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二度目の召喚

丑三つ時

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❋番外編置き場に投稿予定でしたが、“ぬるい”と意見をいただいたので、本編に投稿させていただきました。菊花、参ります(笑)❋








*菊花視点*



「大福より甘いわ」





私が、ついうっかり落としてしまった……第一王女だったアリシア馬鹿女。ソレを、喜々として拾ったのは、リジー改め─莉子りこだった。

女魔導士リジーは、馬鹿女に嵌められたとは言え、禁忌である召喚魔法を使った─と言う事で、元の世界での転生は不可能だった為、魔法のないこちら側の世界への転生となった。後は、こちら側に慣れるかどうかだったけど───

莉子は逞しかった。

魔導士としての矜持はあったが、魔法や魔力に関してはバッサリと捨て去り、今ではこの世界に馴染みまくっている。
そして今、あの馬鹿女をジワジワとゆっくりと精神的に追い詰めていっている。日に日に影を落していく馬鹿女を目にするのは愉しいが───


「やっぱり、大福より甘いわよね。」

それも、ある程度は仕方無い。貴族社会のある向こうは、“やられたらやり返せ”的な風潮があるが、こちらでは「はいそうですか─」と言ってやる事はできない。

「………」



“妖の路”であれば───問題無いだろう。









******


『私が大切にしていたビー玉が、三つ足りないのよね……』

「───だっ…だから、何なの!?ビー玉って…何!?」

目の前に居る馬鹿女は、顔はそのままだが、日本に馴染むように髪と瞳を黒色に変えている。
その馬鹿女は、相変わらずの態度と口調である。

そんな馬鹿女を、夜中の2時少し前に呼び出した。

「私達妖が通る路があってね?その路を歩いている時に、ビー玉を落としてしまったみたいなの。」

「それは…探すのが大変ね。頑張って探せばいいわよ」
「そうね、頑張って探して来てくれるかしら?」
「は?探して──って、この私が!?」
「ふふっ。おかしい事を訊くのね?お前以外に誰が居るの?頭だけじゃなくて、目もおかしいのね?」
「──なっ!私─を誰だと!」
「身分を剥奪されて存在を消される予定の女──だと認識しているけど……間違ってるかしら?」
「────なっ…なっ……」

口をパクパクする様は、馬鹿女に阿呆さが加わった感じで面白い。

「兎に角、お前には今からビー玉を三つ探して来てもらうわ。色は、赤、青、紫。たまに緑のモノもあるけど、緑色は要らない。」

みどり色は、大嫌いな色だー

「これが大事なんだけど、本来“妖の路”は妖しか通ってはいけない路なの。そこに人間が居ると分かれば───ペロリと……食べられてしまうの。なんなら……争奪戦が起こって……体が……ね?ふふっ」

「…………」

目の前の馬鹿女の顔が、一気に青白くなる。

「だから、お前には周りから妖に見えるように妖術を掛けてあげる。ただし。一言でも声を出せば、その妖術は解けてしまうから、何があっても声は出さないように。最後に、時間は丑三つ時─2時から2時半の間の30分だけ。その間に戻って来ないと……もう二度と、人間ひとの世界には戻って来れないから。必ず、通った路は覚えておくこと。」

「30分!?ビー玉を探しながら路も覚えろですって!?無理に決まっているわ!」

「またまたおかしい事を言うのね。無理だと知っていたのにやらせたのは、お前だったわよね?お前に拒否権も選択肢も無いわ。あぁ、時間になったわ。」

パチン─と指を弾いて2枚の鏡を呼び出す。

「さぁ、これが“妖の路”への入り口よ。しっかり口を閉じて───行ってらっしゃい。」

またパチン─と指を弾いて馬鹿女が口を開く前に送り出した。











*アリシア視点*



ー何故、この私が使用人みたいな事をしなければいけないの!?ー

あの女─キツネがパチンと指を鳴らしたかと思えば、景色は一転した。
足下にくすんだような白色に薄っすら輝く細い路があり、両サイドは暗闇だけが広がっている。前だけを見て歩かなければ、その暗闇に吸い込まれてしまいそうだった。

ーこれだけ路が光っているなら、ビー玉とやらは直ぐに見付かるかもしれないわねー

そう思いながら、私は慎重に前へと歩みを進めた。









『今日は人間の先輩が──』
『そう言えば、猫又が──』

「──っ!!」

時折通り過ぎて行く異形の生き物。それを目にする度に悲鳴を上げそうになり、グッと我慢をする。
この15分程で赤と青のビー玉を見付けた。後は、紫のビー玉だけ。

ウィステリア──

何て腹立たしい…忌々しい色だろう。あんな色…手にするのも嫌で虫唾が走る程。

ー見付けたら…粉々にしてやるわー

と、思っていると紫のビー玉が目に入った。

ーこれで、引き返せば時間以内に戻れるー

そう思いながら、私はその紫に手を伸ばす。

『このビー玉、お前さんのかい?』

ーえ?ー

私の代わりに、その紫を拾ったのは──

大きな顔なのに目が一つしかなく、顔から両手と足が1本だけ生えている生き物?だった

「───ひぃ────っ!!」

慌てて両手で口を押さえたけど、遅かった。

『お前…人間か!?』

ーバレた!?ー

私はその生き物から紫を奪い取ると、すぐさま踵を返して走り出した。






ーはぁはぁ───苦しいー

『待て!』

どれ程走ったのか。走れば走る程、追い掛けて来る異形の生き物が増えていく。
どれだけ走っても出口が見えない。

ー路を……間違えた!?ー

「──あっ!」

もう限界だった。こんなに走った事なんてない。追われた事もない。危険に晒された事なんてなかった。
足がもつれてしまい、その場に倒れ込む。

「誰か!助けて!」

手にあるのは、赤と青と紫のビー玉だけ。投げたところでどうにもならないだろう。

『久し振りの人間だな───』

そう言って、ニタリ─と嗤う異形の生き物達。
恐怖で声すら出せない。動けない。

「…………」

『さぁ、皆でか──』

と言われたところで、私の意識は途絶えた。





パチン───











*菊花視点*



意識を失い横たわっている馬鹿女の手には、赤青紫のビー玉があった。勿論、緑は無い。

『ふん。これで……醤油煎餅位の仕置きにはなったかしら?』

三つのビー玉をその手の中から取り上げる。



『私達がのは、この色達だけ…緑もお前も…………だけよ…………』



パチン─と指を鳴らせば、もうそこに、アリシアの姿は無かった。






そのアリシアは、朝には布団の中で目を覚まし、震える体を押さえながら、その日も莉子と共に仕事場へと向かった。











❋本編は、いつも通り、夜に更新予定です。そちらも、宜しくお願いします❋




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