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「エヴィにはまだ伝えていなかったが、リンディ嬢の輿入れと共に、ブルーム伯爵家全員が一緒にゲルダン王国に移住し、かの国では“侯爵”を賜るそうだ」
ゲルダン王国の王弟─ルシエル。
彼には既に恋愛結婚をし、仲睦まじい妻が居る。愛妻家でも有名な王弟である。彼もまた、兄王の意思を継ぎ、魔力無しの保護にも努めている。但し、表向きは─である。
愛妻家と言うのは事実だが。兄の国王とは違い、この王弟は魔力持ち主義者なのだ。魔力無しを毛嫌いし、側に近寄らせる事を嫌い、時には虐げ傷をつける事もある程に。
ただ、それらの行いは、秘密裏に行われ、秘密裏に処理される為、妻や国民は勿論の事、国王の耳に入る事も無い。
王弟ルシエルは、妻の前では決して本性を表す事はない。妻を愛しているからだ。では、何故側室を?
愛する妻は、病気を患ったせいで子ができなくなってしまい、後継ぎが必要だから─と、妻に説得され、渋々側室を受け入れる事にしたのだ。だが、この王弟、愛する妻以外を抱く事はなかった。
本性を隠す事でたまった鬱憤を、その側室達にぶつけるようになったのだ。
“病気になり、療養が必要だ”
と、側室に迎えた者が続けて3人出て来ると、色々と疑う者が出て来た。そこで、この王弟が考えたのが─癒しの力がある光の魔力持ちを側室に迎える事であった。光の魔力持ちが居れば、例え虐げた者に傷が付こうが治せるからだ。
そこで耳にしたのが、少々問題有りの光の魔力持ちのリンディ=ブルームだった。よくよく調べてみれば、アラバスティアの王族も、彼女の扱いに困っていると知り、ルシエルは迷う事なく“リンディを側室に迎えたい”と、親書を送ったのだった。
そう。リンディ=ブルームは、“妻”でも“側室”でも無く、王弟ルシエルの非道な行いをかき消す要員として望まれたのだ。それは謂わば、影の存在のような扱いである。
ただ、そのリンディが、どの程度の力があるのか……。多少の傷なら治せるだろうが、大きい傷はどうだろうか?治せれば問題無いが、もし、治せないとなった場合、リンディがどの様に扱われるようになるのかは──誰にも分からない。
勿論、そんな裏の情報は、ブルーム家には一切知らされる事はない。
更に、王弟ルシエルは、自分の行いが外部に洩れないようにする為に、リンディだけではなく、ブルーム家全員を、ゲルダン王国の侯爵として受け入れたいと打診して来たのである。この話を受けた、アラバスティア国の宰相であるドリューは、裏事情を全て知った上で了承し、ブルーム伯爵にその話を伝え、リンディの輿入れと同時にブルーム家全員でゲルダン王国へ移住する事になったのだ。
「───えっ!?私も………ですか!?」
ーえ!?嫌です!家族揃って移住なんて、どんな拷問ですか!?ー
さぁーっと、一気に血の気が引くように体が冷たくなる。
「いや、さっきも言ったが、エヴィを手放す事はない。エヴィは……エヴィの希望通り、ブルーム伯爵家から籍を抜いてもらう。そして───ローアン侯爵家の養女に迎え入れられる事になった」
「ローアン侯爵……」
ローアン侯爵とは、姉の実の母親のフリージア様の実家だ。
「あぁ、そうそう。実は、ジェマ嬢は書類上はブルーム伯爵家から籍を抜いて、ブレインと婚姻済みで、籍は既にアンカーソン公爵家にあるんだ。正式な発表は、卒業後となるが……」
「────はい????」
ーえ?姉は既に、既婚者でアンカーソンになってて、私がローアン侯爵の養女???ー
「ローアン侯爵とブルーム伯爵からは、既にサインをもらっているから、後は、エヴィがサインをすれば、全てが調う事になっている。エヴィが望むならな」
「私が望むなら………」
「そうだ。本当に、そう望むのであればサインを。もし、心残りがあるのなら───」
「ありません。ブルーム家に心残りなんてありません。あの人達が私にとって、家族だった事は一度もありませんでしたから。ただ………それでもいざブルームを棄てるとなると、少し…寂しいなと思っただけです。うん。棄てられるんじゃなくて、私が棄てるんですよね!?」
私の言葉を肯定してもらいたくて出てしまった言葉に対して、殿下は「その通りだ。エヴィが彼等を棄てるんだ」と、優しく笑ってくれた。
普段は腹黒真っ黒な殿下だけど、こう言う時は、私にとても甘くて優しい。無条件で私を助けてくれたり、受け入れてくれるのだ。
“胡散臭い人半分、優しい人半分”と言ったところだろうか?
「エヴィ?今、失礼な事を考えたりしていないか?」
グッと眉間に皺を寄せて怪訝な顔を向けて来る殿下。
「シテマセンヨ?」
本当に、聡い人である。
「ふっ──まぁ…良いだろう」
そしてまた、ポンポンと優しく頭を叩かれた後、私は目の前にある書類にサインをした。
さようなら、ブルーム─────
ゲルダン王国の王弟─ルシエル。
彼には既に恋愛結婚をし、仲睦まじい妻が居る。愛妻家でも有名な王弟である。彼もまた、兄王の意思を継ぎ、魔力無しの保護にも努めている。但し、表向きは─である。
愛妻家と言うのは事実だが。兄の国王とは違い、この王弟は魔力持ち主義者なのだ。魔力無しを毛嫌いし、側に近寄らせる事を嫌い、時には虐げ傷をつける事もある程に。
ただ、それらの行いは、秘密裏に行われ、秘密裏に処理される為、妻や国民は勿論の事、国王の耳に入る事も無い。
王弟ルシエルは、妻の前では決して本性を表す事はない。妻を愛しているからだ。では、何故側室を?
愛する妻は、病気を患ったせいで子ができなくなってしまい、後継ぎが必要だから─と、妻に説得され、渋々側室を受け入れる事にしたのだ。だが、この王弟、愛する妻以外を抱く事はなかった。
本性を隠す事でたまった鬱憤を、その側室達にぶつけるようになったのだ。
“病気になり、療養が必要だ”
と、側室に迎えた者が続けて3人出て来ると、色々と疑う者が出て来た。そこで、この王弟が考えたのが─癒しの力がある光の魔力持ちを側室に迎える事であった。光の魔力持ちが居れば、例え虐げた者に傷が付こうが治せるからだ。
そこで耳にしたのが、少々問題有りの光の魔力持ちのリンディ=ブルームだった。よくよく調べてみれば、アラバスティアの王族も、彼女の扱いに困っていると知り、ルシエルは迷う事なく“リンディを側室に迎えたい”と、親書を送ったのだった。
そう。リンディ=ブルームは、“妻”でも“側室”でも無く、王弟ルシエルの非道な行いをかき消す要員として望まれたのだ。それは謂わば、影の存在のような扱いである。
ただ、そのリンディが、どの程度の力があるのか……。多少の傷なら治せるだろうが、大きい傷はどうだろうか?治せれば問題無いが、もし、治せないとなった場合、リンディがどの様に扱われるようになるのかは──誰にも分からない。
勿論、そんな裏の情報は、ブルーム家には一切知らされる事はない。
更に、王弟ルシエルは、自分の行いが外部に洩れないようにする為に、リンディだけではなく、ブルーム家全員を、ゲルダン王国の侯爵として受け入れたいと打診して来たのである。この話を受けた、アラバスティア国の宰相であるドリューは、裏事情を全て知った上で了承し、ブルーム伯爵にその話を伝え、リンディの輿入れと同時にブルーム家全員でゲルダン王国へ移住する事になったのだ。
「───えっ!?私も………ですか!?」
ーえ!?嫌です!家族揃って移住なんて、どんな拷問ですか!?ー
さぁーっと、一気に血の気が引くように体が冷たくなる。
「いや、さっきも言ったが、エヴィを手放す事はない。エヴィは……エヴィの希望通り、ブルーム伯爵家から籍を抜いてもらう。そして───ローアン侯爵家の養女に迎え入れられる事になった」
「ローアン侯爵……」
ローアン侯爵とは、姉の実の母親のフリージア様の実家だ。
「あぁ、そうそう。実は、ジェマ嬢は書類上はブルーム伯爵家から籍を抜いて、ブレインと婚姻済みで、籍は既にアンカーソン公爵家にあるんだ。正式な発表は、卒業後となるが……」
「────はい????」
ーえ?姉は既に、既婚者でアンカーソンになってて、私がローアン侯爵の養女???ー
「ローアン侯爵とブルーム伯爵からは、既にサインをもらっているから、後は、エヴィがサインをすれば、全てが調う事になっている。エヴィが望むならな」
「私が望むなら………」
「そうだ。本当に、そう望むのであればサインを。もし、心残りがあるのなら───」
「ありません。ブルーム家に心残りなんてありません。あの人達が私にとって、家族だった事は一度もありませんでしたから。ただ………それでもいざブルームを棄てるとなると、少し…寂しいなと思っただけです。うん。棄てられるんじゃなくて、私が棄てるんですよね!?」
私の言葉を肯定してもらいたくて出てしまった言葉に対して、殿下は「その通りだ。エヴィが彼等を棄てるんだ」と、優しく笑ってくれた。
普段は腹黒真っ黒な殿下だけど、こう言う時は、私にとても甘くて優しい。無条件で私を助けてくれたり、受け入れてくれるのだ。
“胡散臭い人半分、優しい人半分”と言ったところだろうか?
「エヴィ?今、失礼な事を考えたりしていないか?」
グッと眉間に皺を寄せて怪訝な顔を向けて来る殿下。
「シテマセンヨ?」
本当に、聡い人である。
「ふっ──まぁ…良いだろう」
そしてまた、ポンポンと優しく頭を叩かれた後、私は目の前にある書類にサインをした。
さようなら、ブルーム─────
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