救国のBASIC

竹笛パンダ

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おっさん、ドラゴンに会う

敵の敵は味方

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 ドラゴンたちとの温かい交流は、それほど長くは続かなかった。街道の国境を警備していた神殿騎士より敵襲を知らせる鐘が鳴り響く。森の中から大きな槍が勢いよく飛んできて、ドラゴンたちを狙い撃ちにしていた。
「おのれ、帝国の兵士どもめ!これまで我らを虐げてきたこと、ここで思い知らせてやる!」
 バル国王がガゼルに、
「ガゼルよ、客人たちを守るのだ。敵の敵は味方である。」
「御意。」というと、ガゼルさんは矢継ぎ早に指示を飛ばした。その声は戦場全体に響き渡る。
「騎馬隊は草原に現れた敵兵を掃討せよ。国境で検問に当たっていた神殿騎士隊に帰還しながら敵の背後を突け、城壁の弓兵は戦闘準備。」
 指揮官たちはそれぞれに応答し、素早く部隊を行動させていた。
「城の兵たちはドラゴンを囲んで防御陣形。無事に飛び立たせろよ!」
 その意図を汲み、ドラゴンたちは集合し、城の兵たちに守られる格好となった。
 パラギン帝国の指揮官は、いつまでたっても王都を襲わないドラゴンたちにしびれを切らせて、ドラゴンごと奇襲で攻め入る作戦に切り替えたようだ。しかしそれを読んでの今回の布陣であった。パラギン帝国の誤算は、ドラゴンは決して弱い種族でなないことだ。まして今回はリリーという守るべき存在があったことが、さらにドラゴンの結束を産み、士気は高まっていた。
 一本の投げやりが放物線を描いてリリーを捕らえた。その攻撃を受けるように母親ドラゴンは翼を広げ、リリーを守るが、翼が傷つけられて、苦しそうにしていた。
「やだよう、母様、かあさま~!」と、リリーの悲痛な叫びが戦場に響き渡る。
 するとリリーの周囲に光の粒が集まり、それは輪になってリリーを取り囲む。「これはなに?体の中から力があふれるような感じ。」
 リリーからは光のオーラが輝き、小さいながらも聖獣 ホーリードラゴンとしての覚醒を果たした。
「カイト様、私どうすれば。」と戸惑うリリーに
「空を飛んでいないドラゴンは、格好の的にされてしまうんだ。だからまずは傷をいやしてあげて。」
「うん、わかった。」
 リリーは母親に向かって、
「今、手当てするね。」そう言って、聖属性魔法のハイヒールを唱えていた。
 帝国兵たちは槍や矢を空に向かって放ち、ドラゴンたちを狙い続けていた。その一方で、リリーの小さな身体から放たれる光のオーラは、戦場の中でひときわ輝きを見せていた。彼女が母親ドラゴンが負った傷を癒すその姿に、兵士たちは恐れと敬意を抱いた。
 僕も集まっているドラゴンに、神聖魔法のエリアハイヒールで負傷したドラゴンたちを癒すと、
「我らの出番である。一族の誇りを見せつけよ!」と長老の一言を合図に、ドラゴンたちが飛び立った。
「よし、無事に飛んだみたいだな、歩兵たちは城壁まで引け。そこで防御隊形をとれ。一人も通すんじゃねえぞ。」
 リリーはドラゴンたちが飛び立った様子を見て、安心していた。
「リリー、よく頑張ったね。偉いぞ。」とリネットがリリーを抱いて褒めていた。
 草原では城の兵たちが後退したため、それを追って帝国兵が草原になだれ込んだ。その様子を見ていたドラゴンたちは、次々に低空飛行で炎のドラゴンブレスを放っていた。
「リネットはいるか、単騎で森の神殿騎士に合流できるかい?今は敵も弓兵が矢の雨を降らせているからな、ドラゴンが飛び立てば狙いはそちらに向かう。矢の雨が止んだところで頼みたい。背後から包囲しながら森にいる敵兵を草原まで押し出してくれ。」
「はい師匠、承りました。それではこの仔を頼みます。」
 リネットが両手でリリーを持ち上げ、ガゼルに預けようとしたとき、リリーはじたばたしながら、
「リリーも行く。リリーだって怒っているんだから。それからリリーだって役に立つもん。」と言ってリネットにしがみついている。
 ガゼルは少し考えてから、
「リリーちゃんには、森で負傷した神殿騎士の救援を頼めるか?森の中で白い身体は目立つからな。救援を頼みやすいってもんだ。小回りが利いてちょうどいい。なぁ、頼まれてくれるかい?」
「ええ、お姉ちゃんと一緒に頑張るね。」
「決まりだな。リネット、無理はするんじゃないぞ。まだ新婚さんなんだからな。」
「ええ、わかっていますよ。カイト様と結婚式を挙げるまでは、是が非でも帰還する所存です。」
「おう、それじゃリリーちゃん。お姉ちゃんを頼んだぜ。」
 リネットが騎乗し、単騎で帝国軍の歩兵部隊に突っ込んでいく。
「行くよ、お姉ちゃん。」と言い、リリーが炎のドラゴンブレスを放つ。大きな竜ほどの威力はないが、敵兵に道を空けさせるには役に立った。
 上空からその様子を見ていた父親ドラゴンは、すぐに二人の意図を理解し、後方からブレスを放ち、敵兵を寄せ付けないようにしていた。
(リリー、頑張れよ。でも無理はしてはいけないよ。怖くなったら助けを呼ぶんだよ。姫様、娘をよろしくお願いします。)
 リネットたちの馬と並走し、そう言って後方に回り、敵兵が二人を追いかけるのを防いでいた。
「負傷した者は後方へ退避、治療を受け、身体を休めておけ、次の指示があるまで待機。」ガゼルさんが指示を飛ばす。
「カイト殿、後方にて神官とともに負傷兵の手当てをお願いできますか?」
「はい、喜んで。ところでリリーはどうしましたか?」
「それがリネット様とともに行くと言ってききませんでな、森の中で神殿騎士の救援に向かっています。」
「まぁ、あの仔らしいですね。いざとなったらリネットより強いですから。それに、ご両親も空から様子を見ていますし、大丈夫でしょう。」
「ちげえねえな。」といってガゼルさんは高らかに笑っていた。
 そこへバル国王がやってきた。
「我々シナール国の事情に巻き込んでしまい申し訳ない。眷属様にとって、これは大丈夫なのでしょうか。」
「そうですね、アテナ神はすべてのものを分け隔てなく庇護するお考えですので、我々も、敵兵も被害は最小限にしていただきたいと思います。」
「まったく難しい注文を出しやがる。それで、カイト殿はどのようなお考えですかね。」
「ドラゴンたちの奮戦で、敵の数が減っていることと、攻城戦であることを踏まえれば戦力不足になり、撤退すると思われます。その時に、敵兵を丸ごといただいてしまおうかと。」
「まぁ、カイトの旦那にはいつも驚かされたばかりだが、ソイツはちょいと難しくないかい。」
「ええ、何も力で言うことを聞かせるわけではないので、大丈夫ですよ。敵兵の『やる気』をいただいてしまえばいいのです。」
「それで旦那、俺はどうすればいい?」
「ガゼルさんには戦斧を構えて、僕を威嚇するようにしてください。」
「写真撮りますね。」というが、ガゼルさんには訳が分からない。とにかく言われたとおりに僕を威嚇する態度をとってくれた。
 僕は指で四角を作り、
 RUN 「写真」
 その様子を「写真」に収めた。

「シルフィ、いるかい?」
「はい、カイト。大変なことになったわね。」
「ああ、そうなんだ。リリーに伝言をお願いしたいのだけど、頼めるかな。」
「ええ、いいわよ。なんて言うの?」
「敵の指揮官に投降するように働きかけてほしいんだ。」
「そう言えばいいのね。」
「後はリネットが上手くやってくれる。」

 僕は城壁の上に昇り、街道の上空に向かって、
 RUN「投影」,「ガゼルさん」
 さらにメッセージとして、「このまま帰還しても戦闘の日々は続く。次は容赦しない。」と表示させた。
 次に城壁の上空に、
 RUN 「投影」,「ガゼル亭」
 そして次のメッセージを付け加えた。
「シナール王国で、ゆとりのある生活を手に入れよう。ここに来れば食料が与えられ、治療も受けられます。是非投降してください。」
 これを見たバル国王は、ガゼルさんと一緒になって大笑いしていた。
「是非投降してくださいって、カイト殿らしいよなぁ。」
 リリーはその小さな体を生かし、敵兵の間を縫うように飛び回り、炎のブレスを放ちながら神殿騎士たちを支援した。その小さな身体ながらも、戦場での彼女の存在感は大きく、母親ドラゴンが空からその姿を見守り、感慨深げにうなずいた。負傷した神殿騎士にもリリーが治療を行い、リネットは共に行動しながら敵兵に投降を呼びかける。
「指揮官殿はおられますか。」
「はい、わたくしでございます。」
「我は神殿騎士のリネットである。指揮官殿、是非投降していただきたい。我らも無益な命の奪い合いは望むところではない。そもそもこの戦も貴国のくだらない策略によるもの。ドラゴンを相手に無事ではすまぬことは貴君も承知であろう。貴君の決断で多くの兵士の命が救われるのだ。」
 帝国軍の指揮官は、リネットの説得の言葉と、上空を飛び交うドラゴンの姿を見比べながら、頭を抱えた。
「この戦いに勝利はない……だが、降伏することで部下たちを救えるなら、それもまた指揮官の務めなのだろう。」と言い、彼は静かに剣を下ろした。
 指揮官は上空に映し出されたガゼル亭の「写真」を見て、
「もちろん、我らの望むべきものは平和であります。貴殿の指示に従いましょう。」といい、下士官に、
「進軍は停止、撤退する。投降は自由意志とする。敵前逃亡などとふざけたことは言わぬ。生還することのみ考えよ。」
「ご英断、感謝する。」と言い、リネットもまた、
「帝国兵に投降を呼びかけよ。命の保証はする。決して悪いようにはせぬ。」
 この知らせは瞬く間に戦場に伝わり、森の中からは投降する兵たちが続々と門前の広場に集まってきた。
「ドラゴンたちに合図せよ。戦は終わりだ。」
 上空にドラゴンたちに向かって、旗を振り、合図を出す。5体のドラゴンは次々と着陸してきた。ドラゴンたちが静かに降り立つと、人々はその壮大な姿に圧倒されながらも、自然と拍手を送った。リリーは母親ドラゴンに寄り添い、リネットは僕の手を握りながら、希望に満ちた空を見上げていた。

 こうしてパラギン帝国によるシナール王国への侵攻は幕を閉じた。
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