1 / 15
壱
しおりを挟む
この世界には、様々な人種が存在している。
大陸には、“人族”、“獣人族”、“亜種族”、“エルフ族”が存在する。そして、空には“魔族”、“鳥族”、“竜族”が存在する。お互い国交もあり、特に争いもなく比較的平和であった。
それが、300年程前に一変した。
事の始まりは、人族の新王の戴冠式の日であった。
各種族の新王の戴冠式には、必ず各種族のトップが招かれ、必ず参列する。その日も、各種族のトップが人族の国に一堂に会した。
戴冠式が始まり、新王となる男と、その妻─王妃がその神殿に足を踏み入れた瞬間
「見付けた」
ただ一言、戴冠式に参列していた、当時の竜王が囁いた。
そう。戴冠式に共に並び立っていた王妃が、その竜王の“番”だったのだ。そして、その竜王はその場で、嫌がる王妃を拐ってしまったのだ。
竜族は七つある部族の中でも、最強の力を持つ部族であり、空が飛べる為に国が天空にある。その為、竜王に拐われた王妃を、人族の王達が助ける術は無く─。
「私は、前より、今の竜王は気にくわなかったのだ。」
そう言って、人族に手を差しのべたのが、竜族と同じ天空に住む魔族だった。勿論、人族は一も二も無くその手を取り…竜族対人族と魔族の連合との争いが始まったのである。
力は竜族が圧倒的だが、魔族はそれを魔力や魔術で対抗する。人族は知恵を振り絞り戦略的に攻め込み、一進一退を繰り返していた。
竜族にとっての“番”は、他のどの部族の“番”よりも、重要、且つ、厄介なモノである。
竜族は色んな意味で力が強過ぎる為に、番でなければ子を成し難い。
竜族の平均的な寿命は800歳から900歳と言われ、1000歳まで生きる者も居る長寿ではあるが、力が強い竜程、番が居る居ないで事情が変わって来る。
竜族にとっての番は謂わば、自身の失った半身であり、本能でその半身を求めるのだ。失った状態のままだと、500歳を超える辺りに自身の体に異変が起こる。本能が半身─番─を求めて理性を欠落させていくのだ。理性を欠落させた竜は、狂ったように暴れまくり、破壊の限りを尽くすのだ。それは、その竜本人にも止める事ができない。
番ではなくても、“竜心”を交わした相手が居れば、辛うじてその欠落は抑えられるが、その竜の寿命は短命に終わる。
番が居れば、理性が欠落する事も無く寿命も長くなり、子も成し易い。
それ故に、竜王が人族の王妃を拐って来ても、誰も表だって異論を唱える事ができなかったのだ。
竜王とは、その名の通り、竜族の中で最強の者が立つ。世襲制ではない。「我こそが王だ!」と思う者が竜王に決闘を申し込み、その決闘の勝者をもって竜王とするのだ。
その最強の竜王が暴れれば…誰にも竜王を止める事はできず、この竜族だけの話では済まないだろう─と言う事は安易に予想ができた─できてしまうのだ。
そうしたまま、人間の王妃は、その竜王に無理矢理“竜心”を飲まされ、身体を竜化させられ、その竜王に囚われてしまったのだ。
“竜化”─番と言うのは、必ずしも同種族とは限らない。竜族の場合、成人すると一生に一度だけ“竜心”を創る事ができる。竜の鱗の一部なのだが、その“竜心”を自分の相手や番の体内に取り込ませると、見た目は変わらないものの、身体の構造が竜化し、竜族のような力を得て、長寿にもなるのだ。
竜心を飲まされ、竜化した王妃は毎日のように泣いて暮らしている─と、噂されていたが、竜王自身は嬉しそうにその王妃を囲い、人族と魔族がやって来ると、自らも出陣し、相手を次々に蹴散らしていった。
そんな争いも、100年以上続くと、心が疲弊して来る。力が圧倒的な竜族であっても、失ったモノは少なくない。
ここまでの犠牲を払ってまで、なおも争う必要はあるのか?そんな小さな疑問を持ち始める者がいた。
「一体、この争いはいつまで続くんだろう」
「これで、一体誰が幸せになった?」
「あの日あの時、彼女が陛下の側に居れば…何とか抑えられたかもしれなかったな。」
「…今さら、そんなタラレバの話をしてもしょうがないだろう。」
その“彼女”とはー
その竜王の左腕であり、側近中の側近。力も、竜王並みでは?と言われている。彼女は竜族でも珍しい白竜である。人化すると、白い髪に瞳は青空の様な青。纏う空気も他の竜達とは違っていた。
「私が……陛下を止める。」
100年経っても、治まる気配のない争いの日々。争う意義すら分からなくなった。人族にとっては、既にあの時の王は亡くなっており、いま王として立っているのも、あの王から2人目の王である。その王も、近々譲位すると言う。ならば、このタイミングでこの争いに終止符を打ち、新たな王とは新たな信頼関係を築けたら─と考えたのだ。
その、竜王の左腕である彼女─シャノン─が、竜王不在の朝議の場で発言した。そして、その発言に、誰も反対しなかった。寧ろ─ようやく終わるのか─と、皆一様に安堵の表情を浮かべた。のだが…
「ただ…今回の挑戦は…私が死ぬか、私が陛下を弑するか…になる。」
「何を─!?」
その場が一気にざわつく。
「負けが死を意味する─とは、もう既に廃れた風習です!前回同様、どちらかが─」
「争いを治めたいのだろう?治める為には…王妃を人間に還す必要がある。それは─陛下から番を奪うと言う事だ。意味が…解ったか?」
シャノンの言葉に、今度はその場が一瞬にして静まり返った。
「まぁ─私も負けるつもりはないし…頑張るけど、私が負けたら…後は頼んだよ─アドルファス、ブラント。」
そして、その朝議から3日後、竜王とシャノンの決闘が行われた。
大陸には、“人族”、“獣人族”、“亜種族”、“エルフ族”が存在する。そして、空には“魔族”、“鳥族”、“竜族”が存在する。お互い国交もあり、特に争いもなく比較的平和であった。
それが、300年程前に一変した。
事の始まりは、人族の新王の戴冠式の日であった。
各種族の新王の戴冠式には、必ず各種族のトップが招かれ、必ず参列する。その日も、各種族のトップが人族の国に一堂に会した。
戴冠式が始まり、新王となる男と、その妻─王妃がその神殿に足を踏み入れた瞬間
「見付けた」
ただ一言、戴冠式に参列していた、当時の竜王が囁いた。
そう。戴冠式に共に並び立っていた王妃が、その竜王の“番”だったのだ。そして、その竜王はその場で、嫌がる王妃を拐ってしまったのだ。
竜族は七つある部族の中でも、最強の力を持つ部族であり、空が飛べる為に国が天空にある。その為、竜王に拐われた王妃を、人族の王達が助ける術は無く─。
「私は、前より、今の竜王は気にくわなかったのだ。」
そう言って、人族に手を差しのべたのが、竜族と同じ天空に住む魔族だった。勿論、人族は一も二も無くその手を取り…竜族対人族と魔族の連合との争いが始まったのである。
力は竜族が圧倒的だが、魔族はそれを魔力や魔術で対抗する。人族は知恵を振り絞り戦略的に攻め込み、一進一退を繰り返していた。
竜族にとっての“番”は、他のどの部族の“番”よりも、重要、且つ、厄介なモノである。
竜族は色んな意味で力が強過ぎる為に、番でなければ子を成し難い。
竜族の平均的な寿命は800歳から900歳と言われ、1000歳まで生きる者も居る長寿ではあるが、力が強い竜程、番が居る居ないで事情が変わって来る。
竜族にとっての番は謂わば、自身の失った半身であり、本能でその半身を求めるのだ。失った状態のままだと、500歳を超える辺りに自身の体に異変が起こる。本能が半身─番─を求めて理性を欠落させていくのだ。理性を欠落させた竜は、狂ったように暴れまくり、破壊の限りを尽くすのだ。それは、その竜本人にも止める事ができない。
番ではなくても、“竜心”を交わした相手が居れば、辛うじてその欠落は抑えられるが、その竜の寿命は短命に終わる。
番が居れば、理性が欠落する事も無く寿命も長くなり、子も成し易い。
それ故に、竜王が人族の王妃を拐って来ても、誰も表だって異論を唱える事ができなかったのだ。
竜王とは、その名の通り、竜族の中で最強の者が立つ。世襲制ではない。「我こそが王だ!」と思う者が竜王に決闘を申し込み、その決闘の勝者をもって竜王とするのだ。
その最強の竜王が暴れれば…誰にも竜王を止める事はできず、この竜族だけの話では済まないだろう─と言う事は安易に予想ができた─できてしまうのだ。
そうしたまま、人間の王妃は、その竜王に無理矢理“竜心”を飲まされ、身体を竜化させられ、その竜王に囚われてしまったのだ。
“竜化”─番と言うのは、必ずしも同種族とは限らない。竜族の場合、成人すると一生に一度だけ“竜心”を創る事ができる。竜の鱗の一部なのだが、その“竜心”を自分の相手や番の体内に取り込ませると、見た目は変わらないものの、身体の構造が竜化し、竜族のような力を得て、長寿にもなるのだ。
竜心を飲まされ、竜化した王妃は毎日のように泣いて暮らしている─と、噂されていたが、竜王自身は嬉しそうにその王妃を囲い、人族と魔族がやって来ると、自らも出陣し、相手を次々に蹴散らしていった。
そんな争いも、100年以上続くと、心が疲弊して来る。力が圧倒的な竜族であっても、失ったモノは少なくない。
ここまでの犠牲を払ってまで、なおも争う必要はあるのか?そんな小さな疑問を持ち始める者がいた。
「一体、この争いはいつまで続くんだろう」
「これで、一体誰が幸せになった?」
「あの日あの時、彼女が陛下の側に居れば…何とか抑えられたかもしれなかったな。」
「…今さら、そんなタラレバの話をしてもしょうがないだろう。」
その“彼女”とはー
その竜王の左腕であり、側近中の側近。力も、竜王並みでは?と言われている。彼女は竜族でも珍しい白竜である。人化すると、白い髪に瞳は青空の様な青。纏う空気も他の竜達とは違っていた。
「私が……陛下を止める。」
100年経っても、治まる気配のない争いの日々。争う意義すら分からなくなった。人族にとっては、既にあの時の王は亡くなっており、いま王として立っているのも、あの王から2人目の王である。その王も、近々譲位すると言う。ならば、このタイミングでこの争いに終止符を打ち、新たな王とは新たな信頼関係を築けたら─と考えたのだ。
その、竜王の左腕である彼女─シャノン─が、竜王不在の朝議の場で発言した。そして、その発言に、誰も反対しなかった。寧ろ─ようやく終わるのか─と、皆一様に安堵の表情を浮かべた。のだが…
「ただ…今回の挑戦は…私が死ぬか、私が陛下を弑するか…になる。」
「何を─!?」
その場が一気にざわつく。
「負けが死を意味する─とは、もう既に廃れた風習です!前回同様、どちらかが─」
「争いを治めたいのだろう?治める為には…王妃を人間に還す必要がある。それは─陛下から番を奪うと言う事だ。意味が…解ったか?」
シャノンの言葉に、今度はその場が一瞬にして静まり返った。
「まぁ─私も負けるつもりはないし…頑張るけど、私が負けたら…後は頼んだよ─アドルファス、ブラント。」
そして、その朝議から3日後、竜王とシャノンの決闘が行われた。
65
あなたにおすすめの小説
私、お母様の言うとおりにお見合いをしただけですわ。
いさき遊雨
恋愛
お母様にお見合いの定石?を教わり、初めてのお見合いに臨んだ私にその方は言いました。
「僕には想い合う相手いる!」
初めてのお見合いのお相手には、真実に愛する人がいるそうです。
小説家になろうさまにも登録しています。
英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない
百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。
幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。
※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。
守護神の加護がもらえなかったので追放されたけど、実は寵愛持ちでした。神様が付いて来たけど、私にはどうにも出来ません。どうか皆様お幸せに!
蒼衣翼
恋愛
千璃(センリ)は、古い巫女の家系の娘で、国の守護神と共に生きる運命を言い聞かされて育った。
しかし、本来なら加護を授かるはずの十四の誕生日に、千璃には加護の兆候が現れず、一族から追放されてしまう。
だがそれは、千璃が幼い頃、そうとは知らぬまま、神の寵愛を約束されていたからだった。
国から追放された千璃に、守護神フォスフォラスは求愛し、へスペラスと改名した後に、人化して共に旅立つことに。
一方、守護神の消えた故国は、全ての加護を失い。衰退の一途を辿ることになるのだった。
※カクヨムさまにも投稿しています
前世で私を嫌っていた番の彼が何故か迫って来ます!
ハルン
恋愛
私には前世の記憶がある。
前世では犬の獣人だった私。
私の番は幼馴染の人間だった。自身の番が愛おしくて仕方なかった。しかし、人間の彼には獣人の番への感情が理解出来ず嫌われていた。それでも諦めずに彼に好きだと告げる日々。
そんな時、とある出来事で命を落とした私。
彼に会えなくなるのは悲しいがこれでもう彼に迷惑をかけなくて済む…。そう思いながら私の人生は幕を閉じた……筈だった。
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので
ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。
しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。
異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。
異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。
公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。
『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。
更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。
だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。
ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。
モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて――
奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。
異世界、魔法のある世界です。
色々ゆるゆるです。
捨てられた騎士団長と相思相愛です
京月
恋愛
3年前、当時帝国騎士団で最強の呼び声が上がっていた「帝国の美剣」ことマクトリーラ伯爵家令息サラド・マクトリーラ様に私ルルロ侯爵令嬢ミルネ・ルルロは恋をした。しかし、サラド様には婚約者がおり、私の恋は叶うことは無いと知る。ある日、とある戦場でサラド様は全身を火傷する大怪我を負ってしまった。命に別状はないもののその火傷が残る顔を見て誰もが彼を割け、婚約者は彼を化け物と呼んで人里離れた山で療養と言う名の隔離、そのまま婚約を破棄した。そのチャンスを私は逃さなかった。「サラド様!私と婚約しましょう!!火傷?心配いりません!私回復魔法の博士号を取得してますから!!」
【本編,番外編完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る
金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。
ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの?
お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。
ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。
少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。
どうしてくれるのよ。
ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ!
腹立つわ〜。
舞台は独自の世界です。
ご都合主義です。
緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる