魔族への生贄にされたので媚びまくって生き残ります

白峰暁

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14_皆様と食事会を開けるなんてとても嬉しいです

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「ほら、シルフィア。今回仕入れたものよ」
「わあ……! こんなに沢山、いいんですか!?」


 ある日、キッチンでリモネに仕入れたものを見せられて、私は歓喜の声をあげた。
 今まで見た事がないような魔物の肉や植物……豊富な食品が集められている。
 今まで私が差し入れを作るときはありあわせのものや保存食で作ることが多かったから、こんなに新鮮な食材がここに集まるのは初めてだ。


 私が食品を見つめていると、クリムトも荷物を持ってキッチンに入ってきた。


「リモネ、こちらも持ってきた。人間……今回の仕入れは、レヴィウス様の意向によるものだ」
「レヴィウス様が?」
「シルフィア、レヴィウス様はアナタの差し入れが仕事の役に立っているって改めて言ってくれたのよ。それで、アナタが望むならだけど……この城の中で食事会を開かないかって。今度レヴィウス様と使用人たちが集まれるときがあるから、そのタイミングでやらないか、と」
「――!」

 それを聞いて、私は破顔する。

「はい! 是非やらせていただきたいです。普段は軽食を作っていましたけど、みんな集まるなら前菜やメインも作った方がいいですよね。何か苦手な食材があれば教えてください!」
「苦手な食材などあるものか。レヴィウス様も、『シルフィアの好きなように作れ』と言っていたぞ」
「あ。アタシには苦手なものはないけど、好きなものはあるわ。前に作ってくれた果実のドリンク、もう一度作ってほしい。あとデザートも付けなさいよ」


 各自のリクエストをメモしつつ、私は内心で安堵していた。


(レヴィウスは、人間に対する警戒心を緩めてくれたのかもしれないわね)


 あの日以降、私とレヴィウスが二人になることはなかった。そもそもレヴィウスは仕事が忙しいようで、中々城に戻ることがなかったのだ。
 あそこまでレヴィウスの事情に踏み込んで大丈夫だったか心配していたけど……一応彼は好意的に受け止めてくれたようだ。


 レヴィウスが私の働きを認めて、みんなに食事を出せることになったのはシンプルに嬉しい。
 頑張ってメニューを考えよう――と思った。肉と魚、野菜に加えて、デザートと前菜も作るようにして……。


 そう予定を立てていると、クリムトが私に一歩近付いて咳払いをして言った。


「それと、人間。レヴィウス様からの伝言だ。今度の集会でお前をミロワール様のもとへ連れて行くことが正式に決まった」
「……!」
「贈り物は栄養状態が良い方が好まれるだろう、清掃の仕事等は無理し過ぎないように――とのことだ」
「はい! 私が贈り物として選ばれたこと、光栄なことだと存じています! ありがとうございます!」
「食事会を開いて……そこから一週間くらいしたら集会の日なのよね。だからこそ、レヴィウス様は集まる機会をくれたのかしら。……はあ。ストレイウス家とアドラー家は親交があるから、ミロワール様のもとに行った後もこの城に戻ってくる機会はあるかもね。そのときに、前みたいにアタシに差し入れをしてくれてもいいのよ?」
「リモネ。ミロワール様のもとに行ったら、この人間はミロワール様の管理下に置かれる。こいつにあれこれと注文をつけるのはやめろ。レヴィウス様すらこの人間に命令を下すことは出来なくなるのだぞ」
「……そうね。シルフィア、ごめんなさい。今言ったことは忘れてくれていいわ」
「そんな! 私にそう言って頂けたことは嬉しいです。この城にいる間に沢山差し入れを作りますし、レシピも残しておきますね!」



 リモネにそう言いつつ、私は頭の中で考える。
 ――ミロワールのもとへ行くことは、いい。それより前に殺されてしまうような事態にはならないようで、助かった。
 でも、ミロワールの方針によって全て決まるというのは……ちょっと恐ろしい気がする。


(魔族の住処では人間の権利が軽いというのはどこでも同じみたいね。魔族間の贈り物は丁重に扱われることもあるみたいだけど、今回はアドラー家の方がストレイウス家に恩がある形だから、ストレイウス家に贈り物を自由に扱う権利がある……そんな感じみたいね)


 やっぱり、平和に暮らすためには人間界に戻るしかないのかもしれない。
 だが、ミロワールの城でそれが叶うのか――私の不安は消えなかった。


 ****

 やがて、食事会をする日になった。
 前菜のスープ、野菜のジュレ、魚のポワレ、肉をローストしたもの、デザートのプチフール……
 この城の人数分の料理を作った。ハウディはこの日のために私が訓練したため、床ではなくテーブルで他の魔族と一緒に食べることが出来る。
 普段はここまで沢山のメニューを作る訳ではないから骨が折れたけど、その分充実した時間を過ごせたと思う。


(魚や肉に合うソースを魔族の食糧でどう調合するかも調べられたし、いい勉強になったわ)


 今回の食事会は食堂を使うことにした。食堂のテーブルは細長い長方形の形になっており、端の席は他よりも豪華になっている。あそこは城の主や来賓の者が座る席なのだろう。


 使用人たちとテーブルに食事を用意していると、レヴィウスが食堂に現われた。
 彼と会うのは部屋で二人で話したとき以来のことだ。


「レヴィウス様、お疲れ様です! このたびは私にこの晴れの席をお任せ頂いて大変光栄であります!」
「ああ。使用人たちが好んでいる料理というものを俺も知りたいと思ったからな。シルフィア、お前の働きに感謝しよう」
「こちらこそありがとうございます。レヴィウス様はこちらの席ですよね? どうぞ」
「……待て、シルフィア」


 レヴィウスは遠くの席に座ろうとする私を静止し、隣の席を指して言った。


「お前はこちらに座れ」
「えっ。しかし、そこは……」
「レヴィウス様! そこは上座に当たる場所。人間にそこに座らせるより、リモネに座らせた方が適任と存じますが」
「クリムト、正式な場ではそうかもしれない。が、今は身内同士での会だ。そこまで拘らなくても良い。それに、俺は人間の作った料理を詳しく知ってみたいのだ。シルフィア、俺に解説してくれるか」
「……! は、はい! わかりました!」


 私はきらきらした声色でレヴィウスの隣の席につく。
 彼は穏やかな顔でこちらに微笑んでいた。


(みんながいる手前では言えないことだけど……ゴルディウスとカストロの話をしたから、レヴィウスは食事会がどんなものなのか気になったのかも。私の話で人間に対して前向きに興味を持ってくれたなら嬉しいな)



 食事会は和やかに進んだ。
 リモネは豪華な食事を喜んでくれたし、ハウディも珍しい見た目をした食事に最初は戸惑っていたようだけど、一度食べ始めたら美味しそうに完食してくれた。レヴィウスは料理のメニューについて私に逐一質問して、私が答えるごとに興味深そうにしていた。


 私はミロワールの城へ向かうことになるけど、その先でここまでいい関係は築けないかもしれないな――と思い、少し切なくなった。
 けど、晴れの席だからそれは隠すようにした。


 ****


 宴もたけなわになった頃、レヴィウスにクリムトが耳打ちする。


「レヴィウス様。先程のことですが、ミロワール様から手紙が届きました」
「ああ、そうか。ありがとう」
「詳しくは後でレヴィウス様に見ていただきますが、相変わらずミロワール様の人間界への興味は変わっていないようで。なんと、人間界への転移装置も開発したらしいですよ」
「ミロワール単独で人間界に赴くということか? 好きものだな……」


(な、な、なんですって!?)


 平静を装って食後の紅茶を飲んでいた私だが、レヴィウスとクリムトの話に内心ガクガクしていた。


 今度会うミロワールという魔族は、人間に興味があるらしい。
 そして、人間界に行ける転移装置も作ったらしい。


(ということは……私がミロワールのところに引き渡されたとして、うまいこと転移装置を使えれば人間界に帰れるんじゃない!?)



「人間界と近付きすぎる意思を示したら、魔族間での印象は下がるでしょうに。ミロワール様の立ち回りは不可思議ですね」
「良くも悪くも、あまり他者の評価を気にするたちでは無いのだろうな。前に城に行ったとき、ミロワールの私室は随分とモノで溢れているように見えたし、使用人は小言を言っていた。だがミロワールはさほど気にしてないようだった」
「はぁー! レヴィウス様とは随分異なる主ですな。私はレヴィウス様が主で幸運でしたぞ!」
「アタシもです! レヴィウス様以上によい主は存在しませんわ!」
「私もクリムト様やリモネ様と同じく思います。初めて会った魔族がレヴィウス様で本当に良かったです~!」
「ふん。シルフィア、貴様のその審美眼については褒めてやってもいいな。レヴィウス様と過ごせる時間はあと僅かだが……よく噛みしめるのだぞ」
「……はい! この先何があっても、レヴィウス様との思い出は胸に抱き続けます!」


 クリムトに向かって、私は笑顔で答える。
 レヴィウスは何か言いたげに私を見つめていたが、言葉を発することはなかった。
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