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16 魔獣シルヴィ
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「シルヴィ!」
『クルルルル───』
シルヴィに会えたのは、イーレンに戻って来てから1週間後の事だった。
「ごめんね、直ぐに助けてあげられなくて…」
ギュウッ─と抱き付いても、シルヴィは嫌がる事なく私に抱きつかれたままで、尻尾をフリフリさせている。
「ハティが、ここまで人間に懐くとは……驚きですね。」
「“ハティ”?」
そう言ったのは、シルヴィの治療をしてくれた魔道士─カーシーさん。お姉様が魔法使いである事を知っているが、どうしてもお姉様を崇拝する、敬愛する、敬う事ができない!と、お兄様に泣きついた魔道士だそうだ。そんなカーシーさんを、お兄様は、王太子の側近の1人としたそうだ。日頃は魔塔で働いてはいるが、仕えるべき相手は魔道士トップの第一王女ニコルではなく、王太子であるヒューゴと言う事だ。
「ご存知ありませんでしたか?このシルヴィは“ハティ”と呼ばれる魔獣です。狼の仲間ですね。フェンリルの血を引くとも言われているので、それなりのレベルの魔獣です。後、月──月光を浴びると魔力が回復しやすいです。」
魔獣に詳しくない私でも、フェンリルは知っている。
犬だと思っていたのが魔獣で……更にフェンリルの血を引くとか……
「お前は、凄い魔獣だったんだね……首輪にリード付けたりして…ごめんね?」
「首輪に……リード???」
カーシーさんはビックリしたような顔をしているけど、シルヴィは少し得意気な顔をしているだけで、嫌がっている様子も怒っている様子もない。
「あの…カーシーさん、シルヴィを助けていただいて、ありがとうございます。」
「わー!頭を上げて下さい!」
「え?」
頭を下げてお礼を言うと、カーシーさんは叫びながら慌て出した。
「王族の方に頭なんて下げられると、心臓に悪いですから、止めて下さい。」
“王族の方”
「…………」
イーレンで、無能な私を王族だと言う人を…初めて目にしたのかもしれない。でも─
「お礼を言うのに、王族とか関係ありますか?お礼をするのは、私がそうしたいからです。シルヴィは、私にとって……一番大切な存在なんです。そのシルヴィを助けてくれたカーシーさんに、お礼を言うのは…おかしい事ですか?間違ってますか?」
「それは…………」
「ブルーナ、その辺で許してやってくれ…」
「お兄様!?」
「殿下!!」
いつから居たのか、お兄様が苦笑しながらカーシーさんの肩をよしよし─と撫でている。
「お礼をする事は決して悪くない事だけど、王族に頭を下げられるのは、心臓に悪い事らしいよ?」
と言うお兄様の言葉に、カーシーさんは肯定するように必死にコクコクと頷いている。
そうか──日本の生活が長かったから、貴族社会のアレコレを忘れていた。と言うか、そもそも、ある意味私が王族だった事が一度もなかったから、知識として“王族は無闇に頭を下げるな”と言う事を知っていても、ずっと下を向いていた私には関係無いものだった。
「えっと……それは…ごめんなさい。でも、本当に、ありがとう。カーシーさん。」
「──できれば、その“さん”付けもお止め下さい。」
ー貴族社会とは……何とも面倒臭いものだー
それからカーシーさ……カーシーと別れてから、私はお兄様とお茶をする事になった。場所は王太子宮にある庭園のガゼボで、私の座っている椅子の後ろに、シルヴィが丸まって転寝をしている。
因みに、お兄様とお茶をするのは3日ぶりだ。
「また、色々話す事があるんだけど…一番大切な事を先に言っておく。1週間後に、隣国の魔法使いのリュウがイーレンにやって来る。」
その理由は─
お姉様が“聖女召喚”を行ったから。
聖女召喚には、それはそれは大きな量と強い魔力が使用される為、予め近隣諸国に告知する義務がある。「攻撃ではありません」と言う意思表示の為だ。
にも関わらず、何の告知もなくやってしまったのだから、それはそれは、近隣諸国からの苦情が殺到したであろう事は、容易に想像ができた。
そして、今回、国同士の問題になり掛けたけど、リュウさんが何とか丸く収めてくれたそうだ。リュウさんが魔法使いである事は周知の事実であり、そのリュウさんが「あのバ─イーレン第一王女には、俺からキツく言って……分からせておく。」と言えば、皆、頷くしかなかったそうだ。
「情けない話、魔力で勝てない私では、ニコルをどうする事もできないから、リュウ殿にお願いする事にしたんだ。」
「なるほど…。それで、1週間後に来る事に?」
「そう。それで……ブルーナ、お前は…これからどうしたい?」
「……これから?」
「………これから先、イーレン王国の第二王女ブルーナとして生きていくのか……それとも……違う者として生きていくのか……」
“違う者として”──
ーそんな事が可能なんだろうか?ー
そう思いながら、私はお兄様をジッと見つめた。
❋エールを頂き、ありがとうございます❋
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『クルルルル───』
シルヴィに会えたのは、イーレンに戻って来てから1週間後の事だった。
「ごめんね、直ぐに助けてあげられなくて…」
ギュウッ─と抱き付いても、シルヴィは嫌がる事なく私に抱きつかれたままで、尻尾をフリフリさせている。
「ハティが、ここまで人間に懐くとは……驚きですね。」
「“ハティ”?」
そう言ったのは、シルヴィの治療をしてくれた魔道士─カーシーさん。お姉様が魔法使いである事を知っているが、どうしてもお姉様を崇拝する、敬愛する、敬う事ができない!と、お兄様に泣きついた魔道士だそうだ。そんなカーシーさんを、お兄様は、王太子の側近の1人としたそうだ。日頃は魔塔で働いてはいるが、仕えるべき相手は魔道士トップの第一王女ニコルではなく、王太子であるヒューゴと言う事だ。
「ご存知ありませんでしたか?このシルヴィは“ハティ”と呼ばれる魔獣です。狼の仲間ですね。フェンリルの血を引くとも言われているので、それなりのレベルの魔獣です。後、月──月光を浴びると魔力が回復しやすいです。」
魔獣に詳しくない私でも、フェンリルは知っている。
犬だと思っていたのが魔獣で……更にフェンリルの血を引くとか……
「お前は、凄い魔獣だったんだね……首輪にリード付けたりして…ごめんね?」
「首輪に……リード???」
カーシーさんはビックリしたような顔をしているけど、シルヴィは少し得意気な顔をしているだけで、嫌がっている様子も怒っている様子もない。
「あの…カーシーさん、シルヴィを助けていただいて、ありがとうございます。」
「わー!頭を上げて下さい!」
「え?」
頭を下げてお礼を言うと、カーシーさんは叫びながら慌て出した。
「王族の方に頭なんて下げられると、心臓に悪いですから、止めて下さい。」
“王族の方”
「…………」
イーレンで、無能な私を王族だと言う人を…初めて目にしたのかもしれない。でも─
「お礼を言うのに、王族とか関係ありますか?お礼をするのは、私がそうしたいからです。シルヴィは、私にとって……一番大切な存在なんです。そのシルヴィを助けてくれたカーシーさんに、お礼を言うのは…おかしい事ですか?間違ってますか?」
「それは…………」
「ブルーナ、その辺で許してやってくれ…」
「お兄様!?」
「殿下!!」
いつから居たのか、お兄様が苦笑しながらカーシーさんの肩をよしよし─と撫でている。
「お礼をする事は決して悪くない事だけど、王族に頭を下げられるのは、心臓に悪い事らしいよ?」
と言うお兄様の言葉に、カーシーさんは肯定するように必死にコクコクと頷いている。
そうか──日本の生活が長かったから、貴族社会のアレコレを忘れていた。と言うか、そもそも、ある意味私が王族だった事が一度もなかったから、知識として“王族は無闇に頭を下げるな”と言う事を知っていても、ずっと下を向いていた私には関係無いものだった。
「えっと……それは…ごめんなさい。でも、本当に、ありがとう。カーシーさん。」
「──できれば、その“さん”付けもお止め下さい。」
ー貴族社会とは……何とも面倒臭いものだー
それからカーシーさ……カーシーと別れてから、私はお兄様とお茶をする事になった。場所は王太子宮にある庭園のガゼボで、私の座っている椅子の後ろに、シルヴィが丸まって転寝をしている。
因みに、お兄様とお茶をするのは3日ぶりだ。
「また、色々話す事があるんだけど…一番大切な事を先に言っておく。1週間後に、隣国の魔法使いのリュウがイーレンにやって来る。」
その理由は─
お姉様が“聖女召喚”を行ったから。
聖女召喚には、それはそれは大きな量と強い魔力が使用される為、予め近隣諸国に告知する義務がある。「攻撃ではありません」と言う意思表示の為だ。
にも関わらず、何の告知もなくやってしまったのだから、それはそれは、近隣諸国からの苦情が殺到したであろう事は、容易に想像ができた。
そして、今回、国同士の問題になり掛けたけど、リュウさんが何とか丸く収めてくれたそうだ。リュウさんが魔法使いである事は周知の事実であり、そのリュウさんが「あのバ─イーレン第一王女には、俺からキツく言って……分からせておく。」と言えば、皆、頷くしかなかったそうだ。
「情けない話、魔力で勝てない私では、ニコルをどうする事もできないから、リュウ殿にお願いする事にしたんだ。」
「なるほど…。それで、1週間後に来る事に?」
「そう。それで……ブルーナ、お前は…これからどうしたい?」
「……これから?」
「………これから先、イーレン王国の第二王女ブルーナとして生きていくのか……それとも……違う者として生きていくのか……」
“違う者として”──
ーそんな事が可能なんだろうか?ー
そう思いながら、私はお兄様をジッと見つめた。
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