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#プロポーズ
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「ど、どうしてほしいの?」
意地とプライドと、少しの羞恥が入り混じった表情で、アイリーンがなんとか問いかけた。
周囲のスタッフや客たちが(その調子、その調子)と温かく応援しているのが伝わってくる。
カリオンは笑った。
「お、やっと聞いてくれたね。じゃあ……キスは?」
「キス!? せ、性的接触はお店の規約で禁止だから……!」
「ふぅん……じゃあ、俺の本当の女王様になって。一生」
にっこりと微笑みながら、カリオンがさらりと言った言葉に、アイリーンが固まった。
「えっ……?」
店内がざわついた。
常連たちが色めき立ち、スタッフも目を丸くする。新米女王様への、公開プロポーズ──。
「少し彼女と話がしたいので、縄を外してもらえますか?」
「あ、はーい」
スタッフが慌てて縄をほどき、二人はカウンターの端、静かな席に移動した。
席につくなり、アイリーンは警戒心むき出しでカリオンを睨んだ。
「な、何を企んでるの……?」
「利益は一致してるのに、君が頑なだけだよ」
「あなたの利益って?」
アイリーンの声には疑念がたっぷりこもっていたが、カリオンは平然と指折り数えはじめた。
「まず、お見合いをセッティングした上司の顔が立つ。覚えめでたくなって、出世も期待できる。若くて綺麗な奥さんを仲間に自慢できる。さらに奥さん兼女王様まで手に入るんだ。最高だろ?」
「……」
言葉を失い、アイリーンが眉を寄せた。そんな彼女に構わず、カリオンはにこやかに続ける。
「君にとってのメリットは、家族と完全に縁を切れること。式も披露宴もせずに籍だけ入れて『もう他人です』と宣言する。君が嫌な時は俺が責任を持って追い返すから、自由で安全な生活が手に入るよ。──しかも特典として、君が欲しがる奴隷までセットだ」
「奴隷……」
「いい条件だと思わない?」
カリオンは意地悪く微笑んだが、アイリーンの表情はまだ迷いに満ちている。
すると、それまで黙って見守っていた常連客やスタッフが近寄ってきた。
「アイリーンちゃん、これはすごくいい縁談だよ?」
「こういう条件の結婚、逃したらもう二度とないわよ?」
口々に説得されて、アイリーンはますます動揺する。
「でも、私……」
「あなたは早く結婚したほうがいいわ。じゃないと、弱みにつけ込むひどい男に騙されそう」
(それは俺も思ってた……)
彼女はとても危なっかしいのだ。今まで頼る相手もなく一人で頑張って来たから平気だと思っているようだが、「辛かったね」と同情する男が現れたらころっと騙されそうだった。
そいつがヒモになって金づるにされても、別れられずにずるずる付き合うのが目に浮かぶ。そんな目に遭わせたくない。守りたい。
「こ、この人がひどい男かもしれないし……っ」
「上司が仲介してくれた相手でしょ? 上司の手前、絶対に暴力なんて振るえないし、何かあっても上司や仲人が仲裁してくれるじゃない」
ぐうの音も出ずにアイリーンは黙った。
カウンターに頬杖をつきながら、カリオンはアイリーンを見つめた。
「君はそうやって、条件のいい相手を遠ざけてクズに引っかかりそうだよね。自己評価が低いから、まともそうな相手には気後れして尻込みするんだろう? 教授は君のそういう性格をわかってて、ちゃんとした相手を紹介できるフェリクス卿に仲介を頼んだんだ。――で、俺に話がまわってきた。俺より条件のいい男はそうそういないよ」
強引だし弱みにつけ込んでいる自覚もあったが、アイリーンを一人にしておきたくないので卑怯な手も使わざるを得なかった。
他の男と幸せになってくれたらまだ「よかった」と思えるが、毒母にボロボロにされて苦しみに一人で耐えていたアイリーンを思い出すと、いつ心折れて自死を選んでもおかしくないと思えた。
悠長に他の男なんて待っていられないのだ。
この店はアイリーンにとって唯一本当の自分でいられる居場所のようだが、あの母親に見つかったらどうなるか、居場所を失ったらアイリーンがどうなるか――考えるだけで肝が冷える。
「俺にしておきなよ、女王様」
彼女を見つめ、カリオンは手を差し出した。
「…………」
アイリーンは数秒じっと手を見つめてから、かすかに震える指で、そっとその手を握った。
「わ、わかったわよ……後悔したって知らないからね!」
店内に、あたたかい歓声が広がった。
カリオンはアイリーンの指をぎゅっと包み込んだ。
「それじゃあ、これからよろしく、女王様」
意地とプライドと、少しの羞恥が入り混じった表情で、アイリーンがなんとか問いかけた。
周囲のスタッフや客たちが(その調子、その調子)と温かく応援しているのが伝わってくる。
カリオンは笑った。
「お、やっと聞いてくれたね。じゃあ……キスは?」
「キス!? せ、性的接触はお店の規約で禁止だから……!」
「ふぅん……じゃあ、俺の本当の女王様になって。一生」
にっこりと微笑みながら、カリオンがさらりと言った言葉に、アイリーンが固まった。
「えっ……?」
店内がざわついた。
常連たちが色めき立ち、スタッフも目を丸くする。新米女王様への、公開プロポーズ──。
「少し彼女と話がしたいので、縄を外してもらえますか?」
「あ、はーい」
スタッフが慌てて縄をほどき、二人はカウンターの端、静かな席に移動した。
席につくなり、アイリーンは警戒心むき出しでカリオンを睨んだ。
「な、何を企んでるの……?」
「利益は一致してるのに、君が頑なだけだよ」
「あなたの利益って?」
アイリーンの声には疑念がたっぷりこもっていたが、カリオンは平然と指折り数えはじめた。
「まず、お見合いをセッティングした上司の顔が立つ。覚えめでたくなって、出世も期待できる。若くて綺麗な奥さんを仲間に自慢できる。さらに奥さん兼女王様まで手に入るんだ。最高だろ?」
「……」
言葉を失い、アイリーンが眉を寄せた。そんな彼女に構わず、カリオンはにこやかに続ける。
「君にとってのメリットは、家族と完全に縁を切れること。式も披露宴もせずに籍だけ入れて『もう他人です』と宣言する。君が嫌な時は俺が責任を持って追い返すから、自由で安全な生活が手に入るよ。──しかも特典として、君が欲しがる奴隷までセットだ」
「奴隷……」
「いい条件だと思わない?」
カリオンは意地悪く微笑んだが、アイリーンの表情はまだ迷いに満ちている。
すると、それまで黙って見守っていた常連客やスタッフが近寄ってきた。
「アイリーンちゃん、これはすごくいい縁談だよ?」
「こういう条件の結婚、逃したらもう二度とないわよ?」
口々に説得されて、アイリーンはますます動揺する。
「でも、私……」
「あなたは早く結婚したほうがいいわ。じゃないと、弱みにつけ込むひどい男に騙されそう」
(それは俺も思ってた……)
彼女はとても危なっかしいのだ。今まで頼る相手もなく一人で頑張って来たから平気だと思っているようだが、「辛かったね」と同情する男が現れたらころっと騙されそうだった。
そいつがヒモになって金づるにされても、別れられずにずるずる付き合うのが目に浮かぶ。そんな目に遭わせたくない。守りたい。
「こ、この人がひどい男かもしれないし……っ」
「上司が仲介してくれた相手でしょ? 上司の手前、絶対に暴力なんて振るえないし、何かあっても上司や仲人が仲裁してくれるじゃない」
ぐうの音も出ずにアイリーンは黙った。
カウンターに頬杖をつきながら、カリオンはアイリーンを見つめた。
「君はそうやって、条件のいい相手を遠ざけてクズに引っかかりそうだよね。自己評価が低いから、まともそうな相手には気後れして尻込みするんだろう? 教授は君のそういう性格をわかってて、ちゃんとした相手を紹介できるフェリクス卿に仲介を頼んだんだ。――で、俺に話がまわってきた。俺より条件のいい男はそうそういないよ」
強引だし弱みにつけ込んでいる自覚もあったが、アイリーンを一人にしておきたくないので卑怯な手も使わざるを得なかった。
他の男と幸せになってくれたらまだ「よかった」と思えるが、毒母にボロボロにされて苦しみに一人で耐えていたアイリーンを思い出すと、いつ心折れて自死を選んでもおかしくないと思えた。
悠長に他の男なんて待っていられないのだ。
この店はアイリーンにとって唯一本当の自分でいられる居場所のようだが、あの母親に見つかったらどうなるか、居場所を失ったらアイリーンがどうなるか――考えるだけで肝が冷える。
「俺にしておきなよ、女王様」
彼女を見つめ、カリオンは手を差し出した。
「…………」
アイリーンは数秒じっと手を見つめてから、かすかに震える指で、そっとその手を握った。
「わ、わかったわよ……後悔したって知らないからね!」
店内に、あたたかい歓声が広がった。
カリオンはアイリーンの指をぎゅっと包み込んだ。
「それじゃあ、これからよろしく、女王様」
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