救国のBASIC

竹笛パンダ

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おっさん、ドラゴンに会う

リリーのお披露目

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 翌朝、僕たちはいつものように朝食を済ませ、神殿に行く支度をしていた。いつもと違うのはリリーが一緒にいることだ。たくさん食べたおかげで、一回りほど成長した気がする。実際、腕に抱いたリリーは少し重くなっていた。
 まぁ、生まれてから急速に体が大きくなるのだろう。
「シルフィ、おはよう」
(はい、カイトおはよう。今日はリリーちゃんも一緒なのね。)
「ああ、お母さんの元に返すまでは、しばらく一緒にいることにしたんだよ。」
 いつものようにシルフィと会話を始めると、リリーが
「私が生まれるときに、助言をいただいた風の精霊様ですね。こうして私は無事に生まれることが出来ました。ご助力ありがとうございました。」
(え?あなた私の言うことがわかるの?)
「ええ、私も精霊様とお話ができてとてもうれしいです。」
(ちょっとカイト、この仔はなんなの?規格外というか、赤ちゃんならもっとこう、泣いたりとかするじゃない?いきなり話しかけるなんてびっくりよ。)
「そうなんだよ、僕も初めはびっくりしてさ、従魔になってからは言葉の理解までできるようになったんだよ。そのおかげでリネットとも話ができて、彼女は妹のようにかわいがっていたよ。」
(まぁ、あの姫様がこの仔の名付け親なんでしょう?それなら母娘も同然ね。)
「『お姉さまって呼びなさい。』って言われたの。」とリリーが説明した。
「親衛隊長もお年頃なのですから、さすがにお母さんとは呼んで欲しくなかったのでしょう。」とリッキーもうなずく。
(まあ、呼び方はとにかく名付けは魂のつながりを作るのよ。これから二人がどのようなことになるか、楽しみね。)
「いやいや、リリーはお母さんの元に返してあげようと思っているのだけれどもね。」
(カイトいい?リリーは聖獣になったのでしょ?きっとあなたのような扱いになるわよ。今でもその存在自体が伝説なのだから。群れに帰されるとは思えないな。)
「それでも、お母さんとは会わせてあげたいな。そのあとはリリーがどうするか。僕はリリーが望むようにしてあげたいんだよ。」
「カイト様、すっかり父親ですね。まだお若いのに。」
 こっちは中身が55歳。「子供のためならば」とは、こういう気持ちなのだなと、改めて思った。
 神殿の執務室ではサラさんが僕たちを待っていた。何気なくサラさんがリリーを抱いて、僕にお茶を出してくれた。リリーも抵抗することなく自然にサラさんに抱かれている。リリーにはジョッキに注がれた水が出された。
「さぁ、おあがりなさい。」と言うと、
「ありがとうございます。」とリリーがお礼を言う。
「あら、ちゃんとご挨拶もできるのね。賢い仔ね。」と感心していた。
 やはりサラさんも驚くかなとは思っていたが、意外にすんなり受け入れていた。先ほどのリリーを抱っこしながらお茶を入れる所作などは、さすが子育て経験者だなと感心していた。
 執務室のドアが開き、リネットが入ってきた。
「おはよう、リリーちゃん。よく眠れたかしら、朝ごはんはちゃんと食べた?」
「姫様、なんですかはしたない。入室するときはノックをお忘れなく。」とこちらもサラさんにたしなめられていた。
「だってぇ、リリーに会いたかったのですもの。」とやや甘えた声を出している。やはりサラさんの前では気が許せるのだろうか。
「おはよう、リネット。」と声をかけると、慌てて
「ひゃい、おはようございましゅ、カイト様。」と慌てて噛んでいた。
「ところで今日のご用件は?」
「あっそうでした。このあと神殿で集会があるので支度をして来てほしいと、ファセム神官長からの依頼です。」
「神殿の集会って、礼拝堂に集まって神官長のお話を聞くあれだね。」
「ええ、でも今回は臨時で行われるそうよ。もちろんリリーちゃんが主役なのよ。聖獣様が現れたって、みんな大興奮なんだから。」
 リネットも含めみんなで聖獣様が現れたことにお祭り騒ぎだ。
(聖獣様っていうのは、その加護を得ることで国に富みと繁栄をもたらすの。実際に人が増えたり、お金持ちが増えたりするから、そう言われているのだけれども、聖獣様が何かをするわけではないのよ。守り神みたいなものね。)
「そうだよね。まだこんなに幼い仔に何かさせようというのはかわいそうだよ。」と、シルフィと相談してみた。
「ねぇリネット、もう少しだけ待ってもらえないかな。まだこの仔は母親にも会えていないことだし、それからどう生きていくかはできるだけリリーの意志を尊重したい。」
「そう、それならばなお、お披露目はするべきよ。聖獣様としてではなく、私たちの意志を伝えるの。もともと卵を無事に母親の元に届けることが目的だったのでしょう?卵が孵って聖獣になったいきさつは、みんなが空を見上げて知っているもの。リリーはどうしたいのかな?」
「お姉さま、私は大丈夫です。お母様にはちゃんと会って話をします。カイト様に命を救われたこと、聖獣になったこと。それからみんなが仲良くしてくれたことも。」
「そうだね、リリー。聖獣として暮らすかどうかは、お母さんと相談すればいいよ。だからまずはみんなに、お母様に会いたいって言うんだよ。話はそれからだね。」
「ああ、こういう時は子供の事情に合わせてあげるのも大人の務めなのだよ。」
「カイト様、ガゼル師匠みたいなことを言うのね。」
 ああ、中身はおっさんだからね。
「そうと決まれば支度ね。サラ、手伝ってくれるかしら。それからカイト様はアイテムバッグから必要なものを出してね。」
「ええ、喜んで。」とリッキーとサラは快く返事をした。
 ええと、聖職者の法衣、司祭の帽子、天罰の杖、祝福の杖?
「ねえリネット、この前王様からいただいた天罰の杖と、祝福の杖、こういう時はどっちだい?」と聞くと。
「そんな恐ろしいものを出してはダメよ。祝福の杖にしましょう。」
 僕は3人がかりで法衣を身にまとい、文字通りの聖職者の姿になった。
「リリーはそのままでいいのかな。」
「ええ、リリーちゃんはこのままで十分美しいからね。」
 聖獣リリーのお披露目が決まり、僕たちは忙しく準備を進めていた。リリーはその小さな身体をキラキラと輝かせながら、目を輝かせて僕たちを見ていた。
 僕たちは身支度を整え、礼拝堂へ向かう。そこにはカイト様と聖獣様を一目見ようとたくさんの信者が集まっていた。礼拝堂に響く鐘の音が静まり、僕たちは厳かな空気の中、ゆっくりと壇上へと歩を進めた。リリーの白銀の鱗が、光を浴びて七色に輝き、信者たちはその美しさに思わず息をのんだ。
 ファセム神官長より、挨拶と僕たちの紹介がされた。
 僕は意を決してみんなの前に立つと、アイドル化のスキルが発動し、僕とリリーは光のヴェールに包まれた。その光は腕に抱いているリリーにも及び、リリーの白いうろこが光に輝いているように見えた。

「皆さんご存じの通り、この地に聖獣様が現れました。しかし、これは人の手の悪意によってドラゴンの卵が運ばれ、この国で保護して命をつないだ結果、ここに生誕されたものです。」
 信者たちの間に動揺が走り、ざわざわと話をしていた。
「もちろん、聖獣様の生誕は喜ばしいことでありますが、まだお母さんに会えていないのです。もともとは、空のメッセージにあるように、ドラゴンのお母さんの元に卵をかえしてあげるためにしていたことです。ですので、聖獣としてこの地にとどまるのか、お母さんの所へ帰してあげるのかは、私たちが決めていいものではありません。まずはドラゴンのお母さんは必死にこの仔を探しています。どうか無事にお母さんに会えるように、皆さんで協力していただきたい。」
 信者たちの間からは、リリーに対する同情とも贖罪ともとれるすすり泣く声が聞こえた。
「私たちが優しさを示すことで、ドラゴンに対して人が犯してしまった過ちが赦されるとは思いませんが、せめてこの仔には悲しい思いはさせたくないのです。これから訪れるであろうドラゴンには、慌てることなく、どうか温かく見守ってほしいのです。僕と聖獣リリーからの皆さんへのお願いです。」
 会場がやさしさであふれ、「リリー様頑張れ」や「リリー様、どうかお幸せに。」という掛け声とともに、拍手が沸き起こった。
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