188 / 203
第七章ー隣国ー
挿話ー王妃と王太子ー
しおりを挟む
ー実はハル殿だけが元の世界に還れず、ずっとパルヴァンに居たー
そう聞いた時、私は
ー羨ましいー
ーエディオルだけ…狡いなぁー
と思ってしまった。
私が想いを寄せていたミヤ様には、元の世界にミヤ様が想いを寄せる相手が居て、何の躊躇いもなく元の世界に還ってしまったのだ。私とミヤ様の間には、何も無かったし、スタート地点にさえ立てなかったけど。
1年以上経っても王太子である私に、婚約者がなかなか決まらないのも、私がミヤ様を忘れられずにいるからで─
「本当に、女々しいよなぁ─。」
「そう自覚があるなら、さっさと婚約者を決めて下さい。ベラと私の為にも─」
思わず言葉に出てしまい、それを聞き逃す事無く、イリスにキッチリと釘を刺された。
「いっその事、そのハル殿をお前の婚約者にするか?」
「父上、それだけは止めて下さい!」
冗談でも駄目だ!ハル殿は、パルヴァン三強のお気に入り。その相手として気に入られているのもエディオルだ。それで、ハル殿が私の婚約者なんて事になったら─想像するだけでも恐ろしい!!
「陛下─」
同じ部屋に居た宰相が、軽く父上を窘める。
「─分かっている。ほんの冗談だ。」
「陛下、今のは─それだけは冗談になりません。」
宰相が物分かりの良い、察しの良い、切れ者で良かった─。
“恋に落ちた氷の騎士”
正しくその通りだと思った。エディオルはハル殿を手に入れる為に、外堀を埋めまくっている。本当に、今迄のエディオルからは考えられない程だ。想う相手が側に居ると言う事は、本当に羨ましい限りだ。
そんな事を思っていた─
『それで、ハルは、俺が聖女を召喚した事を知っていたから。召喚できるなら、還れると気付いて…。それで…ハルは─自分で自分の世界に…還ったんだ。』
そう聞いた瞬間、血の気が一気に引いたのが分かった。チラリとエディオルの顔を窺う。そこには、何の感情も表す事の無いエディオルが居た。悲しんでいる事も無く、私達を恨んでいる事も無いような─ただ、そこに居るだけのエディオル。
それは、私の心を抉るのには充分過ぎるものだった。
今回の案が貴族院─老害タヌキから出た時、確かに、2人を犠牲にする事には反対した。
でも─
例え2人の仲が拗れたとしても、どうせ同じ世界、同じ国に居るのだ。後からでもまた元に戻れるのだから、大丈夫だろう。会うのが駄目なら、手紙で想いを伝えれば問題無いだろうし。
今思えば、エディオルに対して妬みがあったのだと思う。
兎に角、それからのエディオルは無感情に淡々としていて、そのままリュウと共に隣国へと旅立った。
「自暴自棄にならないと良いですが─」
と、宰相が難しい顔をしながら囁いた。
結局のところ、ハル殿はまたこの世界に戻って来た。それも─ミヤ様を連れて。ハル殿が戻って来てくれた事は、本当に嬉しかった。これでまた、エディオルの幸せそうに笑う顔が見れるのだと─。
それに、ミヤ様にまた会えた。ミヤ様も、これからこの世界で生きていくと言う。本当に、ハル殿には感謝しか無い──が。
ミヤ様には…更に嫌われてしまったようだ。そりゃそうだ。私はまた、やらかしてしまったのだから。
それでも─
ミヤ様がこの世界に居るのなら、後少しだけ頑張ってみようと思う。今度こそ後悔の無いように、ミヤ様に想いをぶつけてみようと。それで駄目なら、思いっ切りふってもらって、前に進もう。
ーふられる前提ではいかないが!ー
そんな事を思いながら、エディオルの無事なる帰国を祈った。
*****
「──色々と情けない子ね?」
「う゛──っ」
おばあ様無双な会議があった日の夜、母上に呼び出しを喰らった。そして、今回の件について説教を喰らい、私の後悔だらけの気持ちと今の気持ちを素直に口にした。
「自分が何も出来なかった、しなかった事を棚に上げて、エディオルを妬んで─女の子を犠牲にしただなんてねぇ─。情けない以外に何があるのかしら?無いわよね?前に、ベラにも言われなかったかしら?お前は馬鹿なの?学習できない馬鹿なの?馬鹿なのね!?女の子1人守る事もできないお馬鹿は、どうしたら良いのかしらね?」
「母上……」
ー母上からの猛口撃が半端無いー
おそらく、父上も今、おばあ様から猛口撃を喰らっているんだろう。
「それと…。母親としては、ランバルトも好きな女性と結婚して欲しい─と思っているけれど…。後1年。これからの1年で、ミヤ様が駄目なら諦めなさい。そして、候補に残っていた2人の令嬢のどちらかに婚約者を決めてもらいます。これが最後です。良いですね?」
母上は、スッと表情を変え─王妃然りな顔で私に告げた。
「はい。分かりました─。」
「はい、じゃあ、今日のところはこれで終わりね。あぁ、ベラが…部屋で待っています─と言っていたから、今から行ってくれるかしら?」
「……」
と、母上はニッコリと微笑む。
忘れていた…ベラも…かなり怒っていた事を…。そうか、まだ続くのか…。母上も“今日のところは”と言ったと言う事は─そう言う事なんだろう…。
「分かり…ました。行って参ります…。」
そう言うしかなく、私はベラの部屋へと向かった。
*少し余裕があったので、ランバルトの話を入れました。国王の方は、もっと大変だったと思います(笑)*
そう聞いた時、私は
ー羨ましいー
ーエディオルだけ…狡いなぁー
と思ってしまった。
私が想いを寄せていたミヤ様には、元の世界にミヤ様が想いを寄せる相手が居て、何の躊躇いもなく元の世界に還ってしまったのだ。私とミヤ様の間には、何も無かったし、スタート地点にさえ立てなかったけど。
1年以上経っても王太子である私に、婚約者がなかなか決まらないのも、私がミヤ様を忘れられずにいるからで─
「本当に、女々しいよなぁ─。」
「そう自覚があるなら、さっさと婚約者を決めて下さい。ベラと私の為にも─」
思わず言葉に出てしまい、それを聞き逃す事無く、イリスにキッチリと釘を刺された。
「いっその事、そのハル殿をお前の婚約者にするか?」
「父上、それだけは止めて下さい!」
冗談でも駄目だ!ハル殿は、パルヴァン三強のお気に入り。その相手として気に入られているのもエディオルだ。それで、ハル殿が私の婚約者なんて事になったら─想像するだけでも恐ろしい!!
「陛下─」
同じ部屋に居た宰相が、軽く父上を窘める。
「─分かっている。ほんの冗談だ。」
「陛下、今のは─それだけは冗談になりません。」
宰相が物分かりの良い、察しの良い、切れ者で良かった─。
“恋に落ちた氷の騎士”
正しくその通りだと思った。エディオルはハル殿を手に入れる為に、外堀を埋めまくっている。本当に、今迄のエディオルからは考えられない程だ。想う相手が側に居ると言う事は、本当に羨ましい限りだ。
そんな事を思っていた─
『それで、ハルは、俺が聖女を召喚した事を知っていたから。召喚できるなら、還れると気付いて…。それで…ハルは─自分で自分の世界に…還ったんだ。』
そう聞いた瞬間、血の気が一気に引いたのが分かった。チラリとエディオルの顔を窺う。そこには、何の感情も表す事の無いエディオルが居た。悲しんでいる事も無く、私達を恨んでいる事も無いような─ただ、そこに居るだけのエディオル。
それは、私の心を抉るのには充分過ぎるものだった。
今回の案が貴族院─老害タヌキから出た時、確かに、2人を犠牲にする事には反対した。
でも─
例え2人の仲が拗れたとしても、どうせ同じ世界、同じ国に居るのだ。後からでもまた元に戻れるのだから、大丈夫だろう。会うのが駄目なら、手紙で想いを伝えれば問題無いだろうし。
今思えば、エディオルに対して妬みがあったのだと思う。
兎に角、それからのエディオルは無感情に淡々としていて、そのままリュウと共に隣国へと旅立った。
「自暴自棄にならないと良いですが─」
と、宰相が難しい顔をしながら囁いた。
結局のところ、ハル殿はまたこの世界に戻って来た。それも─ミヤ様を連れて。ハル殿が戻って来てくれた事は、本当に嬉しかった。これでまた、エディオルの幸せそうに笑う顔が見れるのだと─。
それに、ミヤ様にまた会えた。ミヤ様も、これからこの世界で生きていくと言う。本当に、ハル殿には感謝しか無い──が。
ミヤ様には…更に嫌われてしまったようだ。そりゃそうだ。私はまた、やらかしてしまったのだから。
それでも─
ミヤ様がこの世界に居るのなら、後少しだけ頑張ってみようと思う。今度こそ後悔の無いように、ミヤ様に想いをぶつけてみようと。それで駄目なら、思いっ切りふってもらって、前に進もう。
ーふられる前提ではいかないが!ー
そんな事を思いながら、エディオルの無事なる帰国を祈った。
*****
「──色々と情けない子ね?」
「う゛──っ」
おばあ様無双な会議があった日の夜、母上に呼び出しを喰らった。そして、今回の件について説教を喰らい、私の後悔だらけの気持ちと今の気持ちを素直に口にした。
「自分が何も出来なかった、しなかった事を棚に上げて、エディオルを妬んで─女の子を犠牲にしただなんてねぇ─。情けない以外に何があるのかしら?無いわよね?前に、ベラにも言われなかったかしら?お前は馬鹿なの?学習できない馬鹿なの?馬鹿なのね!?女の子1人守る事もできないお馬鹿は、どうしたら良いのかしらね?」
「母上……」
ー母上からの猛口撃が半端無いー
おそらく、父上も今、おばあ様から猛口撃を喰らっているんだろう。
「それと…。母親としては、ランバルトも好きな女性と結婚して欲しい─と思っているけれど…。後1年。これからの1年で、ミヤ様が駄目なら諦めなさい。そして、候補に残っていた2人の令嬢のどちらかに婚約者を決めてもらいます。これが最後です。良いですね?」
母上は、スッと表情を変え─王妃然りな顔で私に告げた。
「はい。分かりました─。」
「はい、じゃあ、今日のところはこれで終わりね。あぁ、ベラが…部屋で待っています─と言っていたから、今から行ってくれるかしら?」
「……」
と、母上はニッコリと微笑む。
忘れていた…ベラも…かなり怒っていた事を…。そうか、まだ続くのか…。母上も“今日のところは”と言ったと言う事は─そう言う事なんだろう…。
「分かり…ました。行って参ります…。」
そう言うしかなく、私はベラの部屋へと向かった。
*少し余裕があったので、ランバルトの話を入れました。国王の方は、もっと大変だったと思います(笑)*
198
あなたにおすすめの小説
異世界に召喚されたけど、従姉妹に嵌められて即森に捨てられました。
バナナマヨネーズ
恋愛
香澄静弥は、幼馴染で従姉妹の千歌子に嵌められて、異世界召喚されてすぐに魔の森に捨てられてしまった。しかし、静弥は森に捨てられたことを逆に人生をやり直すチャンスだと考え直した。誰も自分を知らない場所で気ままに生きると決めた静弥は、異世界召喚の際に与えられた力をフル活用して異世界生活を楽しみだした。そんなある日のことだ、魔の森に来訪者がやってきた。それから、静弥の異世界ライフはちょっとだけ騒がしくて、楽しいものへと変わっていくのだった。
全123話
※小説家になろう様にも掲載しています。
【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです
大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。
「俺は子どもみたいな女は好きではない」
ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。
ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。
ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。
何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!?
貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。
取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので
モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。
貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。
──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。
……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!?
公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。
(『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)
私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?
きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。
しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……
【完結】初恋相手に失恋したので社交から距離を置いて、慎ましく観察眼を磨いていたのですが
藍生蕗
恋愛
子供の頃、一目惚れした相手から素気無い態度で振られてしまったリエラは、異性に好意を寄せる自信を無くしてしまっていた。
しかし貴族令嬢として十八歳は適齢期。
いつまでも家でくすぶっている妹へと、兄が持ち込んだお見合いに応じる事にした。しかしその相手には既に非公式ながらも恋人がいたようで、リエラは衆目の場で醜聞に巻き込まれてしまう。
※ 本編は4万字くらいのお話です
※ 他のサイトでも公開してます
※ 女性の立場が弱い世界観です。苦手な方はご注意下さい。
※ ご都合主義
※ 性格の悪い腹黒王子が出ます(不快注意!)
※ 6/19 HOTランキング7位! 10位以内初めてなので嬉しいです、ありがとうございます。゚(゚´ω`゚)゚。
→同日2位! 書いてて良かった! ありがとうございます(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)
妹に全部取られたけど、幸せ確定の私は「ざまぁ」なんてしない!
石のやっさん
恋愛
マリアはドレーク伯爵家の長女で、ドリアーク伯爵家のフリードと婚約していた。
だが、パーティ会場で一方的に婚約を解消させられる。
しかも新たな婚約者は妹のロゼ。
誰が見てもそれは陥れられた物である事は明らかだった。
だが、敢えて反論もせずにそのまま受け入れた。
それはマリアにとって実にどうでも良い事だったからだ。
主人公は何も「ざまぁ」はしません(正当性の主張はしますが)ですが...二人は。
婚約破棄をすれば、本来なら、こうなるのでは、そんな感じで書いてみました。
この作品は昔の方が良いという感想があったのでそのまま残し。
これに追加して書いていきます。
新しい作品では
①主人公の感情が薄い
②視点変更で読みずらい
というご指摘がありましたので、以上2点の修正はこちらでしながら書いてみます。
見比べて見るのも面白いかも知れません。
ご迷惑をお掛けいたしました
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
笑い方を忘れた令嬢
Blue
恋愛
お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる