この世界の幼女は最強ですか?~いいえ、それはあなたの娘だけです~

怪ジーン

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第一章 最強の娘? いえいえ、娘が最強です

最強娘の父が情けなく……

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 朝食を食べ終え、俺達四人はスアレスに礼を言うとスアレスの自宅を出発した。
行き際、スアレスの奥さんが呼び止めて「はい、お弁当」と結構大きめの風呂敷を手渡してくれて、再び礼を言った。

 昨夜言っていた檻つきの馬車は、テレーヌ市に向かう方向の門前に用意してあると言っていたので、先に俺達は村の様子を伺うことにした。

 昨夜のカメ・レオンの襲撃の惨状はかなりのもので、村人総出で建て直しを行っていた。

「ケパプ、食べたかったです」

 落ち込むアリステリアの言うように通り沿いにあったケパプ屋は店主自ら壊れた瓦礫を運んでいた。

「悪いことしたな」
「タツロウのせいじゃないわよ」

 申し訳なくなるもサラに励まされる。

 他の村人に謝ろうかとも思ったが、俺達を見るなり向こうから声をかけてくる。
「気にするな」と。

 どうやらスアレスから事の顛末を聞いており、俺のせいではないというのが村の総意だと言う。

「もう出発するのかい? またね、お嬢ちゃん。またその熊との踊り、見せてね」

 老齢の婦人がそう言ってくれたのは嬉しかった。誰も俺を責める者が居ないのは、ひとえにスアレスの人望なのかもしれない。

 買い物を済ませ、荷物をまとめると俺達は、スアレスの指定したテレーヌ市方向の北の門に向かう。
門前には二頭引きの馬車が。荷台には熊五郎を入れる為の木製の檻がついていた。

 木材を加工して麻紐でくくりつけただけの檻。人はともかく、熊なら簡単に壊せそうで頼りない。

「アリス」

 俺はアリステリアに耳打ちして、熊五郎に中に入ってもらうため伝える。
アリステリアと熊五郎は何やら話し合うと明らかに熊五郎の表情が曇ってしまう。

「ダメか、アリス」
「嫌だって言ってるです」

 そこで俺達は少し作戦を変えるように話し合う事に。

「問題は熊五郎が街に入る間だけでも、安全だと知らしめる必要がある事だな」

 そこで、俺は熊五郎に伝えてくれるようにアリスへとお願いすると、今度は渋々ながら了承してくれたようであった。

 俺達の作戦はまず二手に別れ、住む物件を探しに街へ入る。その間熊五郎を含むもう一方は街の外で待機。物件が決まり次第、そこへ向かう間だけ檻に入ってもらうのだ。

「んじゃ、そいつで決まりだな! 行くぞ!」

 アラキが先頭に立ちその横を熊五郎に跨がったアリステリアが続き、俺とサラは馬車へと乗り込む。

 檻の中が空っぽの馬車を連れて行くという何とも奇妙な格好で、俺達はサーシャ村を後にした。

 そんな俺達の様子を上空から見下ろしている奴の存在など気付かずに……。





 サーシャ村から北へ数日進み、横断する川を迂回して橋を渡り、結構小高い丘を登った先を見下ろした場所にテレーヌ市はある。

 一度行ったが、それはそれは大きな街だ。

 人と物が溢れかえる街が俺の印象。サラが言うには市長はおらず何処ぞの領主直轄の街らしい。
領主の名前を聞いてみたが、話の途中で休憩となり有耶無耶にされていた。

「パパ~、まだです~?」

 出発時点では張り切っていたアリステリアも疲れたのか、丸まった熊五郎に凭れかかり、唇を尖らせる。

「あと三日はこのまま街道沿いを歩くかな」

 たしなめるように、俺はアリステリアの隣に座り頭を撫でてやると、恥ずかしがり俺の膝上に対面で座ると顔を俺の胸に押し付けて隠した。

「しっかしよぉ、このガキ本当に何者なんだろな」
「アラキ。それは開能の儀で何か分かるわよ」

 焚き火を挟んでアラキとサラの会話は俺の耳にも入ってくるが、俺には関係ない。アリステリアがたとえ何者だったとしても、俺は彼女の父親には変わりはないのだから。

 街道沿いの開けた場所で一晩過ごすと、まだ日も高くない内に出発の準備に取りかかる。

「何処かに小川とか無いかな」

 ポツリと呟くと「がうっ」と熊五郎が俺の袖を噛み引っ張ってくる。
熊五郎のなすがままについていくと、街道から少し離れた場所に底が見えるほど透明な川が見つかった。

「おーい、ここで顔が洗える!」

 アリステリアやアラキ達に声をかけ、俺は一足先に小川で顔を洗うことにした。
隣では熊五郎が小川の水を直に飲んでいた。

「うん?」

 小川の水の冷たさに眠気が取れてくると、波立つ水面に映る影が気になった。

ーー鳥?

 初めはそう思ったがその場で旋回するわけでもなく、移動するわけでもなく、ただ、俺の上空に浮かんでいるようであった。

 相当上空におり、俺からは水面に映る点のよう。

 俺は素早く水面から真上へと視線を移すと、その点はスーっと流れて移動していき見えなくなる。

「あん? どうした?」

 俺の行動が不自然だったのだろう、アラキに声をかけられたが「何でもない」と誤魔化した。

 心当たりはあった。

 初めに襲って来たカルヴァンである。

 目が覚めて、懲りずに俺を監視しているのだろう。上空過ぎて此方からは手が出せないのがもどかしい。

「パパ、顔洗ったです~」

 アリステリアに視線を戻すと顔だけでなく袖や襟首までびしょびしょに濡れていた。

「ほら、これで拭きなさい」

 真新しい布を手渡すと俺はアリステリアの着替えを取りに馬車へと向かう。常に上空を警戒したまま。

「何かあったんか?」

 顔も洗い朝食も軽く済ませると、出発して直ぐにアラキが声をかけてきた。
よっぽど俺の動きがおかしかったのだろう、俺はアラキに小川での一件を話した。

「カルヴァン? ああ、前に言ってたタツロウを襲った奴かぁ」
「アリスの事を怖がっているから、直ぐにはないだろうけど警戒しておこうかな、と。居場所が高すぎて手も出せないし」
「あぁん? また襲って来たら俺が丸焼きにしてやんよ!」

 アラキはそう言うと口角を真横に吊り上げ、つり上がった目付きで笑って見せた。
現在、アリステリアの魔法アーツのせいで、カルヴァンの彩色豊かな羽は全て抜け落ちており鳥肌が露になっている。

 そのカルヴァンがアラキにタレを塗られ、本当に丸焼きされているのを想像すると不謹慎だが笑ってしまった。

「パパ、何かおかしいですか?」

 花柄のワンピースから、水色のシャツに短パンに着替えたアリステリアは不思議そうに此方を見ていた。

「何でもないよ」

 と笑みを返してやった。





 それからというものの度々上空にカルヴァンらしき点が現れるようになる。
襲って来る気配はなく、視線を送ると何処かに逃げていく。

 俺達の旅路は順調で、街道を抜け川を迂回して橋を渡る。そして現在、小高い丘を登ろうとしたところで馬車を止めていた。

 複数の低いうなり声。茶褐色の毛並み。四肢の先には鋭い爪に、涎を流す口元からは牙が複数見えた。

 狼の魔物だった。数は優に十頭ほど。群れをなしておりいつでも一気に襲いかかる気配。

「ちっ、ベアウルフかよ!」

 アラキは腰の剣を抜き、眉尻と目尻を最大限までつり上げる。
俺も肩に担いでいた斧を両手で持って構えた。

 グルルルルルッとうなり声をあげながら、目の前で左右に展開して襲って来るベアウルフ達。
それに対して此方はアラキが先陣を切った。

 左右斜め前から襲って来る二頭のベアウルフに対して、アラキは素早く一頭を袈裟斬りにすると、そのまま手首を返して剣を振り上げ、もう一頭を斜め下から斬り上げた。

 見事と感心している暇はない。俺とサラ、そしてアリステリアにも一頭ずつ向かって来ていた。

「ヘキサグラム!」

 カメ・レオンにも使った上級魔法ハイアーツの声が聞こえてくるも、此方も目の前にベアウルフが迫っていた。

「ふんっ!!」

 飛びかかって来たベアウルフに対して俺は斧を真横に振った。

「!!」

 当たるはずだった斧は空振りして俺の態勢が崩れる。飛びかかったベアウルフは俺の目の前で、何ともう一度高く飛び上がったのだ。

 空中での二段ジャンプ。

 態勢を崩し、俺はベアウルフに真上を取られた形になり、絶体絶命であった。

 キャワワワン!

 しかし、俺は襲われることなく、目の前に短剣が突き刺さったベアウルフが転がり回る。

「タツロウ、やれや!」

 短剣を投げ助けてくれたのはアラキであった。
俺はそのまま、地面を転がるベアウルフに向かって斧を振るう。

 ベアウルフは青白い液体を撒き散らして絶命した。

「はぁ……はぁ」

 興奮状態から一気に覚めた俺は荒い息を吐き、サラの方へ視線を向けた。

 サラを襲ったベアウルフは虹色の六角形の壁にしこたま頭を打ち付けたのか、よろよろと覚束ない足取り。

 それを見たサラは素早くベアウルフの背後に回り、のし掛かるように胴体に腕を絡ませて、そのまま一気に持ち上げたかと思うと自分の背後の地面に向けて、ベアウルフの脳天を叩きつけた。

「しゃー! かかってこい、コノヤロー!」

 ぐったりして動かないベアウルフに向かって挑発するサラに、呆気に取られてしまった。

「はっ、アリス!!」

 野良の魔物相手程度ならと必要以上に心配はしていなかったが、それでも娘は娘。

 アリステリアの方に顔を向けた時には、ちょうどアリステリアにのし掛かり、牙を剥き出しにして噛みつこうとするベアウルフが、アリステリアの拳によって顎を真下から打ち抜かれ、ぶっ飛んで行きお空の星になるところであった。

「「「おお~!」」」

 俺とアラキとサラは感嘆しながら飛んで行くベアウルフの行方を見守る。

「ほらほら、まだまだ遊ぶです!」

 熊五郎に跨がり、肩を回すアリステリアが残りのベアウルフにはよっぽど恐ろしかったのだろう。

 くうぅ~ん、と甘えた声になり尻尾をバタバタと激しく振ると、そのまま後退りして蜘蛛の子を散らすように逃げていってしまった。

 取り敢えずアリステリアに何事も無かったことに安堵した俺だったが、唯一俺だけが辛うじて助けられた事がとても情けなくなってしまった。
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