救国のBASIC

竹笛パンダ

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おっさん、お歳暮になる

アテナ神眷属騒乱

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 神官によれば、僕は跪いたまましばらく動かなくなったらしい。そうして今、僕の身体は光に包まれて、こうして動くようになった。
「アテナ様とは、お話になられたのですか?」
「ええ、天空の花園に招待されました。」
「伝承に聞く天空の花園。まさかそこにたどり着くものが現れようとは……。あなた様はアテナ神の御遣い様なのですか?」
「よくわからないのですが『眷属』になりました。」
「け、眷属様でいらっしゃるのですね。」
 そう言うと急いで部下に指示を出す。やがて礼拝堂にはぞくぞくと多くの人が集まってきた。
「アテナ神を信仰して250年。この歴史の中で、眷属様の降臨は一度も記録されておりません。ああ、なんという僥倖。この場に居合わせたものすべての者にとって今日という日は特別になるのです。」
 礼拝堂に入ってきた人たちは静かに跪き、僕の言葉を待っていた。
 僕が意を決して人前に立とうとしたとき、
(カイト、かぐや姫の加護、アイドル化が発動するよ。)とシルフィが言った。
 アイドル化って、人前に出ると発動するのか?まさか、日本のアイドルみたいになったりしないよな……?ほどなく僕の身体は光に包まれる。その光は聴衆を引き付け、魅了していった。
「皆さん、初めまして。僕はカイトと言います。アテナ神の眷属としてここに遣わされました。」
 こう話すと聴衆は静まり返った。アイドルのように「きゃ~」とか言われると思っていたが、そうではなく、僕の話に聞き入っているようだった。
「僕は先ほどアテナ神とお会いするまでは普通の人間でした。アテナ神からはこの世界をより幸せにするようにとの神託がありました。僕はそれを実現するために皆さんに、知恵と勇気を授けたいと思います。どうかそのために僕に力を貸してください。よろしくお願いします。」と言って一礼する。
 神官長が慌てて声をかける。
「頭をお上げください。カイト様。貴方様はアテナ神の眷属になられたのですから、そのように人に頭を下げてはなりません。皆困ってしまいます。」

「それに、僕は今日ここに来たばかりで、まだわからないことが多いです。この王都のことや、ここでの皆さんの暮らしについて、教えてくれると助かります。どうか仲良くしてください。」
 こう話すと聴衆の中から「カイト様!」と声がかかり、やがて大きな歓声となった。一目カイトの姿を見ようと信者たちは身を乗り出し、目を輝かせ、涙を浮かべて感謝を口にした。
 僕が一歩を踏み出すと、人々がすぐに動いて整然と出口までの道が現れ、その中を歓声に応えながら退出した。
 礼拝堂を出ると、周りの雰囲気は普通の空気に戻っていた。どうやらアイドル化は解除されたようだ。四六時中アイドルするのはとてもきついからな。
 僕はガゼルさんの宿に戻ることにした。道中アテナ神の眷属についてシルフィに話を聞いてみた。
「シルフィ」
(はい、カイト。さっきはすごかったよ。なんというか威厳と格式がある話し方だったわね。でも大丈夫?仲良くしたいって言っていたけど。)
「え、どういうこと。日本の『社交辞令』みたいなものだけど。」

(ねぇカイト、あなたはわかっていないわね。眷属様の言葉は信者にとって、啓示そのものなのよ。だから、カイトと仲良くすると満足感に満たされ、幸せな気分になるのよ。これからはうっかりそんなことを言わないようにね。) 
 そう言えばさっきから誰かに見られているような視線を感じる。行く先々で僕のことを見て、目が合うとさっと隠れてしまった。恥ずかしがり屋さんが集団発生しているようだった。この様子を見てシルフィが、
(ほらね、こうなっちゃうのよ。今やカイト様を一目見ようと、そしてオトモダチになろうと頑張る人が出てきちゃうのよ。)
 そりゃ困ったことになったな。まさかとは思い、そっと後ろを振り返ってみると、やっぱりそういう人たちがグループを作って僕を見守っていた。
 そして、一定数の視線を集めたとき、アイドル化が発動した。
「やぁみんな、僕は静かに暮らしたいんだよ。宿屋の皆さんにも迷惑をかけてしまうからね。僕のことを追いかけるのをやめて、そっとしてほしいな。」
 そうやって売れっ子アイドルのように話しかけると、集団にいた人たちはさっといなくなっていった。
「ずいぶんと聞き分けがいい、ファンの人たちなのだな。日本では追っかけや出待ちは当たり前だったのに。」
(これも眷属様だからよ。カイト様がそうおっしゃるのなら、叶えてさしあげるのも信者の務めってね。)
 僕がガゼルさんの宿に着くなり、ミナが出てきて
「カイトさん大変なの。お店にね、カイトさんが食べたお昼と同じものを食べたいって人がいっぱい来てね。お父さんたちが大変なの。」と言った。
 とにかく様子がわからないので、急いで中に入ると、
「カイト様だ!カイト様が帰ってきたぞ。」
「おいカイト、こいつはいったいどういうことだ。お前何か神殿でやらかしたのか?」とガゼルさんが声をかける。
「実は、神殿に行ってアテナ様にお祈りしたら、眷属になってしまいまして。」
「眷属だぁ?そりやまたすごいことになったな。それならこのバカ騒ぎも合点がいくもんだ。おい、サキ。煮込み肉はあとどれくらいあるんだ。」
 厨房の奥から女性の声で返事が聞こえる。
「およそ70皿ってところよ。こんなバカみたいに煮込み肉が売れるなんて、あたしゃ初めてだよ。」
「ああ、理由はあとで話すが、今はちょいと頑張ってくれ。」
「あいよ。」
 煮込み肉を巡る争いは店の外にまで広がり、もはや収拾がつかず、店の前では力のある種族が順番をめぐってトラブルを起こしていた。獣人のウェアウルフが割り込んだとかで、ミノタウロスともめている。その横にはケットシーが小さくなっていた。
「おい、やめろ。ここで騒ぎを起こすんじゃない。命がいくつあっても足りないぞ。お前死にたいのか。」と仲裁に入ったエルフが言う。
「何をこのひょろいエルフが。貴様に俺が止められるかよ。」と言った次の瞬間、後方で大きな地なりのような音が響く。大きな戦斧を持ったガゼルが、
「俺の店先で騒ぎを起こすやつは許さねえ、静かにしやがれ。」というと、騒ぎを起こした連中もおとなしくなった。
「今からアテナ神の眷属、カイト様がお前たちにお言葉を下さる。いいからよく聞きやがれ。」と、急に僕に振った。やはりその時もアイドル化は発動する。
「みなさん、僕を慕って同じものを食べたいという気持ちはわかりますが、このようにほかの人の迷惑になることはしてはいけません。僕は静かに暮らしたいのです。」そう言うと、どこからともなく武闘派の一団が現れる。神殿の修行僧たちだった。彼らは僕の前に集まり、一斉に跪いた。

「手伝ってくれるかい?」と僕が声をかけると、
「御意。」と答え、煮込み肉を求める集団を整列させていた。僕は先ほど脅されて小さくなっていたケットシーの女の子に、
「お嬢ちゃん大丈夫かい?順番はここでいいのかな?」と言って列に加わるように促した。
「はい、ありがとうございます。まぁなんと尊い。」と感激していた。

「ガゼルさん、席は何席あって、煮込み肉は作るのにどれくらいかかりますか?今から整理券を作ります。だいたい準備ができる時間にここに来てもらうことにしましょう。」
「そんなことができるのかい。」とガゼルは驚いた。
 力がすべてのここでは、順番を待つなんてことはなかった。力の弱い者はあきらめ、その場を去っていたからだ。
「席は10席で、10人前作るのに40分かかる。今ある材料で70皿は作れるな。それから修行僧も入れると客には約50皿だな。」と半信半疑で言う。
「今は15時30分だから、次の皿は16時10分ごろだね。10分前に集まってもらえばいいから、集合時間は16時でいいね。」と、ガゼルに確認する。
「さぁシルフィ、手伝ってくれ。」
(はい、カイト、何をしましょうか?)
「僕が整理券を作るので、待っている人に配ってほしい。」
「ミナ、悪いけど小さい紙をたくさんくれるかな。」
「いいよ。」と言ってメモ用紙を渡す。
 いったい何が始まるのかと皆興味津々で見ている。

 プログラミング起動!
 10 DIM “整理券”=“ガゼル亭煮込み肉”
 20 DIM TIME=16:00
 30 FOR I=1 TO 49
 40 TI=INT(I/10)*40
 50 LOCATE(0,1) PRINT “ガゼル亭煮込み肉整理券“
 60 LOCATE(8,2) PRINT  I
 70 LOCATE(4,3) PRINT TIME+TI
 80 OUTPUT “整理券”
 90 NEXT I
「それじゃ、行くよ。」と言って指先から投影されたプログラムは頭上に展開され、光を放っていた。
 RUN
 ミナのメモ用紙が宙を舞い、1枚ずつ整理券がプリントアウトされていった。
 整理券には順番に番号が振られ、40分ごとに10席ずつ同じ時間が記されていた。シルフィが順番通りに整理券を風に乗せて届けていく。
「すっげ~、カイト様。」モンクの修業をしていたコボルドの少年が声を上げた。
(カイト、3枚余ったよ。)
「ありがとうシルフィ、残り3枚はこの後来た人に渡して本日は終了ってことでいいよね。」と言って最後の3枚をミナに渡す。それから修行僧には、
「みなさんの分もありますよ、ただしお客さんが先ですので、みなさんは18:40まで交代で警備に当たってください。夕食は19:20です。それまで手の空いている人はガゼル亭のお手伝いをお願いしますよ。」
 というと、修行層を率いていた指導役のモンクの女性が素早く班分けをして、役割分担をする。それが済むと、

「ガゼル師匠、お久しぶりです。突然大勢で押しかけまして、お騒がせいたしました。」
「なんだ、リネットじゃないか。希望通りに神殿騎士になれたみたいだな。今では教官か。すごいもんじゃないか。それで、神殿が動くとはただ事じゃないな。いったいカイトに何があったんだ?」
 リネットは今までのいきさつをガゼルに話す。
「カイト様が仲良くしてくれとおっしゃいましたので、その、ファンができてしまいまして。」
「はは、そりゃいい、眷属様直々に『仲良くしてくれ』って啓示をしちまったんだな。この大騒ぎも納得だ。こいつは愉快だ。」と機嫌よく切り盛りする。
 大混乱だった店先も、時間通りに集合して煮込み肉を注文する人を除いて一度解散になった。修行僧達の活躍と、なんと言ってもガゼルの一言が効いたようだ。僕もサキさんの手伝いをしながら今回の騒動についてお詫びをした。
「カイト様、何言ってんだい、こっちは大儲けだよ。こんなにたくさんのお客様を連れってきてくれたんだ。感謝しないと罰が当たるよ。それに、この騒ぎも魔法でパパッと片付けたって言うじゃないか。あたしゃ、またうちの亭主が大暴れすると思ってヒヤヒヤしたもんだ。」
「ミナもお手伝いした。」
「そうだねミナ、ありがとう、助かったよ。」
 そう言うとミナもサキさんも笑顔になった。
 やがて最後の客が帰り、修行僧たちが集められた。
 ガゼルが皆を前に、
「今日は突然のことに驚いたが皆に協力してもらってこうして無事に乗り切ることができた。リネット隊長をはじめ、皆のおかげだ。今日の晩飯は店からのお礼だ。遠慮なくどんどん食べてくれ。」
 修行僧たちは食べ物を前に一礼してから食事を始めると、
「そうだ、これが真の礼儀だ!」ガゼルは満足げに頷いた。
 僕の席は皆とは別に、一段高い席に、一人分の食事が用意されていた。
「え、これじゃ僕は皆と一緒に食べられませんよね。」
「いえ、眷属様と同じ高さで食事をするわけにはいきません。貴方様は我々の信仰の対象そのものなのですから。」
「みんなと仲良くしたいのだけれども……。」というと、
「御意。」と言って、修行僧の中から数名が僕の食事のテーブルごと皆と同じところに運んだ。
「まぁリネット。カイトがそう言うんだ。そうかしこまられてもカイトが困ってしまうのではないか?」
「はい、カイト様の御心のままに。」
 僕はこの世界の様々なこと、特にアテナ神の信仰について詳しく話を聞いた。
 まずこの世界はアテナ神によって創造されたために、アテナ様への信仰は絶対であるとのことだった。そしてこの王都ではアテナ神信仰の中心に位置するのが神殿というわけだ。力こそが正義の執行者であるとの教義から、修行僧を受け入れ、モンクやビショップへと育てていく機関でもあった。
 また、この世界では魔力を行使するときには神様の力を借りているとされ、アテナ様の存在に、日々の生活の中で祈りと感謝をささげているという。
 そして眷属はアテナ神の意志の表れであるとされ、その言葉も行動も神格化されるという。

 なんということだ。僕にはとても背負いきれることではないのかもしれない。
 この世界の期待が、中年管理職のサラリーマンに降りかかっていると思うと胃が痛くなる気がした。今更ながら、僕の役割に怖気づいたのであった。
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