傷物令嬢は騎士に夢をみるのを諦めました

みん

文字の大きさ
55 / 57

余話ーマクウェル&ユシールー

しおりを挟む
*マクウェル*


「残りの1年はこのまま学園に通わせるが、卒業したら、養子縁組を解消して国に帰る。」

「叔父上、お待ち下さい!今回の事は、エレーナの仕業だったんでしょう?マクウェルは騙されただけで…。それに、今回の事は公になる事は無いと───」

「お前は、本気でそんな事を言っているのか?」

ここはルーラント公爵邸の執務室。
そこで今、レオグルと、その甥である現ルーラント公爵とがマクウェルの処遇についての話をしている。

「今回のこの処遇は、マクウェルが王族の血を継いでいるからだ。この国と我が国の関係を考慮されただけだ。だが、私は…マクウェルをこのまま許す事はできん。シルフィーが受けた怪我は…幼い頃マクウェルを庇ったからだ。そのシルフィーに、マクウェルは…何をした?何を言った?“知らなかった”?そうではない、マクウェルは“知ろうとしなかった”んだ。そんな奴に公爵が務まるとは思わん。それに…お前が欲しがっている王族の血を持っているとしても…この国の王族には…睨まれているんだぞ?」

「………です…が……。」

「諦めろ。1年後、私はマクウェルを連れて帰る。そして、元の籍に戻す事もしない。」


















そして、1年後。

マクウェルは、ルーラント公爵との養子縁組を解消し、その日のうちにレオグルと共に隣国へと帰って行った。






「マクウェル、お前には平民として生きていってもらう。直ぐにとは言わない。今日から1年、平民として生きていけるように力をつけろ。住む家は用意しておく。良いな?1年後──ここからは出て行ってもらう。」

「………分かりました。」

祖父は勿論の事、父も怒っているようで、私とは目も合わせてくれなかった。母にいたっては、椅子に座って泣いていた。





それからの1年は、兎に角手に職をつけようと、自分なりに色々な職種のバイトなどをしたが、なかなかうまくはいかなかった。そんな状態のままに1年が過ぎてしまい、半年は暮らせる程のお金だけを渡され、私は王都から少し離れた町に用意された家へと向かう事になった。

それからは、更に必死だった。お金がないと生きていけない。ならば、体力だけは自信があった為、色々な力作業の仕事を請け負った。毎日ヘトヘトになって家へと帰っても、そこには誰も居ない。

「どうして…こうなってしまったんだろう……いや…」

そう言って、フルフルと首を振る。

エレーナのせい?それも違う。コレは、自業自得なんだ。自分が何もしなかったからだ。
私を守ってくれた女の子を、私は傷付けてしまったんだ。

「シルフィー……本当に…すまなかった……」

もう二度と会う事はないだろう。
あの時、シルフィーを信じていたら…どうなっていたんだろうか?

「シルフィー……君が…好きだった……」

ポロッ─と涙が流れた事には気付かないふりをして、私はそのまま眠りに就いた。



















*ユシール*



「私、貴方が王子と言っても、容赦はしませんからね?」

ここは王城内にある、王族専用の庭園にあるガゼボ。そこで、婚約者となったアリーシャ=ハリアンと、初めての顔合わせの為のお茶をしている。

その婚約者が、私の目の前でニッコリと微笑む。

「我がハリアン領は、国境の境目─辺境地にある為、のほほんと暮らして行くような所ではございませんの。王子であれば問題無いと思いますが、武の方も必要となります。男女関係なく。例え、貴方が王子であろうとも、有事の際には領主の夫として、動いていただきます。」

「分かっている。」

「なら、良かったですわ。それと、もう一つ…。私、背中に“傷痕”がありますの。」

「え?」

ー“傷痕”がある─などと…未婚の女性が自ら言うとは…どう言うつもりなんだ?ー

「ふふっ。王族…王都に住む貴族の方々にしたら、ご令嬢が“傷痕”などと…と、お思いでしょうね?ですが、我々辺境地に住む者にとっては、戦い、生き残った証なのです。この国を守った証なのです。見下されたり憐れんだりされるモノではありませんの。それでも、貴方が嫌悪されると言うならば、私はソレを受け入れますわ。あぁ、“白い結婚”と言う意味ですわ。世継ぎなどは、優秀な子を養子として迎え入れれば良いだけですから。」

「そんな…見下すなどは……。」

手をギュッと握り締める。

「ふふっ。無理…なさらずとも結構ですわ。学園での事は…国王陛下から聞いておりますから。それを聞いた上で、私はこの婚約を受け入れましたから。もともと、私は結婚などとは考えておりませんでしたからね。ただ、国王陛下に打診され、を結んだ─だけですから。」

ーなるほど。が、私への罰かー

「辺境地では、情報一つで勝つか負けるか、生きるか死ぬかが決まります。ただ一方だけを信じて、自らは何もしない─そんなマヌケは、辺境地には不要ですから……それが王子であろうとも─です。私からは言えるのは、コレだけですわ。」

そしてまた、私の婚約者はニッコリと笑った後、辺境地へと帰って行った。

















「アリーシャ様と、お会いしまして?」

ガゼボから部屋に戻る途中で、ベルフォーネ嬢に声を掛けられた。

「あぁ。」

「辺境地は大変な所と聞いております。どうか、お身体に気を付けて……傷一つで…他人ひとの見る目は…簡単に変わりますから……。では、ご機嫌よう第二王子。」

ベルフォーネ嬢はニッコリ微笑み、誰もが見惚れる様な綺麗なカーテシーをした後、王城を後にした。


「最後迄……名前では呼んでもらえなかったな…。」









それから1年後、ユシール第二王子はひっそりとハリアン辺境地へと送り出された。





















しおりを挟む
感想 50

あなたにおすすめの小説

前世の記憶しかない元侯爵令嬢は、訳あり大公殿下のお気に入り。(注:期間限定)

miy
恋愛
(※長編なため、少しネタバレを含みます) ある日目覚めたら、そこは見たことも聞いたこともない…異国でした。 ここは、どうやら転生後の人生。 私は大貴族の令嬢レティシア17歳…らしいのですが…全く記憶にございません。 有り難いことに言葉は理解できるし、読み書きも問題なし。 でも、見知らぬ世界で貴族生活?いやいや…私は平凡な日本人のようですよ?…無理です。 “前世の記憶”として目覚めた私は、現世の“レティシアの身体”で…静かな庶民生活を始める。 そんな私の前に、一人の貴族男性が現れた。 ちょっと?訳ありな彼が、私を…自分の『唯一の女性』であると誤解してしまったことから、庶民生活が一変してしまう。 高い身分の彼に関わってしまった私は、元いた国を飛び出して魔法の国で暮らすことになるのです。 大公殿下、大魔術師、聖女や神獣…等など…いろんな人との出会いを経て『レティシア』が自分らしく生きていく。 という、少々…長いお話です。 鈍感なレティシアが、大公殿下からの熱い眼差しに気付くのはいつなのでしょうか…? ※安定のご都合主義、独自の世界観です。お許し下さい。 ※ストーリーの進度は遅めかと思われます。 ※現在、不定期にて公開中です。よろしくお願い致します。 公開予定日を最新話に記載しておりますが、長期休載の場合はこちらでもお知らせをさせて頂きます。 ※ド素人の書いた3作目です。まだまだ優しい目で見て頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。 ※初公開から2年が過ぎました。少しでも良い作品に、読みやすく…と、時間があれば順次手直し(改稿)をしていく予定でおります。(現在、146話辺りまで手直し作業中) ※章の区切りを変更致しました。(9/22更新)

悪夢から逃れたら前世の夫がおかしい

はなまる
恋愛
ミモザは結婚している。だが夫のライオスには愛人がいてミモザは見向きもされない。それなのに義理母は跡取りを待ち望んでいる。だが息子のライオスはミモザと初夜の一度っきり相手をして後は一切接触して来ない。  義理母はどうにかして跡取りをと考えとんでもないことを思いつく。  それは自分の夫クリスト。ミモザに取ったら義理父を受け入れさせることだった。  こんなの悪夢としか思えない。そんな状況で階段から落ちそうになって前世を思い出す。その時助けてくれた男が前世の夫セルカークだったなんて…  セルカークもとんでもない夫だった。ミモザはとうとうこんな悪夢に立ち向かうことにする。  短編スタートでしたが、思ったより文字数が増えそうです。もうしばらくお付き合い痛手蹴るとすごくうれしいです。最後目でよろしくお願いします。

【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?

はくら(仮名)
恋愛
 ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。 ※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。

【完結】お見合いに現れたのは、昨日一緒に食事をした上司でした

楠結衣
恋愛
王立医務局の調剤師として働くローズ。自分の仕事にやりがいを持っているが、行き遅れになることを家族から心配されて休日はお見合いする日々を過ごしている。 仕事量が多い連休明けは、なぜか上司のレオナルド様と二人きりで仕事をすることを不思議に思ったローズはレオナルドに質問しようとするとはぐらかされてしまう。さらに夕食を一緒にしようと誘われて……。 ◇表紙のイラストは、ありま氷炎さまに描いていただきました♪ ◇全三話予約投稿済みです

悪役令嬢の妹君。〜冤罪で追放された落ちこぼれ令嬢はワケあり少年伯に溺愛される〜

見丘ユタ
恋愛
意地悪な双子の姉に聖女迫害の罪をなすりつけられた伯爵令嬢リーゼロッテは、罰として追放同然の扱いを受け、偏屈な辺境伯ユリウスの家事使用人として過ごすことになる。 ユリウスに仕えた使用人は、十日もたずに次々と辞めさせられるという噂に、家族や婚約者に捨てられ他に行き場のない彼女は戦々恐々とするが……彼女を出迎えたのは自称当主の少年だった。 想像とは全く違う毎日にリーゼロッテは戸惑う。「なんだか大切にされていませんか……?」と。

《完結》当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!

犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。 そして夢をみた。 日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。 その顔を見て目が覚めた。 なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。 数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。 幼少期、最初はツラい状況が続きます。 作者都合のゆるふわご都合設定です。 日曜日以外、1日1話更新目指してます。 エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。 お楽しみ頂けたら幸いです。 *************** 2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます! 100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!! 2024年9月9日  お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます! 200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!! 2025年1月6日  お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております! ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします! 2025年3月17日 お気に入り登録400人達成 驚愕し若干焦っております! こんなにも多くの方に呼んでいただけるとか、本当に感謝感謝でございます。こんなにも長くなった物語でも、ここまで見捨てずに居てくださる皆様、ありがとうございます!! 2025年6月10日 お気に入り登録500人達成 ひょえぇぇ?! なんですと?!完結してからも登録してくださる方が?!ありがとうございます、ありがとうございます!! こんなに多くの方にお読み頂けて幸せでございます。 どうしよう、欲が出て来た? …ショートショートとか書いてみようかな? 2025年7月8日 お気に入り登録600人達成?! うそぉん?! 欲が…欲が…ック!……うん。減った…皆様ごめんなさい、欲は出しちゃいけないらしい… 2025年9月21日 お気に入り登録700人達成?! どうしよう、どうしよう、何をどう感謝してお返ししたら良いのだろう…

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

処理中です...