17 / 32
それから
しおりを挟む
しばらくして女房の宮仕えが再開し、空港近くの大きな屋敷に戻ることになった。
宮仕えといえば、女主人の御簾の向こうで、女官たちが織りなす横恋慕や嫉妬の渦。その場を彩る噂話や流行の風が、絶え間なく吹き込む場所である。
女房もそんなところに出向くのであろうか。幾年月日が流れても、女の性とは変わらぬものである。
同僚の 噂話に 息詰まる 仮面を被り 差し障りなく
波風立てず、目立たず、それでいて噂話はチェックして、流行の文化をいち早く取り入れ自慢する。
およそ宮中の女房たちは人々の話の機微から踏み外さないように、それこそ内心ドキドキしながら語っているのである。
流行の教養を身に着け、蔑まれないようにとも気を遣っているものである。
女房も気を張って宮仕えをしているのであろう。
修氏との逢瀬の時にはほっとしている様子である。
またいつものあわただしい4月がやってきた。
新人研修の担当も8年目、佐々木君は去年もやっているから要領を得て、的確に指示を飛ばしている。そうそう、できる男はそうでなくてはね。
活躍している佐々木君の姿を見て、給湯室のひよこどものさえずりが聞こえる。
「気合入っているわね。」
「さお先輩にはいいところをアピールしておきたいんでしょうね。」
ん?私たちのこともひよこどもには知れていたのね。
「今更って感じ、だってさお先輩にはもう……。」
ふふん、気が付いたかな。ちゃんと指輪が収まっているの。修君が東京に帰る私に、照れながら、
「とりあえず、虫よけに。」ってくれたのよ。当然ずっこけたけど、
あとで聞いた話だが、これは母様が修氏に授けた入れ知恵である。
「さお先輩、いい人いたんだぁ。」
「そりゃいるでしょうよ、可愛らしくても仕事ができる人だから、今までお声がかからなかったのが不思議なくらいよ。」
「佐々木課長も相手にならないような、さお先輩の彼ってどういう人だろう?」
給湯室のひよこどもは、あることないことピーチクやっている。この忙しいのになんなのよ。
「はいそこ!頼まれていた仕事は終わった?入社式の席次表できた?式次第と進行を確認しておいてって言ったわよ。」と、てきぱきと指示しながら
「早く終わったら同伴ランチかなぁ?」
と冗談交じりに行っていると、佐々木君が、
「はい、そのランチご一緒します。みんなも頑張っているみたいだから、今日くらいは御馳走しようかな。」
「きゃ~。さお先輩と御一緒に、ですか?」
「そこ、俺じゃ喜ばないのね。」と佐々木君がしょげていた。
「結婚するんだって、おめでとう。」
「ありがとう、あなたにもいい人がいるんでしょ。お互い、幸せにならなきゃ、だよね。」
佐々木君は若いママの話を嬉しそうに語った。正直、興味はなかったけれど、彼が幸せそうなので良しとしよう。
おのろけかなって思ったけど、意外と人生語っているから、驚いた。何よりも自分の理解者を見つけたことが、一番の喜びだって。
成熟した大人の愛ってやっぱりなんかいいね。私たちもそうなれるかなぁ。
会社は入社式や新人の手続きなどが終われば通常業務に戻っていた。はやり病のパンデミックは依然として続いているが、何よりも在宅勤務が可能ということがうれしい。再び私たちは在宅勤務に戻ることになった。
また三浦に帰れると思うとニヤリとしてしまう。
しばらくして私たちは三浦に帰ることにした。もちろん在宅勤務が継続していることもあるけど、やはり故郷はいい。ここには思い出もあれば、新たに思い出の生まれる場所でもあるから。
休日、修君にお願いして、海の見える丘にあるお花畑に連れて行ってもらった。私はというと、久しぶりのお出かけに気合を入れてお弁当を作る。
もちろんキミも一緒だよ。これでも自炊が長い分、食生活は乱れないように、頑張ったほうなんだけどな。
暖かな日差しが注ぐ海の見える高台の公園は、今日も一面の菜の花でいっぱい。小さいころによくお父さんと来たところ。一面の菜の花はお父さんとの思い出があって、見ているだけで胸が熱くなる。
「修君はずっと一緒にいてくれるよね。」
「うん、頑張ってみるよ。」
「わたしがおばあちゃんになっても?」
「そりゃそうでしょ。僕はお年寄りのお世話をしているから、大丈夫だよ。たとえ認知症になってもね。」
「なにそれ、ひどい。でも、私がどうなっても一緒にいてくれるってことだよね。」
海からの風が心地よく吹き抜け、草原に寝転ぶ二人。
菜の花の黄色が、まるで二人を祝福しているようだった。
「安心してボケてください。ずっとそばにいるから。」
おぉ、修氏渾身の一撃!「しめことば」がこれかよと、我は思わず猫パンチで突っ込みを入れた。
春風の 薫る野原に 寝転んで キミがアイツの 右手で遊ぶ
女房よ、これまでの苦労が実を結んだのであるな。ようやく幸せへの一歩を踏み出したのである。
ようこそ、夢のある道へ
宮仕えといえば、女主人の御簾の向こうで、女官たちが織りなす横恋慕や嫉妬の渦。その場を彩る噂話や流行の風が、絶え間なく吹き込む場所である。
女房もそんなところに出向くのであろうか。幾年月日が流れても、女の性とは変わらぬものである。
同僚の 噂話に 息詰まる 仮面を被り 差し障りなく
波風立てず、目立たず、それでいて噂話はチェックして、流行の文化をいち早く取り入れ自慢する。
およそ宮中の女房たちは人々の話の機微から踏み外さないように、それこそ内心ドキドキしながら語っているのである。
流行の教養を身に着け、蔑まれないようにとも気を遣っているものである。
女房も気を張って宮仕えをしているのであろう。
修氏との逢瀬の時にはほっとしている様子である。
またいつものあわただしい4月がやってきた。
新人研修の担当も8年目、佐々木君は去年もやっているから要領を得て、的確に指示を飛ばしている。そうそう、できる男はそうでなくてはね。
活躍している佐々木君の姿を見て、給湯室のひよこどものさえずりが聞こえる。
「気合入っているわね。」
「さお先輩にはいいところをアピールしておきたいんでしょうね。」
ん?私たちのこともひよこどもには知れていたのね。
「今更って感じ、だってさお先輩にはもう……。」
ふふん、気が付いたかな。ちゃんと指輪が収まっているの。修君が東京に帰る私に、照れながら、
「とりあえず、虫よけに。」ってくれたのよ。当然ずっこけたけど、
あとで聞いた話だが、これは母様が修氏に授けた入れ知恵である。
「さお先輩、いい人いたんだぁ。」
「そりゃいるでしょうよ、可愛らしくても仕事ができる人だから、今までお声がかからなかったのが不思議なくらいよ。」
「佐々木課長も相手にならないような、さお先輩の彼ってどういう人だろう?」
給湯室のひよこどもは、あることないことピーチクやっている。この忙しいのになんなのよ。
「はいそこ!頼まれていた仕事は終わった?入社式の席次表できた?式次第と進行を確認しておいてって言ったわよ。」と、てきぱきと指示しながら
「早く終わったら同伴ランチかなぁ?」
と冗談交じりに行っていると、佐々木君が、
「はい、そのランチご一緒します。みんなも頑張っているみたいだから、今日くらいは御馳走しようかな。」
「きゃ~。さお先輩と御一緒に、ですか?」
「そこ、俺じゃ喜ばないのね。」と佐々木君がしょげていた。
「結婚するんだって、おめでとう。」
「ありがとう、あなたにもいい人がいるんでしょ。お互い、幸せにならなきゃ、だよね。」
佐々木君は若いママの話を嬉しそうに語った。正直、興味はなかったけれど、彼が幸せそうなので良しとしよう。
おのろけかなって思ったけど、意外と人生語っているから、驚いた。何よりも自分の理解者を見つけたことが、一番の喜びだって。
成熟した大人の愛ってやっぱりなんかいいね。私たちもそうなれるかなぁ。
会社は入社式や新人の手続きなどが終われば通常業務に戻っていた。はやり病のパンデミックは依然として続いているが、何よりも在宅勤務が可能ということがうれしい。再び私たちは在宅勤務に戻ることになった。
また三浦に帰れると思うとニヤリとしてしまう。
しばらくして私たちは三浦に帰ることにした。もちろん在宅勤務が継続していることもあるけど、やはり故郷はいい。ここには思い出もあれば、新たに思い出の生まれる場所でもあるから。
休日、修君にお願いして、海の見える丘にあるお花畑に連れて行ってもらった。私はというと、久しぶりのお出かけに気合を入れてお弁当を作る。
もちろんキミも一緒だよ。これでも自炊が長い分、食生活は乱れないように、頑張ったほうなんだけどな。
暖かな日差しが注ぐ海の見える高台の公園は、今日も一面の菜の花でいっぱい。小さいころによくお父さんと来たところ。一面の菜の花はお父さんとの思い出があって、見ているだけで胸が熱くなる。
「修君はずっと一緒にいてくれるよね。」
「うん、頑張ってみるよ。」
「わたしがおばあちゃんになっても?」
「そりゃそうでしょ。僕はお年寄りのお世話をしているから、大丈夫だよ。たとえ認知症になってもね。」
「なにそれ、ひどい。でも、私がどうなっても一緒にいてくれるってことだよね。」
海からの風が心地よく吹き抜け、草原に寝転ぶ二人。
菜の花の黄色が、まるで二人を祝福しているようだった。
「安心してボケてください。ずっとそばにいるから。」
おぉ、修氏渾身の一撃!「しめことば」がこれかよと、我は思わず猫パンチで突っ込みを入れた。
春風の 薫る野原に 寝転んで キミがアイツの 右手で遊ぶ
女房よ、これまでの苦労が実を結んだのであるな。ようやく幸せへの一歩を踏み出したのである。
ようこそ、夢のある道へ
0
あなたにおすすめの小説
神様がくれた時間―余命半年のボクと記憶喪失のキミの話―
コハラ
ライト文芸
余命半年の夫と記憶喪失の妻のラブストーリー!
愛妻の推しと同じ病にかかった夫は余命半年を告げられる。妻を悲しませたくなく病気を打ち明けられなかったが、病気のことが妻にバレ、妻は家を飛び出す。そして妻は駅の階段から転落し、病院で目覚めると、夫のことを全て忘れていた。妻に悲しい思いをさせたくない夫は妻との離婚を決意し、妻が入院している間に、自分の痕跡を消し出て行くのだった。一ヶ月後、千葉県の海辺の町で生活を始めた夫は妻と遭遇する。なぜか妻はカフェ店員になっていた。はたして二人の運命は?
――――――――
※第8回ほっこりじんわり大賞奨励賞ありがとうございました!
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。
楠ノ木雫
恋愛
蒸発した母の借金を擦り付けられた主人公瑠奈は、お見合い代行のアルバイトを受けた。だが、そのお見合い相手、矢野湊に借金の事を見破られ3ヶ月間恋人役を務めるアルバイトを提案された。瑠奈はその報酬に飛びついたが……
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
【完結】指先が触れる距離
山田森湖
恋愛
オフィスの隣の席に座る彼女、田中美咲。
必要最低限の会話しか交わさない同僚――そのはずなのに、いつしか彼女の小さな仕草や変化に心を奪われていく。
「おはようございます」の一言、資料を受け渡すときの指先の触れ合い、ふと香るシャンプーの匂い……。
手を伸ばせば届く距離なのに、簡単には踏み込めない関係。
近いようで遠い「隣の席」から始まる、ささやかで切ないオフィスラブストーリー。
友達婚~5年もあいつに片想い~
日下奈緒
恋愛
求人サイトの作成の仕事をしている梨衣は
同僚の大樹に5年も片想いしている
5年前にした
「お互い30歳になっても独身だったら結婚するか」
梨衣は今30歳
その約束を大樹は覚えているのか
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる