この世界の幼女は最強ですか?~いいえ、それはあなたの娘だけです~

怪ジーン

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第一章 最強の娘? いえいえ、娘が最強です

恐怖、人喰い熊

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 隣の女性の名前はネネカと名乗った。

 年の頃はサラと近いというのもあり、二人はすぐに仲良くなったようで、男を部屋に近づけさせない作戦があると伝え、一度俺の家に戻る。

「ひっ!!」
「あっ」

 カルヴァンの存在をすっかり忘れていた。部屋に通され中に魔物がいたら驚くのも仕方ない。

「すまない、カルヴァン待たせて。それで悪いがまた呼ぶから少し席を外してくれ」
「わかった。俺様は常にお前達の上空にいる。手で合図をくれればいつでも駆けつける」

 そう言うとカルヴァンは庭に出て漆黒の羽を動かして夜空の向こうへと飛んで行ってしまった。

「あの、今のは……」

 詳しく話すには面倒臭いので、俺は作戦を伝えて誤魔化す事にした。

 全員集まったところで俺は作戦を伝えた。

 ネネカはピンときていないようだったが、サラなどは声を大にして笑い、アラキも腹を押さえて笑いを堪えていた。

「熊五郎、呼んでくるです!」

 アリステリアも作戦を理解したようで、作戦の肝となる熊五郎を呼びに庭の馬小屋へと向かった。





 翌日。ネネカとサラとアラキの三人は宿を手配してそこで休む事に。
俺も準備を終えて、アリステリアを寝かしつけると自分の家の中でじっと身を潜める。

 金が無く、宿にも泊まれないだろうネネカの旦那が戻って来るなら早朝だと踏んでいた。

 玄関近くに椅子を置き、少しだけ扉を開いて外の様子を伺いながら、細かく仮眠を取る。

 すると、狙いどおり朝靄の中、此方に向かって来る人影が。キョロキョロとしており辺りを伺い、挙動不審である。

ーーあとは、任せたぞ。熊五郎。

 俺は自分の家の扉を音を立てずにそっと閉めた。

 壁が薄いため耳を澄ませば隣の物音が聞こえてくる。俺が椅子に座り聞き耳を立てていると、ガチャガチャと隣の扉を開く音が聞こえた。

 まだ、外は空が白み始めた頃で、きっと隣の部屋は薄暗いだろう。
しばらくすると、予想通り「ぎゃあーーーーっ!!」と男の悲鳴が聞こえてくる。

 扉を開き慌てた男がバタバタと逃げていくのを見計らって俺は隣の家に勝手に入った。

「ありがとな、熊五郎」

 俺は隣の庭に熊五郎を誘導しながら一繋ぎとなった自分の庭に向かった。

 俺の作戦はこうだ。

 男は必ず戻って来るだろうと睨んだ俺は、熊五郎を隣の庭との境である塀を取り除き、隣の部屋の中で寝るようにアリステリアから指示を出してもらった。
そして、その際に熊五郎の口の周りには、あのケパプと同じ真っ赤なソースを塗りたくり、部屋の中にもぶちまけた。

 もちろんネネカに許可を取って。

 戻って来た男は、部屋の中にのそりと動く熊五郎を見て腰を抜かしただろう。しかも早朝で部屋の中は薄暗い。
 まるで誰かを食べた後のような熊五郎の真っ赤な血のようなソース。辺りにも同じような真っ赤な液体が飛び散っている部屋。

 それは、まるで熊が侵入してきてネネカを食べたかのような場面。

 ネネカもおらず、僅かな金を取りにわざわざもう一度戻って来る事は無いだろう。

 俺は上手くいったと、大きく欠伸をしながら安心して再び集まる昼過ぎまで眠りに寝室へ向かった。





「うー……ん、よく寝た。アリス、おはよう。お腹は空いているかい?」

 俺の隣で既に起きていたアリステリアは、自分のお腹を押さえながら「ペコペコです」と笑顔を見せてきた。

「じゃあ準備して行こうか」
「はいです!」

 元気よく挨拶してベッドから降りたアリステリアは、着替える為に着ていた服を懸命に脱ぎ始めた。

「夕方にでも洗濯するから脱いだやつは庭の井戸の傍にある桶にでも入れておきなさい」
「わかったです」

 下着一枚の姿になったアリステリアは、そのまま脱いだ服を持って庭へと向かった。

 俺も着替えを終えて庭に向かうと、空だったはずの桶の中には脱いだアリステリアの服と、水が張られていた。

「アリスが水を汲んだのか?」

 庭に姿はなく、熊五郎のいる馬小屋へ呼び掛けると、アリステリアがひょっこりと顔を出してコクりと頷いた。

「お、熊五郎にも水を上げたんだな。偉いぞ。よし今日から井戸の水汲みはアリスの仕事だ」

 褒めてやりながら頭を撫でてやると「でへへへ……」と照れ笑う。

 滑車があるとはいえ井戸の水汲みは力仕事だがアリステリアには他愛の無いことなのだろう。
ただ、やはりそこは子供でよく見ると体や下着まで濡れていた。

 俺は布地と着替えを一度取りに部屋に戻り、再び馬小屋に戻るとアリステリアに手渡す。

「アリス、着替えたら出発するよ。それと、熊五郎に留守番をお願いしておいてくれ。さすがに日中、連れ回すわけにはいかんからな」

 コクりと頷いて着替え始めたアリステリアが、再び部屋に戻ろうとした俺を呼び止めた。

「パパ、お花が無いです?」
「お花?」

 一瞬何のことだか分からずにいたが、アリステリアがしきりに自分の頭を触ってなにかを訴えていた。

「ああ、カチューシャか」

 昨日買ったお土産の花冠をモチーフにしたカチューシャ。よほど気にいったのか「お花、お花です」と俺を急かす。

 一度寝室に戻った俺は、ベッドの脇にある小さな木製のキャビネットの上に置かれたカチューシャを見つけた。

ーー普段、服は脱ぎ散らかすのに、大事にしてくれているんだな。

 アリステリアも少しお姉さんになったかな、と娘の成長に俺は内心喜んでいた。





 俺とアリステリアはアラキ達と合流するべくアラキ達が泊まっている宿に向かった。
さすがテレーヌ市。
酔いそうなほどの人の波に、手を繋いだアリステリアが波に飲まれてはぐれそうになる。

「ぱ、パパ。わ、ま、待って!」

 俺とアリステリアの歩幅の違いや、周りの大人達より小さなアリステリアは踏まれてしまいそうで、必死に避けつつもやはり人にぶつかり転びそうになってしまう。

「よいしょ」

 歩きたがってたアリステリアだが、流石に参ったようで俺が抱き抱えてやっても何も言わず、むしろホッとしたようだった。

 俺達が向かったのはテレーヌ市中央にそびえ立つバンクランク聖堂近くの宿。

 円柱状のバンクランク聖堂の一階部分は、かなり年代の木材が使われているが、補修などもきっちり行われている。
二階、三階と階層が上がるに連れて、造りがしっかりしているように見えるのは建築技術の違いによるらしい。
一階部分は数百年も前のもので、未だに建築途中であり、最近七階部分が出来たばかりらしい。

 アリステリアと共にバンクランク聖堂を眺めて見上げていると、後ろから肩を叩かれる。
振り返るとそこにはいつものしかめっ面したアラキがいた。

「手間かけさんじゃねぇ」

 来るのが遅かったみたいで、迎えに来てくれたらしい。礼を言うが、素直じゃないアラキは「けっ!」と悪態を吐き、俺とアリステリアは苦笑いを浮かべた。

 宿に入ると受付カウンターの手前で待っていたネネカが丁寧にお辞儀をしてきた。

「で、成果はどうだった?」

 俺が上手くいった旨を伝えると、サラは「よくやった」と親指を立てて来る。
アラキも「くくっ……」と笑いを堪えていた。

「それじゃご飯にしましょうか」

 俺達はサラに先導されてカウンター横の宿に常設されている食事処へと入って行った。
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