傷物令嬢は騎士に夢をみるのを諦めました

みん

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さようなら

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そこからの動きは早かった。

隣の部屋で待機していた3人の近衛騎士が入って来て、ユシール王子とベルフォーネ様とリンデル様とアーロンを連れて、生徒会室から退室して行った。おそらく、そのまま王城─国王陛下の所まで連れて行かれるのだろう。

そして、今、生徒会室に居るのは、王弟殿下とマクウェル様とエレーナと私の4人だけだ。



「お前達は、もう他にシルフィーに訊きたい事や、話しておきたい事は無いか?」

「え?」

「お前達がシルフィーと、こうしてゆっくりと話しができるのは、コレで最後だと─思っておくといい。」

王弟殿下は、表情を変える事なく2人にそう告げた。

「最後…」

「最後とは、どう言う意味ですか?」

マクウェル様は呆然とした顔、反して、エレーナは口調を強めて私を睨みつけた。

「どうもこうも、言葉そのままの意味だが?お前達が、シルフィーと直接会って話しができるのが、今日で最後と言う事だ。俺は、これから先、シルフィーにお前達を会わせる事を許すつもりはない。例え、貴族社会に残れたとしてもな。」

「何を──」
「何故、王弟殿下がそのような事まで?」

マクウェル様が、エレーナに被せるように王弟殿下に、落ち着いた口調で尋ねる。

「まだ公表はしていないが、シルフィーは俺の正式な婚約者だからだ。」

「なっ──有り得ない!何故ですか!?何故、アシュレイの婚約者が…傷物のシルフィーなの!?有り得ない!!アシュレイは私の─────っ」

「黙れ───」

あまりの王弟殿下の殺気に、エレーナもマクウェル様もヒュッと息を呑み固まった。

「二度と俺の名を呼ぶな。次にシルフィーを“傷物”と呼べば、俺はお前を赦さないと言った筈だ。!」

王弟殿下が言うと、どこからか“影”が現れて、叫び抵抗するエレーナを連れて、再び姿を消した。

そうして、ようやく静かになった。

「5分だけだ。」

「──はい。」

王弟殿下は、私の頬をスルリと一撫でしてから部屋から出て行った。









「シルフィー…本当に…申し訳無かった。」

マクウェル様は椅子に座ったまま、頭を自身の膝に擦り付けるように頭を下げた。

「謝罪は受け入れますから、顔を上げて下さい。」

“許す”とは言わない。それも、分かっているのだろう。未だに泣きそうな顔をしている。

「その…確認…なんだけど…。シルフィーにあると言う…傷痕と言うのは……」

「はい。幼い頃、マクウェル様を庇った時にできた傷です。」

「何故────っ」

「“何故、教えてくれなかった?”ですか?それは、私も貴方と同様に忘れていたからです。貴方を庇って受けた矢には、毒が塗られていたんです。その毒のせいで、私は意識を失い魔力暴走を起こしたそうです。発見された時には魔力が枯渇寸前だったそうです。そして、同時にも失ったんです。」

「それじゃあ…シルフィーは…」

「はい。それ迄は私の髪の色もピンクブロンドでした。」

ピンク色の髪は珍しく、元を辿れば大昔にハイネルに降下して来た王女様の色だった。だから、先代のハイネル伯爵である祖父は、ピンク色の髪に拘っているのだ。

「どうして?どうして…思い出した時に私に言ってくれなかったんだ?」

「ソレを貴方に言って、どうなりますか?」

「私のせいで付いた傷なら、私が──っ」

「だからです。自分のせいで傷痕が残ったと。責任を感じて私を選んで欲しく無かったからです。貴方を庇ったのは私が自分で選んだ事なんです。貴方のせいで付いた傷ではないんです。」

「でも───」

「それに、私は貴方に会って話しがしたいと─歩み寄りました。でも、ソレを拒否してエレーナを選んだのはマクウェル様です。貴方は、エレーナを信じて選び、私を“傷物”だとハッキリと言ったんです。その時に、僅かに残っていた貴方への想いも…全て砕けて散りました。」

「それは…あの時は、エレーナが私の恩人だと思っていたからで…」

ーこの人は…こんな人だったのかー

いや、こんな人で良かった。「ふふっ」と、思わず笑いが込み上げた。それを、マクウェル様は良い意味で捉えたようで、表情が少し緩んだ。

「貴方がそんな人で良かった。」

「それじゃあ──」

更にパッと明るい顔になるマクウェル様。

「これで、心置きなく貴方を忘れる事ができます。」

「え?」

「自分の都合だけでコロコロと気持ちが変えられる人だなんて、婚約どころか友達にすらなりたいとは思えません。寧ろ、貴方に淡い恋心を抱いていた自分を殴ってやりたいぐらいだわ。ありがとう。そして…さようなら。」

呆然としているマクウェル様は無視して、椅子から立ち上がると、タイミング良く王弟殿下が部屋に入って来た。

「話は済んだようだな?」

「はい。王弟殿下、ありがとうございました。」

「うん。スッキリした顔だな。も、連れて行け。」

そう言うと、また“影”が現れて、マクウェル様を連れて姿を消した。




「泣きたいなら、また俺の胸を貸してあげるけど?」

「泣きません。」

「そうか…。」

王弟殿下は残念そうに囁いた後、私をソッと抱き寄せた。















こうして、ようやく、本当の意味で─




私の淡い初恋が、終わりを告げた─────








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