告発のメヌエット ~ 貴族社会に挑む母と娘の物語 ~

竹笛パンダ

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偽りの舞台

第78話 観衆(1)

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 日曜日、子供たちが企画した「ハイマー商会ツアー」が行われることになった。
 ちょうど商会に近くには噴水のある公園があり、そこではオルガンの演奏や、大道芸が行われていた。
 
 そんな中、ハイマー商会の店舗入り口には様々なサイズの子供服が並べられ、気軽に手に取れるようになっていた。
 また、店内では、「ハイマー商会の店員」と同じデザインの服に着替えることが出来るほか、その様子を姿絵に描いてもらえるというサービスを行っていた。
 女児用の服のほかに、男児用の服もあり、また、制服試着コーナーには男性店員の服装もできるようになっていた。

「さて、今日はあなたが主役なのよ、サラ。準備はいい?」

「はい、お嬢様。本当にこうして私の企画をやっていただけるなんて、夢のようですわ。」

「そうね、今日は私と一緒にマネージャーなのですからね。」

 アニーがサラの肩を抱いて、優しく声をかけた。

 店舗前に商品を並べる店は前例がなく、また子供服の販売も前例のないことだったので、店の前には多くの人だかりができていた。

 エリックは数人の使用人とともに店の前の警備と、人々の流れを整理していた。

「おはよう、サラ。その服、似合っているわね。」

 学校の同級生たちがサラに声をかけた。

「ありがとうございます、お客様。どうぞお手に取ってご覧くださいませ。」

 いつもは学校でおしゃべりに花を咲かせているサラが、急に大人びた言葉遣いで歓迎しているので、同級生たちはおかしくなって笑ってしまった。

「みんなもこの服装になったときには、そう言う言葉遣いで『なり切って』くださいね。
 そうでないと『ハイマー商会ごっこ』はできませんのよ。」
 
 これには一緒にいたアニーも笑いをこらえることが出来なかった。

「さあ、今日は『子供たちの日』です。
 新しい子供服のお披露目と、あこがれのハイマー商会の店員になれる『なりきりコーナー』がありますよ。
 子供服をご購入されたお客様には、姿絵をサービスいたします。
 どうかお気軽に、お手に取ってみてください。」

 アニーが店の前の人だかりに声をかけると、親子連れや、孫の手を引くお婆様、父と娘など、多くの子どもたちと付き添いの大人たちが、店の前の商品に群がった。

「すみません、安全のため、順番にご案内いたします。
 こちらにお並びください。」
 
 予想以上の反響に、父も私も驚いていた。
 このままではただお客様を待たせてしまう。

「アリスにピアノを弾いてもらおう。
 店の中に運んで、演奏を楽しんでもらおうじゃないか。」

 父の提案に、トーマスたちは数人で店の入り口までピアノを運んだ。

「アリス、出番よ。リハーサルだと思って気楽にね。」

「ええ、お母様。サラがあんなに頑張っているのですもの。
 私も頑張らないといけないわ。」

「それでね、アリスにはあの子供服を着てもらいたいのよ。
 そうすればお客様も自分の娘がその服装をした様子がわかるから、見せてあげて欲しいのよ。」

「わかりました、お母様。それでは行ってきますね。」

 アリスは子供服販売や『なりきり』ブースで順番を退屈そうに待っている親子に向けて、ピアノの演奏を始めた。

「それでは、わたくしアリス・ハイマーが皆様に楽しい曲を演奏いたします。
 はじめは『きらきら星変奏曲』です。」
 
 多くの観衆の中、アリスは演奏を始めた。
 そばで聞いていた子供たちも、学校で習った『きらきら星』のフレーズが出てくるたびに、手をたたいて喜んでいた。

「これが、先生が言っていた観客と一つになる演奏なのね。
 とても楽しい!」

 アリスは夢中になってピアノを弾いていた。
 
 少し遅れてジョージ先生がアカデミーの芸術科の学院生を連れてきた。

 アリスがきらきら星変奏曲を引いていると、アリスの隣に腰を掛けて、二人の連弾が始まった。

 その迫力のある演奏には、観衆も大喜びだった。

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