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おっさん、革命を支援する
自由を求めて
しおりを挟む城壁の前にはおよそ2万人の捕虜が集められていた。彼等の表情には戸惑いや不安が漂い、帝国に残された家族への思いや、今後の運命に対する恐れがにじみ出ていた。僕は、その人々に向けて話をすることを決意した。為政者による暴走、それによって生活に困るのはいつも力無き民である。そう思って捕虜たちの前に出ると、アイドル化が発動した。僕の姿が光輝き、捕虜たちの注目を集めた。
「皆さん、僕はこの世界に暮らす人たちが、争いによって命を落とすことは許せません。まして今回の戦は、ドラゴンの親子を引き離し、怒りで我を忘れたドラゴンにこの国を襲わせて、帝国がこの国を奪おうとしたのです。戦争の道具にされたドラゴンたちは怒り、その矛先をあなた方の国に向けるでしょう。ですから僕は皆さんには帝国に帰ってほしくないです。このまま帰っても、戦の日々に身を投じることになります。」
僕の言葉を聞いて、捕虜の兵士たちは静まり返った。
捕虜たちの目には、帝国に残した家族への思いと、帰還の先に待つ不確かな未来への恐れが見えた。
「そこで僕からの提案です。自分たちの手で国を作りませんか?皆さん自身の手で、皆さんとその家族が幸せに暮らせる国を作り上げましょう。そのためには帝国の一部の支配者を追放し、新たな未来を築く必要があります。戦争ではなく平和を目指すために、力を合わせてこの目標を成し遂げましょう。そして
皆さんの手で国を治めるのです。平和は望んでも与えられるものではありません。平和を得るためには力もまた必要なのです。そのための戦いであれば、この国の王様も、ドラゴンも協力します。みんなで共存、共栄の国を作ろうではありませんか。」
僕の言葉が終わると、捕虜たちの間からどよめきが起こり、次第にそれが歓声へと変わっていった。続いてガゼルさんが、
「当分はここにキャンプを作り、それから母国に家族のいる者は連れてくるがいい。当面の食料は支援しようじゃないか。王国内での仕事も世話をする。今は力を蓄えて、いずれ帝国に向けて出撃するとしよう。」
バル国王は、
「帝国の民たちよ、今こそ誇りを取り戻し、自らの手で自由を勝ち取るのである。我が国は、其方らの英断に対して支援を行うことを約束しよう。また、ドラゴンの長老も時期を同じくして攻め入り、協力して帝国の圧政から皆を解放することを約束してくれた。国造りの大仕事である。皆の健闘を祈る。」
バル国王の寛大な措置に、捕虜たちは口々に感謝の言葉を述べた。
捕虜たちは、初めて敵国の地に足を踏み入れながらも、自分たちが受ける待遇に戸惑っていた。僕の演説が、彼らの心の中に長い間埋もれていた思いを呼び覚ました。
「皆さんの国では、あなた方の家族や友人が、帝国の指導者による圧政の中で暮らしています。指導者たちの身勝手な策謀のために、命を危険にさらし、飢えと恐怖に苦しんでいるはずです。けれど、もしあなたたちが立ち上がり、その支配を終わらせる決意をするなら、未来を変えることができる。僕たちはその手助けをします。戦争のための兵士ではなく、平和をつくるための人として、皆さんの力を貸してください。」
僕が提唱する「新しい未来」の考え方について語るたびに、捕虜たちは次第に心を開いていった。
「俺たちは戦う相手を間違えていたんだ。」
その呟きはやがて隣に立つ者へ、さらに周囲の捕虜たちへと広がり、一つの結論に至った。「自分たちの国を取り戻すべきだ」と。
彼らはこの戦いが無意味であることを理解し始めた。命令による戦いではなく、自らの意志で、故郷にいる家族や友人のために行動する時だと悟ったのだ。
やがて捕虜たちは意見をまとめ、城壁の前で宣言した。
「我々は、帝国の圧政を終わらせるため、家族や愛する者のために立ち上がるのだ!」
こうして、捕虜たちの間から自由を求める声が上がり始めた。その声は次第に広がり、やがて帝国全土を巻き込む市民運動へと発展していくのだった。
帝国の地で再会した家族や仲間たちは、この決意に共鳴し、運動の輪はさらに広がっていった。
日々の暮らしに喘ぐ市民たちの胸に秘められていた、怒りと希望が時を経て形となり、ついに一つのうねりとして動き出した瞬間だった。
圧政からの解放を掲げたこの運動は、ただの反乱ではなかった。それは、自分たちの未来を奪おうとする支配者たちに対抗し、「人々の手で自身の国を取り戻す」ための正当な挑戦だった。
この日から数日後、捕虜たちは体力を回復し、家族の元へ帰る者、新たな生活を求めて王国に残る者など、それぞれに動き出していた。
僕の作った魔法は、無属性の魔法として定義され、それらは魔道具の開発によって大きく進化を始めた。ただ、「投影」の魔法に関しては、大きさにより膨大な魔力が必要となるため、羊皮紙1枚程度の大きさに限られた。
また、「写真」でできた映像を記録する魔道具と組み合わされ、いびつながら日本のデジタルカメラのような機能を持つ魔道具が開発された。
あとは印刷だよな。と思い、デジタルカメラのような魔道具に、印刷機能を施し、紙に「写真」を出力させた。
プログラミング起動!
10 DIM SCREEN(0,0:255,255)=“写真”
20 PRINTSCREEN “写真”
・・・
60 LOCATE(0,17):PRINT TODAY();TIME()
70 OUTPUT “写真”
RUN
これでちょうど日本のポラロイドカメラのようなものが魔力を使ってできるようになった。この魔道具には「写真」を撮影した日付と時間が印字される仕組みになっていた。この魔道具は「シュビー」と名付けられ、瞬く間に広がった。「写真」を印刷して出すときに、ちょうどこんな音がするからだ。
この発明が、後に思わぬ事件を引き起こすことになるとは、この時の僕には想像もつかなかった。
パラギン帝国の夕方、狭い路地を1台の馬車がスピードを上げて通っていた。
「まったくこの辺りの通りは汚くて行けないは、さっさと抜けて頂戴。」
馬車には身分の高い婦人が従者とともに乗っていた。街の豪商の元へ買い物をした帰りだった。宝石選びに時間を割いたため、王宮での晩餐会へ間に合うかどうか、急いで王宮に向かう必要があった。
「ちょっと、間に合わないじゃないの。もうすぐ晩餐会が始まるわ。急いで頂戴。」
今日は御者が近道をするために、たまたまこの道を選んだのだが、不幸はここで起きた。
夕食を大事に抱えた獣人の女の子を、この婦人が乗る馬車が後ろから接触し、転んだ女の子を車輪で轢いたのだ。御者が慌てて女の子に駆け寄るが、
「捨て置きなさい。汚らしい。」という夫人の一言で、御者は何もせずに行ってしまった。幸い、近くにいたものが女の子を救助し、治療院で治療を始めたが、すでにかなりの重傷だった。
その悲劇の瞬間を、手に入れたばかりの『シュビー』で偶然撮影していた者がいた。
ケットシーの男性、ルクルである。彼らは魔力を持った猫に近い種族で、身軽ですばしこい身体能力と、好奇心が旺盛だった。たまたま女の子が轢かれた現場の前にあった居酒屋の店内で、友人に手に入れたばかりのシュビーを披露していたところだった。
「おい、女の子が轢かれたぞ。こりゃ大変だ。」
「ちょっと待て、ありゃ侯爵家の馬車だな。」と言いながらシュビーでその様子を撮影した。
御者が慌てて駆け寄ったとき、馬車の窓から婦人が顔を出し、御者に放置するように言った瞬間をとらえていた。馬車から顔を出す婦人と、困惑する御者、さらに馬車に描かれた紋章まではっきりと映っていた。
日時も印字され、これが動かぬ証拠となったのだ。
ルクルの友人がすぐに少女に駆け寄り、手当てを施し、馬車に向かって、
「バカヤロー。」と叫んだ。この騒ぎを聞きつけ、人が集まってきた。少女は獣人の女性に抱かれて救護院へ運ばれたが、治療の甲斐もなく、命を落としてしまった。
事故にあった少女はコレットという名で、ちょうど夕食のお遣いの帰りに事故にあった。この様子はすぐさま彼女の父親のサルタンに伝えられた。
サルタンは治療院のベッドに横たわる娘の姿を見て涙を流し、決意した。
「この国はこのままでいいわけがない、自らの手で変えていくべきだ。」
サルタンはシナール王国侵攻に徴兵された一人であった。あの時の眷属様の言葉に深く感銘を受けていた。
その時のルクルは、シュビーから出て来た写真の余白に、
「捨て置かれた少女」とタイトルを書き、事故が起きたこと、コレットが死亡したことを簡潔に書いた。そして馬車の窓から婦人が放ったひとこと「捨て置きなさい。汚らしい。」と書き添え、それをシュビーで撮影した。
それからルクルの作った「記事」は、シュビーを持つものによって複製され、瞬く間に王都に住む住民の間に広がっていった。
この事件は『コレット事件』と呼ばれ、自由を求める市民たちにとって決して忘れられない出来事となった。
この出来事は、元は単なる娯楽や技術の発展として広まった「シュビー」と呼ばれる魔道具が、やがて情報の力を象徴する存在へと変貌を遂げた出来事だった。
貴族の馬車が少女を轢き、その尊い命が失われた「コレット事件」。この悲劇を目撃した獣人の若者ルクルが、偶然手にしていたシュビーでその瞬間を捉えたことが、すべての始まりだった。彼が撮影した写真には、少女を見捨てる貴族の姿と、その冷酷な一言が刻まれていた。その「証拠」は、彼自身の怒りと正義感によって広められ、多くの者の手に渡った。
シュビーを使えば、写真を複製し、広げることができる。写真に記録された事実と、それに添えられた文字は、瞬く間に市民たちの目に触れることとなる。
これまでは、支配者たちの意図により隠されてきた事実が、初めて街の人々の間で共有されたのだ。写真は言葉以上に雄弁であり、一度見た者の心に鮮烈な印象を与えた。人々の胸には怒りの火が灯り、抑圧されていた不満が一気に吹き出した。
「シュビー」という新たなツールが、情報を記録し、拡散する力を与えたことは、これまで貴族や権力者だけが独占していた「真実」を、多くの市民の手に解放する象徴となった。この小さな魔道具がもたらしたのは、情報という武器だった。それは剣や魔法よりも鋭く、人々の意識に革命をもたらす力を秘めていた。
この「情報革命」は無名の市民たちの手によって静かに、しかし確実に進行していった。シュビーで記録された一枚の写真は、王宮の華やかな宴に参加する貴族たちの耳にも届き、震撼させた。市民の間でコピーされ、手から手へと渡された写真と記事は、真実を封じ込めるどころか、かえってその存在を広く知らしめていった。これまで一方的に語られていた「歴史」は、ここにきて初めて「市民の視点」を持ち始めたのだ。
こうして、帝国の各地に自然発生的なマスメディアの原型が生まれた。それは公的な制度や規範からではなく、街の人々の怒りと悲しみ、そして自由を求める願いの中から誕生した。そして、次第にそれはただの抗議運動にとどまらず、市民たちが自らの生活や未来を変えるための運動へと成長していった。
シュビーのレンズを通して浮かび上がったのは、単なる記録ではなく、未来を変えるための「声」だった。
それはもはや誰にも止められない、自由への奔流の始まりだった。
この事件以降、王侯貴族に対する市民たちの目には、憎しみと蔑み、そして変革への強い意志が宿り始めていた。この記事は王宮で働く平民たちの間でもこの記事は密かに広まり、持っていた者は次々と解雇された。市民の間では帝国への不信感が高まり、やがて自由を求める運動へと発展していった。
この流れを受け、眷属様に教えを乞うことと、シナール王国へ支援を求めるため、サルタンをリーダーとした巡礼者の一団が、シナール王国の神殿を目指して旅立つことになった。
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