救国のBASIC

竹笛パンダ

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おっさん、お歳暮になる

神様の眷属としての生活についての考察

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 試験会場を後にした僕は、リネットともに神殿の神官長のところへ行った。神殿では僕のために法衣と杖、それからこの国の建国史と魔法の本が用意されていた。アイテムバッグを確認すると、着替えもない状態だったので、とてもありがたい話だが、法衣は遠慮したいほどの装飾が施されていた。
「これは少し派手な気がするのですが。」というと、神官長は、
「なんの、これでも控えめなほうです。何せこの世界で一番の方が着用するのですから。」
 言われてみれば神官長の法衣にも装飾が施されている。立場上、その上ともなると、こうなるわけなのだな。これにはリネットも少々笑いをこらえている。
「僕はきっと修行僧たちと行動を共にすると思いますので、訓練着を下さい。」
 神官長は、納得いかないような顔をしていたが、リネットが助け舟を出す。
「法衣はね、ほら、式典とか儀式とか、信仰にまつわる行事に出席するときだけ、着ていただければよいのではないでしょうか?」
 さすがリネット。話が早くて助かる。僕はあまり目立ちたくはないのだ。
「僕はまだ若いですし、魔法や剣術の修行もしたいので、ここに訓練で通いますね。」
 そう言うとファセムは少し困った顔をしている。
「カイト様。実は神殿にお部屋を用意しておりまして、そちらをお使いいただこうと思っているのですが。護衛の面でも何かとご不便をかけないで済みますので。」
「いいえ、僕はガゼルさんの宿にご厄介になるつもりです。皆さんの暮らしぶりを肌で感じていられるところに住みたいのです。それにガゼルさんなら、僕を特別扱いしませんので、気が楽なのです。」
「特別扱いを受けるべき方が、そのようなことをされては周りが困ってしまいます。どうかご一考ください。」
「う~ん。」と双方の意見が合わず、考え込んでいたが、リネットが、
「そうであったな。ファセム殿、ガゼル亭には私が通うとしよう。神殿との連絡役もそうであるが、何よりも我が師の元であれば護衛も必要ないのではないか?それに先ほどの騒ぎを知っていれば、誰もカイト殿に悪意を向けようとは思えない。」
「ええ、そうですとも。今やカイト様は眷属様でありながら、魔族から我らを救った英雄でありますからな。ガゼル殿の元であれば大丈夫でしょう。わかりました。今後の対応についてはまた協議いたします。それで、官職に就くことをご希望されているのですか?」
「神々からは、この国の官職試験を受験するところまでの指示はありました。
 昨日神殿に来てからこのようなことになりまして、自分でも驚いています。僕は仕事を通じてやるべきことを探していこうと思っていました。」
「では、今後のガゼル亭での滞在費はすべて神殿と王国が負担いたします。神殿との連絡および護衛はリネット親衛隊長以下20名の隊員で行います。これは訓練も兼ねておりますゆえ、カイト様にはご協力をいただく形ですので、どうかお気になさらないでください。身の回りの世話係として侍女を二人、それから執事を……。」
「ちょっと待ってください。それではガゼル亭に僕の関係者だけで何人も滞在することになります。それはさすがにご迷惑になると思いますし、身の回りの世話なら自分でできます。独りが長かったので……。」
「15歳で『独りが長い』なんて、不思議なことをおっしゃいますね。」とリネットが聞いてきた。
「ええ、両親とは死別しましたので、それ以来独りでした。ですから、だいたいのことは自分でできると思います。」
 まあ、おひとり様生活が長かっただけだが。
「それはさぞお辛かったことでしょう。それで使用人の件は、いかがいたしましょうか?」
「僕は街の人たちになじんで生活をしたいと思います。ですから使用人を使うのではなく、自分で身支度を整えたり、洗濯などもしますので、そういう方は不要です。何かあればガゼルさんもいますし。」
「では小姓を一人、これは使用人ではなく、こちらが彼の見分を広げるために派遣するという形です。コボルドの『リッキー』です。彼をお連れ下さい。まだ幼さが残る年齢ですが、いろいろなことに鼻が利きます。きっとお役に立てると思いますよ。」
 結局僕はガゼル亭でコボルドのリッキーと暮らすことになった。身の回りの世話は小姓のリッキーが行い、寝食を共にすることとなった。
「まあ、小姓であれば姫様もいらぬ心配なさる必要もないので安心ですな。」
 ファセムがリネットを見ながら何やら含み笑いをしていた。

 僕の眷属としての仕事は、神殿に通い顧問的な役割(つまり「天下り」である)をすることで合意した。はじめは具体的な仕事はないが、気になったことは好きに意見してよいことになった。まぁ、前世の体験をもとに必要なことを考えてみると、みんなが暮らしやすくなる街づくりといったところか。それだけでもかなりの大仕事だと覚悟を決めた。

 夕方になってガゼル亭に戻ると、そこには整理券を持った人たちが煮込み肉を食べるために整然と並んでいた。どうやら朝からミナが頑張って作ったらしい。整理券制度が導入されてから、弱い種族でも安心して順番を待てるようになり、街の空気が一変した。ガゼル亭の人気はさらに高まり、他の宿屋でも、整理券制度を真似しようという動きが出てきた。このプログラムは、誰でも使えるように短い詠唱に定義しておいたので、ミナでも扱える無属性の生活魔法になった。
「カイト様、お帰りなさいませ。ここにいるとカイト様にお会いできると思いまして、この時間以降の煮込み肉の整理券は入手が困難になっています。」
「え、そうなのですか?」というが、昨日与えてしまった啓示を思い出した。 
 周囲を見ると親衛隊の面々が警備に当たっていたので、声をかける。

「みんなのおかげで、ここの人たちが仲良くしてくれて、僕はうれしいですよ。」なんて言ってしまったので、ここでの騒乱は起こることはなくなった。
 いいことなんだろうけど、またシルフィに小言を言われそうだ。
 部屋に帰ると、リッキーが待っていた。先ほど親衛隊長から指示があり、荷物をまとめて部屋で待っていたそうだ。
「カイト様、おかえりなさいませ。本日からお世話になりますリッキーと申します。私が身の回りのお世話をさせていただくことになりましたので、何でもお申し付けください。」
「ああ、よろしく頼むよ、リッキー。」
 リッキーは大きな耳と愛らしい顔つきをしていたが、動きは素早く、手際も良い。彼が持つ『鼻が利く』能力は、驚くほどの観察力を伴っていた。

 この後夕食では、煮込み肉を食べに来た信者たちとともにリッキーの歓迎会が行われた。ガゼルさんは、今後は定期的に二人分の宿代と手間賃が入ることになり、上機嫌だった。ミナは、覚えたばかりの整理券の生活魔法を披露して見せた。

 夕食の信者たちの話題はもちろん昼間の魔族との一戦のことで盛り上がっていた。どこから聞いたか僕の真似をして語る人もいて、とても大げさに言うから、自分でも恥ずかしくなっていた。
 こうして楽しい夜を過ごし、僕たちは眠りについた。

 翌朝、朝食前にリッキーが僕を起こす。
「カイト様、お時間ですよ。今日から神殿でお仕事ですよ。」
「ああ、起こしてくれてありがとう。」と言い、かいがいしく僕の世話を焼く。顔を洗えばタオルをもってそばに立ち、着替えはベッドの上に用意してあった。
 本当に「鼻が利く」のであった。
 朝の支度も終わり、部屋で待っていると、ミナが呼びに来た。
「朝ごはんですよ。カイトさんとリッキーちゃん。」
 ミナにとっては弟分ができたようで喜んでいた。年齢はさほど変わらないようだが、半年ほどミナのほうがお姉さんだった。それをいいことに「ちゃん」である。
「もう、私はお仕事で来ているのに、『ちゃん』は調子狂うなぁ。」

「いいじゃないか、それなら『ミナちゃん』とでも呼んであげれば?」と僕が言うと、
「お姉さまと呼びなさいって言うのですよ。」と少し困った顔をしていた。
「あ、リッキーちゃん、こっちだよ」とミナが言う。
「ミナちゃんだって、さっきお皿割ってサキさんに叱られていたじゃないか!」とリッキーが反撃すると、ミナは慌てて、
「それは別の話よ!」と顔を赤らめた。その様子を見ていたガゼルさんは、
「これミナ、リッキーは仕事をしているのだから、あまりからかってやるなよ。なぁ、リッキー。」
「そうですよ、ミナちゃん。私は仕事をしているのですから。」と胸を張って言い返していた。
 リッキーとミナとともにサキさんが用意してくれた朝食をいただく。二人とも成長期だけあって僕よりも多く食べる。魔力を補填する関係上、この世界の人はたくさん食べるそうだ。僕は魔力量が減ることはないので、気にしていないのだった。
「ごちそうさまでした。」と言い、朝食が終わると、僕たちはそのまま神殿に向けて歩き出した。今日から仕事ができると思うと、その足取りは軽い。
 神殿の大きな扉を見上げながら、僕は期待と不安が入り混じる感覚を覚えた。
 この世界で自分がどのような役割を果たせるのか、今、その一歩を踏み出そうとしているのだ。
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