53 / 55
今更
「フェリシティさんは、母親のソフィアさんにそっくりね。」
少し目を潤ませながら、笑顔で私を出迎えてくれたのは、私を養子として受け入れてくれた伯爵夫妻だった。
この伯爵夫妻は、私の母を見付けて保護してくれた人達だった。しかも、母であるソフィアもまた、この夫妻の養子に入り、伯爵令嬢としてエルダイン辺境伯の元へと嫁いだと言う事だった。
「ソフィアさんの時のように、一緒に過ごせる時間は少ないと思うけど、私達の事は本当の親だと思って接してくれると嬉しいわ。まぁ…年齢的には祖父母に近いのだろうけどね?」
と、肩を竦めながら笑う伯爵夫人─お母様。年齢を感じさせない可愛らしい人だ。
この夫妻には、子供が生まれなかったらしい。後継者には、伯爵の弟の次男が選ばれているらしく、今はその次男との引き継ぎをしているとの事だった。
「フェリシティさんをチェスター辺境伯に送り出したら、私達も引退してゆっくりしようと思っているんだ。それ迄は、一緒に思い出作りでもしようか。」
伯爵─お父様が目尻に皺ができる程の笑顔になっている。
なんでも、親戚に居る子供達は男の子ばかりらしく、母が来た時もそうだったらしいが、娘となる私の事が、可愛くて仕方が無いらしい。
リオが領地を離れてから1年半。
「暫くの間は、あまり会えないと思う。」
と言われていた。それは、仕方の無い事だ。例え叔父が領地運営をしてくれていたとは言え、領主であるリオでなければ進まない仕事もあっただろうから。だから、暫く会えないと言われて
ー寂しいかもー
何て思っていても、言えない訳で……。
でも、そんな気持ちも、お父様とお母様のお陰で思った以上に、楽しい日々を送れる事になった。
カルディーナにやって来てから2ヶ月が経った頃、ようやくリオも仕事が落ち着いたようで、久し振りに会える事になり、私がリオの邸に行く事にした。
「フェリが足りない!!」
と、久し振りに会った早々に、両手を広げて距離を詰めて来るリオに
ーあ、コレ、ヤバくない!?ー
と思った瞬間には抱きしめられていた。
私を出迎えてくれている、チェスターの使用人達の目の前で。恥ずかし過ぎて、グイグイとリオを押してはみるけど、やっぱり微動だにしない。チラリと、リオの肩越しに見えてしまった使用人達の……あの微笑ましいモノを見るような目は……見なかった事に……は、できないよね!?
暫くギュウギュウと抱きしめられた後、リオは私の腰に手を回して邸の中へと案内してくれた。
勿論、ここでは、私の目の前で扉が閉ざされる事はなかった。
ーくっつき過ぎて、歩きにくいですけど!?ー
とは、言えない。あまりにもリオが嬉しそうに笑っているから。そんなリオを見て、私も嬉しいな─と、思ってしまっているから。
ーこれが、“好き”って事なんだろうか?ー
そんな事を考えているうちに、サロンに到着。サロンの扉を開けると
「ようやく会えたわね!」
と、女の人が満面の笑顔で迎えてくれた。
その女の人は、リオの叔父様のお嫁さん─叔母様だった。
「小さい頃からずーっと、“フェリが~”とか“フェリを~”って言ってたのよ。もう、貴方がお馬鹿──第一王子の婚約者候補になったって知った時のリオンはドン底に突き落とされたみたいで、見ていておもしろ──可哀想だったわ。」
ー“お馬鹿”やら、“面白かった”は、聞かなかった事にしようー
「まぁ、相手はあのお馬鹿さんだし、そんな事位で諦めるようなら、チェスター辺境伯なんて務まらなかったでしょうけどね。ふふっ。」
ーあぁ、ハッキリ“お馬鹿さん”って、言っちゃいましたねー
何とも……清々しいご夫人である。
「叔母上……」
リオは何とも言えない顔をしている。おそらく、リオもこの叔母様には勝てない─と言ったところだろう。
「ユリア、その辺にしてあげなさい。フェリシティ嬢、すまないね。」
困ったような顔で謝って来たのは、リオの叔父様だ。
「ユリアは、ずっとフェリシティ嬢に会いたいと言っていたから、ちょっと浮かれてるんだよ。でも、本当に連れて帰って来れて良かったな、リオン。」
「叔父上、叔母上も、留守の間ありがとうございました。」
リオがお礼を言って、それから4人で少し話をした後、「まだフェリシティさんと喋りたい!」と言う叔母様を、叔父様が宥めながら「邪魔者は消えるから、後は2人でゆっくりすると良いよ。」と言って部屋から出て行った。
「はぁ──────」
と、リオは大きくて長いため息を吐きながら、またまた抱きしめられた。
「やっと2人になれた。」
「リオ………」
恥ずかしいけど、リオに抱きしめられるとホッとするのも確かだ。
「私も……リオに会いたかった……」
と、素直にリオに身を預けると、リオの体がビクッと反応する。
ーん?ー
不思議に思って、ソロソロとリオを見上げてみると
「──素直過ぎるフェリが悪い」
と、これまたやっぱり少し怒った?顔をした後、噛み付くような───キスをされたのだった。
そんな風に、コルネリアでの生活が嘘のような幸せな日々を送り、リオと私は1年後に結婚した。
結婚して2年後には男の子が生まれ、その2年後に女の子が生まれたが、その子は“サファイアの瞳”は持ってはいなかった。2人とも、父であるリオと同じ、赤い瞳をしている。
「あれ?2人とも寝てる?」
「遊び疲れて、寝てしまったみたい。」
チェスター邸の庭にあるベンチで、兄妹が寄り添って寝ている姿を見ていると、仕事を終えたリオがやって来た。
もう少しだけ、このままにしておこうか─と、リオが私の横に座り、2人で話をする。
「ねぇ、フェリ。フェリは……幸せ?」
と、リオが私の手を握り視線を絡ませる。
「私はとても幸せよ───そんなの、“今更”な質問だわ。」
ふふっ─と笑うと、リオはキョトンとした後
「それなら良かった。」
と、優しく笑って、また、私に触れるだけのキスをした。
❋これにて、本編は完結になります。本日、夜にもう1話投稿してから“完結”とさせていただきます。もう少しだけ、お付き合いいただけると幸いです❋
(* ᵕᴗᵕ)⁾⁾⁾ ꕤ
あなたにおすすめの小説
王太子殿下から婚約破棄されたのは冷たい私のせいですか?
ねーさん
恋愛
公爵令嬢であるアリシアは王太子殿下と婚約してから十年、王太子妃教育に勤しんで来た。
なのに王太子殿下は男爵令嬢とイチャイチャ…諫めるアリシアを悪者扱い。「アリシア様は殿下に冷たい」なんて男爵令嬢に言われ、結果、婚約は破棄。
王太子妃になるため自由な時間もなく頑張って来たのに、私は駒じゃありません!
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。
彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。
真実の愛を見つけた婚約者(殿下)を尊敬申し上げます、婚約破棄致しましょう
さこの
恋愛
「真実の愛を見つけた」
殿下にそう告げられる
「応援いたします」
だって真実の愛ですのよ?
見つける方が奇跡です!
婚約破棄の書類ご用意いたします。
わたくしはお先にサインをしました、殿下こちらにフルネームでお書き下さいね。
さぁ早く!わたくしは真実の愛の前では霞んでしまうような存在…身を引きます!
なぜ婚約破棄後の元婚約者殿が、こんなに美しく写るのか…
私の真実の愛とは誠の愛であったのか…
気の迷いであったのでは…
葛藤するが、すでに時遅し…
新しい人生を貴方と
緑谷めい
恋愛
私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。
突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。
2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。
* 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
お飾り公爵夫人の憂鬱
初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。
私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。
やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。
そう自由……自由になるはずだったのに……
※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です
※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません
※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります
結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた
夏菜しの
恋愛
幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。
彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。
そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。
彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。
いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。
のらりくらりと躱すがもう限界。
いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。
彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。
これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?
エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。