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おっさん、ドラゴンに会う
聖獣生誕
しおりを挟む翌朝、僕たちは朝食を早めに出してもらい、急いで神殿の倉庫に向かった。
「シルフィ、起きて」
(はい、カイト、なんだかあのドラゴンの仔、ちょっと様子が変よ。)
「ああ、僕もそんな気がしたんだよ。」
僕とリッキーが神殿の門番に挨拶をし、急ぎ倉庫へと向かった。朝もやの中、神殿の倉庫へ向かう足音だけが静かに響く。卵の命が新しい朝を迎えるのを、誰もが無意識に信じていた。
ちょうどそこに王家の馬車が到着し、リネットが降りて来た。今朝は神殿騎士の制服とは違った可愛らしい装いに、少し胸が高鳴った。
「おはようリネット、早いね。」
「ええ、なんだかこの仔に早く会いに行きたくて。朝食も食べずに馬車を出してもらったの。」
「僕も今来たところだよ。さぁ、行こうか。」
倉庫の警備をしている神殿騎士に挨拶をして、中に入るとルセフィ教授が寝ずに付き添いをしてくれていた。
「まあ先生、徹夜で見守りをしてくださったのですか。」
「ええ、昨日のあの会議の後、居ても立っても居られませんでしたから。」
「お疲れ様です、ルセフィ教授。何か変わった様子がありましたか。」
「ええ、元気に活動していることはわかるのですが、時々卵の周囲に光を纏っていることがあって、周期的に明るくなったり暗くなったりしているのですよ。何かに呼び掛けているようでした。」
(この仔、生まれたがっているわね。誕生には大きな魔力が必要だから、きっと呼びかけているのよ。ねぇカイト、これはもうあなたの仔よ)
「ええ、僕も様子を見てもいいですか。」
「もちろんです、そばに居てあげてください。」
僕が卵の傍に行くと、様子がわかるのか、卵の周りの光が明滅する。
「僕だよ、カイトだよ。キミはそろそろ生まれてきたいと思っているのかな?」
と聞いてみると。一度だけ明るくなった。
リネットは、
「その反応は、『はい』って答えているのかな?」といたずらっぽく聞いてみると、もう一度明るくなった。
「カイト様、やっぱり返事をしているようね。生まれてくるために魔力が欲しいと言っているのかな。」
「僕も何となくそう思うんだよ。教授はどうお考えですか?」
「カイト様、この仔は母親のドラゴンの魔力ではなく、カイト様の魔力によって生きています。そうなると、この仔が生まれるためにもカイト様の魔力が必要だと思われます。明らかに先ほどの反応も、この仔がカイト様を意識しているものと思いますよ。」
「わかりました。この世に生まれる命ほど、かけがえのないものは、ないのですから。」
「ピックアップ 祝福の杖」
僕は魔法陣に祝福の杖を立てて、魔力を注いでいく。急速に魔力が杖に吸い取られていくような感覚を覚える。僕の魔力が祝福の杖から魔法陣に注がれていく。ドラゴンの卵は、始めはゆっくりと明滅していたが、だんだん早くなり、やがて卵全体が光り始めた。
ひび割れた卵殻の間から溢れ出す光が、倉庫全体を包み込む。その光の中心から現れたのは、白銀に輝く小さなドラゴン。その姿はまるで、この世に舞い降りた奇跡そのものだった。
僕は昨日「写真」と定義した魔法でその光景を保存した。
「おお、ついに生まれましたな。なんと美しい。」教授は感嘆し、リネットは感激して涙を流していた。
突然、僕の頭に中に声が聞こえる。
「主様、私の命を救ってくださったことに感謝を申し上げます。」
え、誰?と周囲を見るが、誰もそんなことを言う人はいない。もしかしてこの仔の声なのか。生まれたばかりの仔がいきなり話ができるのか?というよりもなぜ僕がこの仔の言葉がわかる?
僕は驚きとともに混乱していると。ルセフィ教授が
「ドラゴンは念話で意思疎通をしています。この仔はカイト様の魔力で育てられましたので、カイト様と通じるものがあるのでしょう。」
「これは驚きました。カイト様はドラゴンともお話ができるのですね?」
「いや、この仔だけの話なのか、それともドラゴン全体と意思を通わせることが出来るのか。まだわからないよ。」
まぁ、会話ができるというのなら話が早い。まずは挨拶だろうな。
「初めまして、僕はカイト。君がここに来たいきさつはわかるかい?」
「いいえ、私が卵の中で感じた母さんの魔力が遠のいてしまったのはわかりましたが、主様の魔力によって、こうして生まれてこられたのはわかります。」
そうなんだ、たとえ卵であっても周囲の様子が変わったことは感じていたんだな。僕はこれまでのいきさつを話した。
「もともと君は、母親のドラゴンが大切に育てていた卵でした。しかし人の手によって奪われ、ここに運ばれてきました。その理由は卵を奪われた母親のドラゴンが怒り、卵を探しに来た時に、この街を襲わせるのが目的でした。」と、僕が言うと、
「本当にごめんなさい、こんなくだらない理由で、あなたたち親子から幸せを奪ってしまった。戦争の道具としてドラゴンを利用するなんて、断じて許せない!」とリネットがドラゴンに謝りつつも、帝国の非道なやり方に、怒りで手が震えていた。
「いけない、母様を止めなければ。母様が私を探しているのね。カイト様、私が無事だと母様に伝える方法はありますか?そうすればこの街を襲うことはしないでしょう。」
さすが高度な知識を持つドラゴンだ。もうどうすればいいか理解している。
「それじゃ、母様に話しかけるように僕に話をしてみて。」
ドラゴンの仔は、僕に向かって話を始めた。
RUN「写真」と唱え、その様子を記録した。
「それじゃ、外に出るよ。キミも一緒に来るかい。」
そう聞くと、やや戸惑った表情をしていたが、リネットが、
「私と一緒に行きましょうか。」とドラゴンの仔を抱きあげた。
ドラゴンの仔はリネットに抱かれ、幸せそうな表情をしていた。僕はその様子も「写真」に収めた。
僕たちは昨日と同じように、上空に母親ドラゴンへ「写真」とともにメッセージを贈ることにした。昨日のプログラムは無属性魔法の「投影」と定義してある。
“ドラゴンの卵は無事に孵りました。私たちが大切に保護していますので、迎えに来てください”というメッセージを添えて、
RUN「投影」と唱える。
さすがに上空50mに巨大な写真を投影するのは膨大な魔力が必要だった。
それでも僕はどうしてもやり遂げようと使命感に満ちていた。リネットが僕の肩に手を置いて、
「私も一緒にこの仔を守りたいの。」と言ってくれた。僕は急速に魔力を消費してしまってふらついていたのだが、リネットが支えとなってくれた。
上空には3枚の写真がそのメッセージとともに描かれていた。
「ところで、ドラゴンってこんなに白くて美しい姿をしているの?私が知っているドラゴンは赤とか青とか色があって属性がそれによってわかるようになっていたような気がするんだけど。」とリネットが不思議そうにこの仔を見ていた。するとルセフィ教授も、
「ええ、赤や青は高位の魔法を使うドラゴンですね。この仔は多分、パラギン帝国の奥地にある山岳地帯に生息する、ワイバーンの仔だと思いますが、色は違います。かの地のワイバーンならもっと深い緑色というか土に近い色ですな。それが保護色ですので。」
そうだよな。自然の中で暮らすには、白は目立ちすぎる。
(ねぇカイト、もしかしてこの仔は聖獣になったのかもしれないわよ)
「え、なんだって?聖獣だって?」思わずシルフィの話に驚いて声を出してしまった。
「カイト様、もしかしてこの仔は聖獣様になったのかもしれません。カイト様の神聖な魔力によって生まれたのであれば、そうなっても不思議ではありません。」とルセフィ教授が畏怖の念を込めて話をした。
「カイト様、私に名を授けてください。」と、ドラゴンの仔が僕に話した。
名前?リネットにそれを伝え、何かいいアイディアがないか聞いてみると、
「そうね、ここは女の子らしく『リリー』はどう?高原に咲く百合の花、ドラゴンらしく気高く堂々と咲く花のようになってほしいな。聖獣様なんだから。」
「そうだね、それじゃ、君の名前は『リリー』だよ。どうかな?」
「『リリー』、素敵な名前をありがとう。お姫様。」
リリーが名前を受け取ると同時に、彼女の身体からまばゆい光が放たれた。その光は、まるで祝福の証として天にまで届くようだった。
僕はその様子も「写真」に収めた。
「おお、なんとわたくしも長年生物の研究をしておりますが、聖獣様の生誕に立ち会えるとは、なんという幸せ。」と教授は興奮して話をしていた。
(名前を授けたなら、きっと従魔になってるわ。試しにステータスを確認してみて)
「それじゃ、リリー、ステータスを見せてもらうね。」
リリー Lv.4 ドラゴン族の聖獣 カイトの従魔
ステータス HP 360/3000 MP 6389/10000
スキル アテナ神の加護 対物理結界、対魔法結界、状態異常無効の常時発動
聖属性魔法 ヒール ハイヒール キュア ピュリフィケーション
ドラゴンブレス 火 氷 聖
意思疎通 他種族言語 魔人化(封印)
リリーはやはり聖獣として、僕の従魔になっていた。それから従魔になったことで、意思疎通ができるようになっていた。
「リネット姫は、私に名前をくれたお母様ね。」と言うと、
「お姉さまと言ってちょうだい。これでもまだ若いのよ。」と早速言い聞かせていた。
「リッキー、神官長に伝令をお願いするわ。それから今日は親衛隊の訓練は各自軽い運動をして、そのあとはお休み。リリーの誕生日だからね。」
「はい、承りました。」と言って足早に伝令に向かった。
「それからカイト様、今夜はガゼル亭にお邪魔しますわよ。だってリリーちゃんに会いたいじゃない。今日はお誕生会よ。盛大にやりましょう。もちろん教授も参加くださいますよね。」とずいぶん乗り気で話していた。
「ええ、ぜひともお話をお伺いしたいものです。」
時刻はもうすぐお昼になろうとしていた。
「そう言えば私は朝から何も食べていないのでしたわ。リリー、あなたもおなかが空いているのではないの?」
「おか……お姉さま、私も一緒に食べたい。」
神殿の食堂は、腕にドラゴンを抱いた親衛隊長の姿に驚き、異様な光景にざわついていた。
「さぁ、食べるわよ、リリーそこにお座りなさい。あなたはドラゴンだから、肉でいいかしら?」
「お姉さま、お野菜もください。あと卵は殻ごとでお願いします。」
リリーの幼い声に、リネットも思わず微笑みながら、
「はいはい、リリーちゃんは賢いわね。」と世話を焼く。
まったくその通りだ。賢い赤ちゃんがいれば、こんな様子なのだなと僕は思わず苦笑いをしてしまった。
仲良く食事をしている姿も「写真」に収める。僕は上空にさらに2枚の「写真」を描いた。
空に浮かび上がる巨大な光の絵。その中に映し出されたリリーの姿とともに、
“ドラゴンの仔は無事に誕生しました。彼女は「リリー」と名付けられ、ここで大切に育てられています”というメッセージが輝いていた。
こうして僕たちは、母親ドラゴンが飛来するのを待つことにした。
リッキーが先ぶれとしてガゼル亭へリネット姫の訪問を告げていた。ガゼルもそれはそれで納得していた。
「まぁカイトもリネットと結婚したばかりなら、晩飯も一緒に食うだろうな。」
しかしガゼルも次のリッキーの言葉には驚愕を隠せなかった。
「なんだって?ドラゴンの卵が孵って、聖獣様が生誕されただと?それで、カイトの従魔になっただと!」と言ってリッキーの背中をバシバシたたいていた。
もう何が何やらわからないガゼルだった。
「ただいま戻りました。」と僕が挨拶をする。腕の中にはリリーを抱いている。
「おいカイト、俺はもう、大概のことでは驚かないことに決めたんだ。だがな、お前さんはいつも俺の予想がついていかないことをしでかす。あの空に絵を描く大魔法だけでは飽き足らず、今度はドラゴンを従魔にしただぁ?はじめは冗談かと思ったぜ。でもよ、その腕の中にいるやつが、聖獣様なんだろ。ホントお前といると飽きないよな。」と言って豪快に笑っていた。
その後、リネットも合流してリリーの誕生会を行った、
「ほら、お食べなさい。」とミンチにした煮込み肉を、ミナがスプーンで食べさせていた。こちらも妹ができたようで、上機嫌だった。
店の中には煮込み肉を求めてやって来た客も、リリーの食べっぷりを見て、聖獣様に献上していった。その様子を見てリネットも笑顔で、
「ちゃんと自分でご飯を稼ぐなんて、うちの妹はなんと優秀なのでしょう。」と、お酒も入って上機嫌だった。
「リリーちゃん、おめでとう。」という声にリリーは恥ずかしさで僕の胸に顔をうずめている。
「あ~こらっ。お姉ちゃんもまだなんだぞ。」と言いながら後ろからリリーを抱きしめる。この光景が街で話題となり、絵師が描く三人の荘厳な写し絵が、盛大に売れた。
「ますます煮込み肉を作らないとならないよな。サキ。」
「そおだねぇ、冒険者ギルドに狩りの依頼でもするかい?」
僕はリリーと周囲に人達との触れ合いも「写真」に記録しておいた。
その日以降、夕方からの煮込み肉の整理券は、カイトとリリーの二人のおかげで、昼過ぎから並ぶほど好調な売れ行きとなったのは言うまでもなかった。
上空に掲げられたメッセージが、どこかの空で母親ドラゴンの目に映ることを信じて。新たな命と絆を育む一日が、静か?に幕を閉じようとしていた。
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