この世界の幼女は最強ですか?~いいえ、それはあなたの娘だけです~

怪ジーン

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第一章 最強の娘? いえいえ、娘が最強です

まおう? ぶっコローすです

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 娘アリステリアの機転のお陰で俺は命を取り留めた。
ボールのように投げられた熊五郎は少し不憫であったが、無事だった今、とても感謝している。

 俺を拐ったカルヴァンという魔物は、俺達と違い真っ逆さまに落ちたようだが、かなり頑丈なようで一命を取り留めたようだが、現在気を失っている。

「パパと!」

 ガスッ!

「アリスちゃんを!!」

 ドゴッ!

「引き離すとはいい度胸です!!」

 ボコッ! ズガッ!

 初めて見せるアリステリアの怒り露にした姿に、俺と熊五郎はガクガクブルブルと震えて互いに抱き合い、生きた心地がしない。

 俺の身長より体半分くらい上回る巨体のカルヴァンの太い首もとに座ったアリステリアは、ただ淡々とその小さな拳二つで殴り続けており、固そうなカナリア色のくちばしは割れて破片がそこらに飛び散り、気味の悪い緑色の血を垂れ流す。

 落下の衝撃でピクリとも抵抗出来ないカルヴァンは一度目覚めたが娘の容赦ない攻撃に再び気を失う。

 俺は娘の今の現状に少しばかり危機感を覚えた。

 思うところは俺にもあるが、いくら魔物とはいえ、このままでは死んでしまう。
果たして可愛い娘に、やらせていいものだろうか。刹那的に考えを巡らした俺は、震える足腰に喝を入れてアリステリアを抱き締めて止めさせることにした。

「止めろ、アリス! そこまででいい!!」

 アリステリアの顔を覗くと、そこにいつもの無邪気さはなく、返り血を浴びた顔を見て、ゾクリと背中に寒気が走り、俺は直感的に止めて正解だと感じた。

「パパ……」

 アリステリアを降ろし、俺は大の字になりのびているカルヴァンを見下ろす。あまりに突然、拐われたものだから正直まだ混乱はしている。このカルヴァンという魔物からは聞きたいことが山ほどあった。

 何故俺を拐おうとしたのか。

 青の魔王とは何なのか。

 そもそも麓の村でも俺を知る者は数少ない。それなのにどうして俺がタツロウだと分かったのか。

「熊五郎、すまないが手伝ってくれ」

 俺の言葉に反応して熊五郎がやって来る。お互い一緒に怖い目に遭ったからか、気持ちや言葉が通じ合うようになったのか。

 一度家に縄を取りに帰ったあと、熊五郎に手伝ってもらいながらカルヴァンを縄で大木にくくりつける。
少し頼りないが、無いよりはマシだろう。

 怒りが収まらないアリステリアは、頬を膨らませて唇を尖らせて不満そうだ。
落ち着かせるように俺はアリステリアの頭を撫でてやると、尖らせた唇をもぞもぞと動かす。

 嬉しいなら素直になればいいのに。

「おい、起きろ」

 気を失いぐったりとしたカルヴァンの両肩を揺さぶる。それでも起きないので、閉じられた瞼を強引に開いて乾燥させてやる。

 暫くすると少し痙攣を起こして目が覚めたカルヴァンは娘の姿を見るなり、くくりつけた大木を薙ぎ倒さんと、予想通り暴れ始める。

「うるさいです!」
「は、ハイィッ!!」

 アリステリアの一声はカルヴァンにとって、最大の恐怖のようで瞬く間に大人しくなる。

「色々質問したいが話せるか?」

 嘴をアリステリアに割られ喋りにくそうではあるが、カルヴァンは何度も頷いてみせた。
多分、俺の背後からアリステリアが睨みを利かしているのだろう。

「どうして、俺を拐おうとした?」
「し、知らない! 俺様は只、青の魔王様に頼まれただけであって!」

 必死に取り繕う姿に、俺がアリステリアに目をやると怯えた顔で本当に焦り出す。

「では、質問を変えよう。魔王ってのは何だ?」

 カルヴァンは俺の質問に鳩が豆鉄砲を食らったかのように丸い目を、さらに丸くする。

「魔王様は魔王様だ。この世界の均衡を保つ四人の魔王の内の一人、青の魔王様。それ以上でもそれ以下でもない」
「つまりお前は、その青の魔王の部下で、ただ、命令されて俺を拐おうとした。それだけということか?」
「そ、そうだ」

 要領を得ない回答にこれ以上質問は無駄だろう。カルヴァンこいつの中で、魔王とは命令を遂行する為の当たり前の存在であり、そこに何の疑問も抱いていないようだ。

 魔王──前世における記憶では、悪の親玉というイメージだが、あくまで創造の産物だったように思う。
この世界に魔王が居るなど初めて知る。
親父さんからも聞いたことはないし、対となる勇者とかも居るのだろうか。

「うーー、まおう、ぶっコローすです!」

 突然アリステリアの怒りが爆発する。いや、カルヴァンが来てから溜め込んだ怒りを爆発させたと言った方が正しいのかもしれない。しかし、ぶっコロすなど穏やかではないし、何より随分と汚ならしい言葉遣いだ。

 アリステリアの友達は、森に住む動物達。会話も殆んど俺とするだけであり、すぐに誰の影響か俺にはピンときた。

 自然と視線は熊五郎に向いていた。

 目が合うと俺の意図を読み取ったのか、気まずそうに視線を逸らす。実に分かりやすい。

「アリス、駄目だよ。そんなことを言っては」
「でもでも、パパ。まおうはわるいやつです! アリスちゃんが倒すです!!」
「ふふ……魔王様の事だ。俺様の失敗を知れば第二、第三の刺客が送り込まれるだろうよ」
「何なんだ、その執念は。一体俺が何をしたんだ」

 考えられるのは、俺が所謂『転生者』とか『迷い子』という位だ。

 しかし、それだけだ。特別何かを持っているわけじゃあない。

 アリステリアはやる気満々といった感じで、拳を繰り出して熊五郎相手に張り切っている。
拳が前に突き出される度に、風圧で熊五郎の顔が歪む。
このままだと本当に一人でも行きかねない。

 突拍子のない行動はある意味子供の特権ではあるが、流石に一人で行かせる訳にはいかない。

 何より、今回の事でつくづくアリステリアと別れる事が辛いものだと思いしった。

 せめて一人立ち出来るまでは。

「仕方ないか……いずれは街に降りるつもりだったし。アリス、パパも一緒に行こう!」
「ハイです! パパ、熊五郎も一緒に行くって言ってるです」

 娘に遊ばれたり、突然投げ飛ばされたりしているが、彼も彼なりに愛情をもって娘と接してくれて、心配しているのだろう。俺は熊五郎の同行を許してやった。

 重要な事案・・を一つ見逃したまま。

「パパ、これ・・、どうするです?」

 これ呼ばわりされたカルヴァンは、娘に指を差されただけでも「ヒイィ!」と怯える。少し哀れに思うも腐っても魔物だ。

 俺は早速、娘の教育に利用することを思い付いた。

「アリスが決めなさい。ただし、殺してはダメだぞ!」
「う~ん……羽、もぎりますです?」
「ヒイィ! か、勘弁してくれ!! 俺様達、有翼獣は翼が無かったら他の魔物に殺される!」

 必死に嘆願するカルヴァンに、アリステリアは頭を抱え悩み出す。

「むうぅぅ……それじゃ今回は逃がしてあげるです。わるいのはまおうですから」

  少し膨れた顔をして不満そうではあるが、アリステリアはカルヴァンをくくりつけていた縄を力ずくで引きちぎる。

「あ、ありがてぇ! 失敗したから、もう魔王様の元には戻れねえから──」

 すっかりカルヴァンは気を抜いて油断していたのだろう。

「ていっ! です」

 迂闊にアリステリアに四つん這いになりながら近づいた瞬間、拳がカルヴァンの横っ面に叩き込まれる。
くくりつけていた大木に叩きつけられ、再び気を失ってしまった。

「これでゆるすです」

 大木はミシミシと音を立てて傾くが、倒れるほどではない。かなり手を抜いて殴ったのだろう。

 だが、俺の娘は心優しい。

「バルス!」

 回復の魔法アーツをしっかりとかけてやり、割れたカナリア色の嘴も元に戻る。気を失ったままだが、暫くすると目を覚ますだろう。

 そして、きっと驚くことになる。

 赤、黄、緑と彩り豊かな身体に生えた羽毛が一・五倍に増毛された自分の姿に。

 促進されるのは髪の毛だけではないのかと、俺はアリステリアと熊五郎を連れて帰宅しようとすると、背後で物音が聴こえて振り返る。

「……御愁傷様」

 哀れ、カルヴァンは背中の漆黒の羽以外の羽毛が全て抜け落ちており、全身がまさに鳥肌となっていた。

 目が覚めて自分の姿を見たら、また気を失うのだろうなと、少しばかり溜飲が下がるのであった。
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