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64 失敗
*カイリー視点*
『あんな子は……消えて居なくなれば良いのに』
ジェイミーなら、そう願ってくれると思っていた。
呪詛返しを食らってしまい、もう思うように魔法が使えなくなってしまった。名前だけではなく歳も奪っていたから、今の私は苦痛に耐えながら老いて死を待つだけの老婆でしかない。でも、このまま何もせず静かに死んで行くつもりは無い。これからのジェイミーの為にも、ナディーヌだけは始末しなければいけない。あの子が死ねば、ジェイミーが呪詛返しから解放されて、若さも取り戻せる。それに、ジェイミーが偽者だとバレたところで、パルティアーズ公爵家から除籍される事は無い。あの公爵の性格からして、偽者だと言う事は隠されるだろう。
闇魔法は、他の属性とは違う力がある。特に呪術に関しては群を抜いている。そして、人の悪意ある願いであればある程、その悪意が闇の魔力に力を与えてくれる。その与えられた力と相手の名前を掌握できれば、最大限の力が発揮できる。
だから、私は少なくなった魔力でジェイミーに話し掛け、あの子の今の名前を確認した。
『そうよ。だから………教えてちょうだい。あの子の今の名前を』
『あの子の今の名前は“ティニー”よ。謁見室で何度もそう呼ばれていたから間違い無い』
“小さな女の子”
マトモな名前も付けられていない可哀想な子。消えたところで、誰も悲しむことは無い存在。ジェイミーの為にも、消えてもらうしかない。
『必ず…助けるから……それ迄はおとなしく……しているのよ』と言うと、ジェイミーが少し安心したような声で『分かったわ』と答えた。
ーこれが、最期になるでしょうねー
ジェイミーの願いの力を元にするとは言え、魔力を使い切ってしまうだろう。たとえ私が動かなくても、呪詛返しをくらったこの体では生きていけない。どうせ死ぬなら、最後までもがいてでもアリシアから奪ってやる。
王城からあの子の気配が消えたから、おそらくデミトリアかピサンテにでも帰ったのだろう。
「私を、直ぐに処罰しなかった事を……後悔すれば良いわ……」
着けられていた拘束具を破壊して、私は苦痛に耐えながら転移魔法を展開させた。
「やっぱり……ピサンテだった…わね……ぐ──っ」
魔力を使えば使う程、体の痛みが強くなる。後少しだけ…保てば良い。
それにしても、相変わらずこの家は居心地が悪い。住んでいた時もそうだったけど、常に何かに拒まれているような不快感があった。それが、今は特に強く感じる。
ーそれでも進むのみよー
痛みで乱れた呼吸を整えてから、私は玄関の扉を開けて入った。
あの子を護る為か、いくつかの魔法が掛けられていたけど、何とか潜り抜け、辿り着いたのは以前ジェイミーが使っていた部屋だった。その部屋の扉を開けて入ると、ベッドに横たわっているティニーが居た。それも、苦しそうに荒い呼吸をしている。
「はっ…お前も苦痛に襲われていたのね…」
そして、また独りで耐えているなんて──
「ざまあ無いわね……はははっ……」
今思えば、アリシアの最大の失態は、高熱の幼い子を置いて行った事。側に居るべきだったし、助けを求めるなら、おぶってでも連れて行くべきだった。“大切な宝物”と言いながら自分から捨てたのだ。魔力無しだったから。
「可哀想に……今すぐ…楽にしてあげるわ。だから……ティニー、全てを捨てて楽になりなさい。“ナディーヌ”の名は貰っていくわ。ティニー……おやすみなさい………っ!!」
呪術を掛けると、魔力が一気にごっそりと抜けて、更に体中が痛みに襲われた。
ーどうして……痛みが……増したの!?ー
呪術が成功してナディーヌを取り戻せれば、魔力は失うけど、痛みからは解放される筈だった。
「ど……して……あ゙ぁ゙──っ」
「『どうして痛みが消えないか?』その答えは簡単よ」
「な………」
私の目の前に現れたのは、あの時にも居た、独特の雰囲気を持った女だった。その女の後ろには、グリンデルバルド大公も居る。
「貴方は、呪術に失敗したのよ」
「わたしが……失敗?」
有り得ない。名前を掌握したのだから。
「……まさ……か………」
「ふふっ…その『まさか』よ。この子の名前は“ティニー”じゃないのよ」
「なっ……あぁぁぁぁ─────っ!!」
『あの子の今の名前は“ティニー”よ。謁見室で何度もそう呼ばれていたから間違い無い』
わざと何度も名前を呼んだのだ。私が動くと分かっていて、私に違う名前で呪術を掛けさせて……失敗させる為に。
「2度目の呪詛返しはどんな味なのかしら?」
「く───っ……はぁ………はっ………」
魔力が枯渇しているのが分かる。体中が熱くて痛い。息をする度に肺が熱を帯びている。立つどころか……座っていることすら辛い。
「可哀想に……貴方の身勝手な野望のせいで、ジェイミーもまた、2度目の呪詛返しをくらう羽目になって……」
ージェイミー!ー
「お……ねが………ジェイミーだけ……は………」
「残念ね。貴方に助けを求める権利は無いわ」
『あんな子は……消えて居なくなれば良いのに』
ジェイミーなら、そう願ってくれると思っていた。
呪詛返しを食らってしまい、もう思うように魔法が使えなくなってしまった。名前だけではなく歳も奪っていたから、今の私は苦痛に耐えながら老いて死を待つだけの老婆でしかない。でも、このまま何もせず静かに死んで行くつもりは無い。これからのジェイミーの為にも、ナディーヌだけは始末しなければいけない。あの子が死ねば、ジェイミーが呪詛返しから解放されて、若さも取り戻せる。それに、ジェイミーが偽者だとバレたところで、パルティアーズ公爵家から除籍される事は無い。あの公爵の性格からして、偽者だと言う事は隠されるだろう。
闇魔法は、他の属性とは違う力がある。特に呪術に関しては群を抜いている。そして、人の悪意ある願いであればある程、その悪意が闇の魔力に力を与えてくれる。その与えられた力と相手の名前を掌握できれば、最大限の力が発揮できる。
だから、私は少なくなった魔力でジェイミーに話し掛け、あの子の今の名前を確認した。
『そうよ。だから………教えてちょうだい。あの子の今の名前を』
『あの子の今の名前は“ティニー”よ。謁見室で何度もそう呼ばれていたから間違い無い』
“小さな女の子”
マトモな名前も付けられていない可哀想な子。消えたところで、誰も悲しむことは無い存在。ジェイミーの為にも、消えてもらうしかない。
『必ず…助けるから……それ迄はおとなしく……しているのよ』と言うと、ジェイミーが少し安心したような声で『分かったわ』と答えた。
ーこれが、最期になるでしょうねー
ジェイミーの願いの力を元にするとは言え、魔力を使い切ってしまうだろう。たとえ私が動かなくても、呪詛返しをくらったこの体では生きていけない。どうせ死ぬなら、最後までもがいてでもアリシアから奪ってやる。
王城からあの子の気配が消えたから、おそらくデミトリアかピサンテにでも帰ったのだろう。
「私を、直ぐに処罰しなかった事を……後悔すれば良いわ……」
着けられていた拘束具を破壊して、私は苦痛に耐えながら転移魔法を展開させた。
「やっぱり……ピサンテだった…わね……ぐ──っ」
魔力を使えば使う程、体の痛みが強くなる。後少しだけ…保てば良い。
それにしても、相変わらずこの家は居心地が悪い。住んでいた時もそうだったけど、常に何かに拒まれているような不快感があった。それが、今は特に強く感じる。
ーそれでも進むのみよー
痛みで乱れた呼吸を整えてから、私は玄関の扉を開けて入った。
あの子を護る為か、いくつかの魔法が掛けられていたけど、何とか潜り抜け、辿り着いたのは以前ジェイミーが使っていた部屋だった。その部屋の扉を開けて入ると、ベッドに横たわっているティニーが居た。それも、苦しそうに荒い呼吸をしている。
「はっ…お前も苦痛に襲われていたのね…」
そして、また独りで耐えているなんて──
「ざまあ無いわね……はははっ……」
今思えば、アリシアの最大の失態は、高熱の幼い子を置いて行った事。側に居るべきだったし、助けを求めるなら、おぶってでも連れて行くべきだった。“大切な宝物”と言いながら自分から捨てたのだ。魔力無しだったから。
「可哀想に……今すぐ…楽にしてあげるわ。だから……ティニー、全てを捨てて楽になりなさい。“ナディーヌ”の名は貰っていくわ。ティニー……おやすみなさい………っ!!」
呪術を掛けると、魔力が一気にごっそりと抜けて、更に体中が痛みに襲われた。
ーどうして……痛みが……増したの!?ー
呪術が成功してナディーヌを取り戻せれば、魔力は失うけど、痛みからは解放される筈だった。
「ど……して……あ゙ぁ゙──っ」
「『どうして痛みが消えないか?』その答えは簡単よ」
「な………」
私の目の前に現れたのは、あの時にも居た、独特の雰囲気を持った女だった。その女の後ろには、グリンデルバルド大公も居る。
「貴方は、呪術に失敗したのよ」
「わたしが……失敗?」
有り得ない。名前を掌握したのだから。
「……まさ……か………」
「ふふっ…その『まさか』よ。この子の名前は“ティニー”じゃないのよ」
「なっ……あぁぁぁぁ─────っ!!」
『あの子の今の名前は“ティニー”よ。謁見室で何度もそう呼ばれていたから間違い無い』
わざと何度も名前を呼んだのだ。私が動くと分かっていて、私に違う名前で呪術を掛けさせて……失敗させる為に。
「2度目の呪詛返しはどんな味なのかしら?」
「く───っ……はぁ………はっ………」
魔力が枯渇しているのが分かる。体中が熱くて痛い。息をする度に肺が熱を帯びている。立つどころか……座っていることすら辛い。
「可哀想に……貴方の身勝手な野望のせいで、ジェイミーもまた、2度目の呪詛返しをくらう羽目になって……」
ージェイミー!ー
「お……ねが………ジェイミーだけ……は………」
「残念ね。貴方に助けを求める権利は無いわ」
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