救国のBASIC

竹笛パンダ

文字の大きさ
13 / 27
おっさん、ドラゴンに会う

軍議は踊る

しおりを挟む
 リネットの元へ親衛隊から急報が伝えられた。森に出かけていた冒険者からの報告で、王都に向かう街道上に数名の焼死体が発見されたという。
「焼死体……?まさか、母親ドラゴンが動き始めたのかもしれない。」
 その言葉を発したリネットの声は恐怖に震え、瞳に宿る不安の色をより深くした。卵を奪い去った者に対して、ドラゴンはどれほどの怒りを抱えているのだろうか。その思いが僕に重くのしかかった。
 その後リネットは冒険者ギルドへ今後の対策については話し合いに出かけて行った。僕は午後の講義の後、執務室へ戻る。
「お疲れ様です、カイト様。」そう言ってサラさんがお茶を入れてくれる。
「ありがとうございます、サラさん。」そう言ってお茶とお菓子をいただいた。
 この世界でのドラゴンの存在は、人々にとって恐怖そのものなのだと改めて実感した。
 まるで天敵のようなものだろうか。地球上には人間に天敵はいなかったので、今一つ実感が沸かなかった。
 ドアをノックする音が聞こえる。
「カイト様、ただいま戻りました。」訓練を終えたリッキーが執務室に戻って来た。そう言えばリッキーにはまだサラさんを紹介していなかった。
「リッキー、こちらはサラさん。この執務室付きの侍女さんだ。君が訓練に行っている間はサラさんがこの部屋で僕に世話をしてくれることになったんだ。」
「よろしくお願いします。カイト様の小姓のリッキーです。カイト様と親衛隊との連絡係と、ガゼル亭では部屋付きの小姓をしています。」
「ええ、こちらこそよろしくお願いしますね。ちょうど私たちは交代でカイト様のおそばにいるのね。わかったわ、これからはあなたにお話を伺ってから仕事に入ればいいのね。ではまた明日の朝ね、よろしく、リッキーちゃん。」
「はい。」と言って下を向いている。リッキーちゃんと言われて照れていたようだった。リッキーから見れば優しいおばあちゃんといったところか。
「サラさん、お疲れさまでした。僕は明日の朝、直接倉庫に行くかもしれませんが、かまわずここでお仕事をなさっていてください。」
「ええ、そうさせていただきますね。それでは失礼いたします。」
「僕たちも帰ろうか、今日は朝からいろんなことがあって疲れたから。それから明日は何があるかわからないからね。」
「そうですね。僕たちも聞いております。ドラゴンがこの街に攻めてくるかもしれないと。」
「ああ、僕たちはそれだけは避けなければならないのだよ。そのためにはいろいろと考えなけらばならない。どうしたらドラゴンと争わないで済むか。」
「そうですね。それなら今のうちに腹ごしらえですよ、カイト様。」
「ああ、そうだな。」
 
 ガゼル亭で夕食をとっていると、一台の馬車が到着する。この紋章は僕も見覚えがある。王家の紋章じゃないか。
 侍従長がガゼルさんに、
「建国の英雄ガゼル殿、救国の英雄カイト殿、王城より至急の召喚です。申し訳ございませんが、ご同行願います。」
「おいカイト、城で会議だとよ。おそらく軍議だろう。長くなるから飯も出るぞ。おいサキちょっと出かけてくる。カイトも一緒だとリッキーにも言っておいてくれ。」そう言うとミナには、
「しっかりと店番を頼んだぞ、ミナ。」と言って頭を撫でていた。
 王城の中庭を抜けた先のエントランスでは、国王自らが僕たちを出迎えていた。侍従長が従者たちに指示を出し、僕たちは会議室へ案内された。
「よく来てくれた。ガゼル軍務大臣。」
「俺をそう呼ぶってことは、戦か?」
「ああ、残念ながらな。詳しくは皆とも話をしよう。」
 王城の会議室にはバル国王と国務大臣、宰相、騎士団長、魔法師団長と重鎮たちが揃っていた。そこにルセフィ教授とファセム神官長、リネットと僕が加わる。国の重鎮たちは円卓に腰を掛けていた。王城の会議室には重苦しい沈黙が漂っていた。国王の一声で招集された会議は、まるで羅針盤のない船の進路を議論するような緊張と焦燥に包まれていた。
 僕とリネット、ルセフィ教授は円卓の外側に設けられた席に座る。おそらくドラゴンの卵にかかわった者から意見を聞こうというのだな。

 さすがにリネットも国の重要な会議に参加するとあって、緊張しているようだった。僕も当然初めてなのだが、ここは夫として妻の手を取り、
「大丈夫だよ、リネット。僕たちならきっとうまくやれるさ。僕の手がそっとリネットの手を包み込む。その温かさが彼女に不安を和らげ、わずかに微笑みが浮かんだ。リネットの顔にも安どの表情がみられて、僕も安心した。
「さてみなさん、今日お集まりいただいたのは、隣国のパラギン帝国に、我が国への侵攻の意図ありとの斥候からの報告を受け、対応を協議します。」と宰相が口火を切った。
「まずは敵戦力の情報が欲しい。斥候はなんと言ってきているのだ。」
「ええ、およそ3万もの軍勢が戦争の準備に入っているとの。騎兵5千、魔法師2千、重歩兵3千、歩兵2万です。」
「おいおい、その数だけでこの城塞都市を落とそうって?およそ戦になるような人数じゃないな。」
「ああ、そうだな、ガゼルよ。何かほかにも策があるやもしれぬ。相手は知略に長けた者たちと聞いておる。ちと苦労しそうであるな。」
「そこで皆様に一つの懸念についてお話いたします。」とファセム神官長が話を切り出す。
「それでは、ルセフィ教授、お願いいたします。」
「はい、今朝ドラゴンの卵がこの王都に持ち込まれたという報告はすでに受けていると思われますが、現在その卵はカイト様の魔力を受け、状態が安定しております。そのため、卵が生きている状態で母親のドラゴンに返すことが出来れば、ドラゴンの被害は防げるものと推察いたします。」
「もしも、パラギン帝国の侵攻と、ドラゴンの一件が何者かに仕組まれているとすれば、今回の件も納得できる。ドラゴンに街を襲わせて、壊滅的になったところに軍勢を押し寄せ、一気にここを落とすのではないでしょうか。」
 一同はこの意見が最も現状に近いと納得している。
「だとすれば、そのドラゴンに街を襲わせなければよいのだが、そんなことが出来るのであろうか。」
 リネットが僕をつついてきた。ああ、ここで発言しろということなのだな。
「あの、僕が今試していることがあるのですが、聞いていただいてもいいですか?」
 緊張感があふれる会議の場にそぐわない、間の抜けた声だった。リネットは思わず吹き出していた。
「いいでしょうカイト様、よろしくお願いします。」
「今、母親ドラゴンに向けてメッセージを出しています。ここで卵を保護していること、無事なので安心してほしいと。ドラゴンがそれに気づいてくれればいいのですが。」
「そうですお父様、カイト様はドラゴンが見えるところに大きく絵を張り出し、卵が無事だということを知らせています。上空50mに見える絵がそうです。」
「確かにこの城の南東の上空に、光の柱が立っているとの報告があったが、あればカイト殿の御業であったか。」
「おいおい、そんなことをやっちまったんかい。」とガゼルが言う。
「俺はもう驚かないけどな、カイトの旦那は本当に信じられないことをやってのける。全く想像もつかない。で、ドラゴンへの対応はカイトの旦那と姫様に任せるとして、俺らはどう動くつもりだい?」
「そうですな、ドラゴンが暴れなければ帝国も手出しはしまい。作戦は失敗に終わるということですな。」
「ま、一応警戒しておくには越したことはないだろうよ。騎士団長、騎馬隊に森からこの街までの間にある平原の巡回を頼む、それから門番にも注意をするように言ってくれ。不審者を逃すなと。必ず様子を見て伝令するものがいるはずだからな。」
「はい、拝命いたします。」とホーク騎士団長は答えた。
「それから神殿騎士には街道の警備と国境付近の検問をお願いしたい。神官長、よろしく頼む。」
「承りました」
「魔法師団は攻撃防御の班と、治癒魔法の部隊に分け、前者は外周壁にて待機、治癒魔法部隊は城内に待機し、要請があれば出動し、これに対応する。」
 ガゼルは一気にこれらの指示を出し、「ふうっ」と大きなため息をついた。
「ま、軍事はこんなところか。」
「では国務大臣はどうか。」
「はい、国民にはパニックにならぬよう働きかけを行います。そのうえで3日間の夜間外出禁止、日中もいつでも避難できるように心がけておくことを注意喚起しておきます。町の警備隊を増員し、冒険者ギルドとともにこれに当たります。さらに冒険者ギルドには通達を出し、市外への外出を禁止、高ランクの冒険者に街の治安維持活動に協力せよと依頼を出します。費用は国が負担するということでお願いします。」
「最後に宰相、意見を頼む。」
「はい、今回のことはぜひ力を尽くして当たっていただきたい。今回に限り予算に上限はつけずに行う。国が滅んでは、貨幣など価値がなくなるのでな。なんとしても国を守り、明日の暮らしを守るのです。」
「そうじゃな、皆の者、この戦に勝って、うまい酒でも飲もうではないか。」
 さすが豪快な英雄王である。
「この作戦の成否は、母親ドラゴンに無事に卵を返せるかどうかにかかっている。カイト殿、そしてリネットよ、頼んだぞ。」
「はい、必ずうまくいくように頑張ります。」
 僕の一言に、安堵の空気が流れた。僕自身もうまくいくことを祈っている。
 軍議が終わると、迎賓館に会場を移し、食事会となった。もちろん士気を高めるための大事な儀式でもある。
「この国に訪れた一大事である。しかし我らの結束は固い。みごと帝国の野望を討ち果たし、この国を守ろうではないか。」
「皆の者、杯をとれ。」
「ガンバロー、ガンバロー、ガンバロー」
 そう言って酒を口にし、拍手が沸き起こる。
 ん?この光景、どこかで……ああ、まるで政治家のパフォーマンスだな。
 僕はこの光景と、どうでもいい記憶が重なり合って、少し苦笑いをしていた。
「ねぇ、カイト様、明日の朝いちばんであの仔の様子を見に行きましょう。魔力が足りているかどうか、心配ね。」
「ああ、そうだねリネット。それでは明日の朝、神殿の倉庫でね。」
 そう言って僕たちは約束をして、それぞれ家路についた。ガゼルさんは調子よく酒を酌み交わしていたので、待機していた送りの馬車に乗り、一人で帰ることにした。
 明日は早い、また何があるかわからない。僕はリッキーにお休みと伝えると、そのまま床に就いた。

 夜の帳が王都を包む中、僕は静かに目を閉じた。しかし、その胸には緊張の糸が張り詰めたままだった。これからドラゴンとの運命の対話が待っている。そう思うと今夜は眠れそうになかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

踏み台(王女)にも事情はある

mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。 聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。 王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

あなたが決めたことよ

アーエル
恋愛
その日は私の誕生日パーティーの三日前のことでした。 前触れもなく「婚約の話は無かったことにしよう」と言われたのです。 ‪✰他社でも公開

処理中です...