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おっさん、お歳暮になる
シナール国 官職試験
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翌朝、王城の正門前には人だかりができていた。見た目も強そうな人たちばかりで、僕はすっかり怖気づいていた。どれだけ二人の女神の加護を受けたとしても、基本的な能力は普通の人間と変わらない。けがは普通にするので、ぶつかり合いになったら大変だ。今から打ちのめされると思うと震えが止まらなかった。
「それでは試験会場へ案内します。種族別の特性がありますので、各種族ごとにグループで行動してもらいます。それでは種族ごと、立札の前に集まってください。」
大勢の人たちがそれぞれに仲間同士で集まっていく。
「さて、人間族はっと。」
「人間族」の立札を持っているのはエルフの女性だった。
「ああ、ここですね。」と言って僕は立札の前に行き、一番前に並んだ。
「あの、ここで合っているんですよね?」
「ええ、人間族の方はここです。」
「ほかの方は、どうなんでしょうかね。」
「そうですねぇ、ここに人間族の方が並んだのは本当に久しぶりのことなのですよ。前は確か120年ほど前でしたか、私の母から聞いたことがありましたので。」と言って珍しそうに僕を見ている。
「カイト様!」と僕を呼ぶ声がした。振り返ると神官長とリネットが慌ててやってくる。
「おはようございます。リネット、それから……?」
「おはようございます、自己紹介がまだでしたね。神官長のファセムです。カイト様はこちらで何を為さるつもりですか?」
「今日はこの国の官職の試験を受けに参りました。」
「なりません。人が眷属様を見定めるなど、あってはならぬことです。」
「え、でも神様たちからは今日の試験を受けるようにと言われたのですが。」
ファセムは困った顔をしていた。そこでリネットが、
「カイト様はこの世界のことをお知りになりたいとおっしゃいましたので、どうでしょう、ここは『力試し』ということでいかがでしょうか?」
「おお、そうですな。ここに来て試験を受けるのではなく。試験を体験していただき我らの世界を知っていただくためにも良い機会ということですな。」
「ええ、我ら親衛隊もおりますので、万全を期して当たってまいります。」
「その、親衛隊って何でしょうか?」
「ああ、カイト様にはご説明がまだでしたね。昨日ガゼル亭にお邪魔した修行僧たちがそうですよ。私は、親衛隊長を拝命いたしました。どうかよろしくお願いいたします。」
「はい、こちらこそよろしくお願いします。」と一礼すると、慌てて神官長が、
「カイト様、今この世界にはカイト様の上に立つ存在はございません。ですからそう気安く頭を下げてしまうとですね……。」
「まあ、神官長殿、そういうお方であるよこの御仁は、誰にでも優しく、決して権威を振りかざす方ではないと、昨夜身をもって拝見いたしました。」
「そうですが、しかし……。」
「我が師も『そうかしこまられてもカイト様が困ってしまうのではないか?』と、話されていましたので。」
「なんと、ガゼル様もそのようなご意見か。ではカイト様の御心のままに。」
ガゼルさんって、やっぱりこの国では偉い人だったのだな。
「それでは娘よ、カイト様の案内を頼む。くれぐれも粗相のないようにな。」
と、案内役のエルフの娘にそう言うと、
「ひゃい、かしこまりました。」と返事をして言葉を噛んでしまった。
それから顔を赤くしてしどろもどろになっていた。
そりゃそうだ。朝から神の眷属様、神官長殿、親衛隊長殿と急にびっくりしただろう。弱々しい人間族が、この世で一番の存在なのだから。もはや半泣きであった。その様子を見ていたリネットは、
「今日はわたくしがご案内いたします。」と言って、エルフの娘に目配せをして、案内役を下がらせた。
エルフの娘は深々と一礼して、逃げるように去っていった。
「カイト様、この後神殿でお待ちしております。試験の見学が済みましたら親衛隊長が案内いたします。」
「わかりました。リネットさん、よろしくお願いしますね。」
「はい、カイト様。こちらこそ。」
「ところで今日は、親衛隊の皆さんはどうしているのかな?」
「今日は試験日ですので、会場の警備に当たっています。血気盛んな獣人族と、それと仲の悪い魔人族、そう言ったものがいる一方で魔法にたけた一族、エルフや妖精族、ケットシーなんかもいますので、互いが直接かかわらないように交通整理をしております。まぁ毎年何らかのトラブルはつきものなのですがね。」と困った顔で話をする。
ああ、盛大にフラグを立ててしまったよ。この娘は。
親衛隊から報告が入る。演武場でオークの門番と魔族が小競り合いを始めたと。リネットがこちらをちらりと見ながら、
「今行く、決して争いにならぬようにな。」と親衛隊に言うと。
「カイト様、お聞きの通りです。わたくしはそれらの対応に行かねばなりませんが……。」
「ああ、それなら問題ないです。僕も行きますので。」
嫌な予感しかしない。いや、僕がやられるとか、そう言うのではなくて、アイドル化のスキルがまたとんでもないことをしてしまうのではないかと。
「シルフィ、おはよう」
(はい、おはようございます。なんか騒がしくなってきたわね)と半ば喜んでいるように見えた。
「ちょっとトラブルがあって、様子を見に行くところなんだよ。」
(それはなんだか期待が持てそうですね、火事と喧嘩は東京の華って。)
いろいろ突っ込みを入れたいところだが、今はそれどころではない。
「カイト様、こちらです。」とリネットが案内する。
「なにがあった。」
「はい、交通整理をしていたオークの門番の戦斧が魔族の翼にふれて傷がついたとかでもめております。」
「傷は深いのか?」
「いえ、それを聞いた魔族たちが一斉にそのオークを取り囲んだため、騒ぎになりまして。」
僕たちが駆け付けると、門番のオークを取り囲むように魔族が因縁をつけている。周囲は魔族に対して非難する声が上がり、一触即発の雰囲気だった。
「最初からそれが目的か。ここに来たのもこの国を魔族が取り返そうとしている可能性があるな。よし、あとは引き受けた。」
そう言ってリネットが魔族の集団に立ち向かう。アイテムバッグから槍を取り出して地面に打ち付けた。
ドンという鈍い音が響き、
「我は親衛隊長リネットである。ここで騒ぎを起こすことを禁ずる。従えぬと言うなら相手をしよう。」
悪魔族の一団のうち、リーダーらしき人物が間の悪そうな表情で、僕を見ていた。それから恭しく、
「これは姫君、わざわざお手を煩わせるには至りません。わたくしからこの者にはよく言い聞かせておきますので、この場はご勘弁を。」と風体の良い魔族が間に入った。アークデーモンでも上位の者、悪魔貴族であろう。
「貴様は?」
「わたくしはこの者たちの引率と護衛のために同行しております。血気盛んな若者の稚拙な行為ゆえ、ご容赦いただきたい。」
「わかった。ミルトンもそれでよいな。」
「はい、親衛隊長殿。」
いま「姫君」と言わなかったか?英雄王と王妃、ガゼルさんとサキさんは元勇者パーティーでこの国の英雄そのものだ。ガゼルさんと幼いころから交流があり、師と仰いでいることに何ら疑問のない人物。そう、リネットさんはこの国の姫君なのだな。アテナ神の言う「運命の花嫁」か。
(そうね、彼女が姫君で、この国の行く末を決める大事な人なの。その人の夫には、力の支配を超えた知恵と勇気を持つことが求められるってわけ。でもね、今のこの世界にはそんな人がいるとは思えないのだけどね。)
「ああ、そうだな。姫君さえも力を持つように育てられているのでは、その価値を理解しようとするものは、現れるのかねぇ?」
(そうねぇ、ま、現れたとしても、その人が気づかなければ、ねぇ)と意味ありげなことを言った。
「リネットさん、魔族がこの国を乗っ取ろうとしているって本当ですか?」
「ここはもともと魔族が支配する国でした。私の父たちのパーティーが圧政を敷いた魔王を打倒して、この国を建てたのですが、その時に残っていた魔族たちは、そのまま受け入れていたのです。アテナ神の「他種族共栄」のお考えの元に。しかし彼らは機会があればこの国の奪還をもくろんでいました。この国の中に入り込んで崩壊させようとしているのも明白です。もちろん魔族の中にも優秀な人はいて、今でも国のために働いている人はいるのですが。一部の魔族には受け入れられていないのが現状です。」
「やはり国のかじ取りとなると、そう上手くは行きませんよね。」
「この国でもいまだに力による支配が続いております。せっかく圧政から解放したというのに、今までとは何ら変わりはありません。そこで父はアテナ神に祈ったのです。」
「やはりあなたがこの国の姫君なのですね。姫君の夫となる方の話ですか?」
「ええ、父より聞き及んでおります。『この地を治める者は力にあらず。しかし力に抗うほどの知恵と勇気のある者を汝の娘婿とし、力はそれを守るものであること。』と、わたくしが誕生した夜、アテナ様より神託を受け、授かった言葉でございます。ですからわたくしはその方を守る力として、『運命の花嫁』と言われるようになりました。」
「それは、大変なことですね。生まれたときから役目があるというのは。」
「ええ、わたくしも初めはそう思いました。なんと残酷な運命だろうって。それでも今は、誇りに思うことにしたのです。この国や世界が平和になっていく。その方と供に歩んでいくことが私の運命だと。」
「そうですね。いつかそんな方と巡り合えるといいですね。」
「はい……。」と、少し間の抜けた表情をした。
(いま盛大にずっこけたわよ、きっとこの子もね!)
演武場では試験官が受験者の武術の実技試験を行っていた。さすが若者だけに、元気のいい打ち込みをしている。試験官に勝つことが目的ではないが、ここでの取り組みが評価されるとあって、受験生も必死に戦っている。
さすが騎士団長、どんな攻撃も剣先一つで華麗にさばいている。訓練前の若者ではやはりそれが限界であろう。やがて獣人たちの実技試験が終わると、魔族の番になった。
ここで試験官は交代となった。魔法が中心の試験になるため、ビショップが呼ばれた。
「ふっ、この国の魔法レベルは大したことありませんねぇ。」と先ほどの悪魔貴族が言い放つ。魔族の一団はビショップに対して冷ややかに嘲笑する。
「これは試験である。戦いではない。これでも私は魔法師団の団長である。貴様が私に劣らぬというなら、全力でかかってきなさい。」
「親分、いいですよね。こいつ焼いてしまいましょう。」と言い、一人目の受験生が出てきた。
「では、遠慮なく。」と言って魔法の詠唱に入る。
「灰燼と化せ、我らが王の望みを叶え……。」
ん?これは高位の爆炎魔法のメガフレアではないのか。
なんだって大魔法を、しかも範囲魔法じゃないか。どうか間に合ってくれ!
プログラミング起動!
10 DIM “武舞台”=FIELDS(18,18)
20 DIM “結界”=AREA(0;0,18:18)
30 DIM “試験官”=“団長”
30 DIM “防御”=HP±0、MP-100
40 PUT “防御” ON “結界”
50 LOCATE(12,9) PUT “防御” ON “試験官”
60 OUTPUT
指先にプログラムが投影された。とっさに思い付いたプログラムを武舞台に向かって放つ。
「RUN」というと「ピン」という音とともに武舞台には防御結界が展開され、試験官にも防御魔法が展開された。
「メガフレア」と唱えた瞬間、空間全体が赤い炎に包まれた。武舞台に立ち込める熱気に周囲の者たちが悲鳴を上げる。しかし次の瞬間、カイトのプログラムが発動。淡い光の防御結界が舞台全体を覆い、炎は結界の内側で暴れながらも抑え込まれた。
その輝きが収まる頃には、武舞台上の魔族は動けなくなり、ただ驚愕の表情を浮かべていた。また、試験官は周囲も壁に守られ無事だった。
悪魔貴族が素早く回復薬を用いて術者は動けるようになったがダメージは大きい。
「今のは明らかに試験の範囲を超えていますよね。」と僕が聞くと、
「ええ、これは試験に名を借りた暴挙ですね。」とリネットが憤る。
僕はこの者たちを許せないと思った。気づけば僕は武舞台に上がっていた。
アイドル化が発動する。この場に居合わせた者たちが僕に注目を集めた。
(カイト、ダメだよ、やっつけては。今は魔族と戦争にならないように気を付けているのよ。)とシルフィが耳打ちする。
「これはアテナ神の眷属様。私共に何か?」
「これは試験に名を借りた暴挙ですな。試験官は僕が保護しました。ちょうどここには防御結界を展開してありますので。もし暴れたければ僕が相手になりましょうか?」
「これは恐れ多いことです。眷属様には失礼ですが、私共魔族には女神の存在は邪魔でしてね、できればあなたにもここでご退場願います。」
「ダークバインド」と悪魔貴族は闇の拘束魔法を唱えた。
「リバースリフレクト」と僕は覚えたての魔法で応戦する。
闇魔法が聖属性魔法に反転し、魔法が返されるというものだ。
魔力差で圧倒しているので、効果的に魔法が発動する。悪魔貴族は聖属性魔法で拘束され、解除ができずにいる。
「よくも親分を!」と言って、やみくもに手下たちが一斉に僕に向けて魔法を放つ。
「馬鹿者、やめろ。」と悪魔貴族が言うが、間に合わない。結界内で逃げ場を失ったエネルギーが魔族たちに襲い掛かる。
ドンという大きな音とともに、魔力の暴走に巻き込まれた武舞台上の魔族たちは、倒れこんで身動きができずにいた。
「捕らえよ。」とリネットが言うと親衛隊が素早く魔法拘束具で捕獲した。
「しばらく牢で休んでもらえ。その後の取り調べは騎士団長殿にお願いする。」
「は、承りました。」と騎士団長が返事をした。
この後試験会場からは大きな歓声が沸き上がった。皆口々に、
「カイト様万歳!」と言って喜んでいた。アイドル化の効果もあり、会場は盛り上がる一方だった。僕は皆を鎮めるために武舞台から話しかけた。
「僕は理不尽な暴力は嫌いです。許しません。みんなが仲良くするためには、こういうことは許してはいけないのです。強い者が弱い者を従えるのは、平和とは言いません。僕はみんなに平和で豊かな、笑って暮らせる生活を送ってもらいたいのです。だからみなさん、平和な国を作るため、僕に力を貸してください。」
その声を聴いた聴衆からは一斉に雄叫びと拍手が沸き起こった。僕は両手を上げてそれに応えながら、試験会場を後にした。
「ねぇリネット、僕は試験に合格するでしょうか?」と冗談めいて聞いてみた。
「ええ、もちろん合格ですよ。」とリネットは少し顔を赤らめて言った。
「それでは試験会場へ案内します。種族別の特性がありますので、各種族ごとにグループで行動してもらいます。それでは種族ごと、立札の前に集まってください。」
大勢の人たちがそれぞれに仲間同士で集まっていく。
「さて、人間族はっと。」
「人間族」の立札を持っているのはエルフの女性だった。
「ああ、ここですね。」と言って僕は立札の前に行き、一番前に並んだ。
「あの、ここで合っているんですよね?」
「ええ、人間族の方はここです。」
「ほかの方は、どうなんでしょうかね。」
「そうですねぇ、ここに人間族の方が並んだのは本当に久しぶりのことなのですよ。前は確か120年ほど前でしたか、私の母から聞いたことがありましたので。」と言って珍しそうに僕を見ている。
「カイト様!」と僕を呼ぶ声がした。振り返ると神官長とリネットが慌ててやってくる。
「おはようございます。リネット、それから……?」
「おはようございます、自己紹介がまだでしたね。神官長のファセムです。カイト様はこちらで何を為さるつもりですか?」
「今日はこの国の官職の試験を受けに参りました。」
「なりません。人が眷属様を見定めるなど、あってはならぬことです。」
「え、でも神様たちからは今日の試験を受けるようにと言われたのですが。」
ファセムは困った顔をしていた。そこでリネットが、
「カイト様はこの世界のことをお知りになりたいとおっしゃいましたので、どうでしょう、ここは『力試し』ということでいかがでしょうか?」
「おお、そうですな。ここに来て試験を受けるのではなく。試験を体験していただき我らの世界を知っていただくためにも良い機会ということですな。」
「ええ、我ら親衛隊もおりますので、万全を期して当たってまいります。」
「その、親衛隊って何でしょうか?」
「ああ、カイト様にはご説明がまだでしたね。昨日ガゼル亭にお邪魔した修行僧たちがそうですよ。私は、親衛隊長を拝命いたしました。どうかよろしくお願いいたします。」
「はい、こちらこそよろしくお願いします。」と一礼すると、慌てて神官長が、
「カイト様、今この世界にはカイト様の上に立つ存在はございません。ですからそう気安く頭を下げてしまうとですね……。」
「まあ、神官長殿、そういうお方であるよこの御仁は、誰にでも優しく、決して権威を振りかざす方ではないと、昨夜身をもって拝見いたしました。」
「そうですが、しかし……。」
「我が師も『そうかしこまられてもカイト様が困ってしまうのではないか?』と、話されていましたので。」
「なんと、ガゼル様もそのようなご意見か。ではカイト様の御心のままに。」
ガゼルさんって、やっぱりこの国では偉い人だったのだな。
「それでは娘よ、カイト様の案内を頼む。くれぐれも粗相のないようにな。」
と、案内役のエルフの娘にそう言うと、
「ひゃい、かしこまりました。」と返事をして言葉を噛んでしまった。
それから顔を赤くしてしどろもどろになっていた。
そりゃそうだ。朝から神の眷属様、神官長殿、親衛隊長殿と急にびっくりしただろう。弱々しい人間族が、この世で一番の存在なのだから。もはや半泣きであった。その様子を見ていたリネットは、
「今日はわたくしがご案内いたします。」と言って、エルフの娘に目配せをして、案内役を下がらせた。
エルフの娘は深々と一礼して、逃げるように去っていった。
「カイト様、この後神殿でお待ちしております。試験の見学が済みましたら親衛隊長が案内いたします。」
「わかりました。リネットさん、よろしくお願いしますね。」
「はい、カイト様。こちらこそ。」
「ところで今日は、親衛隊の皆さんはどうしているのかな?」
「今日は試験日ですので、会場の警備に当たっています。血気盛んな獣人族と、それと仲の悪い魔人族、そう言ったものがいる一方で魔法にたけた一族、エルフや妖精族、ケットシーなんかもいますので、互いが直接かかわらないように交通整理をしております。まぁ毎年何らかのトラブルはつきものなのですがね。」と困った顔で話をする。
ああ、盛大にフラグを立ててしまったよ。この娘は。
親衛隊から報告が入る。演武場でオークの門番と魔族が小競り合いを始めたと。リネットがこちらをちらりと見ながら、
「今行く、決して争いにならぬようにな。」と親衛隊に言うと。
「カイト様、お聞きの通りです。わたくしはそれらの対応に行かねばなりませんが……。」
「ああ、それなら問題ないです。僕も行きますので。」
嫌な予感しかしない。いや、僕がやられるとか、そう言うのではなくて、アイドル化のスキルがまたとんでもないことをしてしまうのではないかと。
「シルフィ、おはよう」
(はい、おはようございます。なんか騒がしくなってきたわね)と半ば喜んでいるように見えた。
「ちょっとトラブルがあって、様子を見に行くところなんだよ。」
(それはなんだか期待が持てそうですね、火事と喧嘩は東京の華って。)
いろいろ突っ込みを入れたいところだが、今はそれどころではない。
「カイト様、こちらです。」とリネットが案内する。
「なにがあった。」
「はい、交通整理をしていたオークの門番の戦斧が魔族の翼にふれて傷がついたとかでもめております。」
「傷は深いのか?」
「いえ、それを聞いた魔族たちが一斉にそのオークを取り囲んだため、騒ぎになりまして。」
僕たちが駆け付けると、門番のオークを取り囲むように魔族が因縁をつけている。周囲は魔族に対して非難する声が上がり、一触即発の雰囲気だった。
「最初からそれが目的か。ここに来たのもこの国を魔族が取り返そうとしている可能性があるな。よし、あとは引き受けた。」
そう言ってリネットが魔族の集団に立ち向かう。アイテムバッグから槍を取り出して地面に打ち付けた。
ドンという鈍い音が響き、
「我は親衛隊長リネットである。ここで騒ぎを起こすことを禁ずる。従えぬと言うなら相手をしよう。」
悪魔族の一団のうち、リーダーらしき人物が間の悪そうな表情で、僕を見ていた。それから恭しく、
「これは姫君、わざわざお手を煩わせるには至りません。わたくしからこの者にはよく言い聞かせておきますので、この場はご勘弁を。」と風体の良い魔族が間に入った。アークデーモンでも上位の者、悪魔貴族であろう。
「貴様は?」
「わたくしはこの者たちの引率と護衛のために同行しております。血気盛んな若者の稚拙な行為ゆえ、ご容赦いただきたい。」
「わかった。ミルトンもそれでよいな。」
「はい、親衛隊長殿。」
いま「姫君」と言わなかったか?英雄王と王妃、ガゼルさんとサキさんは元勇者パーティーでこの国の英雄そのものだ。ガゼルさんと幼いころから交流があり、師と仰いでいることに何ら疑問のない人物。そう、リネットさんはこの国の姫君なのだな。アテナ神の言う「運命の花嫁」か。
(そうね、彼女が姫君で、この国の行く末を決める大事な人なの。その人の夫には、力の支配を超えた知恵と勇気を持つことが求められるってわけ。でもね、今のこの世界にはそんな人がいるとは思えないのだけどね。)
「ああ、そうだな。姫君さえも力を持つように育てられているのでは、その価値を理解しようとするものは、現れるのかねぇ?」
(そうねぇ、ま、現れたとしても、その人が気づかなければ、ねぇ)と意味ありげなことを言った。
「リネットさん、魔族がこの国を乗っ取ろうとしているって本当ですか?」
「ここはもともと魔族が支配する国でした。私の父たちのパーティーが圧政を敷いた魔王を打倒して、この国を建てたのですが、その時に残っていた魔族たちは、そのまま受け入れていたのです。アテナ神の「他種族共栄」のお考えの元に。しかし彼らは機会があればこの国の奪還をもくろんでいました。この国の中に入り込んで崩壊させようとしているのも明白です。もちろん魔族の中にも優秀な人はいて、今でも国のために働いている人はいるのですが。一部の魔族には受け入れられていないのが現状です。」
「やはり国のかじ取りとなると、そう上手くは行きませんよね。」
「この国でもいまだに力による支配が続いております。せっかく圧政から解放したというのに、今までとは何ら変わりはありません。そこで父はアテナ神に祈ったのです。」
「やはりあなたがこの国の姫君なのですね。姫君の夫となる方の話ですか?」
「ええ、父より聞き及んでおります。『この地を治める者は力にあらず。しかし力に抗うほどの知恵と勇気のある者を汝の娘婿とし、力はそれを守るものであること。』と、わたくしが誕生した夜、アテナ様より神託を受け、授かった言葉でございます。ですからわたくしはその方を守る力として、『運命の花嫁』と言われるようになりました。」
「それは、大変なことですね。生まれたときから役目があるというのは。」
「ええ、わたくしも初めはそう思いました。なんと残酷な運命だろうって。それでも今は、誇りに思うことにしたのです。この国や世界が平和になっていく。その方と供に歩んでいくことが私の運命だと。」
「そうですね。いつかそんな方と巡り合えるといいですね。」
「はい……。」と、少し間の抜けた表情をした。
(いま盛大にずっこけたわよ、きっとこの子もね!)
演武場では試験官が受験者の武術の実技試験を行っていた。さすが若者だけに、元気のいい打ち込みをしている。試験官に勝つことが目的ではないが、ここでの取り組みが評価されるとあって、受験生も必死に戦っている。
さすが騎士団長、どんな攻撃も剣先一つで華麗にさばいている。訓練前の若者ではやはりそれが限界であろう。やがて獣人たちの実技試験が終わると、魔族の番になった。
ここで試験官は交代となった。魔法が中心の試験になるため、ビショップが呼ばれた。
「ふっ、この国の魔法レベルは大したことありませんねぇ。」と先ほどの悪魔貴族が言い放つ。魔族の一団はビショップに対して冷ややかに嘲笑する。
「これは試験である。戦いではない。これでも私は魔法師団の団長である。貴様が私に劣らぬというなら、全力でかかってきなさい。」
「親分、いいですよね。こいつ焼いてしまいましょう。」と言い、一人目の受験生が出てきた。
「では、遠慮なく。」と言って魔法の詠唱に入る。
「灰燼と化せ、我らが王の望みを叶え……。」
ん?これは高位の爆炎魔法のメガフレアではないのか。
なんだって大魔法を、しかも範囲魔法じゃないか。どうか間に合ってくれ!
プログラミング起動!
10 DIM “武舞台”=FIELDS(18,18)
20 DIM “結界”=AREA(0;0,18:18)
30 DIM “試験官”=“団長”
30 DIM “防御”=HP±0、MP-100
40 PUT “防御” ON “結界”
50 LOCATE(12,9) PUT “防御” ON “試験官”
60 OUTPUT
指先にプログラムが投影された。とっさに思い付いたプログラムを武舞台に向かって放つ。
「RUN」というと「ピン」という音とともに武舞台には防御結界が展開され、試験官にも防御魔法が展開された。
「メガフレア」と唱えた瞬間、空間全体が赤い炎に包まれた。武舞台に立ち込める熱気に周囲の者たちが悲鳴を上げる。しかし次の瞬間、カイトのプログラムが発動。淡い光の防御結界が舞台全体を覆い、炎は結界の内側で暴れながらも抑え込まれた。
その輝きが収まる頃には、武舞台上の魔族は動けなくなり、ただ驚愕の表情を浮かべていた。また、試験官は周囲も壁に守られ無事だった。
悪魔貴族が素早く回復薬を用いて術者は動けるようになったがダメージは大きい。
「今のは明らかに試験の範囲を超えていますよね。」と僕が聞くと、
「ええ、これは試験に名を借りた暴挙ですね。」とリネットが憤る。
僕はこの者たちを許せないと思った。気づけば僕は武舞台に上がっていた。
アイドル化が発動する。この場に居合わせた者たちが僕に注目を集めた。
(カイト、ダメだよ、やっつけては。今は魔族と戦争にならないように気を付けているのよ。)とシルフィが耳打ちする。
「これはアテナ神の眷属様。私共に何か?」
「これは試験に名を借りた暴挙ですな。試験官は僕が保護しました。ちょうどここには防御結界を展開してありますので。もし暴れたければ僕が相手になりましょうか?」
「これは恐れ多いことです。眷属様には失礼ですが、私共魔族には女神の存在は邪魔でしてね、できればあなたにもここでご退場願います。」
「ダークバインド」と悪魔貴族は闇の拘束魔法を唱えた。
「リバースリフレクト」と僕は覚えたての魔法で応戦する。
闇魔法が聖属性魔法に反転し、魔法が返されるというものだ。
魔力差で圧倒しているので、効果的に魔法が発動する。悪魔貴族は聖属性魔法で拘束され、解除ができずにいる。
「よくも親分を!」と言って、やみくもに手下たちが一斉に僕に向けて魔法を放つ。
「馬鹿者、やめろ。」と悪魔貴族が言うが、間に合わない。結界内で逃げ場を失ったエネルギーが魔族たちに襲い掛かる。
ドンという大きな音とともに、魔力の暴走に巻き込まれた武舞台上の魔族たちは、倒れこんで身動きができずにいた。
「捕らえよ。」とリネットが言うと親衛隊が素早く魔法拘束具で捕獲した。
「しばらく牢で休んでもらえ。その後の取り調べは騎士団長殿にお願いする。」
「は、承りました。」と騎士団長が返事をした。
この後試験会場からは大きな歓声が沸き上がった。皆口々に、
「カイト様万歳!」と言って喜んでいた。アイドル化の効果もあり、会場は盛り上がる一方だった。僕は皆を鎮めるために武舞台から話しかけた。
「僕は理不尽な暴力は嫌いです。許しません。みんなが仲良くするためには、こういうことは許してはいけないのです。強い者が弱い者を従えるのは、平和とは言いません。僕はみんなに平和で豊かな、笑って暮らせる生活を送ってもらいたいのです。だからみなさん、平和な国を作るため、僕に力を貸してください。」
その声を聴いた聴衆からは一斉に雄叫びと拍手が沸き起こった。僕は両手を上げてそれに応えながら、試験会場を後にした。
「ねぇリネット、僕は試験に合格するでしょうか?」と冗談めいて聞いてみた。
「ええ、もちろん合格ですよ。」とリネットは少し顔を赤らめて言った。
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辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
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