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63 良い報せと悪い報せ
*ジェラール視点*
『おねがい……どこにも……行かないで………』
熱に魘されながら伸ばす手を握ると、少し笑ったような顔をしたセレーナ。
『ずっと…………』
ずっと側に居ると言えば
『……ありが………と……』
と言って、また眠りに就いた。
王城で倒れてから3日。その間、浅い眠りと朦朧状態を繰り返している。ただ、この家に来てからは比較的落ち着いている。体の中で魔力が溢れているのは分かっているが、何故か暴走する事なく体内を流れていて、少しずつその魔力が体に馴染んでいるらしい。アデール曰く、過剰な分の魔力は何かに吸収されているらしい。
『ブライアンのお陰だろう』
『ブライアンのお陰でしょうね』
2人の意見がハモったのは当たり前の事だった。
アデールの見立てでは、後2、3日もすれば熱も下がって落ち着くとの事だったが、後2、3日も苦しむのかと思うとセレーナが心配になり、俺もピサンテから離れられなくなってしまった。『ずっと側に居る』と言ったからでもある。今迄のセレーナなら、『気にしないで下さい』とか言っていただろうけど、今回は『行かないで』と言う言葉が出た。そんなお願いをされれば叶えたくなるし、苦しくて涙を流せば拭いてあげたくなるし、目を開けた時には『独りじゃない』と言って安心させてたげたいと思う。
「これが、娘を思う親心か?」
「───馬鹿なの?」
「ん?ロクサーヌ!?どうしてここに?」
声がして驚いて振り返ると、王城で、今回の対策の話をしている筈のロクサーヌが居た。
「セレーナの様子を見がてらに、良いお報せと悪いお報せを持って来たんです」
「そうか。それで、さっきは何か言ったか?よく聞こえなかったんだ」
「あ、それはお気になさらずに。少し本音がうっかり溢れてしまっただけで、叔父様の事を尊敬している事に変わりはありませんから。ええ、これから自分で気付けば良いだけの事ですから」
「何を……言っているのかは分からないが……取り敢えず、セレーナはまだ寝込んではいるが、特に大きな問題は無いそうだ」
魔力暴走を起こす様子はない。ただただ、体が本来の体に戻る為の準備をしていると言ったところだから、苦しんではいるが、命の危険があると言う事はない。
「可哀想に……早く元気になって欲しいわ。それで…ここで話をしても大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。お茶を用意して来るから、ここに座って待っていてくれ」
「叔父様が?勿論、待たせてもらいます」
それからお茶を淹れて部屋に戻り、そのお茶を飲みながらロクサーヌからの報告を聞いた。
「良いお報せですが、パルティアーズ公爵は、今のところナディーヌを除籍する様子はないようです。まぁ、“したくてもできない”んでしょうけど」
そりゃそうだ。国王陛下の提案を断って事を進めたのだから、それを覆す事はできないだろう。
「アリシア公女は沈黙しています。地下牢への出入りは禁止していませんが、未だに面会の申請はされていません」
偽者だと分かった途端にソレなのか──と呆れるばかりだ。
「それで、悪いお報せは──」
「カイリーが消えたか?」
「どうしてそれを!?」
「このまま黙って終わりを迎える筈はないと思っていたからね」
腹立たしい事に、カイリーは闇魔法の使い手としてはかなりの者だ。あの拘束具だけでは抑え切れないと分かっていた。分かっていたけど、敢えてそのままにした。確実に仕留める為に。
「動いてくれて感謝したいぐらいだ」
逃げる口実もつけさせない。
「王太女の私が言うのもなんですけど、ピサンテ壊滅の犯人だから、法に則って処罰する事が理想ですけど、理想論だけでは納得がいかないところもあるのは確かですね」
ピサンテの住民達は、カイリーの自分勝手な野望の為に殺されたにも関わらず、処罰は未だに決まっていない。
『今すぐ死刑を!』
と望む声が多いが
『それ程の闇魔法の使い手なら、手懐けて置いておけば役に立つ』
と言ってのける貴族が居る。
「あの女は、闇魔法の使い手と言う前に、もう人間では無いのに。そんな女が国の役に立つなんて事は……有り得ない」
それは、兄上も同じ事を言っていた。本当に、兄上もロクサーヌもマトモな思考の持ち主で良かったと思う。アラールは……置いておこう。
「王妃はどうなんだ?」
「お母様は…複雑な感じで、黙って見ていると言ったところです」
義姉上と公女は仲の良い幼馴染みだ。だから、アラールとナディーヌが会う事には、誰も反対する事はなかったし、あのままいけば婚約する可能性は十分にあった。アラールの失言の時は、少し甘過ぎる対応があったようだが、今回の事でしっかりして欲しいところだ。
「まぁ、お母様が甘いのは今に始まったところじゃないし、質の悪い親馬鹿ではないし、お父様と私が居るから大丈夫ですよ」
と言って、ニッコリ微笑む我が姪っ子は、可愛い上に頼もしい存在だ。
『おねがい……どこにも……行かないで………』
熱に魘されながら伸ばす手を握ると、少し笑ったような顔をしたセレーナ。
『ずっと…………』
ずっと側に居ると言えば
『……ありが………と……』
と言って、また眠りに就いた。
王城で倒れてから3日。その間、浅い眠りと朦朧状態を繰り返している。ただ、この家に来てからは比較的落ち着いている。体の中で魔力が溢れているのは分かっているが、何故か暴走する事なく体内を流れていて、少しずつその魔力が体に馴染んでいるらしい。アデール曰く、過剰な分の魔力は何かに吸収されているらしい。
『ブライアンのお陰だろう』
『ブライアンのお陰でしょうね』
2人の意見がハモったのは当たり前の事だった。
アデールの見立てでは、後2、3日もすれば熱も下がって落ち着くとの事だったが、後2、3日も苦しむのかと思うとセレーナが心配になり、俺もピサンテから離れられなくなってしまった。『ずっと側に居る』と言ったからでもある。今迄のセレーナなら、『気にしないで下さい』とか言っていただろうけど、今回は『行かないで』と言う言葉が出た。そんなお願いをされれば叶えたくなるし、苦しくて涙を流せば拭いてあげたくなるし、目を開けた時には『独りじゃない』と言って安心させてたげたいと思う。
「これが、娘を思う親心か?」
「───馬鹿なの?」
「ん?ロクサーヌ!?どうしてここに?」
声がして驚いて振り返ると、王城で、今回の対策の話をしている筈のロクサーヌが居た。
「セレーナの様子を見がてらに、良いお報せと悪いお報せを持って来たんです」
「そうか。それで、さっきは何か言ったか?よく聞こえなかったんだ」
「あ、それはお気になさらずに。少し本音がうっかり溢れてしまっただけで、叔父様の事を尊敬している事に変わりはありませんから。ええ、これから自分で気付けば良いだけの事ですから」
「何を……言っているのかは分からないが……取り敢えず、セレーナはまだ寝込んではいるが、特に大きな問題は無いそうだ」
魔力暴走を起こす様子はない。ただただ、体が本来の体に戻る為の準備をしていると言ったところだから、苦しんではいるが、命の危険があると言う事はない。
「可哀想に……早く元気になって欲しいわ。それで…ここで話をしても大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。お茶を用意して来るから、ここに座って待っていてくれ」
「叔父様が?勿論、待たせてもらいます」
それからお茶を淹れて部屋に戻り、そのお茶を飲みながらロクサーヌからの報告を聞いた。
「良いお報せですが、パルティアーズ公爵は、今のところナディーヌを除籍する様子はないようです。まぁ、“したくてもできない”んでしょうけど」
そりゃそうだ。国王陛下の提案を断って事を進めたのだから、それを覆す事はできないだろう。
「アリシア公女は沈黙しています。地下牢への出入りは禁止していませんが、未だに面会の申請はされていません」
偽者だと分かった途端にソレなのか──と呆れるばかりだ。
「それで、悪いお報せは──」
「カイリーが消えたか?」
「どうしてそれを!?」
「このまま黙って終わりを迎える筈はないと思っていたからね」
腹立たしい事に、カイリーは闇魔法の使い手としてはかなりの者だ。あの拘束具だけでは抑え切れないと分かっていた。分かっていたけど、敢えてそのままにした。確実に仕留める為に。
「動いてくれて感謝したいぐらいだ」
逃げる口実もつけさせない。
「王太女の私が言うのもなんですけど、ピサンテ壊滅の犯人だから、法に則って処罰する事が理想ですけど、理想論だけでは納得がいかないところもあるのは確かですね」
ピサンテの住民達は、カイリーの自分勝手な野望の為に殺されたにも関わらず、処罰は未だに決まっていない。
『今すぐ死刑を!』
と望む声が多いが
『それ程の闇魔法の使い手なら、手懐けて置いておけば役に立つ』
と言ってのける貴族が居る。
「あの女は、闇魔法の使い手と言う前に、もう人間では無いのに。そんな女が国の役に立つなんて事は……有り得ない」
それは、兄上も同じ事を言っていた。本当に、兄上もロクサーヌもマトモな思考の持ち主で良かったと思う。アラールは……置いておこう。
「王妃はどうなんだ?」
「お母様は…複雑な感じで、黙って見ていると言ったところです」
義姉上と公女は仲の良い幼馴染みだ。だから、アラールとナディーヌが会う事には、誰も反対する事はなかったし、あのままいけば婚約する可能性は十分にあった。アラールの失言の時は、少し甘過ぎる対応があったようだが、今回の事でしっかりして欲しいところだ。
「まぁ、お母様が甘いのは今に始まったところじゃないし、質の悪い親馬鹿ではないし、お父様と私が居るから大丈夫ですよ」
と言って、ニッコリ微笑む我が姪っ子は、可愛い上に頼もしい存在だ。
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