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36 失態
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ドスッ─
『───っ!?』
鈍い音とともに左足に痛みが走った。
ー何が起こったの!?ー
その痛みは更に強くなり、立っている事ができずに、その場に倒れてしまった。
「やった!当たったわ!私、ようやく白色の生き物を手に入れたわ!これでアラスター様は──」
ユラが喜んでいる。痛みのある左足を見ると、そこに短剣が突き刺さっていた。
ーまさか…ユラなんかにやられるとは…最大級の失態……汚点だー
しかも、この短剣…“対魔獣用”の短剣じゃないだろうか?それならとても厄介だ。今この場所は魔法の無効化が効いているから作用しているかどうか分からいけど、対魔獣用の短剣には、刺さると暫く抜けないようになる魔法が掛けられていて、更に体を痺れさせる毒が塗布されている。
ー体が重いー
「──きゃあっ!アラスター様!?何を──止めて!」
ーヴェルティル…様?ー
何とか頭を上げてユラの方を見ると─
ヴェルティル様がユラの首元に短剣を突き付けていた。
ーどうして?ー
「アラスター!?」
「ユラ!!」
そこにやって来たのは、メグと第二王子だった。
「アラスター!落ち着け!その短剣を下ろせ!」
「下ろす?何故?コレが……彼女を傷付けたのに?」
「彼女?」
第二王子が辺りをキョロキョロ見回して、白豹と目が合った─瞬間、顔色が真っ青になった。
「なっ!!クレイオン嬢!?足が!あー……ユラか!?」
「え?クレイオン嬢?え?シロ……雪豹?が…リュシエンヌ!?」
メグのキョドり具合が半端無い。それはしょうがない。メグに、白豹の姿を見せたことなど一度もないから。こんな時でも…笑えてしまう……まだ、大丈夫だ。体の痛みよりも辛いのは……番の香りだ。
『………』
本能とは、本当に怖ろしいものだ。その香りは、まるで麻薬のように私の思考を麻痺させて本能が支配して行く。そのせいか、痛みに鈍感になっていく。痛みに鈍感になると言う事は…自分自身の怪我を治癒しようとする力が弱くなってしまうと言う事だ。
「とっ、兎に角!その短剣を下ろして、ユラはその護衛に預けるんだ。ユラよりも、クレイオン嬢の方が優先すべき事だろう!?」
「っ!」
「きゃあ──っ」
ヴェルティル様は短剣を下ろした後、ユラを突き飛ばすようにして護衛に預けた。
「リュシエンヌ!」
『…メグ………』
「小説みたいに、私も治癒魔法とかが使えたら良かったのに…どうしよう…抜いたら駄目だから…」
治癒魔法─
500年以上前は、聖女の力の一つに“治癒”があった。ただ、その治癒の力を求め、聖女を奪い合う争いが起こり、その聖女すら命を落としてしまい、名も無き女神の逆鱗に触れてしまい、それ以降、治癒の力は聖女から無くなってしまったのだ。今の聖女は、浄化だけに特化しているのだ。
ーヤバイなぁ…左足の感覚が……ー
対魔獣用の毒だから、獣人でしかない私には結構キツいのかもしれない。立派な騎士になるつもりが…ユラなんかにヤラれて……
『くやし……………』
「リュシエンヌ!!」
獣化していても、涙は出るようだ。
悔しいやら腹立たしいやら…体が痛いやら……。
「「えっ!?」」
そこで、メグと第二王子の驚いた声と共に、光で溢れていた森が、また鬱蒼とした森へと変化した。無効化の魔道具が止まったのだろう。あの香りも無くなった。
「クレイオン嬢!大丈夫か!?」
『ヴェ…ティルさま……』
どうして、白豹姿の私を知っているんだろう?
「この短剣は…対魔獣用か、ヤバいな……獣人には強過ぎる!くっそ……やっぱり始末してしまおうか………」
『………』
ー駄目だ…動けないー
「クレイオン嬢!しっかりしろ!こうなったら……アラール殿下、俺はクレイオン嬢を連れて戻ります。そこの馬鹿女を頼みます。分かって…ますよね?」
「わ…分かっている。バ─ユラの事は任せてくれ!」
「メグはどうする?」
「私は…アラール様と残ります。ユラの事は後で説明しますが、考えがあるので任せて下さい。兎に角、リュシエンヌ様の事、宜しくお願いします!」
「分かった。クレイオン嬢は必ず助けるから。クレイオン嬢、また少しだけ我慢してくれ」
『………』
何を?─と問う事もできず、私は獣化した姿のままで、またヴェルティル様に抱き上げられた。
「気持ち悪くなるかもしれないから、目を閉じて…」
『………』
左足を庇うように抱き上げられ、耳元で心地良い低音ボイスで囁かれると、体の痛みが少しだけ和らいだのは……気のせいかもしれない。
「********」
それから、ヴェルティル様が何かを呟くと、一瞬だけ体が浮いたような感覚に襲われた。
*????*
「逃げ切れると思う?」
「無理でしょうね。そもそも、何故逃げているのか分かりませんけど、彼女も好意を寄せていたでしょうから…」
「何故逃げるか?──か……分からなくも…ないけどね…」
「殿下は、何かご存知なんですか?」
「知ってるか?と訊かれたら、“知らない”だけどね」
「?」
バンッ────
「レイモンド!!」
「──っ!?なっ……アラスター!?え!?どうし──白……リ……クレイオン嬢か!?」
「リュシエンヌ!?何て事!!」
「馬鹿女に、対魔獣用でやられたんだ!」
「対魔獣用!?何故そんな物で!?いやいや、兎に角、今すぐ奥の部屋のベッドの上に彼女を横にしてくれ!」
ユーグレイシアの王太子レイモンドがそう言うと、アラスター=ヴェルティルは急いで、執務室の奥にあるベッドへとリュシエンヌを運んだ。
『───っ!?』
鈍い音とともに左足に痛みが走った。
ー何が起こったの!?ー
その痛みは更に強くなり、立っている事ができずに、その場に倒れてしまった。
「やった!当たったわ!私、ようやく白色の生き物を手に入れたわ!これでアラスター様は──」
ユラが喜んでいる。痛みのある左足を見ると、そこに短剣が突き刺さっていた。
ーまさか…ユラなんかにやられるとは…最大級の失態……汚点だー
しかも、この短剣…“対魔獣用”の短剣じゃないだろうか?それならとても厄介だ。今この場所は魔法の無効化が効いているから作用しているかどうか分からいけど、対魔獣用の短剣には、刺さると暫く抜けないようになる魔法が掛けられていて、更に体を痺れさせる毒が塗布されている。
ー体が重いー
「──きゃあっ!アラスター様!?何を──止めて!」
ーヴェルティル…様?ー
何とか頭を上げてユラの方を見ると─
ヴェルティル様がユラの首元に短剣を突き付けていた。
ーどうして?ー
「アラスター!?」
「ユラ!!」
そこにやって来たのは、メグと第二王子だった。
「アラスター!落ち着け!その短剣を下ろせ!」
「下ろす?何故?コレが……彼女を傷付けたのに?」
「彼女?」
第二王子が辺りをキョロキョロ見回して、白豹と目が合った─瞬間、顔色が真っ青になった。
「なっ!!クレイオン嬢!?足が!あー……ユラか!?」
「え?クレイオン嬢?え?シロ……雪豹?が…リュシエンヌ!?」
メグのキョドり具合が半端無い。それはしょうがない。メグに、白豹の姿を見せたことなど一度もないから。こんな時でも…笑えてしまう……まだ、大丈夫だ。体の痛みよりも辛いのは……番の香りだ。
『………』
本能とは、本当に怖ろしいものだ。その香りは、まるで麻薬のように私の思考を麻痺させて本能が支配して行く。そのせいか、痛みに鈍感になっていく。痛みに鈍感になると言う事は…自分自身の怪我を治癒しようとする力が弱くなってしまうと言う事だ。
「とっ、兎に角!その短剣を下ろして、ユラはその護衛に預けるんだ。ユラよりも、クレイオン嬢の方が優先すべき事だろう!?」
「っ!」
「きゃあ──っ」
ヴェルティル様は短剣を下ろした後、ユラを突き飛ばすようにして護衛に預けた。
「リュシエンヌ!」
『…メグ………』
「小説みたいに、私も治癒魔法とかが使えたら良かったのに…どうしよう…抜いたら駄目だから…」
治癒魔法─
500年以上前は、聖女の力の一つに“治癒”があった。ただ、その治癒の力を求め、聖女を奪い合う争いが起こり、その聖女すら命を落としてしまい、名も無き女神の逆鱗に触れてしまい、それ以降、治癒の力は聖女から無くなってしまったのだ。今の聖女は、浄化だけに特化しているのだ。
ーヤバイなぁ…左足の感覚が……ー
対魔獣用の毒だから、獣人でしかない私には結構キツいのかもしれない。立派な騎士になるつもりが…ユラなんかにヤラれて……
『くやし……………』
「リュシエンヌ!!」
獣化していても、涙は出るようだ。
悔しいやら腹立たしいやら…体が痛いやら……。
「「えっ!?」」
そこで、メグと第二王子の驚いた声と共に、光で溢れていた森が、また鬱蒼とした森へと変化した。無効化の魔道具が止まったのだろう。あの香りも無くなった。
「クレイオン嬢!大丈夫か!?」
『ヴェ…ティルさま……』
どうして、白豹姿の私を知っているんだろう?
「この短剣は…対魔獣用か、ヤバいな……獣人には強過ぎる!くっそ……やっぱり始末してしまおうか………」
『………』
ー駄目だ…動けないー
「クレイオン嬢!しっかりしろ!こうなったら……アラール殿下、俺はクレイオン嬢を連れて戻ります。そこの馬鹿女を頼みます。分かって…ますよね?」
「わ…分かっている。バ─ユラの事は任せてくれ!」
「メグはどうする?」
「私は…アラール様と残ります。ユラの事は後で説明しますが、考えがあるので任せて下さい。兎に角、リュシエンヌ様の事、宜しくお願いします!」
「分かった。クレイオン嬢は必ず助けるから。クレイオン嬢、また少しだけ我慢してくれ」
『………』
何を?─と問う事もできず、私は獣化した姿のままで、またヴェルティル様に抱き上げられた。
「気持ち悪くなるかもしれないから、目を閉じて…」
『………』
左足を庇うように抱き上げられ、耳元で心地良い低音ボイスで囁かれると、体の痛みが少しだけ和らいだのは……気のせいかもしれない。
「********」
それから、ヴェルティル様が何かを呟くと、一瞬だけ体が浮いたような感覚に襲われた。
*????*
「逃げ切れると思う?」
「無理でしょうね。そもそも、何故逃げているのか分かりませんけど、彼女も好意を寄せていたでしょうから…」
「何故逃げるか?──か……分からなくも…ないけどね…」
「殿下は、何かご存知なんですか?」
「知ってるか?と訊かれたら、“知らない”だけどね」
「?」
バンッ────
「レイモンド!!」
「──っ!?なっ……アラスター!?え!?どうし──白……リ……クレイオン嬢か!?」
「リュシエンヌ!?何て事!!」
「馬鹿女に、対魔獣用でやられたんだ!」
「対魔獣用!?何故そんな物で!?いやいや、兎に角、今すぐ奥の部屋のベッドの上に彼女を横にしてくれ!」
ユーグレイシアの王太子レイモンドがそう言うと、アラスター=ヴェルティルは急いで、執務室の奥にあるベッドへとリュシエンヌを運んだ。
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