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おっさん、お歳暮になる
新しい家族
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その後僕たちは謁見の間の奥にある、私的な面会室に通され、ニコ王妃が待っていた。ニコ王妃はスラッとしたいで立ちに、萌黄色の長い髪、エメラルドグリーンの瞳と、少し長めのとがった耳をしていた。僕は、そのあまりの美しさに息を呑んだ。
「初めまして、リネットの母のニコール・フォン・シナールです。あ、普段は皆さん『ニコ』って呼んでいます。」
「もう、母様に会う男性はみんなその反応なのね。どう?母様綺麗でしょ。森の守り主、ドライアドの一族で、強力な精霊魔法の使い手なのよ。」
「初めまして、カイトと申します。いつもリネットさんにはお世話になっておりまして、今日はその、なんというか……。」
「ええ、カイト様もさぞかし驚かれたことでしょう。アテナ神の眷属様になられたのも昨日で、今日はいきなり結婚とか。びっくりしましたわよね。」
「はい、あまりにも急すぎて、まだ実感がわかないのも事実です。」
「そうでしょうね。でもね、私たち親子にとっては、今日という日をずいぶんと待っていたのですよ。なにせこの娘が生まれた時から、ずっと待ち望んでいたのですから。」
ニコ王妃はエメラルドグリーンの瞳を優しく細めながら語りかけてきた。その瞳には、娘への深い愛情と、未来への確かな希望が宿っているようだった。
彼女の言葉には、母としての思いやりと王妃としての威厳があった。
「母様、わたくしは今日、ようやく『運命の花嫁』になることが出来ました。」
「ええ、ずっと思い描いていた方が、こんなに素敵は方でよかったわね。しかもすでに武勲を上げているとか。頼もしいじゃない。」
「それでね、母様。私も今日からガゼル亭に住もうかと思って。」
「あら、サキちゃんのところなら安心かしら。何せ彼女は強いからね。でもね、あなたには王族のお仕事もあるのよ。神殿のお仕事はカイト様の親衛隊長として行動すればいいのだけれども、困ったわねぇ。」
「王族の仕事もカイト様に手伝ってもらうのはどう?魔族との不戦協定を取り付けたことだし、眷属様なのだから。」
「いや、リネット、眷属だからできないのですよ。」
「どうして?」とやや不満そうな顔で僕を見た。
「それは、僕が言うことを聞かせてしまえば、それは支配と変わらない。支配者が変わっただけで、今とは何も変わらない。僕は弱い人間族だから、強い人に倒されればまた誰かの支配に変わるだけなのです。」
「そのために私がいるのでは?」
「それでは僕がここに来た意味がないのです。強い支配者が国や民を守るのではなくて、自分たちで国を作っていく。そういう国を作らないとなりません。」
「それでは王様は要らなくなるの?」
「いいや、要らなくはならないけど、今まで王様がやっていたことから少しずつ国民に自分たちでやってもらうようにしていきます。たとえば悪いひとがいたら王様が懲らしめるのは、実際は無理な話でしょう?この国でわるい人がそんなにいないのは、王様が強いのではなくて、みんなが悪いことをしてはいけないって思っているからなのですよ。」
「そうよね。なんでも王様がやるのは、実際には無理な話よね。」
二人の様子を感心して見守っていたニコは、ふと疑問に思った。
「カイト様、あなたは今おいくつなのですか?お話の内容が人間族の少年にはとてもできないお話ですし、それよりも深い知見と洞察力をお持ちですね。リネットはこれでも40歳を過ぎたところです。我々のような種族ではまだまだ若いのですが、それなりの見識はあるつもりです。それを今は教え導いていらっしゃる。」
「お母様、私の年を教えないでください、カイト様ががっかりしてしまうのではないですか。」と少し照れながら怒っていた。
「実は僕の前世では55歳だったのです。この体はその、なんというか地球という世界からこの世界に来た時に、神様からいただいた姿で、その神様の好みというか、ご趣味に沿った姿なのですよ。」
「あらまぁ、いいじゃない。異世界の神様も美少年が好きでしたのね。わたくしもそうですのよ。眺めているだけで元気になりますの。」
「ちょっとお母様、カイト様は私の旦那様なんですからね。」
「いいじゃないの、その美しさを独り占めなんて、あなたは世の女性を敵に回すつもりかしら?」
「いいえ、そんなつもりはありませんが、とにかくダメなものはダメなんです。」と、少しむくれ顔で話をする。
こんなリネットはかわいくてずるい。思わず見惚れてしまうほどだった。
「まぁ、カイト様のそのお顔を見れば、よくわかりますわ。まったく本当に惚れておりますのね。」
言い当てられて、本当にことときは「ドキッ」と心臓の音が聞こえるようだった。
「まぁからかうのはこれくらいにして、お互いの本当の素性もわかったことだし、これからのことを話し合いましょう。」と言って卓上のベルを鳴らし、
「バル国王はまだ会議中かしら。手が空いてから私のところへ来てもらいたいのだけれども。伝えてもらえるかしら?」
「はい、承りました。」と侍女がバル国王の様子を見に行った。
「まったくこの娘はせっかくわたくしのような整った体を持ち合わせながら、夫からは筋肉質なところと頑丈な体を受け継いでいるでしょう?小さいころから鍛錬に夢中で、女の子らしいところは一つもないのよ。どんな仕事をするかと思えば神殿騎士になって、魔物の討伐やら悪霊退治をしているのよ。ようやく修行僧の教官になって、危険がなくなってホッとしていたのよ。」
「はい、娘さんはとても面倒見がよく、修行僧達からも慕われておりますよ。」
「ええ、存じておりますが、人前に出るときぐらいは、ドレスを着てほしいものです。今日の晴れ舞台にも、神殿騎士の制服なのですから。」
そう言ってニコ王妃はため息をついた。
「ほら、今日は急だったし、アテナ神の眷属様を守る使命がありますので。」
「母親としてはね、きれいな花嫁姿も見てみたいものよ。それはきっとお父様も同じでしょう。」
そうだったな。僕の両親も結婚して花嫁を迎えることがなかったのが心残りと言っていたな。
「ねぇリネット。改めて、ちゃんとした結婚式を挙げよう。ご両親もそうおっしゃっているので。」
そこへバル国王が到着する。王妃とリネットは王に向かって礼をする。僕も併せて礼をする。バル国王は慌てて僕に跪く。
「この度は我が娘手の婚姻を承諾くださり、誠にありがとうございました。父として、いや国王としてもこの慶事に心が躍る気分でございます。」
「バル王様、どうか頭をお上げください。今日からは私の義父になるのですから。先ほどもお妃様とは楽しく歓談していたところですよ。できれば僕にも家族として普通にお話をしてくださるとうれしいのですが。」
「そうおっしゃっていただけると……。そう言ってもらえると助かる。なにしろ我らドワーフはそう言う堅苦しいのは苦手でな。」
「ねぇカイト様、いま確か、結婚式を挙げてくださるっておっしゃっていましたわよね。」とニコ王妃が笑顔でバル王に話す。
「なんと、そうであったか。カイト殿、リネットもさぞ喜ぶであろう。いや何よりも我ら夫婦にとってこれほど嬉しいものはない。ただし、国家の行事となるゆえ、さまざまな準備が必要であろう。細かいことはさておき、まずは祝おうではないか。」と上機嫌で話をしている。
「ガゼルのところへ至急伝達をいたせ、今夜は王家で貸切りにすると。まずは祝おうではないか。」
「はい、かしこまりました。」と宰相が慌てて指示を出す。
「それから宰相、皇女の結婚式であるが、国を挙げての行事となるゆえ、抜かりなく準備を整えよ。」
シナール王国英雄王バルの娘、リネット皇女の結婚式ともなると、盛大に行われることなのだろうな。
「ところでリネット。僕はいつまでこの格好をしていればいいのでしょうか。」
「あ、そうね、宿に帰るのに、その恰好ではね。着替えを用意させるから、少し待っていてね。あと私には敬語はなしよ。もう旦那様なんだからね。」
「はい、わかりました。なるべく早く慣れるように心がけます。」
「もう、さっそくこれだから。いい、私はあなたの奥さんなの。これからずっと一緒なのよ。いちいち敬語を使って気を遣っていたら、いつか疲れちゃうわよ。」
「はい、すみませんでした。」とつい口から出てしまう。長年のサラリーマンの習性なのだ。まぁそのうち慣れるだろう。
王城のエントランスにあるロータリーには馬車の車列ができていた。総勢20名ほど。王家の3人と僕、それから従者や侍女、厩番ともちろん護衛の騎士も引き連れている。一同はガゼル亭へと向かったが、王城の門からは街道から路地を一つ入っただけなので、会話をする間もなく到着した。
ガゼルさんの出迎えにバル国王はこぶしを合わせて応えた。元パーティーメンバーなので、とても親密そうだった。
僕たちはミナとリッキーの案内で食堂に迎えられた。
「サキ、久しぶりね。」こちらもニコ王妃との再会を喜んでいた。
「何だい今日は、一家おそろいで。何かめでたいことでもあったのか?」
僕がリネットとともに姿を現すと、
「なんだ、カイトがまた何かやらかしたんじゃないよな。」と言ってからかっていたが、
「師匠、実は今日、結婚の報告に参りました。」というリネットの言葉を聞き、ガゼルさんは驚きのあまり言葉を失っていた。
「まさか、カイトか?」との問いにリネットが静かにうなずくと、
「はーっはっは、こいつは愉快だ。カイト、お前も忙しい男だな。つい最近現れてから、アテナ神の眷属になって、官職試験では魔族とやり合って、それでは飽き足らず休戦協定を結んで魔族の侵攻から国を救ったと思えば、今日は結婚だって?しかも『運命の花嫁』だぜ。もうこれ以上はないってくらい、ぶっ飛んだ野郎だな。まったく。」と大笑いしていた。
リネットが照れながらも素直に自分の気持ちを伝える姿に、僕は自然と頬が緩む。こんな日が来るなんて、かつてのボッチ生活の日々には想像すらできなかった。「これが妻のいる、新しい生活なんだ」そう思うと、胸がいっぱいになった。
「あたしゃカイト様はいずれこうなるために現れたと思っていたさ。うちの娘も珍しく懐いていたからね。そういう性質のお人なのだと思ったよ。」とサキさんが言うとニコ王妃も、
「もう本当に神が造りし美少年という感じですわね。うちの娘に独占させておくのはもったいないくらいよね。いっそのこと養子にしてしまおうかしら。」
「ちょっとお母様、それじゃ私たちは夫婦ではなくて姉弟になってしまうじゃない。」と少しむくれていた。リネットもそういう姿も愛おしいと思ってしまった。
城の従者たちが、サキさんが用意した料理を運んでいき、さらに自分たちの分も配膳した。今日は身分の差も関係なく皆で祝うことになったのだった。
「さて、皆の者、グラスは行き渡ったか。ではガゼルよ、たのむ。」
「今日はうれしい報告が舞い込んだ。親友の娘にして弟子であるリネットと、アテナ神の眷属であるカイト様との婚姻が成立した。長年待ちわびた『運命の花嫁』の夫がようやくこの国に現れたのだ。これを祝わずしてなんとする。二人の未来と、王国の未来、世界の希望に『乾杯』。」
皆一斉にグラスを空ける。そして大きな歓声と拍手。それからはもう僕とリネットには何人もの客が祝福と酒を注いで祝ってくれた。
宴は夜が更けるにつれて、さらに賑やかさを増していった。ミナが持ち前の明るさで場を盛り上げ、リネットは訪れる人々一人一人に感謝の言葉を伝えて回った。そんな中、僕はふと、自分がこの温かな輪の中にいることに感動を覚えていた。「これが新しい僕の家族なんだな」と静かに胸の中で呟きながら、笑顔で杯を掲げた。
「はいおまたせ、当店自慢の煮込み肉だよ。神の眷属カイト様も食した究極の味だよ。」とサキさんが大皿の肉を振舞っていた。宴の席では、ガゼル亭の天井まで響くような笑い声が絶えなかった。杯が交わされるたびに、新たな祝福の言葉が飛び交う。誰もがこの特別な夜を楽しみ、僕とリネットを温かく迎え入れてくれた。
楽しい宴は夜まで続いたが、夜も更けたところで王族の3人は城へ帰ることになった。帰り際にリネットは、
「これからのことは明日また話をしましょう。今日のところはこれで失礼いたします。」と言って僕の頬にキスをして、国王とともに帰っていった。
「おい、お前本当に結婚しやがったんだな。俺はもう少し時間がかかると思っていたんだがね。」
「ええ、今回僕が魔族との間に休戦が成立したことで、戦争を回避した功績が認められたのです。実はその報告の席で、王様が皆さんに発表したのです。ですから僕にも急な話でまだ実感がわきません。」
そう言うとガゼルさんは僕のほほを指でつついて、
「実感ならほら、ここにあるじゃないか。」と言ってからかった。
僕は急にリネットを思い出して、真っ赤になった。
「ほら、まだお客はいるんだ。さっさと手伝っておくれ。それからリッキー、ご主人はもうお休みになるそうだから、お部屋に案内するんだよ。」と言って、サキさんは片づけをしていた。
僕は部屋に戻り、布団に潜った。
「今日一日、僕の人生がまた大きく変わった気がする。リネットと、そしてこの国の人々と一緒に、これからどんな未来を築いていけるのだろう。」そんな思いを胸に抱きながら、僕はそっと目を閉じた。
「おやすみ、リネット。明日もまた、よろしくね。」
「初めまして、リネットの母のニコール・フォン・シナールです。あ、普段は皆さん『ニコ』って呼んでいます。」
「もう、母様に会う男性はみんなその反応なのね。どう?母様綺麗でしょ。森の守り主、ドライアドの一族で、強力な精霊魔法の使い手なのよ。」
「初めまして、カイトと申します。いつもリネットさんにはお世話になっておりまして、今日はその、なんというか……。」
「ええ、カイト様もさぞかし驚かれたことでしょう。アテナ神の眷属様になられたのも昨日で、今日はいきなり結婚とか。びっくりしましたわよね。」
「はい、あまりにも急すぎて、まだ実感がわかないのも事実です。」
「そうでしょうね。でもね、私たち親子にとっては、今日という日をずいぶんと待っていたのですよ。なにせこの娘が生まれた時から、ずっと待ち望んでいたのですから。」
ニコ王妃はエメラルドグリーンの瞳を優しく細めながら語りかけてきた。その瞳には、娘への深い愛情と、未来への確かな希望が宿っているようだった。
彼女の言葉には、母としての思いやりと王妃としての威厳があった。
「母様、わたくしは今日、ようやく『運命の花嫁』になることが出来ました。」
「ええ、ずっと思い描いていた方が、こんなに素敵は方でよかったわね。しかもすでに武勲を上げているとか。頼もしいじゃない。」
「それでね、母様。私も今日からガゼル亭に住もうかと思って。」
「あら、サキちゃんのところなら安心かしら。何せ彼女は強いからね。でもね、あなたには王族のお仕事もあるのよ。神殿のお仕事はカイト様の親衛隊長として行動すればいいのだけれども、困ったわねぇ。」
「王族の仕事もカイト様に手伝ってもらうのはどう?魔族との不戦協定を取り付けたことだし、眷属様なのだから。」
「いや、リネット、眷属だからできないのですよ。」
「どうして?」とやや不満そうな顔で僕を見た。
「それは、僕が言うことを聞かせてしまえば、それは支配と変わらない。支配者が変わっただけで、今とは何も変わらない。僕は弱い人間族だから、強い人に倒されればまた誰かの支配に変わるだけなのです。」
「そのために私がいるのでは?」
「それでは僕がここに来た意味がないのです。強い支配者が国や民を守るのではなくて、自分たちで国を作っていく。そういう国を作らないとなりません。」
「それでは王様は要らなくなるの?」
「いいや、要らなくはならないけど、今まで王様がやっていたことから少しずつ国民に自分たちでやってもらうようにしていきます。たとえば悪いひとがいたら王様が懲らしめるのは、実際は無理な話でしょう?この国でわるい人がそんなにいないのは、王様が強いのではなくて、みんなが悪いことをしてはいけないって思っているからなのですよ。」
「そうよね。なんでも王様がやるのは、実際には無理な話よね。」
二人の様子を感心して見守っていたニコは、ふと疑問に思った。
「カイト様、あなたは今おいくつなのですか?お話の内容が人間族の少年にはとてもできないお話ですし、それよりも深い知見と洞察力をお持ちですね。リネットはこれでも40歳を過ぎたところです。我々のような種族ではまだまだ若いのですが、それなりの見識はあるつもりです。それを今は教え導いていらっしゃる。」
「お母様、私の年を教えないでください、カイト様ががっかりしてしまうのではないですか。」と少し照れながら怒っていた。
「実は僕の前世では55歳だったのです。この体はその、なんというか地球という世界からこの世界に来た時に、神様からいただいた姿で、その神様の好みというか、ご趣味に沿った姿なのですよ。」
「あらまぁ、いいじゃない。異世界の神様も美少年が好きでしたのね。わたくしもそうですのよ。眺めているだけで元気になりますの。」
「ちょっとお母様、カイト様は私の旦那様なんですからね。」
「いいじゃないの、その美しさを独り占めなんて、あなたは世の女性を敵に回すつもりかしら?」
「いいえ、そんなつもりはありませんが、とにかくダメなものはダメなんです。」と、少しむくれ顔で話をする。
こんなリネットはかわいくてずるい。思わず見惚れてしまうほどだった。
「まぁ、カイト様のそのお顔を見れば、よくわかりますわ。まったく本当に惚れておりますのね。」
言い当てられて、本当にことときは「ドキッ」と心臓の音が聞こえるようだった。
「まぁからかうのはこれくらいにして、お互いの本当の素性もわかったことだし、これからのことを話し合いましょう。」と言って卓上のベルを鳴らし、
「バル国王はまだ会議中かしら。手が空いてから私のところへ来てもらいたいのだけれども。伝えてもらえるかしら?」
「はい、承りました。」と侍女がバル国王の様子を見に行った。
「まったくこの娘はせっかくわたくしのような整った体を持ち合わせながら、夫からは筋肉質なところと頑丈な体を受け継いでいるでしょう?小さいころから鍛錬に夢中で、女の子らしいところは一つもないのよ。どんな仕事をするかと思えば神殿騎士になって、魔物の討伐やら悪霊退治をしているのよ。ようやく修行僧の教官になって、危険がなくなってホッとしていたのよ。」
「はい、娘さんはとても面倒見がよく、修行僧達からも慕われておりますよ。」
「ええ、存じておりますが、人前に出るときぐらいは、ドレスを着てほしいものです。今日の晴れ舞台にも、神殿騎士の制服なのですから。」
そう言ってニコ王妃はため息をついた。
「ほら、今日は急だったし、アテナ神の眷属様を守る使命がありますので。」
「母親としてはね、きれいな花嫁姿も見てみたいものよ。それはきっとお父様も同じでしょう。」
そうだったな。僕の両親も結婚して花嫁を迎えることがなかったのが心残りと言っていたな。
「ねぇリネット。改めて、ちゃんとした結婚式を挙げよう。ご両親もそうおっしゃっているので。」
そこへバル国王が到着する。王妃とリネットは王に向かって礼をする。僕も併せて礼をする。バル国王は慌てて僕に跪く。
「この度は我が娘手の婚姻を承諾くださり、誠にありがとうございました。父として、いや国王としてもこの慶事に心が躍る気分でございます。」
「バル王様、どうか頭をお上げください。今日からは私の義父になるのですから。先ほどもお妃様とは楽しく歓談していたところですよ。できれば僕にも家族として普通にお話をしてくださるとうれしいのですが。」
「そうおっしゃっていただけると……。そう言ってもらえると助かる。なにしろ我らドワーフはそう言う堅苦しいのは苦手でな。」
「ねぇカイト様、いま確か、結婚式を挙げてくださるっておっしゃっていましたわよね。」とニコ王妃が笑顔でバル王に話す。
「なんと、そうであったか。カイト殿、リネットもさぞ喜ぶであろう。いや何よりも我ら夫婦にとってこれほど嬉しいものはない。ただし、国家の行事となるゆえ、さまざまな準備が必要であろう。細かいことはさておき、まずは祝おうではないか。」と上機嫌で話をしている。
「ガゼルのところへ至急伝達をいたせ、今夜は王家で貸切りにすると。まずは祝おうではないか。」
「はい、かしこまりました。」と宰相が慌てて指示を出す。
「それから宰相、皇女の結婚式であるが、国を挙げての行事となるゆえ、抜かりなく準備を整えよ。」
シナール王国英雄王バルの娘、リネット皇女の結婚式ともなると、盛大に行われることなのだろうな。
「ところでリネット。僕はいつまでこの格好をしていればいいのでしょうか。」
「あ、そうね、宿に帰るのに、その恰好ではね。着替えを用意させるから、少し待っていてね。あと私には敬語はなしよ。もう旦那様なんだからね。」
「はい、わかりました。なるべく早く慣れるように心がけます。」
「もう、さっそくこれだから。いい、私はあなたの奥さんなの。これからずっと一緒なのよ。いちいち敬語を使って気を遣っていたら、いつか疲れちゃうわよ。」
「はい、すみませんでした。」とつい口から出てしまう。長年のサラリーマンの習性なのだ。まぁそのうち慣れるだろう。
王城のエントランスにあるロータリーには馬車の車列ができていた。総勢20名ほど。王家の3人と僕、それから従者や侍女、厩番ともちろん護衛の騎士も引き連れている。一同はガゼル亭へと向かったが、王城の門からは街道から路地を一つ入っただけなので、会話をする間もなく到着した。
ガゼルさんの出迎えにバル国王はこぶしを合わせて応えた。元パーティーメンバーなので、とても親密そうだった。
僕たちはミナとリッキーの案内で食堂に迎えられた。
「サキ、久しぶりね。」こちらもニコ王妃との再会を喜んでいた。
「何だい今日は、一家おそろいで。何かめでたいことでもあったのか?」
僕がリネットとともに姿を現すと、
「なんだ、カイトがまた何かやらかしたんじゃないよな。」と言ってからかっていたが、
「師匠、実は今日、結婚の報告に参りました。」というリネットの言葉を聞き、ガゼルさんは驚きのあまり言葉を失っていた。
「まさか、カイトか?」との問いにリネットが静かにうなずくと、
「はーっはっは、こいつは愉快だ。カイト、お前も忙しい男だな。つい最近現れてから、アテナ神の眷属になって、官職試験では魔族とやり合って、それでは飽き足らず休戦協定を結んで魔族の侵攻から国を救ったと思えば、今日は結婚だって?しかも『運命の花嫁』だぜ。もうこれ以上はないってくらい、ぶっ飛んだ野郎だな。まったく。」と大笑いしていた。
リネットが照れながらも素直に自分の気持ちを伝える姿に、僕は自然と頬が緩む。こんな日が来るなんて、かつてのボッチ生活の日々には想像すらできなかった。「これが妻のいる、新しい生活なんだ」そう思うと、胸がいっぱいになった。
「あたしゃカイト様はいずれこうなるために現れたと思っていたさ。うちの娘も珍しく懐いていたからね。そういう性質のお人なのだと思ったよ。」とサキさんが言うとニコ王妃も、
「もう本当に神が造りし美少年という感じですわね。うちの娘に独占させておくのはもったいないくらいよね。いっそのこと養子にしてしまおうかしら。」
「ちょっとお母様、それじゃ私たちは夫婦ではなくて姉弟になってしまうじゃない。」と少しむくれていた。リネットもそういう姿も愛おしいと思ってしまった。
城の従者たちが、サキさんが用意した料理を運んでいき、さらに自分たちの分も配膳した。今日は身分の差も関係なく皆で祝うことになったのだった。
「さて、皆の者、グラスは行き渡ったか。ではガゼルよ、たのむ。」
「今日はうれしい報告が舞い込んだ。親友の娘にして弟子であるリネットと、アテナ神の眷属であるカイト様との婚姻が成立した。長年待ちわびた『運命の花嫁』の夫がようやくこの国に現れたのだ。これを祝わずしてなんとする。二人の未来と、王国の未来、世界の希望に『乾杯』。」
皆一斉にグラスを空ける。そして大きな歓声と拍手。それからはもう僕とリネットには何人もの客が祝福と酒を注いで祝ってくれた。
宴は夜が更けるにつれて、さらに賑やかさを増していった。ミナが持ち前の明るさで場を盛り上げ、リネットは訪れる人々一人一人に感謝の言葉を伝えて回った。そんな中、僕はふと、自分がこの温かな輪の中にいることに感動を覚えていた。「これが新しい僕の家族なんだな」と静かに胸の中で呟きながら、笑顔で杯を掲げた。
「はいおまたせ、当店自慢の煮込み肉だよ。神の眷属カイト様も食した究極の味だよ。」とサキさんが大皿の肉を振舞っていた。宴の席では、ガゼル亭の天井まで響くような笑い声が絶えなかった。杯が交わされるたびに、新たな祝福の言葉が飛び交う。誰もがこの特別な夜を楽しみ、僕とリネットを温かく迎え入れてくれた。
楽しい宴は夜まで続いたが、夜も更けたところで王族の3人は城へ帰ることになった。帰り際にリネットは、
「これからのことは明日また話をしましょう。今日のところはこれで失礼いたします。」と言って僕の頬にキスをして、国王とともに帰っていった。
「おい、お前本当に結婚しやがったんだな。俺はもう少し時間がかかると思っていたんだがね。」
「ええ、今回僕が魔族との間に休戦が成立したことで、戦争を回避した功績が認められたのです。実はその報告の席で、王様が皆さんに発表したのです。ですから僕にも急な話でまだ実感がわきません。」
そう言うとガゼルさんは僕のほほを指でつついて、
「実感ならほら、ここにあるじゃないか。」と言ってからかった。
僕は急にリネットを思い出して、真っ赤になった。
「ほら、まだお客はいるんだ。さっさと手伝っておくれ。それからリッキー、ご主人はもうお休みになるそうだから、お部屋に案内するんだよ。」と言って、サキさんは片づけをしていた。
僕は部屋に戻り、布団に潜った。
「今日一日、僕の人生がまた大きく変わった気がする。リネットと、そしてこの国の人々と一緒に、これからどんな未来を築いていけるのだろう。」そんな思いを胸に抱きながら、僕はそっと目を閉じた。
「おやすみ、リネット。明日もまた、よろしくね。」
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