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参
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「陛下!先程の下命は、一体どう言う事ですか!?」
竜王の執務室に、アドルファスがノックもせずに入室し、大声で発言しながら大股で竜王の元へとやって来た。
「どう言う事も何も、言った通りの意味だが?」
竜王の執務室にある、大人5人が余裕で座れる程のロングソファーの肘掛けに凭れ、ソファーに両足を乗せて寛いでいる竜王─シャノン─は、首を傾げながらアドルファスに答えた。
そう。今から200年程前─人族と魔族との争いが始まってから100年程経った頃─当時の竜王の左腕だったシャノンが、争いを終わらせる為に竜王に決闘を申し入れ、多くの竜達が見守る中、シャノンは竜王─オルガレン─を弑し、その座を得たのである。
オルガレンの竜心を飲んで竜化していた番─ヴァネッサ─は、オルガレンの死と共に竜心の効力も切れる為、見た目は何も変わらないが、身体も元の人へと戻り、再び人としての時を刻み始めた。
そして、シャノンは直ぐ様、人族と魔族に和睦を申し入れ、その話し合いの場にヴァネッサも同席させた。人族の王は、最初はシャノンに対しても不信感を持ってはいたが、ヴァネッサ自身がシャノンは信頼できる─と明言した為、渋々ながらも和睦を受け入れた。
魔族の王に至っては─
「前の竜王は気にくわなかったが、私はシャノンの事は、前から気に入っていたからな。我が種族も、この和睦を喜んで受け入れよう。しかし…シャノンが竜王にならなければ、私の妃に─と思っていたのに…残念だ。」
と、魔族の王─ルドルフ─が、シャノンにウィンクしながら軽く和睦を受け入れた。
ールドルフ様は、相変わらず…軽いな…ー
と、シャノンは呆れつつも、和睦を受け入れてくれた事に安堵した。
そうして、100年程続いた争いは終わりを告げた。
ヴァネッサも100年ぶりに、人としての時を刻み始めたが、人間としの100年は長過ぎた。母国に帰って来たところで、かつて愛を誓い合った者は既になく、見知った者も居なくなっていたのだ。
「残りの余生は…迷惑でなければ、シャノン様の元─あの離宮で過ごしたいと思います。」
ヴァネッサは、相変わらず儚げな笑顔だが、今までとは違って晴々とした様に笑った。
そうして、ヴァネッサは、奥の離宮で穏やかに過ごして50年─
「シャノン様、あなたのお蔭で、私が私である事ができました。ありがとうございました。」
と言葉を残し、離宮で静かに息をひきとった。
それからも、竜王シャノンの元、平和な日々が続いていた。毎年、終戦記念日には、人族の国で式典が執り行われた。そして、今年の式典は、丁度終戦後200年となった。その式典は、今までよりも盛大に、且つ、お祭り騒ぎの様に執り行われた。
「平和な世が、あれから200年保たれました。これからも、平和な世が続くように願う限りです。」
そう発言するのは人族の次代の王─現王太子。
人族の寿命と言うのは短く、終戦記念の式典を執り行っている者達ではあるが、あの争いには全く関わっていない─知らない者達になっている。
「本当に…人とは儚い者なのだな─。」
と、魔族の王─ルドルフ─が呟く。
「……」
「ん?どうした?シャノン。顔色が悪いぞ?」
この200年。ルドルフと共に、変わらずに式典に出席していた竜王─シャノン─。今回も、ルドルフと並び立っていたのだが…。
「あ…あぁ…すまない。昨日はちょっと…執務が忙しくて…寝不足なんだ。」
「そうか。なら、今夜は俺の腕の中で…寝るか?寝かせてやれるかどうかは…分からないけど。」
と、ルドルフがシャノンの腰を引き寄せる。
「ルドルフ…寝言は寝てから言うものだ。お前の腕の中なんて、真っ平ごめんだ。」
シャノンは、ペシッとルドルフの手を叩いた。
「くくっ─。本当に、相変わらずシャノンは冷たいね?ま、そこが良いんだけどね?」
ーはぁ─本当にルドルフは軽いよね…早く嫁の1人でも持てば良いのにー
ジトリとした目を向けても、ルドルフは嬉しそうに笑うだけだった。
「シャノン、どうした?」
式典も滞りなく執り行われ、例年通り夜は夜会が開かれた。毎年、シャノンもその夜会に参加し、その日は人族の王城に泊まり、翌日竜国に帰るのだが、今回は、夜会もそこそこに席を外し夜ではあるが、既に帰る支度を終えていた。そこへ、シャノンを探しに来たルドルフがやって来たのだ。
「ルドルフ。すまない。急用ができたから、今から竜国に帰るよ。」
そう言って、人型から竜の姿へと変わろうとした時、ルドルフがグイッとシャノンを引き寄せた。
「ルドルフ?」
「シャノン…何があった?」
「……何がって。何も…無いが?」
お互い無言で向き合う。
「ルドルフ様、竜王陛下を、離して頂きたい。」
そこに割って入った来たのは、シャノンを迎えに来た、シャノンの左腕であるアドルファスだった。
「はいはい。離しますよ。」
と、ルドルフは両手を上げてシャノンから離れた。
「陛下、翔べますか?」
「誰に訊いている?お前こそ…遅れをとるなよ?」
シャノンは一度ルドルフを振り返り
「…ルドルフ。ありがとう。では─な。」
とフワリと微笑むと、そのまま竜の姿へと変化し、白にも銀にも見える鱗を輝かせながら飛び立って行った。
「本当に、いつ見ても綺麗な白竜だな─。」
と、ルドルフは愛おしい者を見るように、シャノンの姿を見送った。
「陛下、お疲れ様です。それで…急な予定変更ですが、何かありましたか?」
竜国の王城に着くと、シャノンの右腕であるブラントが出迎えていた。
「…アドルファス、ブラント、明日の夕刻に、主だった者達を召集してくれ。誰も欠席する事なく、全員必ず出席させろ。良いな?話しはその時にする。」
「「御意」」
「それと。今夜は…明日のその夕刻迄、誰1人として…私の部屋に近付くな。侍女もだ。勿論、護衛もいらない。」
「陛下、それは─」
「…この私に手を出す輩が…居ると言うのか?」
シャノンは、口を出そうとしたアドルファスを一瞥した。一瞬目が合っただけだったが、何故かシャノンの瞳に“怒り”がある事が分かった。
「いえ─。すみません。陛下の…意のままに…。」
「……すまない。2人とも…もう下がってくれ。」
「「御意」」
シャノンは、そのまま2人を振り返る事もなく、自室へと歩いて行った。
そんなシャノンの後ろ姿を、アドルファスは心配そうな顔でみていた。
竜王の執務室に、アドルファスがノックもせずに入室し、大声で発言しながら大股で竜王の元へとやって来た。
「どう言う事も何も、言った通りの意味だが?」
竜王の執務室にある、大人5人が余裕で座れる程のロングソファーの肘掛けに凭れ、ソファーに両足を乗せて寛いでいる竜王─シャノン─は、首を傾げながらアドルファスに答えた。
そう。今から200年程前─人族と魔族との争いが始まってから100年程経った頃─当時の竜王の左腕だったシャノンが、争いを終わらせる為に竜王に決闘を申し入れ、多くの竜達が見守る中、シャノンは竜王─オルガレン─を弑し、その座を得たのである。
オルガレンの竜心を飲んで竜化していた番─ヴァネッサ─は、オルガレンの死と共に竜心の効力も切れる為、見た目は何も変わらないが、身体も元の人へと戻り、再び人としての時を刻み始めた。
そして、シャノンは直ぐ様、人族と魔族に和睦を申し入れ、その話し合いの場にヴァネッサも同席させた。人族の王は、最初はシャノンに対しても不信感を持ってはいたが、ヴァネッサ自身がシャノンは信頼できる─と明言した為、渋々ながらも和睦を受け入れた。
魔族の王に至っては─
「前の竜王は気にくわなかったが、私はシャノンの事は、前から気に入っていたからな。我が種族も、この和睦を喜んで受け入れよう。しかし…シャノンが竜王にならなければ、私の妃に─と思っていたのに…残念だ。」
と、魔族の王─ルドルフ─が、シャノンにウィンクしながら軽く和睦を受け入れた。
ールドルフ様は、相変わらず…軽いな…ー
と、シャノンは呆れつつも、和睦を受け入れてくれた事に安堵した。
そうして、100年程続いた争いは終わりを告げた。
ヴァネッサも100年ぶりに、人としての時を刻み始めたが、人間としの100年は長過ぎた。母国に帰って来たところで、かつて愛を誓い合った者は既になく、見知った者も居なくなっていたのだ。
「残りの余生は…迷惑でなければ、シャノン様の元─あの離宮で過ごしたいと思います。」
ヴァネッサは、相変わらず儚げな笑顔だが、今までとは違って晴々とした様に笑った。
そうして、ヴァネッサは、奥の離宮で穏やかに過ごして50年─
「シャノン様、あなたのお蔭で、私が私である事ができました。ありがとうございました。」
と言葉を残し、離宮で静かに息をひきとった。
それからも、竜王シャノンの元、平和な日々が続いていた。毎年、終戦記念日には、人族の国で式典が執り行われた。そして、今年の式典は、丁度終戦後200年となった。その式典は、今までよりも盛大に、且つ、お祭り騒ぎの様に執り行われた。
「平和な世が、あれから200年保たれました。これからも、平和な世が続くように願う限りです。」
そう発言するのは人族の次代の王─現王太子。
人族の寿命と言うのは短く、終戦記念の式典を執り行っている者達ではあるが、あの争いには全く関わっていない─知らない者達になっている。
「本当に…人とは儚い者なのだな─。」
と、魔族の王─ルドルフ─が呟く。
「……」
「ん?どうした?シャノン。顔色が悪いぞ?」
この200年。ルドルフと共に、変わらずに式典に出席していた竜王─シャノン─。今回も、ルドルフと並び立っていたのだが…。
「あ…あぁ…すまない。昨日はちょっと…執務が忙しくて…寝不足なんだ。」
「そうか。なら、今夜は俺の腕の中で…寝るか?寝かせてやれるかどうかは…分からないけど。」
と、ルドルフがシャノンの腰を引き寄せる。
「ルドルフ…寝言は寝てから言うものだ。お前の腕の中なんて、真っ平ごめんだ。」
シャノンは、ペシッとルドルフの手を叩いた。
「くくっ─。本当に、相変わらずシャノンは冷たいね?ま、そこが良いんだけどね?」
ーはぁ─本当にルドルフは軽いよね…早く嫁の1人でも持てば良いのにー
ジトリとした目を向けても、ルドルフは嬉しそうに笑うだけだった。
「シャノン、どうした?」
式典も滞りなく執り行われ、例年通り夜は夜会が開かれた。毎年、シャノンもその夜会に参加し、その日は人族の王城に泊まり、翌日竜国に帰るのだが、今回は、夜会もそこそこに席を外し夜ではあるが、既に帰る支度を終えていた。そこへ、シャノンを探しに来たルドルフがやって来たのだ。
「ルドルフ。すまない。急用ができたから、今から竜国に帰るよ。」
そう言って、人型から竜の姿へと変わろうとした時、ルドルフがグイッとシャノンを引き寄せた。
「ルドルフ?」
「シャノン…何があった?」
「……何がって。何も…無いが?」
お互い無言で向き合う。
「ルドルフ様、竜王陛下を、離して頂きたい。」
そこに割って入った来たのは、シャノンを迎えに来た、シャノンの左腕であるアドルファスだった。
「はいはい。離しますよ。」
と、ルドルフは両手を上げてシャノンから離れた。
「陛下、翔べますか?」
「誰に訊いている?お前こそ…遅れをとるなよ?」
シャノンは一度ルドルフを振り返り
「…ルドルフ。ありがとう。では─な。」
とフワリと微笑むと、そのまま竜の姿へと変化し、白にも銀にも見える鱗を輝かせながら飛び立って行った。
「本当に、いつ見ても綺麗な白竜だな─。」
と、ルドルフは愛おしい者を見るように、シャノンの姿を見送った。
「陛下、お疲れ様です。それで…急な予定変更ですが、何かありましたか?」
竜国の王城に着くと、シャノンの右腕であるブラントが出迎えていた。
「…アドルファス、ブラント、明日の夕刻に、主だった者達を召集してくれ。誰も欠席する事なく、全員必ず出席させろ。良いな?話しはその時にする。」
「「御意」」
「それと。今夜は…明日のその夕刻迄、誰1人として…私の部屋に近付くな。侍女もだ。勿論、護衛もいらない。」
「陛下、それは─」
「…この私に手を出す輩が…居ると言うのか?」
シャノンは、口を出そうとしたアドルファスを一瞥した。一瞬目が合っただけだったが、何故かシャノンの瞳に“怒り”がある事が分かった。
「いえ─。すみません。陛下の…意のままに…。」
「……すまない。2人とも…もう下がってくれ。」
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