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16 手強い相手
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カフェでの一件があった週末─
“週末の訓練が休みになったので、お茶をしに来ませんか?”
と言うお誘いの手紙がメグから届いた。あれから、メグが何となく元気がなくて気になっていたから、丁度良かったな─と、モニカも思っていたらしく、お茶をする場所が王城と言う事は気にはなったけど、“喜んで行きます”と言う返事を送った。
******
「モニカ、リュシエンヌ、今日は来てくれてありがとう」
「こちらこそ、誘ってくれてありがとう」
普段のメグは制服を着ていて、見た目も年齢より幼く見えるから可愛らしい印象だけど、今は聖女らしく白を基調とした服を着ているせいか、いつもよりも落ち着いた雰囲気がある。黒髪との対比が綺麗だ。
「やっぱり、聖女様は白色の服が基本なの?」
「そうみたい。着替えを手伝ってくれる人達が持って来るのが、いつも白色なの。汚してしまいそうで気になるし、違う色の服も着てみたいんだけど…ユラには“そんな事ぐらいで我儘を言っては駄目よ”って言われて、確かにそうだなって」
「「…………」」
ーそれ、我儘になる?ー
私とモニカが、部屋に控えている女官に視線を向けると、その女官は少し困惑したような顔をしていた。
「そう言えば、今日はユラは…」
「あ、ユラにも声を掛けたんだけど、“今週末は友達と買い物に行くから”って言われて…」
「それじゃあ、今日もユラを誘ったけど断られたって事ね?」
「うん。ごめんなさい」
「だから、メグが謝る事じゃないからね?ユラも、新しくできた友達と楽しそうにしてるから、それで良いのよ」
色々と敢えて、強調しながら会話をする。
ーあれから気になっていたから、ユラが不在なのは丁度良かったわー
「私達は私達で、今日のお茶を楽しみましょう」
それから、準備されていたお茶やお菓子を食べながら、色々と探りを入れつつ会話をしていくと、やっぱりユラに対しての違和感は大きくなっていった。
『──お城に帰っても私が側に呼ばれる事はないの。訓練の時も邪魔だからって…』
表向き、メグとユラは地方領からやって来た平民で、ユラはメグの侍女として付いて来た事になっているから、そこで主従関係が発生しているけど、実際のユラは召還に巻き込まれただけの異世界人だ。だから、侍女と言っても侍女の仕事ができる筈もなく、メグ自ら、幼馴染みのユラに侍女の仕事をさせる事もないだろうから、メグが王城に居る時にユラを呼び出す事はないだろう。
訓練に同行させないのも、メグなりの配慮だろうし、神官の意向もあるだろう。聖女なのはメグであって、ユラはただの人間なんだから、訓練場に来たところで……邪魔にしかならないし……。
「ところで、侍女としてのユラの週末は、どう過ごしているの?」
「侍女としてのユラとしては特に…。ユラは幼馴染みで、ここまで一緒に来てくれただけでもありがたいのに、侍女なんて…と思って……」
そこで微かに反応したのが、部屋の隅に控えている女官だ。
「そうよね。メグももともと平民だから他人を使うと言う事に慣れてないし、抵抗もあるわよね」
「そうなの!本当は着替えだって1人でできるけど、ユラに“女官達の仕事を奪う気なの!?”って言われて、それもそうかって…でも、本当は慣れないし恥ずかしいし……」
面白いぐらいに女官が反応している。ここに控えている女官は、まだまだ新人なんだろう。ベテランの女官であれば、私達の会話が聞こえていたとしても、“聞こえてません”“聞いてません”の顔を保っているし、ましてや反応するような事はない。
久し振りに現れた聖女様に新人の女官を付ける。一体誰の指示だろうか?第二王子であれば、大問題ではないだろうか?
ーできれば、この違和感を取り除いてから卒業したいー
それが、せめてものモニカへの償いになるから。
「メグ、私、化粧室に行きたいんだけど…」
「あ、それじゃあ、エミリー、リュシエンヌを案内して来てくれますか?」
「えっ!?あ、はい、承知しました」
ー反応し過ぎでしょうー
私とモニカは、呆れて笑うしかなかった。
エミリーは、王城の女官に採用されてから1年も経っていない男爵家の三女だった。
『聖女様が、“私に付く侍女は男爵か子爵の者じゃないと嫌。伯爵以上の人達は私を馬鹿にするから”“どんな時でも私の身の回りの世話は怠らないで欲しい”と言っているから─と、第二王子が仰られて、ユラ以外で聖女様に付いているのは、まだ城仕えに慣れ切っていない男爵家出身の子達です』
それは、さっきのメグの話を聞けば分かる事だけど、メグはそんな条件を出してはいないだろう。寧ろ、侍女なんて要らない─と言って困らせたと言う方がしっくり来る。
『聖女様が、身分の低い私達の名前を覚えているとは思ってもみませんでした。聖女様は…私が思っていた様な方ではなかったんですね』
そう思わせたのはユラだろう。
ただ、ここでユラを問い詰めても何の証拠も無い。ユラは賢い。丸っきりの嘘ではなく、本当を基本として嘘を混ぜて話しているから、指摘したところで“勘違いでした”と言われてしまえばそれまでだ。例え、それが悪意のある意図があったとしても。
「手強いわね………」
「何が手強いの?」
「─っ!?」
低音ボイスの心地良い声が耳に響いた。
“週末の訓練が休みになったので、お茶をしに来ませんか?”
と言うお誘いの手紙がメグから届いた。あれから、メグが何となく元気がなくて気になっていたから、丁度良かったな─と、モニカも思っていたらしく、お茶をする場所が王城と言う事は気にはなったけど、“喜んで行きます”と言う返事を送った。
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「モニカ、リュシエンヌ、今日は来てくれてありがとう」
「こちらこそ、誘ってくれてありがとう」
普段のメグは制服を着ていて、見た目も年齢より幼く見えるから可愛らしい印象だけど、今は聖女らしく白を基調とした服を着ているせいか、いつもよりも落ち着いた雰囲気がある。黒髪との対比が綺麗だ。
「やっぱり、聖女様は白色の服が基本なの?」
「そうみたい。着替えを手伝ってくれる人達が持って来るのが、いつも白色なの。汚してしまいそうで気になるし、違う色の服も着てみたいんだけど…ユラには“そんな事ぐらいで我儘を言っては駄目よ”って言われて、確かにそうだなって」
「「…………」」
ーそれ、我儘になる?ー
私とモニカが、部屋に控えている女官に視線を向けると、その女官は少し困惑したような顔をしていた。
「そう言えば、今日はユラは…」
「あ、ユラにも声を掛けたんだけど、“今週末は友達と買い物に行くから”って言われて…」
「それじゃあ、今日もユラを誘ったけど断られたって事ね?」
「うん。ごめんなさい」
「だから、メグが謝る事じゃないからね?ユラも、新しくできた友達と楽しそうにしてるから、それで良いのよ」
色々と敢えて、強調しながら会話をする。
ーあれから気になっていたから、ユラが不在なのは丁度良かったわー
「私達は私達で、今日のお茶を楽しみましょう」
それから、準備されていたお茶やお菓子を食べながら、色々と探りを入れつつ会話をしていくと、やっぱりユラに対しての違和感は大きくなっていった。
『──お城に帰っても私が側に呼ばれる事はないの。訓練の時も邪魔だからって…』
表向き、メグとユラは地方領からやって来た平民で、ユラはメグの侍女として付いて来た事になっているから、そこで主従関係が発生しているけど、実際のユラは召還に巻き込まれただけの異世界人だ。だから、侍女と言っても侍女の仕事ができる筈もなく、メグ自ら、幼馴染みのユラに侍女の仕事をさせる事もないだろうから、メグが王城に居る時にユラを呼び出す事はないだろう。
訓練に同行させないのも、メグなりの配慮だろうし、神官の意向もあるだろう。聖女なのはメグであって、ユラはただの人間なんだから、訓練場に来たところで……邪魔にしかならないし……。
「ところで、侍女としてのユラの週末は、どう過ごしているの?」
「侍女としてのユラとしては特に…。ユラは幼馴染みで、ここまで一緒に来てくれただけでもありがたいのに、侍女なんて…と思って……」
そこで微かに反応したのが、部屋の隅に控えている女官だ。
「そうよね。メグももともと平民だから他人を使うと言う事に慣れてないし、抵抗もあるわよね」
「そうなの!本当は着替えだって1人でできるけど、ユラに“女官達の仕事を奪う気なの!?”って言われて、それもそうかって…でも、本当は慣れないし恥ずかしいし……」
面白いぐらいに女官が反応している。ここに控えている女官は、まだまだ新人なんだろう。ベテランの女官であれば、私達の会話が聞こえていたとしても、“聞こえてません”“聞いてません”の顔を保っているし、ましてや反応するような事はない。
久し振りに現れた聖女様に新人の女官を付ける。一体誰の指示だろうか?第二王子であれば、大問題ではないだろうか?
ーできれば、この違和感を取り除いてから卒業したいー
それが、せめてものモニカへの償いになるから。
「メグ、私、化粧室に行きたいんだけど…」
「あ、それじゃあ、エミリー、リュシエンヌを案内して来てくれますか?」
「えっ!?あ、はい、承知しました」
ー反応し過ぎでしょうー
私とモニカは、呆れて笑うしかなかった。
エミリーは、王城の女官に採用されてから1年も経っていない男爵家の三女だった。
『聖女様が、“私に付く侍女は男爵か子爵の者じゃないと嫌。伯爵以上の人達は私を馬鹿にするから”“どんな時でも私の身の回りの世話は怠らないで欲しい”と言っているから─と、第二王子が仰られて、ユラ以外で聖女様に付いているのは、まだ城仕えに慣れ切っていない男爵家出身の子達です』
それは、さっきのメグの話を聞けば分かる事だけど、メグはそんな条件を出してはいないだろう。寧ろ、侍女なんて要らない─と言って困らせたと言う方がしっくり来る。
『聖女様が、身分の低い私達の名前を覚えているとは思ってもみませんでした。聖女様は…私が思っていた様な方ではなかったんですね』
そう思わせたのはユラだろう。
ただ、ここでユラを問い詰めても何の証拠も無い。ユラは賢い。丸っきりの嘘ではなく、本当を基本として嘘を混ぜて話しているから、指摘したところで“勘違いでした”と言われてしまえばそれまでだ。例え、それが悪意のある意図があったとしても。
「手強いわね………」
「何が手強いの?」
「─っ!?」
低音ボイスの心地良い声が耳に響いた。
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