魔族への生贄にされたので媚びまくって生き残ります

白峰暁

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18_レヴィウス様が…そう仰るなら…!

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(何言ってるのこの人?)


 信じられない気持ちで、私はレヴィウスの顔をじっと見つめた。
 旧知の魔族と会って軽口でも言っているのかと思ったが、彼は真剣な表情をしているように見える。


(約束と違うじゃない。今までそんなこと一言も言ってなかったのに……え、じゃあどうなるの? 私はミロワールの城に行けないの? そしたら、人間界に戻る手立てがなくなっちゃうけど……ほんとに行けないの?)


 私は内心大いに混乱しつつ、レヴィウスに質問をする。


「レヴィウス様! あの、私は何か無作法なことをしたでしょうか。そのせいでミロワール様への贈り物としては不適当になったということでしょうか……!」
「そうではない。前々から俺の頭の中にはあったことだ。シルフィア、お前は一足先に城へ帰るんだ」


 私はその言葉を聞いてますます困惑する。


 ……レヴィウスは私・シルフィアをミロワールに引き渡す、という話で進行していたではないか。そういう前提があったから、クリムトやリモネ、ハウディともあらかじめお別れを済ませてきたのに。


(もしかして、今になって私を渡すのが惜しくなったのかしら。私が料理のレシピを作ったりするのを有用だと評価してくれていて、このまま城にいて欲しいと思ったとか。それなら、嬉しいは嬉しいけど……困るわ!)


 このまま城に帰ったら人間界へ戻れる可能性が無くなってしまう。
 レヴィウスに一目惚れしたから一緒にいたい、という体でここまでやってきたので、彼に人間界へ戻りたいと言うのは不自然になってしまう……!



(それ以前に、これって契約違反にはならないのかな。ストレイウス家とアドラー家は友好関係にあると思っていたけど、この契約不履行で関係が悪くなったりしないかしら……? だ、大丈夫? それとも私が魔族の慣習に詳しくないだけで、こういうのは良くあることなのかな?)


 私はちらりとミロワールの反応を窺う。


 ミロワールは不満そうに息を吐き出し、レヴィウスに文句を言った。


「いやいや、レヴィウスくん。それは通らないんじゃないかい? 事前の口ぶりだと『人間を引き渡す』というニュアンスで話が進んでいたじゃないか。今になって約束を反故にするのは良くない。アドラー家の信頼にも関わってくる行為だ」


(あっ、だめか。まあそれはそうよね……)


 ミロワールはエキセントリックな性格をしている印象を受けたけど、この話においては彼の方に正当性がある気がする。


 レヴィウスはミロワールの追求に小さく頷き、そして自分の服の中を探って革袋を数個取り出した。
 それを彼に渡しつつ説明する。


「期待を持たせたことについては悪かったと思っている。無論、補填はする。ここに持ってきたのはアドラー領の珍しい鉱石や新しく開発した薬だ。確認してくれ」


 革袋を受け取ったミロワールは、無言で中の物を検分する。
 やがて、息をついて口を開いた。


「……確かに、この中に入っているのは貴重な品ばかりだ。市場に中々流れないようなものが一気に手に入る。ここまで色々用意してくれるということは……きみ、本当にその人間ちゃんを渡したくないんだね」
「シルフィアの代わりに、これらの土産は全て渡そう。ストレイウス家にとって悪い選択では無いと思うが」
「……うーん。正直、僕的にはまだ難しいかなって思ってるんだよね」
「なんだと?」


 肩を竦めたミロワールは、私のことをじっと見つめながら言う。


「プレゼントにかわいい小鳥を頼んだとして、当日になって『やっぱり宝石にします』って言われたらさ、どんなに綺麗で価値がある品だとしてもがっかりしない? 今の僕はそんな気持ちなわけ。レヴィウスくんがシルフィアちゃんを渡してくれないなら――そうだな。ひとつ僕のお願いを聞いてほしいな」
「……叶えられるものは叶えよう。何だというんだ」
「この後の魔族会議に出席して欲しい。シルフィアちゃんも一緒に」
「わ、私ですか!?」
「あ、そのベールは取った上で出席してね。それをやってくれたら、シルフィアちゃんのことは諦めるよ」


 名前を出された私はびくりとする。


 レヴィウスは険しい顔でミロワールに向き直った。


「つまり、シルフィアが人間であることがわかった状態で出席しろということか? それは、周りの魔族が……」
「人間がいることに対する反応はあるだろうね。良くも悪くも。でも、レヴィウスくんがシルフィアちゃんとこれから城で暮らすことを望むなら、今会議に一緒に出るのが一番いいと思わない?」
「そ……それはどういうことなのですか?」
「レヴィウスくんの家が過去に人間と問題を起こしたのは皆知っていることだ。そういう過去があった上で、人間をこっそり迎えたことがバレたら、時間が経てば経つほど咎める声が増えると思う。僕が人間を城に住まわせるのとは訳が違うよ」



 ミロワールの話を聞いて、私は内心想像する。
 ……過去に不祥事を起こした者が、また同じようなことを繰り返そうとしてる、みたいに思われるということか。


(じゃあ、レヴィウスの城に住み続けること自体がリスクなんだ。私があの城の魔族とやっていけたとしても、他の魔族から批難される可能性があるんだ。それなら、レヴィウスも考えを改めて、私をミロワールに引き渡そうとするんじゃないかしら……)


 そう考えていると、肩を大きい手で掴まれた。
 その手の持ち主、レヴィウスが私を見つめながら言葉を発する。



「シルフィア。……会議に出よう」
「えっ」
「お前を出席させるつもりは無かったが、事態が変わってきた。ミロワールの言う通り、後になってシルフィアを匿っていたことが知られたら批難の的にされるかもしれない。だが、今はシルフィアが城に来てからそこまで時間が経っていない。うまくすれば俺たちのことを一気に認めて貰える可能性がある」
「そ……そうなのですか? ですが、私は会議でも恐らく何も発言出来ず、レヴィウス様にご迷惑がかかるかもしれなくて……」
「俺なりの策を事前に考えてある。お前は何も喋らなくていい。だから、行こう」



 レヴィウスは私を勇気づけるかのように笑みを浮かべてそう言った。
 彼がこういう風に笑うのは珍しい。私と出会ったときと比べると本当に態度が柔らかくなったと思う。


「えっと……えー……レヴィウス様がそう仰るならば……私はレヴィウス様の言う通りにいたします!」


 ――駄目だ。
 この場でレヴィウスを説得する理由を考えたけど、うまく思いつかなかった。
 私は声を震わせながら、レヴィウスにそう答えた。


 ミロワールは、そんな私たちを見つめて笑みを浮かべている。


(レヴィウスのことはともかくとして……彼は何を思って笑っているんだろう? 何を思って私を魔族会議に出席させたいの?)


 ミロワールが言っていたように、レヴィウスのためを思ってのことなのか?
 ……なんとなく、それが全てではないような気がする。
 ミロワールは生き物を観察することが好きらしい。珍しいものを見たいから、私を魔族会議の場に出席させようとしている……そんなところなのだろう。
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