21 / 25
21 天然は恐ろしい
正式に補佐官となってからは、本当に忙しい毎日の繰り返しだった。それでも、今迄とは全く違っていて、仕事をやりきった後の達成感は疲れていても心地の良いものだった。
ブレイザー家では、いくら私が努力しても、評価をされるのはアシュトンだけだった。
直接私と関わった領民達から感謝をされた事だけが唯一の救いだった。
それが、ここでは自分がした事は全て自分が評価されるのだから、大変な事でも頑張れる。
ただ、1つ気がかりな事がある。正式に補佐官となってから1ヶ月が経つのに、未だにコペリオン邸でお世話になったままで、引越し先も決まっていない。忙し過ぎて、物件を探す暇がない。
『部屋は余っているし、お互い困った事がないのなら、そんなに急いで探さなくても良いんじゃないかな?』
と、リシューさんに言われて、その言葉に甘えてしまっている。
ヘトヘトになって疲れて帰って来ても、いつでも美味しい料理が用意されているし、入浴後にマッサージをしてくれたりもするから、ついつい物件探しを後回しにしてしまっている。
それでも───
『未だに図々しくコペリオン邸に居るそうよ』
『本当に、自分が迷惑だと思ってないのかしら?』
と、色々噂されているのも知っている。私が居続けると、リシューさんに迷惑がかかるから、そろそろ本気で探さないと──と思っている。
「私が居座って変な噂にでもなったら、婚約者ができるのもできなくなるよね……」
「誰に婚約者ができるんだ?」
「ひ───っ!?リシューさん!?ビッ……急に現れないで下さい!」
リシューさんは気配を消すのが上手い。時々、急に現れたりするから心臓に悪い。
「消しているつもりはないんだ。で?誰に婚約者ができるんだ?」
ご機嫌斜めのリシューさん。
「私じゃないですよ。リシューさんにです」
「私に婚約者は居ないよ。恋人すら居ないのは、マリレーヌさんも知ってるよね?」
「勿論知ってます。でも、これからは分からないですよね?離婚したとは言え、未婚の女性が居座っているとなれば、いざリシューさんに恋人や婚約者ができた時に迷惑になるんじゃないかと思って。だから、そろそろ本格的に家を探さないといけないなと思って」
探せなければ、取り敢えずナルターレルにお世話になるのもあり。
「そういう事なら、気にしなくて良いよ。迷惑だとは思ってないから。寧ろ、マリレーヌさんとは色んな話ができて楽しいと思ってるからね」
仕事中の冷たい感じの雰囲気とは違い、プライベートでは優しい笑顔のリシューさん。公私の分別がキッチリしているなと感心する。
「そう言ってもらえるのは嬉しいけど、そんな事を言うと勘違いするご令嬢もいるから、気を付けた方が良いですよ」
リシューさんは、自分が優良物件だという自覚がない。普通の令嬢なら、この顔で微笑まれながら『楽しい』なんて言われたら、コロッといってしまってもおかしくない。
「マリレーヌさんは、勘違いしないのか?」
「勘違いなんてしませんよ!安心して下さい」
「ふーん………」
安心して欲しくて言ったのに、何故か更に不機嫌な様子のリシューさん。
そりゃあ、この顔で微笑まれたらドキッとするけど、コロッといってしまうほどの純情さはない。
「マリレーヌさんになら、勘違いされても良いんだけどね。ま、とにかく、私の事は気にせずに我が家で過ごしてくれて構わないから」
サラッととんでもない事を言うだけ言って、リシューさんは部屋から出て行った。
ー天然って、恐ろしいー
******
「一人暮らしはやめておいた方がいい」
と、私の一人暮らしに難色を示したのは、伯父だった。
『一人暮らしの家が決まるまで、ナルターレル邸に居させてもらえませんか?』と、相談の手紙を送ってから3日後、返事の手紙ではなく、伯父がコペリオン邸にやって来た。
「どうしてですか?働いているからお金の心配はないし、ノエラも居るし、私自身も家事もできるから、問題無いと思うんですけど……」
「あぁ、違うよ。マリレーヌが駄目だと言っているんじゃないんだ。マリレーヌは、アレッサ……母親から“蝶”の話を聞いた事はある?」
「蝶……ですか?いえ、何も……」
“蝶”と聞いてパッと思いつくのは、あのエメラルドグリーンの蝶だけど、母から何か聞いた記憶はない。
「蝶と言えば、最近ウチの庭園にも珍しい蝶が飛んでいるけど、それと関係が?私が聞いても大丈夫ですか?」
「ええ。リシュー殿なら、他言しないでしょうし、知ってもらっていた方が良いかと……」
今、この部屋に居るのは、伯父とリシューさんとノエラと私の4人だけ。
「マリレーヌは、生まれた時から土の精霊の加護を受けているんだ」
「土の精霊の……加護?私、魔法は使えませんよ?」
魔力があるとも言われた事がない。
「うん。マリレーヌには魔力は無いけど、精霊の加護を受けているから、マリレーヌの居る所では作物の豊穣に恵まれる。心当たりはないかい?」
ー心当たり……ありますー
ブレイザー家では、いくら私が努力しても、評価をされるのはアシュトンだけだった。
直接私と関わった領民達から感謝をされた事だけが唯一の救いだった。
それが、ここでは自分がした事は全て自分が評価されるのだから、大変な事でも頑張れる。
ただ、1つ気がかりな事がある。正式に補佐官となってから1ヶ月が経つのに、未だにコペリオン邸でお世話になったままで、引越し先も決まっていない。忙し過ぎて、物件を探す暇がない。
『部屋は余っているし、お互い困った事がないのなら、そんなに急いで探さなくても良いんじゃないかな?』
と、リシューさんに言われて、その言葉に甘えてしまっている。
ヘトヘトになって疲れて帰って来ても、いつでも美味しい料理が用意されているし、入浴後にマッサージをしてくれたりもするから、ついつい物件探しを後回しにしてしまっている。
それでも───
『未だに図々しくコペリオン邸に居るそうよ』
『本当に、自分が迷惑だと思ってないのかしら?』
と、色々噂されているのも知っている。私が居続けると、リシューさんに迷惑がかかるから、そろそろ本気で探さないと──と思っている。
「私が居座って変な噂にでもなったら、婚約者ができるのもできなくなるよね……」
「誰に婚約者ができるんだ?」
「ひ───っ!?リシューさん!?ビッ……急に現れないで下さい!」
リシューさんは気配を消すのが上手い。時々、急に現れたりするから心臓に悪い。
「消しているつもりはないんだ。で?誰に婚約者ができるんだ?」
ご機嫌斜めのリシューさん。
「私じゃないですよ。リシューさんにです」
「私に婚約者は居ないよ。恋人すら居ないのは、マリレーヌさんも知ってるよね?」
「勿論知ってます。でも、これからは分からないですよね?離婚したとは言え、未婚の女性が居座っているとなれば、いざリシューさんに恋人や婚約者ができた時に迷惑になるんじゃないかと思って。だから、そろそろ本格的に家を探さないといけないなと思って」
探せなければ、取り敢えずナルターレルにお世話になるのもあり。
「そういう事なら、気にしなくて良いよ。迷惑だとは思ってないから。寧ろ、マリレーヌさんとは色んな話ができて楽しいと思ってるからね」
仕事中の冷たい感じの雰囲気とは違い、プライベートでは優しい笑顔のリシューさん。公私の分別がキッチリしているなと感心する。
「そう言ってもらえるのは嬉しいけど、そんな事を言うと勘違いするご令嬢もいるから、気を付けた方が良いですよ」
リシューさんは、自分が優良物件だという自覚がない。普通の令嬢なら、この顔で微笑まれながら『楽しい』なんて言われたら、コロッといってしまってもおかしくない。
「マリレーヌさんは、勘違いしないのか?」
「勘違いなんてしませんよ!安心して下さい」
「ふーん………」
安心して欲しくて言ったのに、何故か更に不機嫌な様子のリシューさん。
そりゃあ、この顔で微笑まれたらドキッとするけど、コロッといってしまうほどの純情さはない。
「マリレーヌさんになら、勘違いされても良いんだけどね。ま、とにかく、私の事は気にせずに我が家で過ごしてくれて構わないから」
サラッととんでもない事を言うだけ言って、リシューさんは部屋から出て行った。
ー天然って、恐ろしいー
******
「一人暮らしはやめておいた方がいい」
と、私の一人暮らしに難色を示したのは、伯父だった。
『一人暮らしの家が決まるまで、ナルターレル邸に居させてもらえませんか?』と、相談の手紙を送ってから3日後、返事の手紙ではなく、伯父がコペリオン邸にやって来た。
「どうしてですか?働いているからお金の心配はないし、ノエラも居るし、私自身も家事もできるから、問題無いと思うんですけど……」
「あぁ、違うよ。マリレーヌが駄目だと言っているんじゃないんだ。マリレーヌは、アレッサ……母親から“蝶”の話を聞いた事はある?」
「蝶……ですか?いえ、何も……」
“蝶”と聞いてパッと思いつくのは、あのエメラルドグリーンの蝶だけど、母から何か聞いた記憶はない。
「蝶と言えば、最近ウチの庭園にも珍しい蝶が飛んでいるけど、それと関係が?私が聞いても大丈夫ですか?」
「ええ。リシュー殿なら、他言しないでしょうし、知ってもらっていた方が良いかと……」
今、この部屋に居るのは、伯父とリシューさんとノエラと私の4人だけ。
「マリレーヌは、生まれた時から土の精霊の加護を受けているんだ」
「土の精霊の……加護?私、魔法は使えませんよ?」
魔力があるとも言われた事がない。
「うん。マリレーヌには魔力は無いけど、精霊の加護を受けているから、マリレーヌの居る所では作物の豊穣に恵まれる。心当たりはないかい?」
ー心当たり……ありますー
あなたにおすすめの小説
愛する人と結婚するだけが愛じゃない
ぜらちん黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。
ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。
ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。
ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。
あなたを守りたい……いまさらそれを言う?
たろ
恋愛
幼い頃に起きた事件がきっかけで実の父親に疎まれて暮らすファナ。
唯一の居場所は学校。
毎日、屋敷から学校まで歩いて通う侯爵令嬢を陰で笑う生徒達。
それでも、冷たい空気の中で過ごす屋敷にいるよりはまだマシだった。
ファナに優しくしてくれる教師のゼバウト先生。
嫌がらせをされてあまりにも制服が汚れるので、毎回洗って着替えを用意しておいてくれる保健室のエリーナ先生。
昼休みと放課後は、図書室で過ごすことが多いので、いつも何かと気にかけてくれる司書のマッカートニーさんと、図書委員の優しい先輩達。
妹のリリアンは、本人に悪気は無いのだけど、嫌なことや自分が怒られそうになると全て姉のファナに押し付ける。
嫌なことがあればメソメソと泣き姉に頼ってばかりだった。
いつも明るく甘えん坊のリリアンは顔もとても可愛らしく屋敷の中心で、使用人たちも父親も甘やかして育てられた。
一方、ファナはいずれ婿を取り侯爵家を継がなければならないため、父親に厳しく躾をされていた。
明るくて元気だったはずのファナの笑顔は、大きくなるにつれ失ってしまっていた。
使用人達もぞんざいな態度を隠そうともしない。ファナはもう諦めていた。
そんななか唯一、婚約者のジェームズだけはファナのことを優先してくれる優しい男の子だった。
そう思っていたのに………
✴︎題名少し変更しました。
婚約解消は君の方から
みなせ
恋愛
私、リオンは“真実の愛”を見つけてしまった。
しかし、私には産まれた時からの婚約者・ミアがいる。
私が愛するカレンに嫌がらせをするミアに、
嫌がらせをやめるよう呼び出したのに……
どうしてこうなったんだろう?
2020.2.17より、カレンの話を始めました。
小説家になろうさんにも掲載しています。
<完結>金貨5000枚で売られた王太子妃
ぜらちん黒糖
恋愛
「愛している。必ず迎えに行くから待っていてくれ」
甘い言葉を信じて、隣国へ「人質」となった王太子妃イザベラ。
旅立ちの前の晩、二人は愛し合い、イザベラのお腹には新しい命が宿った。すぐに夫に知らせた イザベラだったが、夫から届いた返信は、信じられない内容だった。
「それは本当に私の子供なのか?」
その令嬢は、実家との縁を切ってもらいたい
キョウキョウ
恋愛
シャルダン公爵家の令嬢アメリは、学園の卒業記念パーティーの最中にバルトロメ王子から一方的に婚約破棄を宣告される。
妹のアーレラをイジメたと、覚えのない罪を着せられて。
そして、婚約破棄だけでなく公爵家からも追放されてしまう。
だけどそれは、彼女の求めた展開だった。
見切りをつけたのは、私
ねこまんまときみどりのことり
恋愛
婚約者の私マイナリーより、義妹が好きだと言う婚約者ハーディー。陰で私の悪口さえ言う彼には、もう幻滅だ。
婚約者の生家、アルベローニ侯爵家は子爵位と男爵位も保有しているが、伯爵位が継げるならと、ハーディーが家に婿入りする話が進んでいた。
侯爵家は息子の爵位の為に、家(うち)は侯爵家の事業に絡む為にと互いに利がある政略だった。
二転三転しますが、最後はわりと幸せになっています。
(小説家になろうさんとカクヨムさんにも載せています)
三度目の嘘つき
豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」
「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」
なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。