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16_私を生贄にした村人について聞きたいのですか?
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私の住んでいた村。
レヴィウスがそれについて知りたがることに、私は少々嫌な予感がした。
「れ、レヴィウス様。私の出身の村が、何か不義理なことをしましたか? 妙な捧げ物をしただとか……」
「いや。シルフィアが捧げられた以降にホルト村からの捧げ物はない」
「そうですか。それなら良かったです」
「――だが、俺としては、シルフィア、お前が捧げられたことこそが気になるのだ」
レヴィウスが低い声で呟き、ずいっと私の方へと身体を近づけた。
「そ、それはどういうことでしょうか……!」
「お前はホルト村で魔族への生贄として選ばれたということなのだろう。それはどんな経緯で決まったのだ?」
「えっ……」
「昔にはよくあったことだが、人間が魔族に生贄を捧げることを忌避していたのはもうわかっている。生贄とは死出の旅路につくもので、それを強制するのは避けなければいけない……。ゴルディウスの日記にもそう書いてあったからな。だが、お前はこの時代になって生贄として捧げられた。それは同意あってのことだったのか?」
「……いえ。パーティに呼ばれて飲み物を飲んだら眠らされて、気がついたら祭壇にいました」
「お前の家族は守ってくれなかったのか?」
「私の家族は既に亡くなっているので……だから選ばれたのかもしれません」
どう答えるか迷ったが、ここで誤魔化すのも難しく、私は正直に答えることにした。
(そういえば、魔族たちには私がここに来る経緯のことは一切話していなかったわね。昔は昔で今は今って感じで誰も気にしていないのかと思ってたけど、レヴィウスは違ったんだ)
レヴィウスは深く息をついて呟く。
「ホルト村の人間は、汚いな」
「あっ……! でも、こうしてレヴィウス様にお会いすることが出来たので、今思えば村のみんなには感謝しているというか……」
「だが、早々に俺に殺される可能性もあったのだぞ。お前はそれでも村人に感謝したというのか? シルフィア、お前は村人にどんな恩があるというのだ?」
「……」
レヴィウスは、なんでこんなことを聞くんだろう。
……あれかな。人間のことをもっと知りたいと思ったから、私にこうして質問しているのかな。
それなら、真面目に答えた方がいいかもしれない。
ここでの答えでレヴィウスの今後の人間への関わりが変わる可能性があるから。
レヴィウスには人間を必要以上に悪いものと思って欲しくない。かといって、実態よりも良いものだとも思って欲しくない。
弱いところもあるからこそ、魔族が保護した方がいい……と、そう思ってもらえるようにしよう。
「レヴィウス様。正直に言います。レヴィウス様に捧げられたこと自体は幸運だと考えていますが、生贄にされたことに関しては……村人に恨みがあります」
「ふん。そうか。裏切られたら恨みに転ずるのは当然だ、別に恥じるようなことではない。……シルフィア、お前は村人に何を望む?」
「望み……ですか? もう会わないでくれることが一番の望み、ですかね。あちらとしても私にもう一度会うのは気まずいでしょうし」
「会わないだけか? 本当にそれだけでいいのか?」
「……」
「仮定の話と考えてくれていい。シルフィア、お前は不義理をした村人たちに何を望むか? 苦しみか? それとも、命を持って償わせるか……」
レヴィウスが口の端を歪めながら言う。
これは仮定の話なんだろうけど、だとしても重い話だ。
(レヴィウスは嘘が嫌いだから、私を騙したホルト村の人間のことは特に嫌いなんだろうな。私だって村人にはもう会いたくないけど、私の答えがレヴィウスの指針にもなってしまうかもしれないと思うと、責任が大きいわね。……)
私は少し目を閉じて考えた後、答えを口にした。
「うーん……お金ですかね」
「金?」
レヴィウスは虚を突かれたように目を丸くする。
「嫌がらせをされたとき、慰謝料で支払ってもらう。人間界ではその対応が一般的です。私としてはそれが一番いいですね」
「そうか……ホルト村は村といえど人口は多い。村人から無一文になるまで搾り取れば、そこそこの額にはなるか」
「無一文というか、生活には困らない程度に一定割合で取れればいいかなあと……そう思いますね」
「……それでは、村人たちは今まで通りに暮らせてしまうではないか。お前を生贄にするという罪を犯したのに、それでいいのか?」
私は肩を竦めて答える。
「そもそも、今年は特に作物が不作の年でした。このままではみんなの生活が立ち行かなくなるかもという事情があって、苦肉の策で生贄を選んだんです」
「……!」
「平常時ならともかく、そういう状況であることを知っていると、これで命をもって償わせるのもちょっと後ろめたいというか……。お金を取るだけなら、またやり直せるチャンスはあるじゃないですか。出来ればそうしたいですね。あ、後は、もう生贄を捧げたりしないようにって伝えたいです。生贄にして無理矢理人間を確保するのではなく、表からレヴィウス様の慈悲深さや素晴らしさを知らしめれば、自然と人間も集まってくるでしょう!」
私はにこりと笑って答えた。
一応、殆ど本心で言っている。レヴィウスが人間に優しくなれば、魔族に会ってみたいという人が沢山現われてもおかしくないと思うから。
レヴィウスは目を伏せ、声を落として言った。
「お前の考えることはそうか、シルフィア。無欲なことだ」
「無欲? そんなことはないと思いますが」
「俺なら裏切った相手にはその命を持って償わせたいと思ってしまうが……」
「私とレヴィウス様の違いは恐らく、生まれによるものです! 私は村で生活している当時そこまで裕福な暮らしではなかったので、お金の方が欲しいんです。それに、周りとそんなにいい関係を築けてなかった私にも多少は原因があったかもって思いますから、はは」
「……」
「わっ」
話を聞いていたレヴィウスは、続きを遮るように私を抱き締めてきた。
レヴィウスは上背があって手足も長いから、私の身体はすっぽりと覆われる。
(暖かいわ。レヴィウスの体温は……ハウディと同じくらい暖かいかも)
突然の動きに驚き、私は頭の中で明後日のことを考えた。
レヴィウスが何か言ってくれることを待ったけど、彼は黙ったまま動かなかった。
「えっと……レヴィウス様、私のことを慰めてくれているのでしょうか!? ありがとうございます! 下々の者にも慈悲を下さるレヴィウス様の素晴らしさについて、ミロワール様のもとに行ったら多くの方に伝えて回るようにします!」
「やめろ」
「えっ?」
「俺がこうしたことは、他の誰にも話さないでいい……知っているのはシルフィア、お前だけでいい……」
そう呟いて、レヴィウスは改めて私を抱き締めた。
彼の胸に顔が埋まって、私は何も言葉を発せなくなる。
(れ、レヴィウスは……どうしたのかしら。なんか、私が想定したリアクションと違うような。……でも、この感じからすると私に対して同情してくれてるってことでいいのよね。ならいいか。それはそれとして……動けないわ……)
レヴィウスには、人間と魔族の力の差がわかっていないのかもしれない――と思った。レヴィウスが少し力を込めただけで私は身動きが出来なくなる。もし私を攻撃するつもりで絞められたらひとたまりも無いなと思った。
(レヴィウスって喋るより先に行動するところがあるし、やっぱり一緒にいて完全に安心することは出来ないわね。人間に対して態度が軟化してきてるところは、私にとっても嬉しいけどね……)
それから程なくして城にクリムトが帰ってきて、レヴィウスは部屋を出て行くことになるのだが、それまで彼は私のことを無言で抱き締め続けていた。
レヴィウスがそれについて知りたがることに、私は少々嫌な予感がした。
「れ、レヴィウス様。私の出身の村が、何か不義理なことをしましたか? 妙な捧げ物をしただとか……」
「いや。シルフィアが捧げられた以降にホルト村からの捧げ物はない」
「そうですか。それなら良かったです」
「――だが、俺としては、シルフィア、お前が捧げられたことこそが気になるのだ」
レヴィウスが低い声で呟き、ずいっと私の方へと身体を近づけた。
「そ、それはどういうことでしょうか……!」
「お前はホルト村で魔族への生贄として選ばれたということなのだろう。それはどんな経緯で決まったのだ?」
「えっ……」
「昔にはよくあったことだが、人間が魔族に生贄を捧げることを忌避していたのはもうわかっている。生贄とは死出の旅路につくもので、それを強制するのは避けなければいけない……。ゴルディウスの日記にもそう書いてあったからな。だが、お前はこの時代になって生贄として捧げられた。それは同意あってのことだったのか?」
「……いえ。パーティに呼ばれて飲み物を飲んだら眠らされて、気がついたら祭壇にいました」
「お前の家族は守ってくれなかったのか?」
「私の家族は既に亡くなっているので……だから選ばれたのかもしれません」
どう答えるか迷ったが、ここで誤魔化すのも難しく、私は正直に答えることにした。
(そういえば、魔族たちには私がここに来る経緯のことは一切話していなかったわね。昔は昔で今は今って感じで誰も気にしていないのかと思ってたけど、レヴィウスは違ったんだ)
レヴィウスは深く息をついて呟く。
「ホルト村の人間は、汚いな」
「あっ……! でも、こうしてレヴィウス様にお会いすることが出来たので、今思えば村のみんなには感謝しているというか……」
「だが、早々に俺に殺される可能性もあったのだぞ。お前はそれでも村人に感謝したというのか? シルフィア、お前は村人にどんな恩があるというのだ?」
「……」
レヴィウスは、なんでこんなことを聞くんだろう。
……あれかな。人間のことをもっと知りたいと思ったから、私にこうして質問しているのかな。
それなら、真面目に答えた方がいいかもしれない。
ここでの答えでレヴィウスの今後の人間への関わりが変わる可能性があるから。
レヴィウスには人間を必要以上に悪いものと思って欲しくない。かといって、実態よりも良いものだとも思って欲しくない。
弱いところもあるからこそ、魔族が保護した方がいい……と、そう思ってもらえるようにしよう。
「レヴィウス様。正直に言います。レヴィウス様に捧げられたこと自体は幸運だと考えていますが、生贄にされたことに関しては……村人に恨みがあります」
「ふん。そうか。裏切られたら恨みに転ずるのは当然だ、別に恥じるようなことではない。……シルフィア、お前は村人に何を望む?」
「望み……ですか? もう会わないでくれることが一番の望み、ですかね。あちらとしても私にもう一度会うのは気まずいでしょうし」
「会わないだけか? 本当にそれだけでいいのか?」
「……」
「仮定の話と考えてくれていい。シルフィア、お前は不義理をした村人たちに何を望むか? 苦しみか? それとも、命を持って償わせるか……」
レヴィウスが口の端を歪めながら言う。
これは仮定の話なんだろうけど、だとしても重い話だ。
(レヴィウスは嘘が嫌いだから、私を騙したホルト村の人間のことは特に嫌いなんだろうな。私だって村人にはもう会いたくないけど、私の答えがレヴィウスの指針にもなってしまうかもしれないと思うと、責任が大きいわね。……)
私は少し目を閉じて考えた後、答えを口にした。
「うーん……お金ですかね」
「金?」
レヴィウスは虚を突かれたように目を丸くする。
「嫌がらせをされたとき、慰謝料で支払ってもらう。人間界ではその対応が一般的です。私としてはそれが一番いいですね」
「そうか……ホルト村は村といえど人口は多い。村人から無一文になるまで搾り取れば、そこそこの額にはなるか」
「無一文というか、生活には困らない程度に一定割合で取れればいいかなあと……そう思いますね」
「……それでは、村人たちは今まで通りに暮らせてしまうではないか。お前を生贄にするという罪を犯したのに、それでいいのか?」
私は肩を竦めて答える。
「そもそも、今年は特に作物が不作の年でした。このままではみんなの生活が立ち行かなくなるかもという事情があって、苦肉の策で生贄を選んだんです」
「……!」
「平常時ならともかく、そういう状況であることを知っていると、これで命をもって償わせるのもちょっと後ろめたいというか……。お金を取るだけなら、またやり直せるチャンスはあるじゃないですか。出来ればそうしたいですね。あ、後は、もう生贄を捧げたりしないようにって伝えたいです。生贄にして無理矢理人間を確保するのではなく、表からレヴィウス様の慈悲深さや素晴らしさを知らしめれば、自然と人間も集まってくるでしょう!」
私はにこりと笑って答えた。
一応、殆ど本心で言っている。レヴィウスが人間に優しくなれば、魔族に会ってみたいという人が沢山現われてもおかしくないと思うから。
レヴィウスは目を伏せ、声を落として言った。
「お前の考えることはそうか、シルフィア。無欲なことだ」
「無欲? そんなことはないと思いますが」
「俺なら裏切った相手にはその命を持って償わせたいと思ってしまうが……」
「私とレヴィウス様の違いは恐らく、生まれによるものです! 私は村で生活している当時そこまで裕福な暮らしではなかったので、お金の方が欲しいんです。それに、周りとそんなにいい関係を築けてなかった私にも多少は原因があったかもって思いますから、はは」
「……」
「わっ」
話を聞いていたレヴィウスは、続きを遮るように私を抱き締めてきた。
レヴィウスは上背があって手足も長いから、私の身体はすっぽりと覆われる。
(暖かいわ。レヴィウスの体温は……ハウディと同じくらい暖かいかも)
突然の動きに驚き、私は頭の中で明後日のことを考えた。
レヴィウスが何か言ってくれることを待ったけど、彼は黙ったまま動かなかった。
「えっと……レヴィウス様、私のことを慰めてくれているのでしょうか!? ありがとうございます! 下々の者にも慈悲を下さるレヴィウス様の素晴らしさについて、ミロワール様のもとに行ったら多くの方に伝えて回るようにします!」
「やめろ」
「えっ?」
「俺がこうしたことは、他の誰にも話さないでいい……知っているのはシルフィア、お前だけでいい……」
そう呟いて、レヴィウスは改めて私を抱き締めた。
彼の胸に顔が埋まって、私は何も言葉を発せなくなる。
(れ、レヴィウスは……どうしたのかしら。なんか、私が想定したリアクションと違うような。……でも、この感じからすると私に対して同情してくれてるってことでいいのよね。ならいいか。それはそれとして……動けないわ……)
レヴィウスには、人間と魔族の力の差がわかっていないのかもしれない――と思った。レヴィウスが少し力を込めただけで私は身動きが出来なくなる。もし私を攻撃するつもりで絞められたらひとたまりも無いなと思った。
(レヴィウスって喋るより先に行動するところがあるし、やっぱり一緒にいて完全に安心することは出来ないわね。人間に対して態度が軟化してきてるところは、私にとっても嬉しいけどね……)
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