り、俺は鼻歌混じりで寸胴をかき回す。
今日のご飯は俺特製のカレーだ。
とは言っても俺の世界にあったものと似た材料で作られているので、随分と甘口ではあるが。
匂いは然程変わらず、部屋にカレーのいい匂いが漂う。
準備をしていると、ようやくアリステリアと熊五郎が家の中に入ってくる。
麦わら帽子の紐を首にかけ、森で作ってきたのであろう白い野花の冠をアリステリアは載せていた。
「お、お姫様みたいだなアリス。それじゃあ、お姫様、手を洗って来てください。今日はカレーですよ」
「やったー! です」
家の裏口を通り、アリステリアが裏庭の井戸に向かうと、俺は何事もなかったかのように、アリステリアかま勢い余って壊した扉を玄関横に立てかけた。
親父さんが自分で建てたというこの丸太で出来た家も、随分と壊れやすくなったものだ。今度、一度修繕しなくてはと壊れた扉を見ながら考えていた。
「パパぁ! 手ぇ洗って来たですー!」
呼ばれて我に返って振り返ると、椅子の上には既にアリステリアが座っており、ちょうど花冠をテーブルの上に乗せる所であった。
「自分で作ったのかい?」
「うん、です」
アリステリアに人間の友達はいない。そうなるとこの花冠はアリステリアが独学で作ったのだろう。子供の感性にはいつも驚かされてばかりだ。
「上手に出来たね」
褒めてやると「でへへ……」と照れ臭そうに笑いながら椅子から降りると、花冠を持って近づいて来る。
「パパ、座ってです」
言われた通りにその場で腰を曲げて座るとアリステリアは少し背伸びをしながら、俺の頭に花冠を載せた。
「パパにあげるです!」
優しい子に育ってくれた。俺は「ありがとう」と礼を言うとお返しに力一杯抱き締めてあげた。
食事を終え一服していると、俺は外に出しっぱなしだった鉈や鉞を片付けるのを忘れていた事を思い出す。
「アリス、食器片付けてくれるか?」
「ハイ、です!」
元気よく返事をしてテーブルの上の食器を片付け始め、その食器を熊五郎の背中に置いて一人と一頭で台所へと向かった。
俺も一服し終えて重い腰を持ち上げるとそのまま家を出た。
「ん?」
その時、頭上から風切り音と羽の羽ばたく音が聴こえて来て見上げると俺の目の前に怪鳥と呼べる魔物が姿を現したのだ。
怪鳥はカナリア色の尖った嘴からは赤い舌を出して言い放つ。
「タツロウだな? 俺様の名はカルヴァン! 青の魔王の命によりお前を連れてくるように言われている」
赤、黄、緑、紫と彩り豊かな羽毛で身体を包み、背中に生えた漆黒の羽のカルヴァンに唖然となった俺は、背中の羽がピクリと動くのを見て我に返る。
咄嗟に振り返り家の中にいたアリステリアに向かって叫ぶ。
「アリス! 逃げなさい!!」
叫ぶと同時に大きな鈎爪の足が俺の両肩を掴んだ。
「パパぁ!!」
アリステリアの声に反応するように俺の身体は宙へと浮き上がる。
「パパぁ、パパぁーっ!!」
アリステリアの悲痛な叫び声が耳にこびりついて離れない。
小さくなっていく我が家から出てきたアリステリアと熊五郎に向かって俺は声が枯れるほど叫んだ。
「熊五郎ーーっ! アリスを……アリスを頼むーっ!!」
熊五郎に言葉は通じないが、それでも幼い我が子を一人にする訳にはいかない。
俺はボロボロと大粒の涙を溢しながら、俺が居なくなった後のアリステリアを想うと胸が張り裂けそうになる。
もっと料理を教えておくべきだった……。
せめて麓の村に頼れる知り合いを作っておくべきだった……。
もっと、もっと、抱き締めてあげるべきだった……。
深い後悔と自責の念で胸が潰れそうだ。
「アリス……」
締め付けられる胸を掴み、捻り出した消え入りそうな声で名前を呼ぶ。
「熊五郎……なんで……」
大きな体を丸めボールのような格好の熊五郎がつぶらな瞳に大粒の涙を蓄え、物凄い速度で飛んできたのだ。
俺に向かって急速に接近してきた熊五郎は、俺の頭上のカルヴァンに命中したようで、両肩から鈎爪の足が外れた。
「ひいいっ」
何とも情けない声が出た俺は、真っ逆さまに落ちていくのをもがいてもがいて、何かを掴んだ。
それは俺と同様自然落下する熊五郎の腕であった。
「ひいいいい……っ、だ、ダメだ! 落ちる!!」
自然と俺と熊五郎は抱き合いながら、そのまま森の木々の間に落ちていき、枯れ葉の絨毯が敷かれた地面が近づき、もうダメだと目を瞑った。
少しの衝撃はあったが、即死だったのか体に痛みはない。
ただ思ったのは、あの世というのは、こんなに獣臭い所なのかということ。
獣臭さとほんのりと暖かいものが肌に触れ、俺は目を開くとそこには熊五郎のごつい顔が。
「パパ、お帰りです!」
声のする方に顔を向けると、そこには俺と熊五郎の下で両手で支えるアリステリアの姿があった。
全てを悟った俺は次から次へと流れ落ちる涙を拭うことなく、アリステリアを今まで以上に力強く抱き締めた。
俺の太ももに抱きついて離れようとしない幼い我が子アリステリアを親バカ全開の笑みで抱き締めてやると、キャーとはしゃぐ声を上げ、まるで、この時期に咲く桜草のようなあどけない笑顔を振り撒いて此方を見上げてくる。
彼女の母親と同じ橙色の肩まで伸ばした髪が木漏れ日に反射してキラキラと輝き、それと同じくらいに俺と同じ黒真珠のような瞳を輝かせていた。
無垢で純粋な瞳に応えるべく、俺は彼女の頭に載っていた麦わら帽子を取り、手の平で撫でてやる。
「パパもアリスのこと大好きだよ」
俺に向けられた笑顔は一瞬パーっと輝きを増すと、次第に桃色の唇をもぞもぞと動かし始めて笑みを曇らせる。
この仕草を見せる時は、嬉しいけど我慢している──そんな感じだ。
照れ臭くなり頬を赤く染めて俺の体に顔を埋めて隠すと、彼女の抱き締める腕の力が増していく。
俺の額からは、じんわりとねっとりした汗が滲む。
既に厚手の服の背中は冷や汗でびっしょりと濡れていた。
「そ、そろそろ離してくれるかな、アリス」
彼女の腕が絡む俺の太ももは、鬱血するかと思うくらいに締め付けられ、既に痺れなど通りすぎて、感覚を失いつつあった。
耐えるのも親の役目と言っても限界はある。
アリステリアは、俺から離れると薄手のピンクの花柄のワンピースをヒラヒラとさせて気まずいのか、ハニカミながら笑顔を返した。
「お手伝いは、もういいから遊んで来なさい」
俺がそう言うとアリステリアは両手を挙げて元気よく「はい、です!」と飛び跳ねる。
「熊五郎の所に行って来るです」
彼女はくるりと回り、ワンピースのスカートがふわりと舞うと、そのままの勢いで森の奥へと消えていった。
幼い娘を一人で森に行かせるのは危険なように思えるだろうが、俺は特に心配していない。
ここの動物は全てアリステリアの友達だ。
生まれた時から人とあまり関わりを持つことのなかったアリステリアは、不思議と動物と意思の疎通が出来るようになっていた。
森には異形の動物、魔物と呼ばれるものもいる。しかし、現在はその数を減らしている。
アリステリアを見送った森から空高く舞い上がる一つの物体が見えた。アリステリアの仕業であろうことは、俺にはすぐにわかった。
「まだアリスに襲う魔物が残っていたのか」
この世界の幼女は無敵だ。
アリステリアの祖父、つまりアリステリアの母親の父である親父さんから、彼女の母親が幼かった時には同様に何が相手でも無双するほど強かったと散々聞かされてきた。
そう。俺、タツロウは、元々この世界とは違う世界からやって来た……らしい。
らしいというのは、森の中で倒れていた時に、親父さんに助けられたから。
親父さんからは『転生者』とも『迷い子』とも呼ぶと教えてくれた。
俺が親父さんに拾われた時、タツロウという自分の名前といくつかの単語程度しか記憶に残っていなかった。
だからか、その単語の背景など意味もわからないものが多い。
例えば『転生』と聞いて関連付いて思い出したのが『ラノベ』という単語。
全く意味が分からない。
その後、木こりをしていた親父さんの手伝いをしながら、アリステリアの母親と一緒になる。その後生まれたのがアリステリアだった。
アリステリアは無敵だった。
彼女の母親は彼女が生まれてすぐに行方が分からなくなる。その直後、親父さんが亡くなり、俺とアリステリアはたった二人で親父さんの残してくれた丸太の家に住まい、跡を継いで木こりとなった。
それでもアリステリアは腐ることなく、すくすくと成長し、今年七歳となる。
母親のことは彼女には死んだ事にしている。しかし、本当は荷物をまとめて居なくなったので、ここでの生活が嫌になったのであろう。死んだ事にしたのは、万一アリステリアが再会してもショックを受けない為だ。
母親は街で暮らしたがっていたから、恐らく新しい男でも出来たのだろうと俺は捜索することもなく、諦めた。
当然ショックだったがアリステリアを連れていかれずにすんだのは幸いとも言えた。
可愛い娘アリステリアと二人で貧しくも楽しい日々を過ごす。
親として、彼女をいつまでも山奥に閉じ込めておく訳にもいかず、学校のことも考え始めた平穏な日々に、突如終わりを告げる日が来るとは、この時俺は考えもしなかった。
そんなある日、いつものように娘アリステリアが親友を連れてきた。
名前は熊五郎。
友達の羆の名前である。羆なのかは正確には分からないのだが。
命名は、俺。
名付けた時、アリステリアは喜んでいたが熊五郎は不満そうであった。
突然「お友達ですー」と熊五郎に跨がり姿を現したアリステリアを見て、俺は何故か『金太郎』と言う言葉を思い出してしまった。
無性に赤い菱形の前掛けを作りたくなる。
木こりなので鉞はあるしな。
灰色の毛並みに立てば俺よりも高い背丈を持つ熊五郎に、初めは「娘に危険が!」等と思いもしたが、意外と大人しく従順で、よくアリステリアとぶつかり稽古をしては、空高く吹き飛ばされている。
俺の言葉は通じないが意思の疎通は出来ているのか、たまに娘の目が離れた時に俺の頭をガシガシと噛ったりするくらいには慣れていた。
「あー、またパパの頭食べてるですー」
時折力加減を間違えたのか俺は頭から血を流すことはあったが娘の魔法で治してもらう。
この世界にはアーツと呼ばれる魔法があった。魔法には二種類あり、誰でも扱える基礎魔法と上級魔法。
俺も親父さんに基礎魔法を教わり、そして娘には俺が教えた。
「バルスです」
アリステリアが熊五郎を片手で持ち上げ、俺から引き離すと、傷口に手をかざし白い光のオーラが傷を包む。何かを滅ぼしそうな魔法だが、大概の打撲や裂傷程度ならすぐに治る。
だが、娘は魔法も規格外であった。俺の扱うものと違い、その威力は傷口を塞ぐだけに留まらず、俺の黒髪の成長まで促す。
「デヘヘヘヘ、またやっちゃったです」
申し訳なさそうに下を向き、ポリポリと頭を掻きながら、伸びた黒髪で俺の目の前に髪の毛のカーテンが出来たのを見て、アリステリアは照れていた。
「ありがとう、アリス」
俺は手元にあった薪割り用の鉈で前髪を斬りながら礼を言う。
「デヘヘ……」
照れ臭く笑みを浮かべたアリステリアの頭に手を乗せて力一杯なでてやった。
「飯にするか!」
ふと、空を見ると日は暮れ始め、アリステリアの髪と同じ橙色へと変わり始めていた。
丸太の家の中に入ると台所では茶色の液体が入った寸胴がグツグツと煮えていた。
茶色の液体の中ではじゃがいもや人参がコトコトと音をたてながら踊り、俺は鼻歌混じりで寸胴をかき回す。
今日のご飯は俺特製のカレーだ。
とは言っても俺の世界にあったものと似た材料で作られているので、随分と甘口ではあるが。
匂いは然程変わらず、部屋にカレーのいい匂いが漂う。
準備をしていると、ようやくアリステリアと熊五郎が家の中に入ってくる。
麦わら帽子の紐を首にかけ、森で作ってきたのであろう白い野花の冠をアリステリアは載せていた。
「お、お姫様みたいだなアリス。それじゃあ、お姫様、手を洗って来てください。今日はカレーですよ」
「やったー! です」
家の裏口を通り、アリステリアが裏庭の井戸に向かうと、俺は何事もなかったかのように、アリステリアかま勢い余って壊した扉を玄関横に立てかけた。
親父さんが自分で建てたというこの丸太で出来た家も、随分と壊れやすくなったものだ。今度、一度修繕しなくてはと壊れた扉を見ながら考えていた。
「パパぁ! 手ぇ洗って来たですー!」
呼ばれて我に返って振り返ると、椅子の上には既にアリステリアが座っており、ちょうど花冠をテーブルの上に乗せる所であった。
「自分で作ったのかい?」
「うん、です」
アリステリアに人間の友達はいない。そうなるとこの花冠はアリステリアが独学で作ったのだろう。子供の感性にはいつも驚かされてばかりだ。
「上手に出来たね」
褒めてやると「でへへ……」と照れ臭そうに笑いながら椅子から降りると、花冠を持って近づいて来る。
「パパ、座ってです」
言われた通りにその場で腰を曲げて座るとアリステリアは少し背伸びをしながら、俺の頭に花冠を載せた。
「パパにあげるです!」
優しい子に育ってくれた。俺は「ありがとう」と礼を言うとお返しに力一杯抱き締めてあげた。
食事を終え一服していると、俺は外に出しっぱなしだった鉈や鉞を片付けるのを忘れていた事を思い出す。
「アリス、食器片付けてくれるか?」
「ハイ、です!」
元気よく返事をしてテーブルの上の食器を片付け始め、その食器を熊五郎の背中に置いて一人と一頭で台所へと向かった。
俺も一服し終えて重い腰を持ち上げるとそのまま家を出た。
「ん?」
その時、頭上から風切り音と羽の羽ばたく音が聴こえて来て見上げると俺の目の前に怪鳥と呼べる魔物が姿を現したのだ。
怪鳥はカナリア色の尖った嘴からは赤い舌を出して言い放つ。
「タツロウだな? 俺様の名はカルヴァン! 青の魔王の命によりお前を連れてくるように言われている」
赤、黄、緑、紫と彩り豊かな羽毛で身体を包み、背中に生えた漆黒の羽のカルヴァンに唖然となった俺は、背中の羽がピクリと動くのを見て我に返る。
咄嗟に振り返り家の中にいたアリステリアに向かって叫ぶ。
「アリス! 逃げなさい!!」
叫ぶと同時に大きな鈎爪の足が俺の両肩を掴んだ。
「パパぁ!!」
アリステリアの声に反応するように俺の身体は宙へと浮き上がる。
「パパぁ、パパぁーっ!!」
アリステリアの悲痛な叫び声が耳にこびりついて離れない。
小さくなっていく我が家から出てきたアリステリアと熊五郎に向かって俺は声が枯れるほど叫んだ。
「熊五郎ーーっ! アリスを……アリスを頼むーっ!!」
熊五郎に言葉は通じないが、それでも幼い我が子を一人にする訳にはいかない。
俺はボロボロと大粒の涙を溢しながら、俺が居なくなった後のアリステリアを想うと胸が張り裂けそうになる。
もっと料理を教えておくべきだった……。
せめて麓の村に頼れる知り合いを作っておくべきだった……。
もっと、もっと、抱き締めてあげるべきだった……。
深い後悔と自責の念で胸が潰れそうだ。
「アリス……」
締め付けられる胸を掴み、捻り出した消え入りそうな声で名前を呼ぶ。
「熊五郎……なんで……」
大きな体を丸めボールのような格好の熊五郎がつぶらな瞳に大粒の涙を蓄え、物凄い速度で飛んできたのだ。
俺に向かって急速に接近してきた熊五郎は、俺の頭上のカルヴァンに命中したようで、両肩から鈎爪の足が外れた。
「ひいいっ」
何とも情けない声が出た俺は、真っ逆さまに落ちていくのをもがいてもがいて、何かを掴んだ。
それは俺と同様自然落下する熊五郎の腕であった。
「ひいいいい……っ、だ、ダメだ! 落ちる!!」
自然と俺と熊五郎は抱き合いながら、そのまま森の木々の間に落ちていき、枯れ葉の絨毯が敷かれた地面が近づき、もうダメだと目を瞑った。
少しの衝撃はあったが、即死だったのか体に痛みはない。
ただ思ったのは、あの世というのは、こんなに獣臭い所なのかということ。
獣臭さとほんのりと暖かいものが肌に触れ、俺は目を開くとそこには熊五郎のごつい顔が。
「パパ、お帰りです!」
声のする方に顔を向けると、そこには俺と熊五郎の下で両手で支えるアリステリアの姿があった。
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しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
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