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二度目の召喚
襲来
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『──一体、何が起こっているの!?』
“問題が起こり、王太子と共に視察に行く為、約束した日は会えなくなった。すまない。”
と言う手紙がルーファスさんから届いたのは、最後に会った日から3日後の事だった。そして、約束の日だったのが、それから5日後の今日だった。
「キッカさんって、王都の外れにある“女神の湖”って知ってる?」
「“女神の湖”…ですか?すみません。全く知りません。」
ーあ、やっぱりかぁー
「キッカさんが知らないと言う事は、やっぱりあの湖には、アイリーン様は住んでいないって事だよね…ふふっ」
「はい?アイリーン様が…湖に住む??」
キッカさんは、本当に知らないらしい。
「あ、その湖に…行ってみます?」
なんて、本当に軽い気持ちで言っただけだったのに──
「え…虹色の湖???」
珍しく、キッカさんがポカーンとした顔のまま、虹色に輝く湖を見ている。
「この世界ででも、虹色の湖は珍しいんですか?」
「多分…珍しいかと。ただ、私は日本側の者なので、この世界の事はそんなに詳しく無いんです。」
千代様の使い魔として、愛し子を護る為に付き添っては来るが、この世界を観光する訳ではないし、遊びでこの世界に来る事も無い為、この世界についての事はあまりよくは知らないそうだ。
「ただ、一つ言える事は……この湖は、あまり良くないと言う事ですね。」
ーそれは…やっぱり…ホラー的な?ー
「一度入ると、戻って来れないそうです」
「あぁ!そんな感じですね!」
ーやっぱりホラーだ!ー
「キッカさん、帰ろう!今すぐ王都に、お家にかえ──」
「ウィステリア殿と、キッカ殿?」
「帰ろう!」と言い切る前に、後ろから声を掛けられた。
「アレサンドル様!?」
振り返ると、そこにはフードを被ったアレサンドル様と、数名のフードを被った護衛らしき人達が居た。その中には勿論ルーファスさんも居る。
どうやら、今日の視察場所はこの湖だったらしい。
「エメラルド付きの騎士が、この湖に?」
なんでも、この数日の間に、エメラルド付きの騎士の1人が、この湖に足繁く通っていたらしい。されど、ここは観光スポットである為、景色を見て楽しんでいる─と言われればそれまでだ。
ただ、今回のこの視察が決まってからの行動だった為、本来視察予定は明日だったけど、急遽、今日、極秘で行う事になったそうだ。
「あ、視察の邪魔になるといけないので、私達は帰りますね。」
キッカさん──と声を掛けながらキッカさんの方へ振り返ると、キッカさんの後ろから犬が走って来るのが見えた。
ーあれ?キッカさんって……犬が駄目じゃなかった!?ー
「キッカさん!」
私の呼び声と同時に、犬に反応したキッカさんは、走り寄って来る犬を魔法で弾き飛ばした。
「何故こんな所に魔犬が居るの!?」
「ウィステリア殿!」
「えっ!?」
グイッ─と、アレサンドル様に腕を引かれたかと思うと、さっきとは違う犬─魔犬が数頭現れた。
「どうなっている!?ルーファス!」
「分からない!兎に角、魔犬を倒すしかない!」
アレサンドル様の護衛は、ルーファスさんを入れて4人。それに対して魔犬は6頭。
ー魔力が戻り切ってない私は足手まといだー
キッカさんもそうだ。魔法で対応しているけど、相手の魔犬にはそれ程大きなダメージを与える迄は行っていない。本当に、キッカさんと犬は相性が最悪なようだ。
違う。魔力が戻ってないだけで、無い訳じゃない。
ーちゃんと、体は覚えてるー
左手に魔力を集めて和弓を創る
右手に魔力を込めた矢を創る
ーこれ位の距離なら、問題無いー
トン─と引いた矢は1頭の魔犬の頭に命中。
2本目を構える─会
トン─と引いた矢は、また1頭に命中。
ー2本だけで、結構な魔力が消費されたなぁー
4年前なら平気だったのに──
「ウィステリア!!」
この場に、私をそんな風に呼び捨てにするような人が居たっけ?
離れた所に居た魔犬に集中し過ぎていた。
私の背後では、少し焦ったような声を上げているキッカさんが居る。
アレサンドル様は、他の護衛と共に3頭の魔犬を相手にしている。
そして、ルーファスさんが私に手を伸ばしながら駆け寄って来るのは何故?と思うよりも先にルーファスさんの手が私に届き、そのままの勢いで突き飛ばされた。地面に倒れ込むのと同時に魔力で創り上げていた和弓と矢が霧散して、目の前の出来事がスローモーションのように見えた。
私に飛び掛かって来ていたのだろう魔犬が私の頭上を通過して、そのままの勢いでルーファスさんに齧り付いた。
「───え?」
「ルーファス!!」
叫んだのはアレサンドル様。
齧り付いた魔犬の勢いは止まらず、そのまま………ルーファスさんと魔犬は、そのまま湖へと落ちて行った。
『この湖に落ちたら最後、二度と上がっては来れない─と言われているんだ。』
「────ルーファスさん!!」
なりふり構わず魔法を展開させ、未だルーファスさんに齧り付いている魔犬に攻撃を与えれば、その魔犬は口を離し、そのまま湖へと沈んで行った。
「ルーファスさん!!」
湖に駆け寄って、湖畔に掛かっているルーファスさんの腕を掴んで引き上げて────
ー何!?何で!?何で引き上げられないの!?ー
「ルーファスさん!!」
目の前のルーファスさんは、意識が無いのか目は閉じられたままで、左肩からはダラダラと赤い血が七色の湖水に流れている。
「ルーファスさん!ルーファスさん!!」
どんなに力を入れてもルーファスさんの体を引き上げる事はできず、逆に何かの力によって湖へと引き摺られて行ってしまう。
「やだやだやだ!ルーファスさん、お願いだから!目を開けて!!───お願い!ルー!!」
「───やっと……愛称よび……された…な…」
「ルーファスさん!!」
薄っすら目を開けて笑ってるルーファスさん。
「ウィステリアが無事で…良かった……」
「ルー………」
バシャンッ───
「え────っ」
ホッとしてしまった瞬間、ルーファスさんが自ら私が掴んでいた手を振りほどいた。
「もう……無理だ。ウィステリア……必ず……元の世界に還れ………」
そう言ったルーファスさんは……やっぱりいつもの優しい笑顔だった。
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