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19_私などが魔族会議に出席するなど恐縮です
しおりを挟む魔族会議の会場は、広々とした会議室だった。天井には繊細な金細工が施されたシャンデリアがかかっており、壁際の棚の意匠も美しい。
ストレイウス家は魔族たちの中で最もお金がある家だと聞いたが、いざ中に入るとそれを実感する。
自分に余裕があれば家具を観察してその美しさを目に焼き付けたかった。
なのに、今の私はそれが出来ない立場だ。
周囲から圧迫感を感じて、机の上に目を彷徨わせている。
(ここにいる魔族たちはみんな、私のことを邪魔者だと思っているみたいね……)
今の私は姿を隠すベールを脱いで会議の席に座っている。ミロワールがそう命令したからだ。
私の隣にはレヴィウスがいて、長方形の机の周りには魔族達が沢山座っている。20人以上はいるだろうか。会議の必須の出席者は総勢で12人いる魔族の領主たちと聞いたが、領主に加えて部下も出席することがあるからこの人数になったのだろう。
それらの魔族は、私のことを懐疑的な目で見ている。
(何もなければミロワールの城の中を観察したかったけど、多分他の魔族からしたら人間がキョロキョロしていたらいい気がしないわよね。今は大人しくしておこう。その上で、魔族の様子をチェックするのは忘れないようにしよう)
魔族に敵愾心を持たれているのは恐ろしいけど、思えば私がアドラー家の魔族たちと会ったときも悪い印象は持たれていたのだ。
彼らが何を求めているかを見極めれば、地雷を回避することが出来るかもしれない。
(レヴィウスは喋らなくてもいいと言ってくれたから、基本的には発言は彼に任せることにしよう。何事もなく終わればいいんだけど……)
無事に会議が終わったとして、私のこれからの生活がどうなるのかはわからない。レヴィウスが約束を白紙にしたから、ミロワールの城に行くという当初の話もお流れになってしまいそうだし……。
(レヴィウスは、どうしてあんなことを言い出したのよ……)
あれから会議に出るまでに手続き等が必要で時間が無く、そのことについてちゃんと話をすることは出来なかった。
――とりあえず今の状況を乗り切らないと始まらなさそうだ。
****
「皆様、お集まり頂いて何よりです。今回の魔族会議の議長のミロワール・ストレイウスです。進め方としては、大きなトピックがあれば参加者から出して欲しいと思ってます。それでは、この時点で何か質問がある方はいますか?」
ミロワールが時候の挨拶をして、この時点で何か質問があるか参加者に意見を募る。
ミロワールの言葉が終わると同時に、勢いよく立ち上がった者がいた。
「レヴィウス・アドラー! 貴様、その隣にいる者は人間だろう!? どういうつもりでこの場に連れてきた!?」
吠えるような声に、私は肩をびくりとさせる。
レヴィウスが私を庇うように少し前に出たけど、相手の怒りの目は変わらずこちらへ向けられていた。
「この者は、俺が城に住まわせている人間だ。生贄として捧げられたものだが、俺としてはこれから生活を共にする者になって欲しいと考えている」
「魔族が人間を城に住まわせるだと!? ……そうか、実験動物のような存在、ということか?」
「違う。もっと対等な関係でいることを望んでいる」
「何をほざくか!?」
狼のような耳を持つその魔族は、ローヴァイン家の当主、ダズ・ローヴァインだろう。事前に魔族の出席者の名簿を見ていたから、誰がどこに座っているかはわかっていた。
その隣にいるのは、チェルシー・バッツ。ふわふわの巻き毛のピンクブロンドのロングウェーブの髪を持つ女性の魔族だ。クリムトやリモネと同じくバッツ家の出身ということで印象に残っていた。チェルシーはダズの補佐としてこの会議に出席したのだろう。
そのチェルシーがダズに頷き、レヴィウスに向かって言葉を発する。
「アドラー家当主が昔に起こした人間との接近事件を切っ掛けにして、魔族の住処が荒らされたのは皆様の知るところですわ。現当主のレヴィウス様は誰よりも人間を憎んでいると存じましたが……何故この場に人間を連れてきたのですかぁ? あ、この場で人間を処刑して魔族たちの支持率を上げようと思ったのですか? それなら大歓迎です!」
「ああそうだな、チェルシーの言う通りだ。レヴィウス、近年のアドラー家は領地の収入を伸ばしつつあると聞いた。アドラー家が過去のやらかしを反省してこの会議で挽回するつもりなら、それは悪い判断ではないぞ!」
ダズはふんぞり返ってレヴィウスにそう言い、チェルシーはふわふわと笑いながらダズにしな垂れかかっている。
(距離が近いわね。この二人は……そういう関係なのかしら。プライベートではどんな関係でいてもいいけど、会議という場にはそぐわないわね。でも……)
これはただの私の直感なのだが、この二人から『熱いカップル特有のお互いしか見えない空気』をあまり感じ取れないのだ。
正確にいえば、ローヴァイン家の当主、ダズの方からは感じる。
チェルシーの方は、よくわからない……。
クリムトやリモネと接した経験から、バッツ一族は実直な性格な者が多いのかと思ったけど、彼女はなんとなく毛色が違うような気がする。
(でも、彼らの人間関係についてここで指摘するなんて出来ないわよね。私の直感だけで根拠なんて無いし、人間が何を言っていると逆上されておしまいのはず。今は静観しよう……)
ダズとチェルシー、二人のローヴァイン家の主張は「人間は殺すべき」というものらしい。今のところそれに賛同する魔族たちもいる。
だが、賛同する者は3人程度で、ここの出席者の過半数が賛同している訳ではない。
(今のところ、会議の様子を見ている魔族が多いということかしら)
話を聞き終わったレヴィウスは、ダズに向かって質問をする。
「アドラー家が人間と魔族との争いの切っ掛けになったから、人間は迎えるべきではない。それがダズの主張だな」
「無論だ。そのことについてはレヴィウス、お前が一番良く知っているだろうが!」
「そのことについて、今回の会議で報告をする予定だった。かつて人間と魔族の衝突の引き金になったゴルディウスとカストロの争いは――存在しなかった。それが俺の見解だ」
「なに?」
レヴィウスの発言に、魔族たちはざわついている。
その中で、レヴィウスが一つの資料を傍らから出した。
「皆も知っての通り、戦いが起きた当時にゴルディウスとカストロの遺体の一部が持ち帰られ、俺の城の中に魔法をかけて保存していた。人間に裏切られた悲劇を忘れないようにするためだ。長いこと封じていたそれを、俺は先日調べた。中の状態を見るために。生物の状態を調査する魔術は、ここ数十年で以前よりも発達を遂げた。改めて遺体の状態を調べて……そして新事実がわかった」
「新事実……? なんだと言うのだ」
「カストロとゴルディウスの身体の中には魔石を食べた際の反応が淡く残っていた。つまり、こう考えられる。俺の父ゴルディウスはカストロを歓迎するために魔石を振る舞い、カストロはその厚意を無下にしないために無理をして魔石を食べた結果、命を落とした。人間と魔族の争いの始まりの真実はそれだ――事故だったのだ!」
レヴィウスが言い放った言葉に、魔族たちは更に動揺したようで、場がどよめいていた。
(レヴィウス、私が前に言った推測の話を改めて調査してくれてたんだ。最近は前にも増して忙しそうだったけど、このことを調べていたからでもあったのね……)
レヴィウスは秘密裏にこの調査をしていたらしい。
そもそもこの会議に私が出席する予定は無かったから、一人でこの発表をする予定だったのだろう。
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