この世界の幼女は最強ですか?~いいえ、それはあなたの娘だけです~

怪ジーン

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第一章 最強の娘? いえいえ、娘が最強です

事案ですか? 

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 俺達は今日中にも出ていく事を決めた。カルヴァンが言うようにいつまでも此処にいたら次の刺客が来るかもしれない。
居場所を誤魔化すためには、此処を離れるのは出来る限り早い方がいいだろう。

 元々、常日頃から俺はアリステリアを連れて街へと出る考えではあった。

 理由は単純にアリステリアの学校の件である。

 勉強もそうだが同じ年頃の友達も作れたらいいなと考えていた。アリステリアは魔王を倒しに行くと張り切っているようだが、子供の事だ。すぐに他に興味が移るだろう。

 学校で楽しく学び友達と遊ぶ。些細ではあるが娘の幸せを願わずにいられない。今回の俺の誘拐で更に痛感する事となった。

 以前までは、学校や友達の事はずっと前から考えていたが、俺はバッタリとアリステリアの母親と出くわすのではないかと、怖くて踏み出せずにいた。

「これもいい機会なのかもな」

 アリステリアも嬉しいのか鼻歌を口ずさみながら、ピンク色の小さなリュックにぎゅうぎゅうと、自分の荷物を詰め込んでいた。

 一方で俺は大きなリュック二つ分に、着替えや食糧、夜営用に毛布や調理器具を詰めて、一つは熊五郎の胴体にくくりつけ、残りを俺が背負った。

「準備出来たか?」
「はいです!」

 娘の背負われた小さな手作りのピンク色のリュック。殆んど荷物が入らない中、リュックの入り口からヒョッコリと顔を出しているのは、縫い目が表に出てしまっている奇妙な動物のぬいぐるみ。
ぐったりと首だけ出して項垂れている様は、まるで生首のよう。

 この誰の目に見ても下手くそな作りのぬいぐるみは、母親の居ない淋しさを紛らわせるようにと俺が手作りしたものだ。

 あまりにも下手な為、アリステリアはこれを猫のぬいぐるみだと思っているが、実に惜しい。これは大熊猫、つまりパンダである。

 ただ俺自身もパンダの記憶が曖昧で黒地に白だったか白地に黒だったか忘れていたので、多分前者だと思い、作成した。

 こんな不細工なぬいぐるみでもアリステリアにとっては大切らしく、未だ夜はこれが傍に無いと眠れないようだ。

「アリス、このまま首だけ出ていたら不気味……じゃなくて可哀想だから布で隠してやろうな」

 俺は真四角の白い布地でパンダの頭を覆い、首もとを紐で縛ってやると、何故だろうか、余計に不気味になった。

「ま、まぁ、これでいいかな」

 笑って誤魔化して俺はアリステリアに麦わら帽子を被せてやると、抱き抱え熊五郎の背中へと乗せた。

 出発間際、俺はカルヴァンの様子を見に行ったが、まだ気を失っており木に凭れかかりグッタリとしている。目が覚めた様子はなく、胸を撫で下ろすと再びアリステリアのもとへ戻って行く。

「また戻ってくる日はあるのだろうか……」

 丸太で出来た家を見上げ、思わず呟く。娘との思い出の多い場所ではあるが、同時にあまり思い出したくないアリステリアの母親と過ごした記憶が甦る。

 ふと、アリステリアの母親がこの家に戻って来た時のことを想像する。

 俺達が居ないのを見て愕然とするのだろうか。

 それとも邪魔が居なくなったとほくそ笑むのか。

 前者であって欲しいと俺は強く願う。

「さあ、行こうか」

 仕事道具の斧を担いだ俺は熊五郎を促すと、並んで暗くなった森の奥へと向かう。何度となく振り返っては、主の居なくなった丸太の家を見て、何故か陰鬱な気分になってしまった。





 長年暮らしていると暗い山道もお手のもので、草木を掻き分けながら俺と熊五郎は緩やかな斜面を選び降りていく。
人によっては不気味に聞こえる闇の奥から響くような動物の鳴き声に、葉っぱが風で揺れる音も、気にならない。

「アリス?」

 声がしないことが気にかかり熊五郎の背を見るとアリステリアはすやすやと寝息を立てて眠っていた。
あのぬいぐるみをリュックごと抱きしめたまま。

「疲れたのか? いや、そうだろうな」

 危うく俺は拐われて離ればなれになってしまうところだった。それはアリステリアにとっては一瞬の事でもストレスだったのだろう。
俺は目を凝らして休める平地を見つけると、そこへ向かおうと熊五郎に指差して知らせる。

 平地部分に到着すると俺は娘を熊五郎の背中から起こさないようにそっと降ろし、シートを引いた上に寝かせると、熊五郎も寄り添うように丸まり傍で目を瞑る。

 少しだけ仮眠を取ったあとは、ほぼ半日かけて山を降りることとなる。そうすれば、麓にある村までは目と鼻の先だ。

 最初の目的地は、サーシャ村。

 村といっても近年発展著しい場所で、最近出来たという立派な壁が取り囲む砦のような村である。
なんでもここ数年で、やたらと野生の魔物が現れるために壁が出来たそうだ。

「パパ……」
「起きたのか? まだ、寝てていいぞ?」

 アリステリアは眠い目を擦りながら、暗がりの奥の一点を指差す。

「どうした?」
「何かいるです。多分魔物です」

 目を凝らしてみるが、俺にはよく分からない。
手元に置いてあった斧を握りしめ立ち上がると、大きな欠伸を一つしたアリステリアがトコトコと先行して歩きだす。

 危ないと声をかける暇もなく、アリステリアは暗闇の中へと消えてしまう。

「熊五郎、起きろ! 行くぞ!!」

 のそりと体を起こした熊五郎を一瞥して俺はアリステリアの向かった方角へ慎重に歩みを進めた。

 ギュワアアアアーッ!!

 奇声が聴こえて来るなり、山間の木々の隙間から黒い点が明後日の方角の空の彼方へと飛んで行くのが見えた。

「アリス!!」

 急ぎ走り出した俺を、きょとんとした目をした娘が出迎えた。

「大丈夫なのか?」
「大丈夫なのです。アリスちゃんにかかれば簡単なのです」

 小さな手を叩き、手についた土の汚れを落とす娘を俺は抱き寄せた。この世界の幼女が強いのは分かっていても心配なのは心配だ。
無事であった事にホッと胸を撫で下ろす。

 アリステリアが魔物を投げ飛ばすなんてのは日常茶飯事のこと。しかし、ここ最近は野生の魔物自体が山に寄り付かないからか、慣れていてもヒヤリとさせられる。

 魔物が飛んでいった方角の空を眺めると、ちょうどサーシャ村がある方角。目印はなくとも方角くらいは読める。

 俺は、ふと気づいてしまった。

 サーシャ村では近年立派な魔物避けの壁が出来た。それはここ数年、野生の魔物が襲って来るからで、ではその魔物は何処からやってきたのか考える。

 娘によって山を追われた魔物達。

 いやいやいや、ないないないと、考えを否定する。きっと偶然である。きっとそうだと。





 少し休みを挟みながら俺達は山を降りていく。急な斜面に大きな岩がゴロゴロとした通りにくい道では、熊五郎がアリステリアを俺に預けて後ろ向きで下がりながら慎重に器用に降りてくるのを見て、本当に熊なのだろうかと疑念が浮かぶ。

ーーそう言えば、こいつ時々アリスと並んで歯磨きするよな。

 見よう見真似か器用に前足の指に木製の歯ブラシを挟み、牙を磨く姿を見た事がある。
決まって俺の頭を噛んだ日であることに、関連はないと思いたい。

 半日かけて山を降りきった俺達は、サーシャ村を取り囲む壁が見えてくるところまでやって来た。

「パパ、街です!!」

 黒い瞳を爛々と輝かせるアリステリアだったが、サーシャ村は街と呼べる程の規模ではない。
本当に街と呼べる場所へは、このだだっ広い平原の向こうにある。

 俺の最終的な目的地も、サーシャ村とは別の街だ。一度だけ親父さんに連れ添いで行った事があるが、いつの時代に建てられたのか分からない、大きく高い塔が街の中央広場にある変わった街。
そこには、学校も当然あると聞いた。

「他の人と出会うのは楽しみだな、アリス」
「ハイです!」

 サーシャ村に向かって歩き始めた俺達の視界に、検問に並ぶ人達の姿が見えてくる。
若い男女、大きな荷馬車に、大きな犬を二匹従えた身なりの良い男性。
たった数人だが、アリステリアは興奮を抑えきれないといった感じで鼻息が荒い。

 検問と言っても荷物の検査くらいだと安心していたのだが、俺達が近づいていくと急に慌ただしい様子に変化する。

 初め、原因が俺達にあるとは思っておらず、並んでいた人達は蜘蛛の子を散らすように散り散りとなり、門の中から複数の兵士が飛び出して来て、取り囲み始め、そこで漸く俺達が原因なのだと気付いた。

「おい! 止まれ! 何しに来た!」

 槍先を向けて来る兵士の一人が遠巻きから声を荒げて呼び掛けてくる。しばらく来ない内に随分と物騒になったなと感じつつ、俺は「サーシャ村に用がある」とだけ答えた。

「いや、そうじゃない! 問題はその隣にいるひぐまだ!! 熊を連れては村に入れんぞ!」

 その熊の上に幼い子供の姿が見えないのだろうか。恫喝するように怒鳴り声をあげる兵士に苛立ちを覚えつつも、当のアリステリアは素知らぬ顔をしている。

 ただ、こればかりは俺も悪い。

 完全に重要な事案を失念していた。

 熊五郎が見た目、狂暴そうな熊であることを。
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