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第1章ー前世ー
第二王子からの呼び出し
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「私との婚約は、解消してもらいたい。」
それは、学園の卒業式迄後1週間─と言う日の出来事だった。
私─アドリーヌ=スペイシーは侯爵家の長女として生まれ、それなりの……かなり厳しい教育を受けさせられていた為、学年トップクラスの成績を保持し、最終学年では生徒会役員も務めた。
その生徒会役員には、同年代の第二王子やその側近、そして、その第二王子の婚約者である公爵令嬢─ジョアンヌ様も居た。
卒業式前に話がある─と、第二王子に呼び出されたジョアンヌ様と一緒に、私と他2人の令嬢を伴って生徒会室へとやって来ると、そこには第二王子だけではなく、同じ生徒会役員も務めた側近達も居た。そんな、見慣れた顔ぶれの中に、1人だけ異色な顔があった。艷やかな黒髪に、赤色の瞳をした子爵令嬢である。
ーでも、何故そんな彼女が第二王子の隣に?ー
気のせいか、少し顔色の悪い彼女に寄り添うように立っている第二王子。その目の前に、第二王子の婚約者であるジョアンヌ様が居るにも関わらず──である。色々と気になる事はあるが、相手は王子だ。部屋にある椅子やソファに座れとも言われる事はなく、私達は立ったまま。一体何が始まるのか─と、思っていたところでの第二王子からの第一声が
「私との婚約は、解消してもらいたい。」
だった。
「───殿下、ご自分の仰っている意味は理解されていらっしゃいますか?」
「勿論だ。」
「…………」
ーいや、分かってないよね?ー
この第二王子とジョアンヌ様の婚約は、王命で調えられた婚約だった筈だ。それを、第二王子単独で解消させるなんて事は有り得ない。
「……では、何故……解消を?」
「それは───」
第二王子曰く──
学園生活を過ごしている間に恋をした。ただ、自分は王族の一員であり婚約者も居る為、その恋心には蓋をして、せめて、学園生活の間だけでも彼女を見守ろうと思った。そのせいで、彼女との距離が近過ぎたのかもしれない。
そんな2人を、周りがどう見るのか─この第二王子は何も考えはしなかったのだろう。婚約者であるジョアンヌ様より、その彼女と過ごす姿がよく見掛けられるようになり、それと共に彼女への風当たりは強くなっていったのだ。
「たかが子爵令嬢のくせに」
「光属性を持っているだけのくせに」
「王子をはじめ、男を侍らせてはしたない」
「ジョアンヌ様を差し置いて、図々しい」
こう言う時の貴族令嬢達の行動力には感心する。
第二王子達の隙を縫っては、その子爵令嬢に嫌がらせや苛めをしていたのだ。
正直、私は逆に、その子爵令嬢がとても気の毒に思えた。どう見ても、彼女が第二王子達に擦り寄っているようには見えなかったから。彼女はいつも、周りを気にするかのように、視線を常にキョロキョロとさせていた。第二王子と居る時に、彼女が本当に楽しそうに笑っているところも見た事がなかった。
それでも───ジョアンヌ様にとっても、彼女はやはり気に喰わない存在だったのだろう。ジョアンヌ様も、彼女に嫌がらせをしている令嬢達を目にしても、止める事は一度もなかった。理不尽かもしれないが、それも仕方無い事なのかもしれない。ジョアンヌ様にとっては、“婚約者を奪い取る女”なのだ。そして、ジョアンヌ様は公爵令嬢。誰もジョアンヌ様を諌める事なんてできない。私も、そんな人間の1人だった。ただ、令嬢達の目のないところで、彼女に声を掛ける事ぐらいしかできなかった。
それでも、そんな私に「いつも気に掛けて下さって、ありがとうございます」と、穏やかな笑顔を浮かべた彼女は、とても可愛らしかった。
そんな、彼女にとっては苦痛だったかもしれない3年間の学園生活も、もうすぐ終わりになる。学園を卒業すれば、ジョアンヌ様はそのまま王城へと住まいを移し、1年後に第二王子と結婚し、そのまま数年は王城で暮らしながら王様と王太子を支える予定なのだ。
ーこれで、彼女の心労も、少しは減るかな?ー
なんて、私の考えは……甘かったようだ。
まさかの、第二王子からの婚約解消。
どうやら、この第二王子は馬鹿だったらしい。勉強に関しては首席だったけど。
「──それで?まさか……殿下は、そこの子爵令嬢の為に、この私と婚約を解消したいと?」
「───そうだ。」
と、第二王子が肯定した瞬間、隣に居る子爵令嬢がヒュッと息を呑み、更に顔色を悪くした。
ーあぁ。第二王子は、彼女の気持ちは無視して話を進めているのねー
誰がどう見ても、彼女が喜んでいるようには見えない。そんな彼女を見ていると、その彼女と視線が合った。“大丈夫?”と言う思いを込めて見つめると、彼女は少し目を見開いた後、ポロッと涙を零したかと思うと、ゆるゆると私の方へと歩み出し──
バシンッ
「───っ!?」
私は左頬に、衝撃を受けた。
❋❋❋❋❋❋❋❋❋❋
新作始めました。相変わらずのゆるふわ設定です。ゆるーい気持ちで読んでいただければ幸いです。
(* ᵕᴗᵕ)⁾⁾ ꕤ
それは、学園の卒業式迄後1週間─と言う日の出来事だった。
私─アドリーヌ=スペイシーは侯爵家の長女として生まれ、それなりの……かなり厳しい教育を受けさせられていた為、学年トップクラスの成績を保持し、最終学年では生徒会役員も務めた。
その生徒会役員には、同年代の第二王子やその側近、そして、その第二王子の婚約者である公爵令嬢─ジョアンヌ様も居た。
卒業式前に話がある─と、第二王子に呼び出されたジョアンヌ様と一緒に、私と他2人の令嬢を伴って生徒会室へとやって来ると、そこには第二王子だけではなく、同じ生徒会役員も務めた側近達も居た。そんな、見慣れた顔ぶれの中に、1人だけ異色な顔があった。艷やかな黒髪に、赤色の瞳をした子爵令嬢である。
ーでも、何故そんな彼女が第二王子の隣に?ー
気のせいか、少し顔色の悪い彼女に寄り添うように立っている第二王子。その目の前に、第二王子の婚約者であるジョアンヌ様が居るにも関わらず──である。色々と気になる事はあるが、相手は王子だ。部屋にある椅子やソファに座れとも言われる事はなく、私達は立ったまま。一体何が始まるのか─と、思っていたところでの第二王子からの第一声が
「私との婚約は、解消してもらいたい。」
だった。
「───殿下、ご自分の仰っている意味は理解されていらっしゃいますか?」
「勿論だ。」
「…………」
ーいや、分かってないよね?ー
この第二王子とジョアンヌ様の婚約は、王命で調えられた婚約だった筈だ。それを、第二王子単独で解消させるなんて事は有り得ない。
「……では、何故……解消を?」
「それは───」
第二王子曰く──
学園生活を過ごしている間に恋をした。ただ、自分は王族の一員であり婚約者も居る為、その恋心には蓋をして、せめて、学園生活の間だけでも彼女を見守ろうと思った。そのせいで、彼女との距離が近過ぎたのかもしれない。
そんな2人を、周りがどう見るのか─この第二王子は何も考えはしなかったのだろう。婚約者であるジョアンヌ様より、その彼女と過ごす姿がよく見掛けられるようになり、それと共に彼女への風当たりは強くなっていったのだ。
「たかが子爵令嬢のくせに」
「光属性を持っているだけのくせに」
「王子をはじめ、男を侍らせてはしたない」
「ジョアンヌ様を差し置いて、図々しい」
こう言う時の貴族令嬢達の行動力には感心する。
第二王子達の隙を縫っては、その子爵令嬢に嫌がらせや苛めをしていたのだ。
正直、私は逆に、その子爵令嬢がとても気の毒に思えた。どう見ても、彼女が第二王子達に擦り寄っているようには見えなかったから。彼女はいつも、周りを気にするかのように、視線を常にキョロキョロとさせていた。第二王子と居る時に、彼女が本当に楽しそうに笑っているところも見た事がなかった。
それでも───ジョアンヌ様にとっても、彼女はやはり気に喰わない存在だったのだろう。ジョアンヌ様も、彼女に嫌がらせをしている令嬢達を目にしても、止める事は一度もなかった。理不尽かもしれないが、それも仕方無い事なのかもしれない。ジョアンヌ様にとっては、“婚約者を奪い取る女”なのだ。そして、ジョアンヌ様は公爵令嬢。誰もジョアンヌ様を諌める事なんてできない。私も、そんな人間の1人だった。ただ、令嬢達の目のないところで、彼女に声を掛ける事ぐらいしかできなかった。
それでも、そんな私に「いつも気に掛けて下さって、ありがとうございます」と、穏やかな笑顔を浮かべた彼女は、とても可愛らしかった。
そんな、彼女にとっては苦痛だったかもしれない3年間の学園生活も、もうすぐ終わりになる。学園を卒業すれば、ジョアンヌ様はそのまま王城へと住まいを移し、1年後に第二王子と結婚し、そのまま数年は王城で暮らしながら王様と王太子を支える予定なのだ。
ーこれで、彼女の心労も、少しは減るかな?ー
なんて、私の考えは……甘かったようだ。
まさかの、第二王子からの婚約解消。
どうやら、この第二王子は馬鹿だったらしい。勉強に関しては首席だったけど。
「──それで?まさか……殿下は、そこの子爵令嬢の為に、この私と婚約を解消したいと?」
「───そうだ。」
と、第二王子が肯定した瞬間、隣に居る子爵令嬢がヒュッと息を呑み、更に顔色を悪くした。
ーあぁ。第二王子は、彼女の気持ちは無視して話を進めているのねー
誰がどう見ても、彼女が喜んでいるようには見えない。そんな彼女を見ていると、その彼女と視線が合った。“大丈夫?”と言う思いを込めて見つめると、彼女は少し目を見開いた後、ポロッと涙を零したかと思うと、ゆるゆると私の方へと歩み出し──
バシンッ
「───っ!?」
私は左頬に、衝撃を受けた。
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