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6 ウィン・ウィン?
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私が次に目を覚ましたのは、翌日の朝だった。
それから、もう一度診察を受けて問題無いと診断された後、朝食を食べて、午前中はゆっくりと過ごした。そして、そろそろ昼食の時間と言う前に、私を助けてくれた2人が部屋へとやって来た。
「本当に、助けていただいた上に、治療までしていただいて、ありがとうございました。遅くなりましたけど、私は、アンバー=ウェントと言います」
「俺は、グウェイン=リベルトだ」
「俺は、ウィル=スペンサー。俺は留学生としてやって来たんだ。グウェンは、俺の叔父で、この留学に保護者として付いて来てもらっているんだ」
そう言えば、来年度から他国から黒色持ちの留学生が来ると言っていた。それが、このウィル=スペンサー様。爵位こそ言わなかったけど、他国に留学できるのなら、きっと高位貴族の令息なんだろう。
「留学許可が下りた際に、俺の他にも黒色持ちが居ると聞いていたんだけど、ウェント嬢の事だった?」
「多分……私の事だと思います」
とは言え、今回は大怪我をしても助けられた上、治療もしてもらって元気にはなったけど、これでウェント伯爵がおとなしくするとは思えない。学校が始まる迄まだ3ヶ月はあるから、また何か仕掛けて来るだろうし、そうでなくても、何かと理由をつけて閉じ込めようする筈。そうなれば、学校にも行けない訳で……。
「それなら、ウェント嬢が良ければ、学校に居る間、俺のサポートをしてくれないかな?」
「サポート……ですか?」
「留学するにあたって、この国の事は色々と勉強したけど、細かい所までは分からないし、その分からないところを補ってもらえると助かるんだけど…」
「でも、私は……」
貴族に於けるマナーやルールは、自分を守る為に勉強した。上辺だけの勉強は受けられたけど、それでは足りなくて、こっそりと隠れて勉強した。それでも、私が留学生をサポートできる程の知識はないと思う。
「それに、留学生の俺と一緒に居れば、ウェント嬢に手を出して来る奴も少なくなると思うんだけど」
「え?」
「この国は、未だに黒色持ちに対して良いものがないだろう?そんな国に、黒色持ちの俺の留学が許可されたのは、国王が、何とかして国民の黒色持ちに対する意識を変えたいと言う思いからなんだ。ある意味、俺は国賓って事だ。そんな俺と一緒に居れば、ウェント嬢にも簡単に手を出して来るような奴は居ないと思う。それで、俺は俺でサポートしてもらえて助かるから、ウィン・ウィンだと思うんだけどね?」
「………」
ーどうして、こんなに優しいんだろう?ー
目の前のスペンサー様は微笑んでいるし、その後ろに居るリベルト様もうんうんと頷いている。
もし、このまま何事も無く入学できたとしても、入ってからの事は、正直心配もあった。黒色持ちの私が、平穏な学生生活を送る事は難しいだろうと思っていた。でも、スペンサー様と一緒に居れば──
ー期待したら駄目だー
きっと、伯爵が黙っていない。今迄だって、そうだった。私に優しくてしてくれた侍女は、いつの間にか邸から追い出されていた。裏庭で隠れて餌をあげていた犬は、ある日大怪我をして倒れていた。私に気を遣ってお菓子をくれた家庭教師も、その翌週から来なくなり、体罰主体の家庭教師がやって来るようになった。だから、今回も───
「ウェント伯爵の事なら気にしなくて良いよ」
「え?」
「勝手に話を進めてしまって申し訳ないけど、これからのここでの生活の準備の為にも、ウェント嬢には、今日からこの邸に住んでもらう予定だからね」
「……………はい?」
勝手に話が進んでいるレベルじゃない。私がこの邸に来たのが昨日の夕方で、今はお昼前。1日も経っていないのに、こんなにも早く話が進む筈がない。
「ウェント伯爵にね、君の状態を詳しく報告してあげたんだ。それで、保護する為にも俺の邸で預かると言ったんだ」
「え?」
「そうしたら、『アンバーが、そんな状態になっているとは知らなかった』と言われたから、『なら、余計に伯爵家に帰す事はできない』と言ったんだ。大切な娘の状態も把握できず、誰がやったのか分からないのなら、帰って来ればまたやられるだけだから、それを分かっていて帰す事はできないと言ったんだ」
それでも伯爵は、何かを言い募ろうとしたそうだけど、『令嬢の状態を、国に報告しても良いんだよ?』と言えば、伯爵は渋々了承したそうだ。それはそうだろう。国に報告なんてされてしまえば、補助金が打ち切られる可能性があるから。
でも、私にとってはとても有り難い話だ。でも─
「それでは、スペンサー様には迷惑を掛けてしまいます。どうしたって、私には“魔力無しの黒色持ち”が付き纏って来ますから」
国が動いたところで変わらなかった。期待する度に、それに反比例するように傷が増えていった。そして、私は期待する事を諦めるようになった。
スペンサー様の心遣いは嬉しいけど、期待する事が怖いとさえ思ってしまうのだ。
それから、もう一度診察を受けて問題無いと診断された後、朝食を食べて、午前中はゆっくりと過ごした。そして、そろそろ昼食の時間と言う前に、私を助けてくれた2人が部屋へとやって来た。
「本当に、助けていただいた上に、治療までしていただいて、ありがとうございました。遅くなりましたけど、私は、アンバー=ウェントと言います」
「俺は、グウェイン=リベルトだ」
「俺は、ウィル=スペンサー。俺は留学生としてやって来たんだ。グウェンは、俺の叔父で、この留学に保護者として付いて来てもらっているんだ」
そう言えば、来年度から他国から黒色持ちの留学生が来ると言っていた。それが、このウィル=スペンサー様。爵位こそ言わなかったけど、他国に留学できるのなら、きっと高位貴族の令息なんだろう。
「留学許可が下りた際に、俺の他にも黒色持ちが居ると聞いていたんだけど、ウェント嬢の事だった?」
「多分……私の事だと思います」
とは言え、今回は大怪我をしても助けられた上、治療もしてもらって元気にはなったけど、これでウェント伯爵がおとなしくするとは思えない。学校が始まる迄まだ3ヶ月はあるから、また何か仕掛けて来るだろうし、そうでなくても、何かと理由をつけて閉じ込めようする筈。そうなれば、学校にも行けない訳で……。
「それなら、ウェント嬢が良ければ、学校に居る間、俺のサポートをしてくれないかな?」
「サポート……ですか?」
「留学するにあたって、この国の事は色々と勉強したけど、細かい所までは分からないし、その分からないところを補ってもらえると助かるんだけど…」
「でも、私は……」
貴族に於けるマナーやルールは、自分を守る為に勉強した。上辺だけの勉強は受けられたけど、それでは足りなくて、こっそりと隠れて勉強した。それでも、私が留学生をサポートできる程の知識はないと思う。
「それに、留学生の俺と一緒に居れば、ウェント嬢に手を出して来る奴も少なくなると思うんだけど」
「え?」
「この国は、未だに黒色持ちに対して良いものがないだろう?そんな国に、黒色持ちの俺の留学が許可されたのは、国王が、何とかして国民の黒色持ちに対する意識を変えたいと言う思いからなんだ。ある意味、俺は国賓って事だ。そんな俺と一緒に居れば、ウェント嬢にも簡単に手を出して来るような奴は居ないと思う。それで、俺は俺でサポートしてもらえて助かるから、ウィン・ウィンだと思うんだけどね?」
「………」
ーどうして、こんなに優しいんだろう?ー
目の前のスペンサー様は微笑んでいるし、その後ろに居るリベルト様もうんうんと頷いている。
もし、このまま何事も無く入学できたとしても、入ってからの事は、正直心配もあった。黒色持ちの私が、平穏な学生生活を送る事は難しいだろうと思っていた。でも、スペンサー様と一緒に居れば──
ー期待したら駄目だー
きっと、伯爵が黙っていない。今迄だって、そうだった。私に優しくてしてくれた侍女は、いつの間にか邸から追い出されていた。裏庭で隠れて餌をあげていた犬は、ある日大怪我をして倒れていた。私に気を遣ってお菓子をくれた家庭教師も、その翌週から来なくなり、体罰主体の家庭教師がやって来るようになった。だから、今回も───
「ウェント伯爵の事なら気にしなくて良いよ」
「え?」
「勝手に話を進めてしまって申し訳ないけど、これからのここでの生活の準備の為にも、ウェント嬢には、今日からこの邸に住んでもらう予定だからね」
「……………はい?」
勝手に話が進んでいるレベルじゃない。私がこの邸に来たのが昨日の夕方で、今はお昼前。1日も経っていないのに、こんなにも早く話が進む筈がない。
「ウェント伯爵にね、君の状態を詳しく報告してあげたんだ。それで、保護する為にも俺の邸で預かると言ったんだ」
「え?」
「そうしたら、『アンバーが、そんな状態になっているとは知らなかった』と言われたから、『なら、余計に伯爵家に帰す事はできない』と言ったんだ。大切な娘の状態も把握できず、誰がやったのか分からないのなら、帰って来ればまたやられるだけだから、それを分かっていて帰す事はできないと言ったんだ」
それでも伯爵は、何かを言い募ろうとしたそうだけど、『令嬢の状態を、国に報告しても良いんだよ?』と言えば、伯爵は渋々了承したそうだ。それはそうだろう。国に報告なんてされてしまえば、補助金が打ち切られる可能性があるから。
でも、私にとってはとても有り難い話だ。でも─
「それでは、スペンサー様には迷惑を掛けてしまいます。どうしたって、私には“魔力無しの黒色持ち”が付き纏って来ますから」
国が動いたところで変わらなかった。期待する度に、それに反比例するように傷が増えていった。そして、私は期待する事を諦めるようになった。
スペンサー様の心遣いは嬉しいけど、期待する事が怖いとさえ思ってしまうのだ。
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