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21_ありがとうございます、ミロワール様
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レヴィウスが私を庇おうとしてくれるのはありがたいことではあるけど、この場で有効であるかはなんともいえない。身内をかばうのは誰だって同じだ。重要なのは第三者……つまりレヴィウス以外のこの場にいる魔族たちの反応だ。
ダズとチェルシーは私のことを憎々しげに睨め付けている。やはり、彼らは私を排除したがっているようだ。
他の魔族はどうなんだろう……?
「そこまで!」
ざわつく魔族たちの声を、カンカンと硬質な音が遮った。議長のミロワールが木槌を鳴らしたのだ。
「悪いんだけど、この議題は結構長引いていて、君たちの選択では決められないみたいだね。会議のシステムとして、膠着した議題は議長が決めることになっている。今回の場合は僕だね」
そして、ミロワールがゆっくりと出席者を見渡して言った。
「今回の議題は、人間を魔族の住処に住まわせてもいいか、ということ。ダズくんは過去の事件を引用して、人間は殺害すべしと言った。レヴィウスくんは過去の事件は事故だったと示して、人間と共生出来る可能性を示した。出席者の皆の天秤は、どちらかといえばレヴィウスくんの方に揺れている。そんなところだろうね」
「……ミロワール。では……!」
レヴィウスが期待に上ずった声を出した。
ミロワールは一瞬レヴィウスの目を見たが、やがて静かに首を振った。
「これまでは静観していたが、ここからは僕の意見を言おう。人間との交流が魔族にとっていい影響を与えるという可能性は僕も感じるよ。僕だってやれるものならやってみたい。しかし、今の時点で魔族の住処に人間を住まわせるのは少々性急なように感じる。レヴィウスくんはシルフィアちゃんをいい待遇で迎えてあげたいんだろうが、それに適した環境にはまだなっていないからね」
「……!」
「人間の文化が魔族にとっていい影響を与えるということ――それを魔族の間にもっと浸透させてからじゃないと、魔族の人間への警戒心が抜けないままだ。人間にとってもその状態でいるのは居心地が良くないだろう。人間への悪感情が昂じて、不意に魔族から襲われてしまう危険も無くはないと思う。それは魔族と人間、双方にとっても良くないことだよね。ということで――シルフィアちゃん」
「……はい!」
「君には魔族の住処から退去することを命じる。僕は人間界へ渡る技術を持っているから、それを用いて君を人間界に帰す。そんなところかな」
「なんだと……!」
最後の言葉を呟いたのは二人いる。ダズとレヴィウスだ。
ダズは悔しそうな表情で、レヴィウスは青白い顔でミロワールを見つめている。
席を立ったミロワールは私の方へ近づき、そしてにこりと笑う。
「ここまでありがとう、シルフィアちゃん。彼女の出席は僕が提案したことだ。ここからは魔族間の専門的な会議に入るから、シルフィアちゃんには退席して貰うようにする」
「ミロワール! シルフィアの身柄は……」
「先程の議決をもって、シルフィアちゃんの保有権はアドラー家から外れた。ここからはストレイウス家が責任を持って処理させて貰うことにする。という訳で、シルフィアちゃん、うちの部下に従って進んでね」
ミロワールがそう言うと、どこからともなく白い仕事着をしたメイドが現われた。彼女たちはストレイウス家の部下なのだろう。
こちらへ――と指示された私は、涙を拭きつつ先導するメイドの後を追った。
****
私は白い部屋へと通された。小さなテーブルとベッドの他にはまっさらで何もない部屋だ。ここは城の中で何か問題を起こした者がいたときに使われる部屋で、牢に近いものらしい。
「厳密にいえばあなたは罪を犯した訳ではないが、人間は近いうちに送り返すことになった手前、城の中に通してストレイウス家の秘密を見られる訳にはいかないから」とメイドは説明していた。
メイドがいなくなった後、私は天井を見つめながらひとり考える。
(助かったわ……!)
表向き沈痛な面持ちを保っていた私は、歓喜の表情を浮かべた。
会議に出ることになったときはどうなることかと思っていたけど、終わってみれば一番いい結果になったような気がする。
私は魔族の住処から退去することを命じられた。紆余曲折あったけど、人間界へと帰ることが出来るんだ。
(魔族会議で様子を見た感じ、人間に対して警戒心を持ってる魔族は沢山いた。ローヴァイン家……ダズとチェルシーは特に人間を排除したがっていたみたいだし、やっぱり私があのままアドラー家の城で暮らし続けることなんて出来ないわ。危なすぎるもの)
そう、私にとってはいい結果になった。
レヴィウスにとっては……。
(レヴィウスにとってもこれが一番いい結果だったのよ。私をあの城に住まわせておけば、魔族間での評判が下がるって会議でわかったでしょう。彼の意見がそのまま通ることは無かったけど、そのうち納得してくれるはず……)
そう考えながら、私は枕に頭を沈めた。
ダズとチェルシーは私のことを憎々しげに睨め付けている。やはり、彼らは私を排除したがっているようだ。
他の魔族はどうなんだろう……?
「そこまで!」
ざわつく魔族たちの声を、カンカンと硬質な音が遮った。議長のミロワールが木槌を鳴らしたのだ。
「悪いんだけど、この議題は結構長引いていて、君たちの選択では決められないみたいだね。会議のシステムとして、膠着した議題は議長が決めることになっている。今回の場合は僕だね」
そして、ミロワールがゆっくりと出席者を見渡して言った。
「今回の議題は、人間を魔族の住処に住まわせてもいいか、ということ。ダズくんは過去の事件を引用して、人間は殺害すべしと言った。レヴィウスくんは過去の事件は事故だったと示して、人間と共生出来る可能性を示した。出席者の皆の天秤は、どちらかといえばレヴィウスくんの方に揺れている。そんなところだろうね」
「……ミロワール。では……!」
レヴィウスが期待に上ずった声を出した。
ミロワールは一瞬レヴィウスの目を見たが、やがて静かに首を振った。
「これまでは静観していたが、ここからは僕の意見を言おう。人間との交流が魔族にとっていい影響を与えるという可能性は僕も感じるよ。僕だってやれるものならやってみたい。しかし、今の時点で魔族の住処に人間を住まわせるのは少々性急なように感じる。レヴィウスくんはシルフィアちゃんをいい待遇で迎えてあげたいんだろうが、それに適した環境にはまだなっていないからね」
「……!」
「人間の文化が魔族にとっていい影響を与えるということ――それを魔族の間にもっと浸透させてからじゃないと、魔族の人間への警戒心が抜けないままだ。人間にとってもその状態でいるのは居心地が良くないだろう。人間への悪感情が昂じて、不意に魔族から襲われてしまう危険も無くはないと思う。それは魔族と人間、双方にとっても良くないことだよね。ということで――シルフィアちゃん」
「……はい!」
「君には魔族の住処から退去することを命じる。僕は人間界へ渡る技術を持っているから、それを用いて君を人間界に帰す。そんなところかな」
「なんだと……!」
最後の言葉を呟いたのは二人いる。ダズとレヴィウスだ。
ダズは悔しそうな表情で、レヴィウスは青白い顔でミロワールを見つめている。
席を立ったミロワールは私の方へ近づき、そしてにこりと笑う。
「ここまでありがとう、シルフィアちゃん。彼女の出席は僕が提案したことだ。ここからは魔族間の専門的な会議に入るから、シルフィアちゃんには退席して貰うようにする」
「ミロワール! シルフィアの身柄は……」
「先程の議決をもって、シルフィアちゃんの保有権はアドラー家から外れた。ここからはストレイウス家が責任を持って処理させて貰うことにする。という訳で、シルフィアちゃん、うちの部下に従って進んでね」
ミロワールがそう言うと、どこからともなく白い仕事着をしたメイドが現われた。彼女たちはストレイウス家の部下なのだろう。
こちらへ――と指示された私は、涙を拭きつつ先導するメイドの後を追った。
****
私は白い部屋へと通された。小さなテーブルとベッドの他にはまっさらで何もない部屋だ。ここは城の中で何か問題を起こした者がいたときに使われる部屋で、牢に近いものらしい。
「厳密にいえばあなたは罪を犯した訳ではないが、人間は近いうちに送り返すことになった手前、城の中に通してストレイウス家の秘密を見られる訳にはいかないから」とメイドは説明していた。
メイドがいなくなった後、私は天井を見つめながらひとり考える。
(助かったわ……!)
表向き沈痛な面持ちを保っていた私は、歓喜の表情を浮かべた。
会議に出ることになったときはどうなることかと思っていたけど、終わってみれば一番いい結果になったような気がする。
私は魔族の住処から退去することを命じられた。紆余曲折あったけど、人間界へと帰ることが出来るんだ。
(魔族会議で様子を見た感じ、人間に対して警戒心を持ってる魔族は沢山いた。ローヴァイン家……ダズとチェルシーは特に人間を排除したがっていたみたいだし、やっぱり私があのままアドラー家の城で暮らし続けることなんて出来ないわ。危なすぎるもの)
そう、私にとってはいい結果になった。
レヴィウスにとっては……。
(レヴィウスにとってもこれが一番いい結果だったのよ。私をあの城に住まわせておけば、魔族間での評判が下がるって会議でわかったでしょう。彼の意見がそのまま通ることは無かったけど、そのうち納得してくれるはず……)
そう考えながら、私は枕に頭を沈めた。
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