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15_レヴィウス様の部屋に招かれるなんて恐縮です
しおりを挟む私のやるべきことは概ね決まった。
魔族の集会の日にミロワールのもとへ行くことと、そのときまで体調を崩さないようにすること。
ということで、私は清掃の仕事を免除されるようになった。
(清掃の仕事が無くなったといえど、差し入れを作ったりレシピを書き起こしたりしてるから、なんやかんやと働いてはいるけどね)
それでも、前よりは空き時間が増えた。
今日の分の差し入れを作る作業が終わり、私は食事を保存庫に入れて背伸びをした。
今日はクリムトもリモネもハウディも城にいない。彼らが戻ってきたら保存庫から自由に取ってもらうことにした。
(前も同じようにおやつを作って保存庫に入れたことがあって、次の日に見たら全部無くなってた。みんなが取っていったってことよね。私の作ったものを喜んで貰えるのは嬉しいな)
毎日のように軽食を作っている影響で、私の料理作りの腕も前より上達したと思う。
広い城の中を清掃することで、料理に必要な体力もついていた。
(何より……ミロワールの所へ行ってから人間界に戻るには、体力も必要だよね)
ミロワールのもとには人間界に戻る装置があると聞いた。それが誰でも使えるような場所にあるかはわからない。隠されているなら、こっそりと探し当てるしかない。その捜索のため……及び、無事に人間の街へ戻るためには、相応の体力が必要になるだろう。
私は未だに人間の街に帰りたいと思っている。
魔族の住処では人間の命が保障されないという問題は今も継続しているし、今世の家族が生きている頃、彼らは私のカフェを開きたいという夢を応援してくれたのだ。それもあって、人間の街で平穏に過ごしつつ店を開きたいという夢は今も変わっていない。
……だが、少々気に掛かることがある。
(私がミロワールの城に行った後に逃げ出したら、レヴィウス達はどう扱われるんだろう)
レヴィウスからの贈り物が脱走した――となれば、その矛先はレヴィウス達にも向かうかもしれない。
殺されかけたこともあるとはいえ、最近は皆に良くしてもらっている。そんな相手が悪い立場になるかもしれないと思えば、私の良心は痛む。
それに、「人間はやっぱり信用出来ない」と思われる可能性もある……。
(ミロワールのもとへ行った上で、なんとか穏便に人間界に帰して貰えるならそれが一番いいわ。理由は、どうしよう……『人間界へ戻って魔族にも優しい人はいるって広める』って約束したら、快く送り出してくれないかしら……)
城の中を歩きながら、私は考え事をする。
仕事を免除されているとはいえ、いつもの習慣はなかなか抜けない。清掃をやっていた頃と同じく、私は城の中を移動するようにした。
単純にレヴィウスの城の中が綺麗で、散歩しているだけで楽しい、というのもある。
そんな風に歩いていたら、私は不意に話しかけられた。
「シルフィア」
「わあっ!? ……レ、レヴィウス様。いらしたのですね。お疲れ様です!」
曲がり角から現われたレヴィウスに礼をしつつ、私は内心動揺する。
今日は使用人たちがみんな不在だし、主であるレヴィウスもいないと思っていたが……いたのか。
「仕事は免除するようにとクリムトには伝えたのだが、伝わっていなかったか?」
「いえ! 今は自由時間なのですが……それでも城の中を見回りたくて! 私、レヴィウス様の城が好きなんです。内装が綺麗で、歴史を感じて……」
「……フ。なら、こちらに来るがいい。新しい部屋を見せてやろう」
「――えっ?」
****
新しい部屋、というのは、レヴィウスの私室だった。
いつもの清掃では各自の私室には入らないようにしているから、部屋に入る時はとても緊張した。
「お邪魔します……」
レヴィウスの部屋に入った私は瞬きをする。
レヴィウスの私室の中にあるのは、机、本棚、ベッド……それにソファ。それくらいである。一般的な人間が使う部屋の間取りとさほど変わりが無い。
本棚の中には多くの本が入っていて、机の上に地図が置かれていることから、勉強家であることが見てとれた。本棚の中の一角にアクセサリー立てが置かれているのが男性の部屋としては珍しい光景かもしれない。
「俺の部屋はどうだ。シルフィア」
レヴィウスがぽつりと言う。私はその言葉にびくりとする。
(へ、部屋の感想を聞いてくるの……!? ということは、褒めた方がいいのかしら。……いや、今までのレヴィウスとのやり取りを考えると、褒める一辺倒はそこまで響いてない感じがしたのよね。それよりも、ところどころで私の本音も織り交ぜた方がいいと見たわ)
私はそう考えつつ、彼に答える。
「こちらのお部屋はとても美しいです! 沢山本があるのに整頓されていて、机の上も綺麗で、レヴィウス様の勤勉なお人柄が窺えました。ですが、こちらの城には他に広い部屋があったので、そこは少々意外だなと。レヴィウス様のお部屋が一番広いものかと思っていました」
「普段使う部屋に、そこまで広さは求めない。今みたいに他人を招くこともほとんど無かったからな……」
「そ、そうなのですか!? 私ごときがこちらの部屋に入ってしまってもいいものなのでしょうか……!」
「ああ。俺が呼びたいと思ったから、呼んだんだ。シルフィア、こちらへ」
レヴィウスは部屋の中のソファに座り、私を招いた。
呼ばれたからには行かなければいけない。私はレヴィウスの隣におずおずと座る。
(や、柔らかいわ。私の身体の負担を全部吸い取ってくれる感じがする。このソファ、買うとしたらどれくらいするんだろう。お給料数年分はかかるわよね……)
流石魔族の領主の家具だ――と私は内心感服する。
身分の高い人が高級品を使っていると嬉しくなる。私は一生平民だろうけど、夢を持てるような気がするから。
いつかカフェを開くなら、理想を言えばこういうソファを店に置きたい。私には手が届かないだろうけど……。
「……このソファが気に入ったか、シルフィア?」
「えっ!?」
「気に入ったなら、俺が不在の間も部屋を使ってくれていい。この家具は城の中でここにしか無いからな」
「いえ! そんなお心遣いは不要です! こういった高貴な家具はレヴィウス様にこそ似合うものですから……!」
私は心臓をバクバクさせながらレヴィウスに答える。
……ソファに感激してることが傍目から見てわかるくらい浮かれてたのかな。
内心を悟られたらまずいこともある。私は気合いを入れて顔を引き締めることにした。
ただし引き締めるといってもキリッとするんじゃなくて、あくまでも柔らかい表情をするように意識する。私は好きな相手と同じ部屋にいるという設定だからね。
私の答えを聞いて、レヴィウスは再度問いかけてくる。
「そうか。それなら、他に欲しいものはあるか?」
「え?」
「手近にあげられるものとして……この部屋の中にあるものなら何でもくれてやろう。食事会を開いてくれたことの礼だ」
「そ、そんな……! 食事を作るのはもともと私の趣味のようなものですから、個別に品物を受け取るなどとてもとても!」
「そうか? お前は何も欲しくないと言うのか?」
私の頭の中にあったのは、清掃仕事中に読んだ『捧げ物の状態の確認について』という本のことだ。
捧げ物は慎み深い性格であるべし、故に捧げる前に何か欲しいものが無いか何度か確認するべし。何回も高価なものを要求する場合、欲深い者として捧げる前に処断すべし。――そんな風に書いてあった。
(私は既に魔石を貰った身だ。これ以上何かもらうのはやめておこう。『欲深い者』とジャッジされて、ここで処断される可能性がなくはないし)
そう思って一応遠慮してみたけど、レヴィウスはどことなく不満そうだ。
レヴィウスは……もしかして、試し行為ではなくて本当に何かを私にあげたがっているのか?
(なんで? だって、私はもうすぐミロワールのところに行く身なのに……)
内心不思議に思いつつ――死の危険がないなら、とりあえずレヴィウスの機嫌を伺ってみることにした。
この部屋の中で、私自身も気になっていたもの。それをねだってみよう。
「では……折角なので、その地図を見てみたいです。それは人間界の地図なのですか?」
私は机の上にある地図を示して言う。
「ああ。ペンで囲ったところは俺の支配下の場所だ」
「そうなのですね。私が人間界にいた頃に見た地図と似ているけど少し違うので、興味深いなと思いました。魔族が使っている地図はこうなのですね」
「ああ。……そうだ。シルフィアに聞きたいことがあったからこれを出していたんだ」
「えっ?」
レヴィウスは、地図のある一点を示す。そこの地名は私にも馴染みがある。私の出身地……ホルト村だ。
「シルフィア。お前の住んでいた村について教えて欲しい」
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