猫のキミと暮らせば

竹笛パンダ

文字の大きさ
18 / 32

さくら

しおりを挟む
「さおちゃん、猫のキミにお手伝いしてほしいことがあるんだけど。」
 僕はふと思いつきでさおちゃんにこんな提案をしたんだ。
「猫のキミをデイサービスに連れて行こうと思うんだ。いわゆるアニマルセラピーってやつさ。」
「は?」
「だから、猫のキミの力を借りて、お年寄りに癒しを与えられるかどうかって思ってさ。」
「ふ~ん。ねぇキミ、やってみる?」
 猫のキミを見ると、おとなしく座って話を聞いているみたいだった。
「猫のキミさま、猫君様。どうかよろしくお頼み申す。」と、拝むようにキミに頼んでみた。
「お仕事なら、何か報酬はあるのかな?」と、さおちゃんが意地悪を言う。
「でも、本当に癒しを与えてくれたら、職員としては助かるなぁ。」と、君をちらちら見ながら、
「一日猫缶一缶でどうよ。」
「え、本職の猫様にお願い申すには、もう少し貢物が欲しいよねぇ、キミ。」
 さおちゃんとキミは結託して僕を困らせる。
「よし、一日三缶でどうでしょう?」
「それならお昼のミルクとカリカリはうちにあるのを用意して、それでいいよね?」
 さおちゃんはキミに同意をとったようで、すっかり乗り気だ。
「それじゃ契約成立。早速明日迎えに来ます。」
「私、明日は始発で東京なの。だからキミの支度をしておくから、朝連れて行ってね。もちろん母さんには話をしておくから。」
 そういうと、明日の持ち物をリュックに詰めている。
「猫君殿、明日はデビューですぞ、どうかよろしくお願い申します。」
 と、わけのわからない日本語でキミにあいさつをした。

 我は女房が都へ行く間、修氏とともにデイサービスなる長老の茶会に招かれるようになった。
 なんでも動物と触れ合うことで癒しの効果があるとのこと。毎回長老たちのもとへ参り、とにかく撫でられていればよいとのことだった。
 初めに手足をふく。まあ、屋敷に上がるのだから当然であろう。しかしそのあとのドライヤーなる機械で風を起こすものは、ぶぅおーっと音を立てて、われに向かってくる。目を開けていられないほどの攻撃を受け、「ふぅっ」と威嚇してみた。
 しかし今度は修氏が手袋をした手で撫でてくる。心地よさに思わず眼を細くしていると、「とれた」といって、手袋についた我の毛をまとめてゴミ箱に入れているのだ。
 これを茶会に出るたびに行われる作法のようなものであろう。
 それからようやく自由に歩き回ること許され、茶会の会場を見て回る。するとどこからともなく手が伸びてきて、我を持ち上げ、耳の後ろあたりを頬ずりしながら、
「かわいい~。」と日に三度は言われた。

 ほどなくして茶会に参集する長老たちがやってくる。口々に挨拶を交わし、互いの達者を喜び合っていた。
 それぞれの席に着き、まずは茶がふるまわれ、思い思いに語らいながら茶をすする。
 
 皆がそろったところで、健康維持のために行う体操が始まる。
 やがて軽妙な楽が流れ、長老たちはそれぞれに歌に合わせて舞を踊るのである。
 いち・にー・さん・し、と女官たちが掛け声をかける中、公達の身振りに合わせて体を動かしている。
 皆が体操で汗を流している中、一人窓際に腰掛け、独り言を言う老婆に会った。
 のちに聞いたことだが、名を信という。「おしんさん」と呼ばれていた。三年ほど前に夫を送り、一人で住んでいるそうだ。我はおしんに近づき、まずは挨拶をした。
「おや、猫君様、お達者そうで何よりです。」
 我は驚いた。猫君様だって?どうしてそんなことがわかるのか、ただただ不思議だった。驚いたのはそれだけではない。
「しばらくお見えにならないうちに、ずいぶんと御立派になりもうしたなぁ。」と、懐かしそうに話しかけてくるではないか。
 我は猫であるので、話をすることはかなわないが、この老婆の言うことはよくわかるのである。
「いずこから来なさった。およそ都から離れたこの海の町では、そう争い事も起きませんよ。安心して暮らしていきなされ。」
 何かわかっているような、そうでもないようなおしんの言葉に驚きながら、
 さようであるか、何かあれば遠慮なく声をかけるので何とぞよろしく頼む。
 そう思いながら、おしんの足元に体を摺り寄せていた。
「不思議な御仁じゃ、我が家にも猫がおるが、その猫もまるで私の話が分かるようなそぶりを見せる。この猫君様もじゃ。」
 おしんが猫をいつくしみ、心を通わせているのではないかと思う。日の当たるベンチに帽子をかぶって一人で座り、ゆったりと過ごしているので、我もおしんとともに日向ぼっこをすることにした。そんな我の背中をゆっくりと心地よくなでてくれる。我はおしんとともにベンチでゆったりと過ごした。
「それでは、ごきげんよう……。」

 皆が体操を終えると茶の時間となり、修氏が声をかける。
「皆さん、今日はデイサービスに臨時職員、猫のキミが来ています。まだ一歳の子どもです。いたずらしたり、眠ってしまうかもしれませんが、一日仲良くしてあげでください。」と、長老たちに声をかけたものだから、
「ねぇ猫のキミ、こっちにおいでよ。」と声をかけられる始末。あちらこちらで愛想を振りまき、おもちゃで遊び、我はくたくたになった。

 部屋の隅に置かれた皿には水とミルク、カリカリが入っていて、修氏いわく、いつでもどうぞとのことなので、一休みすることにした。
 皆が昼食をとっている間は、我は昼寝をして過ごし、皆も休息をしたり、囲碁に興じたり、テレビを見て過ごしていた。

 おしんさんは、昼食後はしばらく休み、そののちに入浴しに行ったので、我は長老が休む畳の間で、一緒に昼寝をしていた。

 ひょこ、ひょこっと毛玉が動く。編み物をしているらしい。我にもいたずらをしてやろうという気が起き、その毛玉を軽く払ってみる。
 毛糸が赤い線となって床を這っていく。我は楽しくなって、その毛玉を転がしながら追いかけた。。
「その仔を止めて、はやく。」と長老たちが騒ぎ出した。が、我には楽しくて仕方がない。
 まったく、良いところで修氏に持ち上げられたものである。毛玉は素早く女官たちの手で巻き取られ、編み物をしていた長老は、修氏の手に納まっている我を見てくすっと笑っていた。

 おおむね今日の我の活動内容である。といっても騒がせにいってきたようであるが、修氏によると、毎日同じ事の繰り返しで、職員も同じことを仕事にしているので、ここに来る長老たちの動きも変化なく過ごしているらしい。そこで我を連れていくことで、変化を期待していたのだという。

「ねぇ修君、キミの様子はどうだった?」
 夕方、さおちゃんの家にキミをつれていくと、待ち構えたようにさおちゃんが聞いてきた。
「それがね、おしんさんといって、いつもひとりですごしているお婆さんがいるんだけど、そこにキミが寄り添ってくれて、そのお婆さんが目を細くして喜んでいたんだよ。」
「へ~、少しは役に立ったんだぁ、キミぃ。」
「そのお婆さんは家で一人きりなんだよ。」

「僕たちもどう接していいかわからなかったんだ。」
「だから今日のキミは、お手柄だったよ。」といってキミに触れようとしたけど、キミはさおちゃんの後ろに隠れた。なんだよ、もう。
「あんな風に笑えるんだ、おしんさん。」
「よかったじゃない、キミにお願いして。それじゃ、報酬よろしく。」
「じゃ、今度の土曜日はまた買い物に行こう。」
 僕はちゃっかりデートの約束を取り付けた。猫君様々だな。

 君の持つ 深き想いを 哀れみて 我も寄りそう 老いの背中に

 修氏と女房とは、もうすでに夫婦の会話であるな。
 しっかりと稼ぐように修氏に尻を叩いているではないか。
 それにしても、おしんという老婆、非常に興味深い存在である。
  
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神様がくれた時間―余命半年のボクと記憶喪失のキミの話―

コハラ
ライト文芸
余命半年の夫と記憶喪失の妻のラブストーリー! 愛妻の推しと同じ病にかかった夫は余命半年を告げられる。妻を悲しませたくなく病気を打ち明けられなかったが、病気のことが妻にバレ、妻は家を飛び出す。そして妻は駅の階段から転落し、病院で目覚めると、夫のことを全て忘れていた。妻に悲しい思いをさせたくない夫は妻との離婚を決意し、妻が入院している間に、自分の痕跡を消し出て行くのだった。一ヶ月後、千葉県の海辺の町で生活を始めた夫は妻と遭遇する。なぜか妻はカフェ店員になっていた。はたして二人の運命は? ―――――――― ※第8回ほっこりじんわり大賞奨励賞ありがとうございました!

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。

楠ノ木雫
恋愛
 蒸発した母の借金を擦り付けられた主人公瑠奈は、お見合い代行のアルバイトを受けた。だが、そのお見合い相手、矢野湊に借金の事を見破られ3ヶ月間恋人役を務めるアルバイトを提案された。瑠奈はその報酬に飛びついたが……

苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」 母に紹介され、なにかの間違いだと思った。 だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。 それだけでもかなりな不安案件なのに。 私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。 「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」 なーんて義父になる人が言い出して。 結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。 前途多難な同居生活。 相変わらず専務はなに考えているかわからない。 ……かと思えば。 「兄妹ならするだろ、これくらい」 当たり前のように落とされる、額へのキス。 いったい、どうなってんのー!? 三ツ森涼夏  24歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務 背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。 小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。 たまにその頑張りが空回りすることも? 恋愛、苦手というより、嫌い。 淋しい、をちゃんと言えずにきた人。 × 八雲仁 30歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』専務 背が高く、眼鏡のイケメン。 ただし、いつも無表情。 集中すると周りが見えなくなる。 そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。 小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。 ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!? ***** 千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』 ***** 表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101

【完結】指先が触れる距離

山田森湖
恋愛
オフィスの隣の席に座る彼女、田中美咲。 必要最低限の会話しか交わさない同僚――そのはずなのに、いつしか彼女の小さな仕草や変化に心を奪われていく。 「おはようございます」の一言、資料を受け渡すときの指先の触れ合い、ふと香るシャンプーの匂い……。 手を伸ばせば届く距離なのに、簡単には踏み込めない関係。 近いようで遠い「隣の席」から始まる、ささやかで切ないオフィスラブストーリー。

友達婚~5年もあいつに片想い~

日下奈緒
恋愛
求人サイトの作成の仕事をしている梨衣は 同僚の大樹に5年も片想いしている 5年前にした 「お互い30歳になっても独身だったら結婚するか」 梨衣は今30歳 その約束を大樹は覚えているのか

処理中です...