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第四章 レイン自治領の危機と聖霊王
二話 青年、キレる
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物言わぬエッタに対して謝りながら、泣き続けるヴァレッタ。残った子供達もヴァレッタを慰め続けた。
ヴァレッタに対してどう言葉をかけてやれば良いのかわからず、ルスカは側に立ち尽くすのみ。
しかし、事態は待ってくれていない。
「ちょっ! ルスカサマ、あれ見てぇなあ!」
タツロウが燃え盛るレイン自治領を指差して、異変を知らせる。
街並みが微かに見えるこの場所からでも、巨大な犬と、数本の巨大な植物の蔦が街中で暴れているではないか。
「アカツキも到着したようじゃな……」
今までとは大きさが比べ物にはならないが、その蔦がアカツキの持つエイルの蔦だと判断したルスカは、早々に駆け付けたいと思うも、ヴァレッタをこのままにしておくことは出来ない。
だがしかし、ヴァレッタもアカツキという言葉に反応してなのか、涙を拭う。
「すいません、この子を……エッタちゃんを埋葬するのを手伝って貰えませんか?」
回復薬で出血の疲労や体力は回復したものの、隻腕となってしまったヴァレッタ一人では、土を掘ることも一苦労だ。
タツロウとキャシー、そして残された子供達も手伝い、エッタを埋葬し終えた。
「行ってください。それから、アカツキには『私は生きています』とお伝えください」
「行きたいのは山々なんじゃが……」
その気持ちに嘘はないが、自分が行ったところで何が出来るのかと躊躇いもあった。それほど、今のルスカは、ほとんど魔法が使えないと自覚していたのだ。
「それより、何があったのか話して欲しいのじゃ」
今は情報を集めることが自分に出来る最優先の事柄だと、ヴァレッタからの話を聞くのであった。
◇◇◇
「俺達の土地を取り戻す? そいつは、そう言ったんじゃな?」
ヴァレッタは、街から脱出までに至る経緯を事細かに話した。
時間は今より少し遡り、二時間ほど前、孤児院から逃げ出したヴァレッタと子供達。裏路地に逃げ込み、そのまま街を出るつもりでヴァレッタはいた。
子供連れとはいえ、前方への警戒は怠ったつもりはなかったのだが、その男は建物の陰から突如現れたわけでもなく、目の前に突如男が現れたのだ。
男の手には生身の剣が怪しく光、振り上げた時もヴァレッタの体は硬直していた。そして剣は、エッタを抱いていた腕に降り下ろされた。
血飛沫を巻き上げながら、抱いていたエッタごと腕がボトリと落ちる。
声にならない絶叫を上げたヴァレッタ。しかし、それは一瞬で切り落とされた腕の痛みではなく、瞼をピクリとも動かさないエッタに対して。
再び男の凶刃が迫ろうとした、その時。
先生を守ろうと、子供達が飛びかかったのだ。
相手が子供だろうと、容赦一つなく斬っていく男。絶望の中、ヴァレッタは残された手に握られた包丁に気づく。
「うわぁあああああああああっ!!」
無我夢中であった。ヴァレッタは包丁を男の腹に突き立て押し倒すと、躊躇うことなく男をめった刺しにする。
我に返った時には、絶命した男に馬乗りになっているヴァレッタを止めようと生き残った三人の子供の姿と、地面に横たわる動かない子供達が視界に飛び込んで来てヴァレッタは絶叫した。
しかし、残された子供達を思うヴァレッタの判断は早く、辛うじて片腕で抱えられるエッタを抱いて生き残った三人の子供達を連れて街を出ることに成功したのだった。
◇◇◇
ヴァレッタが現場を立ち去ったあと、その場にやって来たのはアカツキ達であった。
見覚えのない男が倒れている側に、見覚えのある少年、少女が倒れている。
傷口は明らかに鋭い刃物で切られたような痕。
倒れている男の手には、一振りの剣が握られ血に染まっていた。
「ひでぇ……」
「これは、あんまりだわ」
流星とハーミーが凄惨な現場に思わず両手で口元を隠す。アカツキも拳を強く握りしめ、肩を小刻みに震わせていた。
「ヴァレッタは居ないようだな。無事だといいが……」
「きっと無事です、無事のはず……ですが、これは……」
目をつぶるアカツキ。その瞼の裏には、きっと、ヴァレッタを先生と慕う子供達の笑顔が、そして子供達に囲まれ幸せそうなヴァレッタの笑顔が思い浮かんでいるのだろう。
アカツキはキレた。
この世界にやって来て、大事な人を失いもした。馬渕の凶行を知った時には、許せないと思った。
子供達の傷口には、一切躊躇ったあとが見受けられず、人はここまで非道になれるのかと、悲しみはやがて怒りに変わっていった。
「流星、ガロン……手を抜かないでいいですからね。うぉおおおおおおおおおおっ!!!!」
今までは、太くても胴と同じ程度であった。しかし、今、アカツキの背中から伸びるエイルの蔦は、太く大木ほど。
それが五本、背中から地面に潜っていく。
どこまでも伸びるその蔦は、レイン自治領のあちこちから出現し、目視で武器を持った者を見つけると女だろうが、容赦なく弾き飛ばしていった。
「あなた達は、とうしてぇっ!! どうして、こうも簡単に人を殺せるのですかぁあああ!!」
武器を持ち、逃げる住民を追いかけている者を見つけると、アカツキは手当たり次第に太い蔦で弾く。
殺しはしない、けれどもこの大火の中、弾き飛ばして気を失った者まで救うつもりはない。
この襲撃者達の事情を知るアカツキの悲痛な叫びが木霊する。
「どうして手を取り合うことが出来ないっ!! うぉおおおおおおおおおおっ!!」
ガロンは、仔犬のような大きさから元へと戻り、背にハーミーを乗せながら同じく逃げ惑う者達以外を踏み潰す。
流星はスキル“擬態”を使って、ガロンと瓜二つになると、逃げ遅れていた住民を背に乗せて避難させるのであった。
アカツキがキレてから、ものの一時間足らずで、レイン自治領を襲った者達の姿はなくなり、燃え盛る炎だけが残されたのであった。
ヴァレッタに対してどう言葉をかけてやれば良いのかわからず、ルスカは側に立ち尽くすのみ。
しかし、事態は待ってくれていない。
「ちょっ! ルスカサマ、あれ見てぇなあ!」
タツロウが燃え盛るレイン自治領を指差して、異変を知らせる。
街並みが微かに見えるこの場所からでも、巨大な犬と、数本の巨大な植物の蔦が街中で暴れているではないか。
「アカツキも到着したようじゃな……」
今までとは大きさが比べ物にはならないが、その蔦がアカツキの持つエイルの蔦だと判断したルスカは、早々に駆け付けたいと思うも、ヴァレッタをこのままにしておくことは出来ない。
だがしかし、ヴァレッタもアカツキという言葉に反応してなのか、涙を拭う。
「すいません、この子を……エッタちゃんを埋葬するのを手伝って貰えませんか?」
回復薬で出血の疲労や体力は回復したものの、隻腕となってしまったヴァレッタ一人では、土を掘ることも一苦労だ。
タツロウとキャシー、そして残された子供達も手伝い、エッタを埋葬し終えた。
「行ってください。それから、アカツキには『私は生きています』とお伝えください」
「行きたいのは山々なんじゃが……」
その気持ちに嘘はないが、自分が行ったところで何が出来るのかと躊躇いもあった。それほど、今のルスカは、ほとんど魔法が使えないと自覚していたのだ。
「それより、何があったのか話して欲しいのじゃ」
今は情報を集めることが自分に出来る最優先の事柄だと、ヴァレッタからの話を聞くのであった。
◇◇◇
「俺達の土地を取り戻す? そいつは、そう言ったんじゃな?」
ヴァレッタは、街から脱出までに至る経緯を事細かに話した。
時間は今より少し遡り、二時間ほど前、孤児院から逃げ出したヴァレッタと子供達。裏路地に逃げ込み、そのまま街を出るつもりでヴァレッタはいた。
子供連れとはいえ、前方への警戒は怠ったつもりはなかったのだが、その男は建物の陰から突如現れたわけでもなく、目の前に突如男が現れたのだ。
男の手には生身の剣が怪しく光、振り上げた時もヴァレッタの体は硬直していた。そして剣は、エッタを抱いていた腕に降り下ろされた。
血飛沫を巻き上げながら、抱いていたエッタごと腕がボトリと落ちる。
声にならない絶叫を上げたヴァレッタ。しかし、それは一瞬で切り落とされた腕の痛みではなく、瞼をピクリとも動かさないエッタに対して。
再び男の凶刃が迫ろうとした、その時。
先生を守ろうと、子供達が飛びかかったのだ。
相手が子供だろうと、容赦一つなく斬っていく男。絶望の中、ヴァレッタは残された手に握られた包丁に気づく。
「うわぁあああああああああっ!!」
無我夢中であった。ヴァレッタは包丁を男の腹に突き立て押し倒すと、躊躇うことなく男をめった刺しにする。
我に返った時には、絶命した男に馬乗りになっているヴァレッタを止めようと生き残った三人の子供の姿と、地面に横たわる動かない子供達が視界に飛び込んで来てヴァレッタは絶叫した。
しかし、残された子供達を思うヴァレッタの判断は早く、辛うじて片腕で抱えられるエッタを抱いて生き残った三人の子供達を連れて街を出ることに成功したのだった。
◇◇◇
ヴァレッタが現場を立ち去ったあと、その場にやって来たのはアカツキ達であった。
見覚えのない男が倒れている側に、見覚えのある少年、少女が倒れている。
傷口は明らかに鋭い刃物で切られたような痕。
倒れている男の手には、一振りの剣が握られ血に染まっていた。
「ひでぇ……」
「これは、あんまりだわ」
流星とハーミーが凄惨な現場に思わず両手で口元を隠す。アカツキも拳を強く握りしめ、肩を小刻みに震わせていた。
「ヴァレッタは居ないようだな。無事だといいが……」
「きっと無事です、無事のはず……ですが、これは……」
目をつぶるアカツキ。その瞼の裏には、きっと、ヴァレッタを先生と慕う子供達の笑顔が、そして子供達に囲まれ幸せそうなヴァレッタの笑顔が思い浮かんでいるのだろう。
アカツキはキレた。
この世界にやって来て、大事な人を失いもした。馬渕の凶行を知った時には、許せないと思った。
子供達の傷口には、一切躊躇ったあとが見受けられず、人はここまで非道になれるのかと、悲しみはやがて怒りに変わっていった。
「流星、ガロン……手を抜かないでいいですからね。うぉおおおおおおおおおおっ!!!!」
今までは、太くても胴と同じ程度であった。しかし、今、アカツキの背中から伸びるエイルの蔦は、太く大木ほど。
それが五本、背中から地面に潜っていく。
どこまでも伸びるその蔦は、レイン自治領のあちこちから出現し、目視で武器を持った者を見つけると女だろうが、容赦なく弾き飛ばしていった。
「あなた達は、とうしてぇっ!! どうして、こうも簡単に人を殺せるのですかぁあああ!!」
武器を持ち、逃げる住民を追いかけている者を見つけると、アカツキは手当たり次第に太い蔦で弾く。
殺しはしない、けれどもこの大火の中、弾き飛ばして気を失った者まで救うつもりはない。
この襲撃者達の事情を知るアカツキの悲痛な叫びが木霊する。
「どうして手を取り合うことが出来ないっ!! うぉおおおおおおおおおおっ!!」
ガロンは、仔犬のような大きさから元へと戻り、背にハーミーを乗せながら同じく逃げ惑う者達以外を踏み潰す。
流星はスキル“擬態”を使って、ガロンと瓜二つになると、逃げ遅れていた住民を背に乗せて避難させるのであった。
アカツキがキレてから、ものの一時間足らずで、レイン自治領を襲った者達の姿はなくなり、燃え盛る炎だけが残されたのであった。
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